特別永久保存版レポート

くりっく365 南アフリカランド円暴落問題


※以下は、SBI FXトレードのカバー先であるSBIリクイディティ・マーケット株式会社(以下、「LM」)のディーラー担当者の体験に基づくレポートである。


これは、2009年11月2日に東京金融取引所の提供する「くりっく365」が発端となって、金融市場全体に大きな影響を与えた出来事である。
当時から取引をされている方は、どういった事象で、どういった経緯で起きたものかご存知であろうが、以下、当時のマーケット状況を振り返ってみる。


その日のマーケットは、何の問題も無く平穏なクローズを迎えるはずであった。そう、くりっく365の南アフリカランド円のレート見るまでは。

2009年10月30日(金)、(正確には取引終了間際の10月31日(土)午前4時59分33秒)に、東京金融取引所の「くりっく365」において、南アフリカランド/日本円(ZAR/JPY)のレートが直前の11円50銭近辺から8円41.5銭まで3円以上(26.8%)急落し、8円43.5銭で引けたのである。

直前まで認識していたものと約3円も乖離した価格を見た瞬間は、まず自分の目を疑った。
しかし、くりっく365のチャートをチェックすると実際に長い陰線が出ている。何が起きたのか、すぐに情報を集めた。インターバンクレート、そしてOTC各社のレートを見てもランド円の安値は11円40銭近辺となっている。
異常な値動きをしたのは、くりっく365のみであることが分かってきた。



(2009/10/31当時 くりっく365 ランド円チャート)





くりっく365のロスカット方法は取り扱っている業者によって異なるが、一部の業者はNYクローズの基準値だけでロスカットのフラグがたってしまう。そのためくりっく365では、10月31日、このイレギュラーレートを基準値とした大量のロスカットによるストップロス売り注文が発動することとなり、「執行待ち」のステータスのまま土日を越える事態となった。このとき、業者や取引所が土日の間に何らかの対処をしていれば、週明けの混乱は起こらなかっただろう。

しかしながら、東京金融取引所からはレートに関して何の訂正もされず、ロスカット注文が余儀なくされることになってしまった。

このままでは、正常値と思えない値付けによって、大量の強制決済の売り注文が週明けオープンと同時にマーケットに出されることとなる。その影響はくりっく365だけにとどまらずOTC市場全体にも波及し、更にはこれを狙った大量の売り注文が誘発される等の動きが生じることは想像するに難くなかった。

通常の月曜日でさえ、流動性が低く非常に不安定な値動きをするのに、マーケットの薄い東京時間に大量の売り注文がランド円で出されることになると、一体どんな動きになるのだろうか。想像をめぐらせて、想定される値動きに対して対処の方法を考えた。情報収集と想定ディールを行っているうちに土日はあっという間に終わり、月曜日の朝を迎えた。

11月2日月曜日、緊張して会社に向かい席に着くと同時にモニターでくりっく365のプレオープンのレート表示をみると、通常はビッド、オファーの提示がされているが、この日はランド円のビッドレートが表示されないままであった。

弊社は午前7時からのオープンに備え準備をし、いつもよりやや緊張しながらオープンしたが、オープン直後のランド円の銀行レートは通常時の朝と変わらないレート表示だったが、くりっく 365の取引がスタートする午前7時10分が近づくにつれ、クロス円全般がジリジリと下落し始めた。
我々ディールチームは固唾を呑んだ。どんなレートが表示されるか分からない。

午前7時10分、取引所取引がオープンした途端、マーケットが急落し始めた。くりっく365のランド円のBIDは消えたままだ。
同時に、インターバンクのプライスも通常スプレッドで1〜3銭の提示がなされるところ、10〜15銭ほどと極端にワイドになり、さらには、銀行によってはレート表示が無くなり、売るに売れない状態にまでなってしまった。電話で銀行にレートを取りにいくと、当然のように見えている現在レートよりも更に下を提示されたが、暴落するマーケットの中にあっては躊躇する間なくダン(done)せざるを得なかった。そうこうしているうちにインターバンクのランド円のマーケットは10円70銭近辺まで下げる動きとなったのである。

しかもことはランド円だけにとどまらない。このランド円の急落は、ドル円や豪ドル円など複数通貨を保有している投資家のポジションにおいて、他通貨のストップロスも誘発することとなり、大量の売り注文がマーケットに出されたことから一時的に円の全面高となった。
この下落により、他のOTC FX会社の顧客も含め、多くの投資家が意に反した強制決済によって多額の損失を被ったのである。結果、取引所のランド円のイレギュラーレートを発端としたこの問題は、取引所にとどまらずOTCを含めた金融市場全体に歪みが生じさせる事態となったのである。

後日、他のOTC FX会社のディーラーと話をする機会があり、当時の状況を聞いてみたが、次から次へと沸いて出る顧客のロスカットの売りが止まらず、10本、20本、50本、100本…と通常見る事のない大量の売り注文を収益度外視で銀行へカバーするのがやっとの状況だったそうだ。また、マーケットの噂では、今回の発端の一つとして「くりっく365の開示情報でランド買いのポジションの積み上げが明白だったため、そこを売り手に狙われたのでは。」といった声も聞かれた。
(当時開示されていたくりっく365の各通貨のポジション動向であるが、現在では当該開示は取りやめられている。)

なお、その後、東京金融取引所は、当該イレギュラーレートでロスカットされたポジションの反対売買を行いポジションを元に戻す対処を発表したが、それが一部の顧客にのみ適用される措置であったため、適用外となった投資家による集団訴訟が行なわれるなど、社会問題にまで発展した。

この一連の事象を振り返るに、主な問題点としては、

@ (現在も同じ仕組みだが)公設の取引所が運営する取引にも関わらず、わずか6社のマーケットメイカーによるレート供給であるということ。
A 直前の値と大きく乖離したレートは強制的に排除する機能がなかったこと。(現在は導入されている。)
B マーケットメイカーの1社が出したイレギュラーなランド円のBID 8円41.5銭での約定を「マーケットメイカーが提示した価格で約定した取引所の正式なレート」として、そのままにしてしまったこと。
があげられている。そしてもう一点、これは憶測であるが、ポジション動向の不用意な開示が当該混乱を引き起こした可能性もある。

情報の開示は多ければ多いほど好まれるのは確かだが、闇雲な開示は時として市場の歪みを惹起させかねないことを心しておく必要があろう。




くりっく365

10/30  安値 8.415

11/2   安値 10.39



SBILM

10/30  安値 11.43

11/2   安値 10.78



(出所:ブルームバーグ)
Bloomberg

10/30  安値 11.42

11/2   安値 10.66



レート比較表

ご覧の通り、くりっく365の安値は、10/30、11/2ともにOTC FX会社(一部業者を除く)と異なっている。





※「くりっく365」は、株式会社東京金融取引所の登録商標であり、同取引所が上場している取引所為替証拠金取引の愛称として使用するものです。


提供:SBIリクイディティ・マーケット株式会社
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