あなたは日常生活の中でこんな悩みを持った事はありませんか?バーゲンに行くと…そんな私たちの不思議な心理や行動をつぶさに観察しよりよい社会をつくるために何が必要かを探究していく学問が…この分野で全米から最も熱い注目を浴びているのがデューク大学の…アリエリー教授は数々のユニークな実験を通して一筋縄ではいかない人間の感情やちょっと愚かでいとおしい行動の数々を研究してきました。
今回アリエリー教授は多くのベンチャー企業が集まるサンフランシスコで起業家たちに向けた6回にわたる集中講義を行いました。
教授が語る行動経済学のノウハウ。
聞き入ったのは社会をより便利で楽しくしたいと日々考え続けているシリコンバレーなどの若き野心家たちです。
アリエリー教授は最新の行動経済学を駆使して人間のまか不思議な行動や意思決定のメカニズムを解き明かしていきます。
今回のテーマは「なぜあなたは人に流されてしまうのか」。
今回は他人の言動につい同調してしまうという人間の不思議な性質「ソーシャル・プルーフ」について講義をする。
私たちはなぜ人のまねをしてしまうのか。
人生においてとても重要な教訓をお伝えしよう。
(拍手)イエー!
(拍手と笑い)いきなりだがファッションのアドバイスだ。
何か集まりがあってどんな服を着ればいいか迷う時があるだろう?そんな時は民族衣装を着れば周囲の人はちゃんとした服装だと思ってくれる。
これはインドのシャツだ。
インドの大勢の人がしている服装だから笑い者にするような事は言えないだろう?無難にいきたければ民族衣装を着れば大丈夫というわけだ。
さて今日は「ソーシャル・プルーフ」の話をしよう。
ソーシャル・プルーフ「社会的証明」とは人がやっている事だからという事で他人に思わず同調してしまうという事だ。
この人が誰だか分かるかい?名前は?トニー・リトルだ。
何をしてる人?健康器具を売っています。
そうだ。
深夜のテレビで優雅な動きを見せながら健康器具の宣伝をしている。
見た事がある人もいるだろう。
買った人がいるかどうかは聞かないでおこう。
彼はもう長い事同じものを売っている。
そんな彼の運命を変えたのがこの女性だ。
どう変えたかというとそれまでトニーは他のCMと同じようにこう宣伝していた。
でもコリーンは「ダメダメ言い方を変えましょう。
『電話がつながらないときはおかけなおしください』にしましょう」とアドバイスした。
果たしてこれはいいアイデアだったのだろうか?君たちの想像どおりだ。
悪いアイデアだったらわざわざ紹介しない。
コリーンのアドバイスは売り上げを倍増させたんだ。
でも考えてみてほしい。
コリーンの提案はちょっとおかしいと思わないか?「電話がつながらないときは」と言っているんだ。
つまりソファーでくつろいでいたのにわざわざ起き上がって電話をかけたとしてもつながらない可能性が高くてかけ直さなければならないかもしれない。
それなのにこれは客を引きつける言葉だったんだがなぜだか分かるかい?時間も手間も余計にかかるけど「他の人たちもみんな電話をかけている」と思わせる言葉だったから客を引きつけたんだ。
もしこれが…どんなイメージだろうか?ガランとした部屋でオペレーターたちが電話がくるのを待っているが誰からもかかってこないという印象を受けるだろう。
でも「電話がつながらないときはおかけなおしください」だったらひっきりなしに電話が鳴っていて買いたい人がたくさんいると思うだろう。
これが…つまり「他の人はどうしているんだろう?他の人がやっている事はすばらしいにちがいないからやってみよう」と考えてしまう事だ。
レストランの行列を考えると一番分かりやすい。
2軒のレストランがあったとして一つには行列が出来ていてもう一つはそうでもなかったらどう思うだろうか?「行列の店の方がおいしいにちがいない。
自分も並ぼう」と思うだろう。
人は群れる事が大好きだ。
人のやっている事を見て同じ事をやろうとする。
その事を見てゆくために私の友達が以前行った一つの実験を紹介したい。
どうすればホテルのタオルを再利用する人が増えるかという実験だ。
君たちはホテルでこんな札を見かけた事があるだろう?なぜホテルはこうした札を下げるのだろうか?お金の節約のためだ。
ホテルは少しでも節約したい。
でも節約のためだとは書かず環境保護のためだと書く。
宿泊客に信じてもらえるかどうかは別にしてそう書いてある。
「このホテルは環境に配慮しています。
