(五郎蔵)親父。
(店主)へい。
(五郎蔵)二つくれ。
(店主)ああへい。
(男性)このじじい!
(権助)観念しやがれってんだこの野郎!
(男性)どけ!
(権助)こいつ…太え野郎だ!
(伊三次)危ねえ!
(五郎蔵)大丈夫か?
(権助)おら来い!ほら世話かけんじゃねえよこら!
(伊三次)おいおい待ちやがれほら!よせお前!年寄り相手によ。
(権助)うるせえ!引っ込んでろ!
(伊三次)あっ!
(伊三次)やりやがったなこの野郎!あ痛っ!
(おまさ)バカだねえ子供じゃあるまいし。
往来の中でケンカだなんて。
あ…あっしだって何もやりたくてやったわけじゃありません。
あ痛っ。
あ痛っ。
あ痛た…。
ああ。
ただ売られたケンカを買わずに引き下がるのも業腹で…。
(おまさ)それが子供だというんですよ。
(伊三次)五郎蔵さん。
黙ってねえで何とか言っておくんなせえよ。
(五郎蔵)うん?
(おまさ)何か考え事でも?いやさっきのじいさんなんだが…。
えっ?あのじいさんがどうかしましたか?
(五郎蔵)《大丈夫か?》
(五郎蔵)見覚えがあるような…。
(おまさ)知り合いですか?
(五郎蔵)そいつをさっきからずっと考えているんだが誰だか思い出せなくてな。
(平蔵)で五郎蔵は思い出したのかい?
(おまさ)はい。
けさ起き抜けに思い出しまして寝床から飛び上がりそうになりましたとか。
ハハハッ。
そりゃよっぽどのことだ。
(平蔵・おまさ)ハハハッ。
で誰なんだい?そのじいさんっつうのは。
伏木の卯三郎だったそうで。
卯三郎…。
ああ岩五郎の父親の卯三郎か。
さようでございます。
何しろ五郎蔵さんにしてみれば十何年も以前に2度ほど見掛けたばかりだそうでございまして。
ハハッ。
そいつはすぐに思い出せなくても無理はねえな。
ああ卯三郎といえば確か海老坂の与兵衛の配下であったな。
海老坂の与兵衛といえば夜兎の角右衛門や簑火の喜之助と肩を並べるほどの大盗賊でございます。
うん。
そんな野郎が江戸にいて何か一仕事たくらんでいるとしたらこいつはどうも面白くねえな。
五郎蔵さんもそう申しましてその場で卯三郎と気付いていれば目を離しゃしなかったんだがって大層な悔しがりようで。
ああ惜しいことをした。
で五郎蔵はどうしたい?卯三郎がせがれの岩五郎さんの所に立ち寄るかもしれないということで。
御厩河岸に出向いたんだな?はい。
もう大急ぎで。
幕府お米蔵の北にある浅草三好町の河岸を俗に御厩河岸という
昔その辺りに幕府のうまやがあったことからこの呼び名がついたといわれている
御厩河岸の渡し場の近くに一膳飯屋を兼ねた小さな居酒屋があった
(男性)おうまたな。
(男性)ごちそうさん。
店を切り回しているのは働き者で評判の女房のお勝でその母親も盲目ながら立派に手伝いをこなしている
(お勝)はいただ今!
