トレジャリー・イールドカーブについて説明します。

トレジャリー(Treasury)とは米国財務省証券を指します。もっとカンタンに言えば、米国債です。

イールドカーブ(Yield Curve)とは利回り曲線を指します。これは償還期限の短い債券から、それの長い債券までを順番にならべ、その利回りをプロットした線です。

下のグラフは1990年から現在までのトレジャリー・イールドカーブを示しています。縦軸は利回り(%)です。画面の手前は短期金利、画面の奥へゆくほど長期債になります。

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利回り曲線の利点は、それを一目見れば、信用市場の参加者が何を考えているか? その置かれた状況を大雑把に知ることが出来る点にあります。

いま利回り曲線が右肩上がり(=つまり長期債になるほど利回りが高い)なら、市場参加者が金利上昇を期待(=期待という言葉がわかりにくければ、予想でもいいです)していることを意味します。

人々は、どんな時に金利上昇を予想するのでしょうか? それはラフに言えば1)景気が良くて、2)これからインフレがもっと大きくなると感じている時です。

右肩上がりの利回り曲線は「正規の」状態と言えます。つまりノーマルな状態というわけです。

これに対し利回り曲線が右肩下がりになっているとき(例:2007年)は「近い将来、金利はさがるぞ!」という予想を反映していると言えます。もっと踏み込んで言えば、景気後退を予期しているわけです。

上のグラフのデータは、1990年から始まっています。

そこで1990年の「断面」がどうであったかを下のグラフで示します。

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イールドカーブは、すごく高い位置(=8%付近)で、ほぼ水平でした。

この当時の米国経済の背景を少し説明しておくと、まず1987年に「ブラックマンデー」と呼ばれる株式市場の大暴落が起きた直後でしたので、当時の連邦準備制度理事会(FRB)のアラン・グリーンスパン議長は緩和的な金融政策を採りました。

1988年にはM&Aがブームになり、フェデレーテッド・デパートメント・ストアーズ、ファイヤストーン、クラフトなどが買収されました。またRJRナビスコが、当時としては破格の250億ドルでレバレッジド・バイアウトされました。

1989年にはドナルド・トランプがアメリカン航空を買収するという噂が出ました。ユナイテッド航空は「一株当たり300ドルでレバレッジド・バイアウトが発表される!」という噂が出たのですが、これは市場環境の激変で成就せず、株価は294ドルから146ドルまで暴落します。

またこの年の東京マーケットの大納会で付けた日経平均の38,915.87という高値が日本株の運命のド天井となるわけです。



そして迎えた1990年には7月にイラクのサダム・フセインがクウェートに攻め込みます。原油価格は、当時としては高い40ドルを付け、インフレ懸念がありました。FRBは慌ててインフレの息の根を止めようとし、代わりに景気を殺してしまいます。

次に1993年のイールドカーブを見てください。

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短期の方が、1990年のイールドカーブにくらべて、ぐっと下がっていることがわかります。1990年代初頭の不況では、アメリカの銀行各行が大きな損を出しました。銀行は傷んだバランスシートを修復するため、増資に次ぐ増資を試みました。一例として当時は文句なく全米最大規模の銀行だったシティコープが「倒産するのではないか?」と噂されたほどです。

こういう場合、FRBは短期金利を思いっきり低く設定し、銀行を支援します。銀行はイールドカーブの左側(=つまり短期金利)で資金調達し、右側(=つまり長期)で運用し、サヤを稼ぎます。長期金利から短期金利を引き算した差は、FRBから銀行に対するプレゼント、言い換えれば「ミルク補給」に他ならないのです。

次に1995年のトレジャリー・イールドカーブを見てください。

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景気テコ入れの甲斐あって、再び景気は良くなり、FRBはインフレ退治に軸足をシフトしていることがわかります。なお1995年はインターネット・ブラウザーの会社、ネットスケープが新規株式公開(IPO)された年であり、それまでマニアの間だけで知られていたインターネットが一般の人々に普及するきっかけになった年でもあります。

1990年代後半は、持続的なロング・ブームの時期を迎えます。

下は2000年のイールドカーブです。この年はドットコム・バブルが弾けた年です。

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98年からFRBが引締めを一層強化し、それに「Y2K」絡みの設備投資ブームの終焉が重なって、とうとうハイテク・ブームが終焉したのです。

このときの不況では、エンロン、ワールドコム、タイコ・インターナショナルなどの大企業が続々経営危機に見舞われました。加えて2001年には「9/11」同時多発テロが起きました。

下は2004年のイールドカーブですが、当時、アメリカの企業セクターが受けたダメージの大きさを反映して、カーブ全体の位置がすごく下がっていることがわかります。

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それは逆の見方をすれば、「じゃぶじゃぶ」の緩和になっていたことを意味します。このだぶついたおカネは、住宅市場へ向かったわけです。

「どうせFRBは企業セクターを救うために緩和的スタンスを維持するさ」という慢心が投資家にあったので、無鉄砲な借金が横行しました。

2007年のイールドカーブを見ると、そのような危険な貸借をけん制すべく、FRBが金融を引き締めていることがわかります。

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その結果、サブプライム・バブルが弾け、リーマンショックが起こります。

最後は現在のイールドカーブです。

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リーマンショック後の深刻な不況から脱するべく、FRBは超緩和的なスタンスを採っています。画面の右側、つまり長期債の利回りが低いことは、「ぐずぐずした景気は長引くし、インフレの兆候は見られない」というコンセンサス意見が反映されています。

イールドカーブの歴史を見ると、FRBや市場参加者の予想のトラックレコードは、あまり良くないことが浮き彫りになります。

現在のイールドカーブは、まだガッツリ景気支援的なスタンスです。もしコンセンサス意見が外れるとすれば、それは景気が予想より良くなり、インフレも予想より高くなるというはずれ方になると思います。