タオルを元の場所に掛けておいてくれれば取り替えません」と。
普通に言えばこれはいいアイデアだ。
2〜3日同じタオルを使ってもひどく困る人はいないし環境にも優しい。
でも実際には何もしない客が多い。
札を見ても何かと理由をつけて再利用しないんだ。
ではタオルを再利用してもらうためにはどんな札を掲げればいいのか。
どんなモチベーションなら人は動くのか。
「節約のため」では客の心は動かない。
「地球のため」と書いてもいいが他に何かいいアイデアはあるだろうか。
実はある書き方をすれば大きな効果が見込めるんだ。
これは友人のノア・ゴールドスタインが行った実験だ。
その実験ではまず一般的な環境重視の札を客室に置いてみた。
よくある文言だ。
前の講義で「我々の直感は間違える」という話をしたがこの文言は単に札を作った人が直感的に効果的なはずだと思ったにすぎない。
そこでだソーシャル・プルーフつまり私たちが思わず周囲に同調してしまう性質をうまく利用した文言に変えるとしたらどうすればいいだろうか?例えば「80%の客がタオルを再利用しています」とかはどうでしょうか?周囲の他の人たちはどうしているかという事だね。
「環境保護をどうするか」という事だと思っていた話が突如として他の人はどうしているかという話になるわけだ。
環境保護の事だけを訴える札はいろいろなパターンがあるだろうが調査によるとそうした札によってもともと75%の客がタオルを再利用していた。
結構高い割合だ。
ここでソーシャル・プルーフつまり「人は周囲に同調しがちだ」という性質を使って文言をこんなふうに書き換えるとタオルの再利用率がどう変わったか教えよう。
普通の文言の時をゼロとした場合「このホテルの75%の人が」という要素を入れるとタオルの再利用率が20%増えた。
他の人はどうしているかと書いただけで再利用率が2割もアップしたんだ。
つまり周囲の他の人たちはどうしているのかという事。
「社会の標準」いわゆる「社会規範」と呼ばれるものを効果的に使う事が大切なんだ。
例えば企業は新製品を開発する際社会の標準を調べる市場調査を行っている。
だから新製品が従来の製品より世間に受け入れられているというデータが存在しているわけだ。
それなのに企業はいつも集めたデータを自分たちの手元に置いておくだけでユーザーには公開しようとしない。
「製品をこう改良したら18人中17人が気に入った」とかそういうデータを公開しないんだ。
「人は周囲に同調するものだ」という事を理解していないから人が欲しいのは製品そのものだと思い込んでいる。
本当は「他のみんなもその製品を欲しがっている」という事こそが大事なのに。
さて人は群れる事が好きだと言った。
「群れ」といってもいろいろな種類があるが果たして人はどんな種類の群れに魅力を感じるのだろうか?結論から言うと自分と共通点がある集団に魅力を感じるんだ。
どんな共通点でもいいが「世界中の人々がそうしています」と伝えるよりは「サンフランシスコの住民がそうしています」と伝えた方がより魅力を感じるだろう。
「人は周囲に流される」という性質をうまく活用するには良い共通点を掲げる事が大事なんだ。
ではホテルの場合どんな共通点が考えられるだろう。
「髪が黒い人」とか「共和党員」とかいろいろと考えられる。
でも実際のホテルがよく使っている共通点はなかなかきわどいものだ。
「過去にこの部屋に泊まった客」というものなんだ。
考えてみてほしい。
「過去にこの部屋に泊まった客」というのは君たちにとってありがたい人たちだろうか?部屋に入った時過去に泊まった客の事を想像したくはないだろう?私たちを最も不快な気分にさせる人たちだ。
体の微粒子や髪の毛や足の爪の切れ端が残っているかもしれない。
本当なら自分がこの部屋に泊まる初めての客だと思った方が気分がいい。
それにもかかわらず「同じ部屋に泊まった客」という共通点には効果があるみたいだ。
タオルの札に「この部屋に泊まった客の75%が再利用しました」とあったらどうなったか。
「このホテルの客の」だと20%の上昇率だったのが「この部屋に泊まった客の」だと35%ほどになった。
この場合決して理想的な共通点を持った集団ではなかったがもし「人々がより所属したいと思う集団」を利用できればもっと効果があるはずだという事が分かるだろう。
つまり人が周囲に同調しがちだという性質を利用したいなら…さて更に「社会貢献」という視点を取り入れる手法を考えてみよう。