それに引き換え亭主の岩五郎はというと…
誠にのんきなものであるがこの居眠りばかりしている亭主が火付盗賊改方の密偵であろうとは女房のお勝もつゆ知らぬことであった
(岩五郎)へいらっしゃい。
あっ…。
しばらく会わなかったが変わりはねえか?へい。
あんまり変わりがなさ過ぎて毎日が暇でしかたありやせん。
そんなぜいたくが言えるのも働き者のかみさんがいりゃあこそだ。
分かっておりやす。
ありがてえと思わにゃ罰が当たるぜ。
そりゃもうおっしゃるとおりで。
今日は何かご用の向きで?昨日町なかで卯三郎を見掛けた。
でもしかお前の所に顔を出しちゃいねえかと思ってな。
親父とはもう10年以上も会っちゃおりやせん。
いまさら言うまでもねえことですがあっしは助ばたらきの錠前外しがもっぱらでおつとめの方じゃ親父とは何の関わりもござんせんし第一面出そうにも親父はあっしが所帯を持ったこともここに住んでることも知りゃしねえんですぜ。
しかしそうは言っても親子には違えねえ。
まあなじゅうぶんに気を付けていてもらいてえんだ。
というのもな実を言うと俺の不手際から卯三郎を見失うようなことになっちまったんだ。
海老坂の与兵衛という大物につながる筋をみすみすつかみ損ねたかと思うと長谷川さまに合わせる顔がねえ。
お前にしてみりゃ親を売るようで気もとがめようが。
いえそんなことは…。
卯三郎というやつは年端もいかねえわが子を丁稚奉公に出したまま7年の間一度も会いに来なかったような父親でさ。
それに比べりゃ若えころから目をかけてくれてあっしがお縄にかかったときも長谷川さまに頭を下げて命乞いをしてくれた五郎蔵さんの方がよっぽどありがてえと思っておりやす。
そうかい。
そういう了見ならこんなうれしいことはねえ。
もし何かあったら目印にこのかさを軒先につるしておけ。
いいな?
(岩五郎)へい。
(おとき)長谷川さまがおいでですよ。
そう焦らなくたっていい。
逃した魚をすぐに見つけようなんて世の中そううめえ具合にいくもんじゃねえや。
どうも申し訳のねえことで。
岩五郎さんは元気でしたか?ああ居酒屋の亭主がちっとは板につきましたかね。
それがなかなか板につくどころじゃねえ。
あの野郎女房に食わせてもらってるくせに毎日が暇でしょうがねえなんて。
そんな太平楽を言いやがったか。
(おまさ)でもあの人はああ見えて心はしっかりしておりますから。
能ある鷹は爪を隠すというやつかい?鷹と申されては褒め過ぎでございましょうけど。
まあトンビぐれえがあいつにはちょうどじゃねえかと。
(五郎蔵)トンビはあんまりだぜおい。
ハハッ。
おいたこじゃあるめえしそうあげたり下げたりするもんじゃねえ。
(一同の笑い声)・
(三次郎)お邪魔いたします。
(三次郎)けさ方押上村から初物が売りに出されたもんですから長谷川さまに食べていただこうと思いまして井戸で冷やしといたところでございます。
おおそうかい。
ありがてえ。
う〜ん!こいつは涼しくていい。
ほれ。
(三次郎)では。
ああご苦労。
ああ。
・
(風鈴の音)それにしてもその海老坂の与兵衛という男一度捕らえて面を拝んでみてえもんだな。
(伊三次)まったくで。
ですが海老坂の一味と申せば配下の者ですら一人として捕らわれたことがございません。
とにかく用心深え上に仕事っぷりが際立っておりまして。
あまりに手口が鮮やか過ぎておつとめから3日たって店の者がようやくお金を盗まれていることに気が付いたなんて話もございますぐらいで。
お前たちが手放しで褒めるところを見るとああこりゃ相当な野郎だ。
こいつはどうしてもとらまえなくちゃならねえな。
フフフッ。
ああ卯三郎を追い掛けていた柄の悪い連中ってのは?へい。
ありゃあの辺の旗本屋敷に雇われておりやす渡り中間じゃねえかと思いますが。
所在を突き止めてなそっちの方も当たってみてくれ。
へい。
(伊三次)そうかい。
ありがとよ。
(小林)どうだ?素性は。
(伊三次)へい。
連中の一人は権助と申しまして戸田播磨守さまお屋敷の中間だそうでございます。
(小林)ではそいつをうまく引き出してくれ。
(伊三次)へい。
(権助)おっと!うわっ!おら!どこに目付けてやがんだ!
