「明らかにパワー不足」
日銀総裁・黒田東彦が12月18日に繰り出した異次元緩和の「補完策」という曲玉(くせだま)に、無風を織り込んでいた株式市場は乱高下、いったん大幅安という回答を示した。再生か、破綻か――。黒田と市場の息詰まる攻防をベースに、異次元緩和と日本経済の先行きをめぐるリスクと可能性を読み解いてみたい。
黒田が放った「二発のバズーカ」からなる異次元緩和は、日本経済に株価の上昇と円安、雇用の改善という恩恵をもたらした。しかし、デフレ脱却への道筋が十分に描けているとは言えない。物価上昇の歩みは必ずしも順調ではなく、賃上げの動きも鈍い。しかも新興国経済の減速というリスクへの警戒も必要だ。
そして、来年7月に参議院選挙を控えた安倍首相が、日銀の強力なサポートを引き出し、経済の力強い回復を示したいと考えるのは極めて自然だろう。こうした背景から、市場では、「黒田バズーカ第三弾」への期待感が広がっている。
市場の期待感の大きなうねりは、まず10月末に訪れた。
「追加緩和を見送れば、日経平均株価(225種)は1万5000円割れしますよ」
日銀幹部は、大手金融機関の幹部からこう突き上げられたという。しかし、黒田は市場の期待をあっさりと受け流し、追加緩和を見送った。大手金融機関の予言とは裏腹に、市場に大きな落胆はなく株価は比較的、順調に推移した。ただ、黒田がいつかバズーカ第三弾を放つという期待感が市場から消えたわけではく、むしろ深部では根強く広がった。
しかし、黒田が動くタイミングが「今年の12月」と考えた市場関係者はほとんどいなかった。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げを市場が順調に吸収、日米の金利差拡大を意識した円安は、株高という追い風を日本経済にもたらしていたからだ。
大方の予想を覆し、黒田は12月18日の金融政策決定会合で動いた。ただ黒田が打ち出した異次元緩和の補完策は、上場投資信託(ETF)の購入拡大、買い入れる国債の期限延長で、「(前日銀総裁の)白川時代を彷彿とさせるスキームで、日銀の事務方がひねり出したことを想像させる小ぶりで技術的な緩和メニューだった」(大手銀行幹部)。
「戦力の逐次投入はしない」と宣言してきた黒田は、動くときは巨大なハズーカをぶっ放すというのが市場のコンセンサスだった。
それだけに黒田が動いた瞬間、株式市場の奥底に潜んでいた緩和への渇望は吹き上がった。しかし、黒田の出した補完策は、市場で爆発した貪欲な渇きを満たすには、明らかにパワー不足だったのだ。
「黒田は、こんな小手先のことしかできないのか」――。市場の落胆は、巨大なハズーカへの期待感を露わにし、黒田にさらに大胆な一手を督促することになった。
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