引き続きホテルの札を例に説明しよう。
「環境保護にご協力下さい」という文言に社会貢献の要素を加えるとこうなる。
こういうのが一般的な社会貢献を利用したアピールのしかただ。
あなたが動けばホテルも動くと。
でも君たちが何か人に頼みごとをする時の事を考えてみてほしい。
例えば私に何かしてほしい時どう頼む?「ダンあなたがこれをしてくれればお返しに私も何かします」と言うだろうか。
この言い方は互いを利する相互主義的なものと言えるだろうか。
本当なら「ダン何かお手伝いしましょうか?」と言ってから「代わりにちょっと手伝ってくれませんか?」と言うだろう。
つまりホテルに話を戻すと単に社会貢献の要素だけを取り入れた札を掲げると逆にタオルを再利用する人は減ってしまう。
なぜなら「環境保護に協力しろって?そんなの自分でできる。
なぜホテルと一緒にやらなければならないんだ」と人は思うからだ。
相互主義を表すにはまずは自分たちが先に一歩踏み出すべきだ。
これこそが相互主義の精神というものだろう。
私はもうやったからあとはあなたしだいだと。
こうした札を掲げたところタオルの再利用率が劇的に上がったんだ。
つまり相互主義の本質をきちんと理解しなければならないと言える。
社会貢献を使った手法はよく目にするが正しい相互主義の精神に基づいたものは見た事がない。
「あなたがこれをやるなら私もこれをやる」というパターンばかりなんだ。
さて次の話にいく前にちょっと脇道にそれた小話をしてみたい。
さっきトイレで居合わせた人と話していたら前回の授業で出たおしっこの話が面白かったからもっとしてくれと言われたからだ。
というわけでこれからもう一つおしっこ話をするから君たちもトイレで誰かに話してみるといい。
私たちは以前こんな調査をした。
隣に人がいる場合男性がおしっこをするのにどのくらい時間がかかるか。
ふだんより長くなるか短くなるか。
君たちはどう思う?隣に人がいたら時間が短くなると思う人は?では長くなると思う人?手を挙げなかった人がいるな。
次からは棄権は認めない。
意見を持たないと。
さて調査の結果は両方だった。
人がいるとおしっこが出始めるまでは時間がかかるが出始めれば急いで終わらせようとするというわけだ。
おしっこ話は以上で終わりだ。
さてソーシャル・プルーフは人に同調して自分もやってみようと思う事だと言ったが同調にはさまざまなパターンがある事を見ていこう。
例えば服装。
人と似た服は嫌だとしても全然違った服装にもしにくいものだ。
レストランに行っても誰かが前菜・メイン・デザートの組み合わせを選べば同じ組み合わせにしようと思うだろう。
つまり人とは違っていたいと思ったとしても大きく外れる事はできないんだ。
どういう事だか説明しよう。
私たちは香港とアメリカで実験を行った。
ビールの注文の際人はどう同調するかという実験だ。
まずアメリカのバーに行ってあるお客さんのグループにこう伝えた。
「ビールの試飲をしませんか?4種類用意しています」と。
それぞれのビールを説明して「皆さんどれがいいですか?」と順番に声に出して注文してもらった。
この場合他人の注文内容が聞こえるから後の人は他人の注文に左右されるかもしれない。
ちなみにそれぞれのお客さんに欲しいビールを紙に書いてもらうやり方も試したがその場合は他人に影響されなかった。
さて声に出して注文した場合果たして他人の注文に左右されただろうか。
された。
そして他人の注文を聞いた人は同じビールを注文する事が多いのか違うビールを注文するのかも調べてみた。
同じビールを注文すると思う人?違うビールだと思う人?「違うビール」が正解だ。
人はこう思うんだ。
「君はこのビールを頼んだのか。
僕もそれが飲みたかったが先に言われちゃったから他のビールを注文しよう」と。
声に出して注文する場合人の満足感はどうなるか。
低下するだろう。
自分が飲みたいものを選べなくなるからだ。
他の人に取られてしまう。
だから君たちはレストランに行ったら真っ先に注文するといい。
そうすれば仲間の注文に左右されずにすむ。
私たちは香港でも同じ実験をした。
香港ではどうなったと思う?人の注文に影響を受けた点は同じだが正反対の答えだった。
香港では…満足感が下がる点はアメリカと同じだ。
アメリカでは自分が個性的だと示すために仲間と違うビールを注文する。
それほど飲みたくないものを。
香港では仲間と似ている事を示すために同じビールを注文する。