(伊三次)うるせえなこの野郎!
(権助)あってめえこの前の…。
(伊三次)あっ誰かと思ったらてめえは…。
何だよ!いきなり人に突き当たりやがって!また殴られてえのか!?
(伊三次)ああすまねえすまねえ。
(伊三次)すまねえな。
どうだい?仲直りにそこらで一杯。
ああ俺は届け物で忙しいんだよ。
油を売ってる暇はねえ。
(伊三次)まあ…そう言わねえでよ俺がおごるからよ。
なあ?おい。
酒…。
おい。
うん?
(伊三次)フフッ。
(権助)ヘヘヘッ。
(権助)あ〜!うん?で何の話をしてたんだっけ?だからじいさんのことだよ。
ああ!あいつは卯三郎といってな。
何で追っ掛けてんだ?
(権助)ああ借金を返さねえもんで焼きを入れてやろうかと思ってよ。
借金とは幾らぐれえ?
(権助)ああ10両。
(伊三次)お前が貸してんのか?
(権助)おうよ。
文句あるかい?いや大ありだよ。
ええ?給金が年に2両2分の中間がどうやって人に10両貸せるんでえ?そりゃまあ色々と実入りがよ。
ヘヘッ。
実入り?なるほど。
10両はばくちの借金か。
てめえら中間部屋で賭場を開帳してやがんだろう?ハハッ!ヘヘヘ…。
ほい。
ヘヘヘ…。
あーあ。
どうします?今度あいつらに見つかったら卯三郎は殺されてしまうかもしれませんぜ。
そいつは困る。
中間どもに見張りをつけねばならんな。
じゃああっしがばくちの客にでもなって。
(戸を揺らす音)
(卯三郎)俺だよ。
(卯三郎)岩五郎俺だよ。
(岩五郎)親父…。
(卯三郎)何か食う物ねえか?十何年ぶりで面合わせてそんな挨拶しかできねえのかよ。
(卯三郎)おとといから何も食べてねえんだ…。
(岩五郎)ハァ…。
(お勝)誰だい?今頃。
(岩五郎)誰でもねえ。
腹減らした野良犬だよ。
あっ…。
ずっと江戸にいたのか?1年前ぐらいからな。
だったら何でもっと早く訪ねてこねえんだよ。
大病を患ってよ体壊しちまったんだ。
そんならなおのことじゃねえかよ。
(卯三郎)すまねえ。
訪ねようと思って何回もこの近くまで来たんだけどよこのざまだ妙に気後れしちまってな。
うん?じゃあ今夜に限って何で急に訪ねてきたんだ?実はなお前に会いてえっておっしゃる人がいてな。
誰でえ?そのお人は。
海老坂のお頭よ。
(岩五郎)お頭が俺に何の用で?
(卯三郎)ヘヘッ。
言うまでもあるめえ。
何かうめえ仕事でもあんのか?いや詳しいことは知らねえんだけどな俺体が利かなくなってからおつとめには無縁になっちまったから。
お前どうするんだ?お前も堅気の商売してるんだ。
無理とは言わねえぜ。
いや海老坂の与兵衛ほどのお人に会えるならこっちから頼んででもつないでもらいてえ。
ホントかい!?さすが俺のせがれだ。
よし。
あしたの昼ちょうど九つになあの浄念寺の裏の河原で落ち合うことにしようじゃねえか。
なっなっ?そうしよう。
よかったよかった。
彦蔵さんだ。
(彦蔵)ご案内いたしやす。
(彦蔵)失礼します。
(彦蔵)客人をお連れしました。
こちらへ。
海老坂のお頭でいなさる。
(岩五郎)お初にお目にかかります。
岩五郎と申します。
(与兵衛)お前さんのことは卯三郎どんから色々と聞いておりますよ。
そのせいかこれが初対面とは思えませんな。
何かご用はございますか?