そして同じく飲みたくないものを飲む羽目になるんだ。
さて「同調」についてもう一つ興味深い話をしよう。
同調のあまり目立たない行為として「模倣」が挙げられる。
こんな実験がある。
近くに知らない人が座っているとする。
それはどんな場面でもいい。
例えば面接している時だとしてもいい。
その時その知らない人が顔をこすったり貧乏ゆすりをしたとする。
例えば話の最中にこんなふうに顔をこすったり時々貧乏ゆすりをしたとする。
実験では仕掛け人が顔をこすると被験者も顔をこする割合が高くなった。
それが貧乏ゆすりに変わると今度は被験者も貧乏ゆすりを始めたんだ。
とはいえ被験者たちは「相手が貧乏ゆすりをしているから私もしよう」と思ったわけではない。
人はある行動を見ただけでそれを模倣してしまう確率が高くなるという事だ。
面白いのは模倣は優れた戦略にもなりうる事だ。
面接を受ける時相手のしぐさをまねすると気に入ってもらえる確率が高くなるかもしれない。
「私たちは波長が合いますね」という事を伝える絶好のサインになるからだ。
さて一般的な同調に話を戻すと一口に「同調」といっても…問題なのは他人が物知りかどうか判断がつかずにとりあえず同調してしまう事だ。
例を挙げよう。
上司が「私はこうだと思う」と言ったとして部下たちは「違うだろう」「冗談だろう」とみんな思っている。
内心では「上司の言う事は間違っている」と思っても口では「イエス」と答えてしまうのが「不合理な同調」だ。
そして部下たちが心から上司の意見に賛成しているのが「合理的な同調」だ。
君たち自身の事に置き換えて最近グループで意思決定をした時の事を思い出してほしい。
リーダーが何か自分の思っている意見を言った時君たちはどういう立場だった?賛成したけど本当に心から賛成していたのか反対だけども賛成するふりをしていただけだろうか?人間の同調に関する最も有名な実験がソロモン・アッシュが行った実験だ。
線がいくつか引いてある。
左に1本右に3本。
そして「左の線と同じ長さのものは右のどれですか?」と尋ねる。
部屋にいた人たちはみんな「Aです」と答えた。
ほとんどの人がそう答えた。
アッシュの実験では次に違うやり方も試した。
何人かに線の長さを尋ねるのは同じだが1人を除く全員が実は実験を仕掛ける側の人間だ。
つまり周りはみんな実験の協力者で本当に試されている被験者は一人だけだった。
そして協力者はみんな「B」と答えるよう指示されている。
もし周囲に誰もいないとしたならば被験者は「Aです」と答えるだろう。
でも周りの人たちがみんな「Bです」「Bです」と答えている。
するとどうなるか。
最初の一人が「B」だと答えた瞬間被験者は「信じられない」という顔をした。
「なぜそんな答えを言うんだ?」と。
しかし被験者を変えながら何度か試していくと驚くべき結果が出た。
75%の人が少なくとも1回は周りに同調して「B」と答えたのだ。
心ではそう思っていないのに。
またグループの…ところで同調が一番起きやすいグループの人数は何人だと思う?アメリカの陪審員の事を思い浮かべたらいい。
12人だ。
12人というのが同調が最も起きやすい人数なんだ。
また出された問題が難しくなると同調が起きる確率は高くなった。
更に自分が所属したいと思っているグループの中にいると同調してしまう割合は更に上がる。
そして面白いのは人を同調の縛りから解放するには他にも同調しない仲間が1人いれば十分だという事だ。
再びこれで説明しよう。
仮に左から2番目の人が正しい答えを言ったらどうなるだろうか。
その人だけが正解を言ってあとはみんな間違い。
被験者はどうなったと思う?周囲の意見に反対しやすくなったんだ。
実験の記録では正解を言ったもう一人を共に戦う仲間のような感じで見たそうだ。
「真実を知っているのは我々だけだ。
頭の悪いやつらと戦おう」って。
グレッグ・バーンズが行った脳の実験も紹介したい。
被験者をMRI装置に入れて課題を解く時の脳の状態を調べたんだがその際周りの全員があなたと違う答えを言っていると伝えて反応を見た。
被験者がものを考える時に脳のどの部分を使うのかを調べたんだ。
アッシュの実験と似ているがこの実験の場合は実際に周りに人がいたわけではない。
でも被験者は周りにもたくさんの人が同じようにMRI装置に入っていてその人たちが自分とは違う答えを出していると思っている。
さて何より興味深かった結果は被験者が周りの人たちの答えは自分とは違うと知った時脳の中の感情をつかさどる部位が活性化したという事だ。
それは痛みに似た反応だった。
「他の人と自分とは意見が違うようだ」というような冷静な思考ではなく激しい不快感といった反応だ。
それから脳の後ろの方にある視覚をつかさどる部分も活性化した。
君たちが何か例えば立体を2つ見せられた場合を想像してみてほしい。
「2つは同じ形ですか?」と聞かれたとする。
他の人の答えが自分の答えと違った時みんなと同じ見方はできないものだろうかと必死に考えるだろう。
今紹介した実験は初歩的な調査にすぎないが人間は他の人と同じ視点からものを見ようと必死になる事が分かった。
実際に情報処理のやり方が脳の中で変化する。
苦痛を感じて人の意見に同調しようと脳も必死になるという事が分かったのだ。
ところで他人に同調する人間の性質が悲しい結果をもたらす事がある。
ナイトクラブで火事が起きるような場合だ。
みんな同じ出口に殺到して踏みつけ合いながら我先に外に出ようとする。
他に出口があっても誰も気付かない。
「群集効果」だ。
火災のベルがけたたましく鳴る場面を想像してほしい。
誰もが同じ出口を目指している時「待てよ他にも出口があるかもしれない。
あっちにサインが見えるから行ってみよう」と冷静に考える事ができるだろうか。
そんな極限状態では人に同調してついてゆく方が簡単だ。
そして悲惨な結果に至るんだ。
同調の威力は絶大だ。
恐るべき影響が出る事もある。
ではここからは同調が生む過ちについて見ていこう。
同調がもたらす恐るべき事の一つに群集が暴徒化する事が挙げられる。
イギリスでサッカーを見た事がある人は?少しいるね。
何か悪い事は起きなかった?いつものとおり悪い事が起きました。
どうしてだろう?普通の人たちが突然とんでもなく悪い行動に出るんだ。
大学同士の対抗戦なんかでもよくあるが人が突如としていつもと違う行動に走る。
彼らはふだんから物を壊したり殴ったりするような人たちだろうか?違うだろう。
互いに同調しようとするその場の空気が悪い結果を生むんだ。
群衆行動に関する一つの実験を紹介しよう。
私の友人でここサンフランシスコ出身のジンバルドーが行った実験だ。
彼は人間がどこまで邪悪になれるかについていくつか興味深い実験をした。
一番有名なのはもちろん「スタンフォード監獄実験」だ。
覚えている人も多いだろう。
ジンバルドーがスタンフォード大学で行った実験だ。
ところでスタンフォード大学出身の人は?ジンバルドーは実験に協力してくれる人を集めたんだがその際精神的に不安定な人は選ばないようにした。
精神的に安定な人ばかりではないからね。
そうした人を除いて被験者を選び彼らを2つのグループに分けた。
受刑者役と看守役だ。
受刑者役の人には「家で待つように。
パトカーが君を監獄に連行しに行くから」と伝えた。
監獄は大学の地下室に作られた。
さあみんなが監獄に集まった時どうなっただろう?看守役の人たちがたちまち受刑者役の人を虐待するようになったんだ。
看守たちはさまざまな虐待を行った。
ゴミ箱を頭に載せて歩かせたりズボンを脱がせたり服を脱がせて身体検査したり。
罰を与えようと電気設備室に閉じ込めたりもした。
そんな状態が何日か続いたがジンバルドーは実験にすっかりのめり込んでしまった。
彼は責任者だったんだが残酷な行為を見てその数の多さに無邪気に驚くばかりだった。
その時彼の助手がやって来てこう言ったんだ。
「あなたには今起きている事が見えないんですか」と。
ジンバルドーは「実に興味深い」と答えたが助手に「今すぐ実験を中止しなければ自分は辞める」とまで言われて実験を中止する事にしたんだ。
それにしても信じがたい展開だった。
人々があっという間に虐待を始めたんだから。
スタンフォード監獄実験からどんな事が分かるだろうか?人がルールが明確でない新しい状況に放り込まれる。
制服を着た人がいて看守と呼ばれる人がいて受刑者と呼ばれる人もいるがどう行動するのが正しいのか誰も分かっていない。
君たちがもし看守役だったらと想像してほしい。
どんな行動をする人に目が行くだろうか?何もしていない人か過激な行動をする人か。
過激な人だろう。
虐待を始める人がいたら最初は目立つ。
でもじきに人は「ああこういう事をしても問題がなさそうだ」と考え更に過激な行動に出る。
こうして新たな「社会の標準」こんな状況でなければ生まれないような社会規範が出来てゆく。