(与兵衛)いやしばらくは誰も寄せ付けねえように。
へい。
早速ですがご用件を伺いましょう。
(与兵衛)うん。
用というのはほかでもねえ。
お前さんの錠前外しの腕を貸してもらいてえ。
実は今3年越しの大仕事にかかっていてね。
目当ての店には飯炊きの奉公人としてうちの者を潜り込ませてある。
店の間取りから何からそれそのとおり目をつぶっても歩けるほどに調べ上げてある。
だがここにきて困ったことができちまってな。
困ったことと申しますと?配下の錠前外しがぽっくり逝っちまって…。
金蔵の鍵が開かねえんじゃこりゃどうしようもねえ。
3年越しの苦労も全て水の泡だ。
ハハハッ。
ですがそういうことなら背に腹は代えられません。
店の者を脅して鍵を出させりゃいいじゃありませんか。
お前さんフッそいつは本気で言ってるのかい?いいかい?おつとめの最中に人を起こしたりするのは素人のするこった。
(岩五郎)へい…。
誠の盗賊というのはな風のように忍び込んで金を頂戴したらまた風のように引き揚げる。
そうでなくちゃいけねえ。
(岩五郎)おっしゃるとおりで。
ホントのところはあっしも常々そんなふうに…。
(酒井)忠吾を呼んでまいりました。
ご苦労。
(忠吾)私に何か?うん。
これからしばらく賭場へ通ってもらうことになるかもしれん。
(忠吾)賭場でございますか?伊三次と組んで張り込みをしてもらいたいのだ。
(忠吾)はぁ…。
(久栄)お待たせいたしました。
100両ある。
軍資金だ。
えっ?まさかこれで私にばくちを打てと?当たり前じゃねえか。
ばくちも打たねえでどうやって賭場に潜り込むつもりだい。
ですが…。
(久栄)100両では足りませぬか?とんでもございませぬ。
かような大金をお預かりしましてもしも失うようなことにでもなりましては…。
そこは失わねえようにうまくやれ。
そんな無茶を申されましても…。
(小林)しかし武家の格好のままでは警戒されましょう。
(酒井)できれば町人に扮しました方が。
うーん…。
といってやくざ者には見えねえしなぁ。
(久栄)フフッ。
大店の放蕩息子というのはどうでございましょう?うん!そいつはぴったりだ。
(一同の笑い声)7年前尾張町の綿問屋恵比寿屋の錠前を外したのはお前さんだね?へい。
さようで。
あの店には私も目を付けていたんだが錠前が難しいんで手を引いた。
あれを外したのは大したお手並みだ。
恐れ入りやす。
あれをやっつけるのにはあっしも少々てこずりやしたが。
ハハハッ。
こいつが今度外してもらいてえ錠前だ。
(岩五郎)うん?どうも見たことのねえ代物ですが…。
特別にあつらえたものらしい。
こいつは本物の鍵から写したものでござんすか?いや錠前からろう型を取ってそいつを図にしたものだ。
するとこの寸法はかなり甘えとみておかなくちゃなりやせん。
どうだね?開きそうかね?この世に開けられねえ錠前は一つもござんせん。
(与兵衛)で助けてもらえるんだろうね?
(岩五郎)へい。
こんな大仕事見せつけられたんじゃどうにもやらずにはいられません。
(彦蔵)では近いうちにまたつなぎつけさしていただきます。
へい。
(与兵衛)卯三郎どんあんな立派なせがれがいようとはうらやましいかぎりだ。
(卯三郎)へい。
お役に立てればこんな幸いなことはございません。
(卯三郎)ですがあいつは根っからの職人かたぎでございまして仕事をするにゃそれなりのものがいるってことが頭にねえんで。
ああそうか。
こいつは悪かった。
支度金も渡さずに帰しちまった。
何でしたらあっしが言付かってもよろしゅうございますが。
お前さんどうかしたのかい?