みんな他人に同調して手に負えない事態になっていくんだ。
後にジンバルドーはイラクのアブグレイブ刑務所で起きた虐待事件で専門家として証言した。
これはアブグレイブで撮影されたそれほど過激でない部類の写真だ。
君たちはイラク戦争の時楽しそうに収容者を虐待したアメリカ兵がいた事を覚えているだろう。
アメリカ兵は収容者の周りで写真を撮ったりダンスをしたりしてイラク人収容者に大きな屈辱を与えた。
ジンバルドーは専門家として意見を求められこう述べた。
「こうなる事は容易に想像できます。
スタンフォードでの実験でさえ僅か2日で虐待を始めたんですから。
戦争中で憎み合っていてルールすらない場合はなおさらです」と。
私たちは事件の背景の詳細に注意を払うべきだ。
兵士たちのルールはどういうものだったのか。
何が許され何が駄目なのかを兵士たちは知っていたのか。
ものごとの善しあしの判断を現場に委ねてしまうと良い事はまず起きないだろう。
繰り返すが人が置かれる状況というのはそれ自体が大きな力を持っている。
人は状況しだいで悪い方に転んでしまうからそうならないように十分注意を払うべきだ。
同調の悪い例ばかりを見てきたが別の例も見てみよう。
こんな実験がある。
それほど悪くない同調の例だ。
学生の中から男性3人女性3人を選んで明るい部屋に入れてこう伝えた。
「1時間好きなように過ごして下さい」。
1時間後。
一人ずつ別々の出口から出てもらって1時間何をしていたか簡単な報告書を書いてもらった。
何をしていたと思う?男3人女3人は明るい部屋で1時間何をしていたのか?おしゃべりだ。
何をしゃべっていたか。
例えば「何を勉強しているか」とか「高校はどこか」とか「兄弟は何人か」とかそういった話だ。
何か深い感情に訴えるような話は全く出なかった。
1時間退屈なおしゃべりを続けただけだ。
まさに雑談だ。
次に別のグループで同じ実験をした。
ただし今度は電気を消した。
1時間後同じように何をしていたかを尋ねた。
どうなったと思う?「学校はどこか」とか「専攻は何か」とか「兄弟はいるか」とかは一切話さなかった。
明るい所では学校の話なんかをしていたのに。
電気がついていたら90%の人が触り合うなんて考えられるか?50%はハグをした。
もしこの教室が暗かったら君たちの何人がハグするだろうか。
次の授業で試してもいいぞ。
そして…君たちからすると「たった80%か」といった感じかな。
この実験から分かるのは人の目にさらされている時は相当な縛りを受けていて人にどう思われるかをみんな気にしている事だ。
自分の思ったとおりには振る舞えない。
これはいいとも悪いとも言えるがとにかく人目があると人は好き勝手な振る舞いがしにくい事が分かるんだ。
「匿名性」仮面や暗闇などの匿名性があると人は好き勝手に振る舞いがちだ。
時にはそれが良い方に働くし悪い方にも働く。
特にインターネットでは顕著だ。
ネットの書き込みはどうだろうか。
匿名の書き込みを許すべきかそれとも名前を明らかにして責任を持たせるべきか。
全てに当てはまるような正解はない。
でもとにかく匿名だと人はふだんとは違った行動に走るのだ。
では暴徒化の話に戻るが何が暴徒化を引き起こすのかをまとめよう。
匿名性や責任の希薄化つまりこういう事をするのは自分だけではないという気持ちだ。
他の人もやっていると考えると自分の行動を省みなくなる。
もし目の前に鏡があれば振る舞いは変わるだろう。
今ここにいる私たちの事を考えてもそうだろう。
授業というものがどうあるべきかみんなちゃんと分かっている。
誰かにボランティアを頼みたい。
マイクに向かって大声で叫んでみてほしい。
アーッ!よくできた。
とても難しい事だ。
なぜなら今この部屋には厳格な社会規範があるからだ。
いきなり異質な行動に出るのは難しい。
君は叫ぶ前にちょっと笑ったね。
社会規範つまりこのクラスの標準から逸脱しようとして初めてそれがいかに難しい事かが分かる。
さてここまでは人間の周囲に流されやすい性質や暴徒化について見てきた。
暴徒化を奨励するわけではないがそれは同調によって物事がどこまで悪くなりえるかを示している。
さてここからは起業家である君たちには何らかの社会規範を作る事で人々の行動を改善できるようなアイデアを考えてほしい。
1分あげるから隣の人と相談するといい。
人間の流されやすい性質を逆手にとって行動を改善できるようなアイデアだ。