(岩五郎)いや何でもねえ。
あっそう。
お前…。
またいちゃもんでもつけに来やがったのか。
(伊三次)そんな挨拶はねえだろ。
いい客を連れてきてやったのによ。
(伊三次)ええ?
(権助)おいおい…。
(忠吾)今日は派手に遊ばせてもらいますよ。
ヘヘヘッ。
(権助)旦那!旦那旦那!あちらです。
どうぞどうぞ。
(忠吾)そうですかそうですか。
(権助)こちらになります。
(忠吾)ハハハッ。
(伊三次)ありがとな。
(男性)さあ入りました。
(男性)さあ入りました。
どうぞ。
(男性)張って張って。
(客)半!
(男性)さあ張って。
(客)半!
(男性)はいどうぞ。
(客)丁!
(男性)丁。
はいどうぞ。
さあ張って。
半だ!
(客)半!半!
(男性)丁ないか?丁。
丁だ。
(伊三次)そんなしみったれた張り方じゃ疑われっちまいますぜ。
(忠吾)しかしお預かりした大事な金子をすってしまうわけには…。
丁。
丁だ。
(伊三次)ああもうじれってえな。
(忠吾)あっ!
(男性)盆中あたり。
(男性)勝負。
(男性)五三の丁。
(男性)丁と出ました。
(忠吾)フフフ…。
(男性)入れほら!
(男性)この!おら!このじじい!おら!こっちだよ!この野郎!
(男性)押すんじゃねえよおら!こっちだよ!おら!
(男性)こっち…ほら。
こっちこっちじいさん。
(伊三次)卯三郎です。
金はつくってきたんです。
このとおり10両。
あの…お返しいたします。
(権助)ほう。
(卯三郎)ヘヘヘッ。
痛っ!あ痛て…。
ああっ!金はもう返したんだ。
もう勘弁してやれ!
(権助)返したのは元金だけでまだ利息が残ってんだよ。
利息?
(権助)おうよ。
10日で1割だからひとつきで都合3両。
そんなべらぼうな利息があるかい!
(権助)うるせえ!ばくちの利息はべらぼうだって相場が決まってんだよ!ええい!それで卯三郎はどうなった?結局許してもらえずひっくくられて今も中間部屋に。
そいつはまずいな。
できれば泳がせて見張りをつけてえところだ。
では腕ずくで卯三郎を助け出しますか。
おいおい。
旗本屋敷で暴れられちゃ俺の首がこれだい。
ならば不本意ながらあの権助に利息の3両払ってやるしかございませぬ。
うーん…。
それにしても卯三郎は元金の方は返したわけだ。
はっ。
10両耳を揃えて。
どこで都合したものか。
忠吾が土産だとよ。
(久栄)私に?珍しい。
何でございますの?お前の大好物だ。
ちょうど通り道だったもので近江屋の羽衣煎餅を。
まあどういう風の吹き回しでございましょう。
日頃の行いが良いせいかゆうべは思いの外運がつきましてなお預かりいたしました100両もこれこのとおりもうけをつけまして。
うさぎにしちゃ出来過ぎだな。
ちょいと出掛けてくる。
(久栄)雨でも降ってくるんじゃございませんか。
(忠吾)雲一つございませんが。
(伊三次)長谷川さまどちらへ?卯三郎の様子を確かめようと来たんだがあれが権助か?へい。
借金の利息の取り立てに行くところでさ。
ああ…。
(お勝)ありがとうございました。
(権助)おい!どけ!岩五郎さんはいらっしゃいますかい?
(お勝)今留守にしてますけどうちの人に何の用ですか?
(権助)卯三郎さんの借金を払ってもらいに来たんだよ。
卯三郎さんって誰ですか?
(権助)ふざけるない!ええい!てめえの亭主の父親じゃねえか!