では始め。
はいみんな注目。
何かいいアイデアは見つかったか?誰から発表してもらおうか。
君からだ。
私たちは食事の席での人々の振る舞いを変えたいと考えました。
携帯ばかりいじっていないできちんと会話すべきだと。
そこでみんなが理想とするグループを例に出して「スティーブ・ジョブズみたいにビジネスで成功している人の9割は食事の席で携帯をいじりません」とか言ってみるのはどうでしょう?いいだろう。
何か良くない行動があった時に人間の他人に流される性質を利用して逆に望ましい行動を促すんだね。
この時どんなグループを例に出せば効果が高いだろう。
相手が所属するグループ?それとも憧れのグループ?憧れのグループだと思います。
憧れのグループです。
そうだね。
ところでスティーブ・ジョブズは本当に食事の時にメールをしなかったの?よろしい。
1ついい例が出た。
何かマナー違反を取り上げてそれに対処しようというわけだ。
この事に関連する興味深い話をしよう。
ロバート・チャルディーニの本の中に影響力について書かれたものがある。
君たちにも是非読んでほしいがその中に人間がどう社会規範に従うのかが書かれている。
とても面白い実験があるんだ。
地面にゴミが落ちているかどうかによって人のポイ捨て行為が左右されるのかを探る実験だ。
昔アメリカでこんなCMがあったが覚えているか?一人の先住民の男性が汚染された土地を見て涙を流すというCMだ。
「汚さないでくれ」というメッセージなんだがチャルディーニはこれを世界最悪のCMだと言った。
そのCMが「大勢の人が土地を汚しているのに平気でいる」というメッセージを発するものだからだと言うのだ。
こんな実験がある。
ゴミをポイ捨てしたいと思っている人が周りに全くゴミがない場合とゴミが1つだけ落ちている場合とゴミだらけの場合とこの3つのうちポイ捨てする確率が一番低いのはどれかという実験だ。
君たちはどれだと思う?答えはゴミが1つだけ落ちている場合が捨てる確率が最も低かった。
周りがゴミだらけだと自分もやっていいと思う。
1つだけだとゴミを捨てるという行為が際立ってしまってこんなひどい事はやるまいと自分に言い聞かせるようになる。
ゴミが全く落ちていない場合は逆にポイ捨て行為が許されるのかどうかが曖昧になってしまう。
皮肉な事にゴミ1つだけという状況が一番その場の社会規範が明らかだったというわけだ。
ゴミ1つだけの状況を見ると「この辺りの人はあまりゴミを捨てないんだな」と分かる。
他には何かいいアイデアはありますか?電気の消費量を減らしてもらう方法を考えました。
近所の人たちがどれくらい消費してるのかを各家庭で見えるようにするとか地域全体の削減量を表示するとかが考えられると思います。
いいアイデアだ。
エネルギー消費は個人的な行為だがそれを公的な行為に変えられるか。
自分の消費量を誇らしく思ったり恥ずかしく思ったりさせる事ができるかという事だ。
ある電力会社が先ほどのチャルディーニと一緒にさまざまな実験をしているがその中に近所の人がどう消費しているかを知らせる実験がある。
隣人に情報を公開し競わせていいのかについては賛否両論があるだろう。
その会社も実際にはまだそこまではしていない。
プライバシーや権利の問題もある。
でも本人の消費量とその近隣の平均消費量を比較した結果は知らせている。
それによって消費量が変わる事も実験で証明されている。
更に成績が良かった人にはスマイルマークを表示し悪かった人には残念マークを表示するとより効果が上がる事も分かった。
他には?私たちはイライラするような事をどうやったら解決できるかについて話していたんですが私個人は車を自転車専用レーンに平気で止めて近くの店に入るような人にイライラします。
自転車レーンに車を止めるのは悪い事だと思います。
車道の真ん中に止める人はいないのに。
車道に止めないのは周りの状況を見てやってはいけない事だと判断しているからだと思うんです。
でもどうすれば自転車専用レーンに車を止めさせないようにできるかいい方法は思いつきませんでした。
そうだね。
車の流れを止めるとすごく目立つけど自転車専用レーンは車道ほど混んでいないだろうし邪魔をしてもそんなに文句は言われないかもしれないしね。
自転車専用レーンに止める人は他のドライバーが同じ事をするのを目にしていたのかもしれないね。
「サンフランシスコではみんなそうしているんだな」とか思っているのかもしれない。