(お勝)うちの人のおとっつぁんはとっくに死んでるはずですけど。
(権助)何だと!?しら切りやがんと容赦しねえぞ!おい!
(男性たち)おう!
(お勝)何するんですか!
(お八百)お勝お勝…。
あっ…。
やめてください!
(権助)ああ〜っ!野郎!ちょっと乱暴が過ぎやしねえか。
てめえ!なめたまねしやがると畳んで大川へぶちこむぞ!うっ!
(男性)あっ権助!大丈夫か!大丈夫か?そこへ掛けろ。
(お八百)まあホントに…ホントにご親切に。
何の何の。
(お八百・お勝)ありがとうございました。
(お勝)失礼ですがお名をお聞かせくださいまし。
そんなご大層なもんじゃねえ。
ただの浪人だよ。
(お勝)でも…。
ああさっきの連中借金がどうしたとか言っていたかな。
それがまるで身に覚えのないことでございまして。
そいつはとんだ災難だったな。
亭主は留守かい?はい。
朝からわらじを売りに。
ふーん。
そりゃ精が出るこったな。
(お八百)まあいつもはもう居眠りばかりしてるんでございますがね今日は何ですかまあ急に思い立ちましてね。
ほう。
何かふに落ちぬことでもございますか?うん…。
卯三郎が返した10両のことだがな。
ばくちの借金のことでございますね。
うん…。
どうやって工面したものか。
もしや岩五郎に泣き付いて出してもらったんじゃねえかと俺は思うんだがな。
でもそれでしたら岩五郎さんは合図のすげがさをつるしてとっくに私どもに知らせてるはずですが。
うん。
これでな卯三郎を中間部屋から請け出してやってくれ。
請け出して10両どこで工面したか聞き出しますか?それとなくな。
はい。
(岩五郎)おう!何でい今日は休みにしたのかい?
(お勝)怖いから閉めちまったんだよ。
昼間変なやつらが乗り込んできてさ。
変なやつら?
(お勝)ごろつきだよ。
お前さんの父親が借金してるとか何とか妙な言い掛かりをつけやがってさ。
たまたま親切なお武家さまが助けてくだすったからいいようなものの。
お武家って誰だよ?
(お勝)ご浪人だよ通り掛かった。
何だいもう!ちっとも売れてないじゃないか。
(岩五郎)ああ。
(お勝)「ああ」じゃないよまったく。
(岩五郎)ヘヘヘッ。
よし。
ヘヘッ。
(おまさ)さあさあおじさんもう一つ。
(卯三郎)いやいやもう…。
これ以上飲んだら帰れなくなっちゃう。
(伊三次)まあそう言わねえで。
(おまさ)だったら今晩ここに泊まっていけばいいじゃないですか。
(卯三郎)ああそういうのもあったね。
ああじゃあついで。
(伊三次)おうおう…。
(卯三郎)すいませんね。
おっとっと…。
ああ…。
(三次郎)さあさあソラマメですよ。
(卯三郎)ああソラマメまで。
ヘヘッ。
あれ?このナスあんたが漬けたんですか?
(三次郎)さようですが。
こりゃうまい漬け方ですね。
(おまさ)ああそんなにお気に召したんなら帰り少し持って帰ったら?ねえ?
(卯三郎)あらいいんですか?いくらでも差し上げますよ。
ヘヘヘッ。
じゃあ。
助けてもらった上にごちそうまでなって…。
あの…立て替えてもらった3両は必ず返しますから。
そんなこと言って当てでもあるんですか?いや〜ねえこともねえんですよ。
ホントですかい?
(卯三郎)ホントですよ。
近々ね金が手に入る。
(おまさ)どこから?えっ?いやいやそれはちょっと言えねえな。
だけどちょっとした仕事頼まれちゃってね。
(おまさ)おじさんにですか?