だから問題行動を一つ一つ無くしていく事が大切だ。
なぜなら一人の問題行動の影響はそれだけにとどまらない。
というのは「みんなそうしているから大丈夫だ」と他の人にまで思わせてしまう危険性があるからだ。
もし誰かが悪い行いをするとそれが連鎖的に他の人たちにも悪影響を与える。
つまり一人の良くない行動が社会にとって当たり前の事になってしまうおそれがあるからだ。
だからそういう行動に対してははっきりと批判的な態度をとって容赦しない事が大切なんだ。
そうしないとやがて一つ一つの問題に対処するコストよりもはるかに高いコストがかかってしまうようになる。
悪い行いをする人に恥をかかせたりする方法はいくらでも考えられる。
とにかく断固たる容赦ない形で対処する事が大切なんだ。
質問なんですがいいですか?どうぞ。
今日出てきた話の中で例えばタオルの再利用率が75%とありましたがそういう数字についてうそを言う事は許されるんでしょうか?というのもまだ誰も使っていない新製品を広めたい場合にはどうすればいいのか分からないんです。
社会の標準が存在しない場合はどうすればいいですか?うそは許されるかどうかだね?
(笑い)科学のためならうそをついても全くかまわない。
いや冗談だ。
まずこれはとても難題だ。
複雑な問題だし時にはうそをつく事で社会のためになる場合もあるだろう。
だから社会にとってプラスになるのかマイナスなのかを常に考えなければならない。
もう一つは何かのデータを使うにしてもどんな統計を採用するかという事も問題だ。
これは一人一人の判断に委ねられている大きなグレーゾーンだ。
「エネルギー」を例にとろう。
「エネルギーを賢く使っている人が何%います」と伝えるかそれとも「エネルギーを賢く使うのがトレンドです」と伝えるか。
リサイクルを勧めたい場合その地域の住民が30%しかリサイクルしていないのならその数字は多分言わない方がいいだろう。
ではリサイクル率70%を誇る近くの地域を取り上げて「ノイボレーでは70%リサイクルしています」と言うべきか。
あるいは過去3年間にリサイクル量が年々倍増していると言えば効果的なのか。
1%だったのが2%4%になったと。
とても難しい問題だ。
正直さの問題でもあるし自分がどういうメッセージを発信したいかという問題でもあるからだ。
うそをつくのも一つの手だが自分が一体何をやりたいのかそれにどんな社会的メリットがあるのかなどを考慮すべきだ。
統計だってどれを選ぶかデータをどのように伝えるか大きなグレーゾーンだ。
その中で自分自身が納得できる方法を探さなければならない。
だからさっきの質問への明確な答えはない。
一般論としてうそは良くない。
私は真実が自分にとって有利ならそれを伝える方を選ぶ。
そうでなければ別の統計を使うなりいろいろとやり方を考える。
決して正解はないんだ。
さあ最後に人に流される性質をみんなで体感しようか。
明日時間どおりに来れる人は?ほ〜ら周りを見回して!よろしい。
また次回。
(拍手)2015/12/18(金) 23:00〜23:55
NHKEテレ1大阪
お金と感情と意思決定の白熱教室 楽しい行動経済学の世界2 人に流される理由[二][字]
「他人がやっているから自分も…」と思うことが誰にもある。「社会的証明」と呼ばれる現象だ。なぜ私たちは人に流されてしまうのか?その秘密を行動経済学が解き明かす。
詳細情報
番組内容
「他人がやっているから自分も…」と思うことが誰にもある。迷ったときに人の行動をまねしがちになる現象は「ソーシャル・プルーフ(社会的証明)」と呼ばれている。例えば、テレビショッピングでは「電話がつながりにくい場合はおかけなおしください」と言うことで“この商品は他の人にも人気があるんだ”と思わせ売り上げを伸ばすことができる。他人に迎合する傾向をどう活用するか。ビジネスへの応用を含め、その秘密を解明する
出演者
【出演】デューク大学教授…ダン・アリエリー
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
趣味/教育 – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
英語
サンプリングレート : 48kHz
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