(卯三郎)いや俺じゃねえんだ。
俺はもう体利かねえからね。
頼まれたのは俺のせがれだ。
(おまさ)おや息子さんがいたなんて初めて聞きましたよ。
い…岩五郎っていうんですよ。
御厩河岸の近くに住んでるんですけどね。
それじゃおじさんが借りた10両はその岩五郎さんが工面したんですね?いやそうとも言えねえことはねえんだけどね。
ヘヘッ。
ちょっと横にならしてもらうね。
(卯三郎のいびき)
(おまさ)聞いてました?
(伊三次)今の口ぶりだとやつはとっくに岩五郎さんに会ってるようですが。
ハァ…。
いったいどうなってるんです?
(五郎蔵)お前俺に何か隠し事しちゃいねえか?
(五郎蔵)卯三郎といつ会った?
(岩五郎)ああ…。
3日前の晩です。
(五郎蔵)なぜかさをつるしておかなかった?
(岩五郎)申し訳ござんせん!
(五郎蔵)なぜかって聞いてるんだい!
(岩五郎)実は親父に会った翌日海老坂の与兵衛に引き合わされまして…。
(五郎蔵)何だと!?
(岩五郎)…で錠前外しを助けてもらいてえと。
まさか海老坂の与兵衛ともあろう者がてめえの方からわなに飛び込んでこようとはな。
もちろん引き受けたんだろうな?
(岩五郎)へい。
だもんで2〜3日は向こうも念のためあっしの身辺に目を光らせているんじゃねえかと用心いたしまして。
そうか。
そいつはよく気が付いた。
恐れ入りやす。
与兵衛とは盗っ人宿で会ったのか?
(岩五郎)いえ浄念寺のそばの料理茶屋で。
(五郎蔵)なるほど。
まずそこへは一回っきり。
二度とは現れねえ。
やつらが押し込む店と刻限を探り出すんだ。
いいな?それじゃくれぐれも気を付けてな。
何かあるとは思っていたが岩五郎めすでに敵の懐に飛び込んでいようとははしっこい野郎だ。
この上はいつ合図があっても見逃すことのないよう御厩河岸へ人をやる回数を増やさねばなりますまい。
近場に足だまりを設けて人を詰めさせておいた方がよい。
では早速適当な家を。
頼むぞ。
はっ。
その後変わりはありませんかい?海老坂のお頭につなぎをつけていただけねえでしょうか?
(岩五郎)おい。
俺はちょっとわらじを売りに行ってくるからな。
そう…。
あいよ。
岩五郎さん急にどうしなすった?へい…。
実は少々差し障りができましておつとめから手を引かせていただきとうございます。
何か気に入らねえことでもありましたか?いえそういうことでは…。
みんなこっちの勝手な都合でございまして。
支度金のことで何か?
(岩五郎)支度金?卯三郎どんに10両言付けておいたが…。
えっ…。
ああお前さん受け取ってなかったのかい。
え…えっ…。
虫のいいことを言うようでございますがしばらく待っていただけましたら金は必ず…。
ああいやじかに渡せなかった私も悪かった。
あの金はお前さんに顔をつないでもらった礼として卯三郎どんに差し上げたとまあそういうことにしておこうじゃねえか。
(お勝)ありがとうございました。
よいしょ。
ハァ…。
しかしそうなると何だなこのおつとめは諦めるほかねえか。
待ってくだせえ。
3年もかけて仕込んだものをそうあっさり諦めることは…。
あっしの他にも錠前外しはいくらもいるじゃ…。
(与兵衛)いいかい?私はお前さんの腕と人柄を見込んで頼んだんだ。
錠前外しなら誰でもいいってわけじゃねえ。
ハァ。
まあいい。
お前さんがその気になってくれるまでこのおつとめは何年でも寝かせておくことにする。
そこまで買ってくださるとあっちゃあっしも否やは申せません。
というと岩五郎さんやってくれるのかい?へい!もうどうなろうと構わねえ。
お頭に命をお預けいたしやす。
そうかい…。
よく思い直してくだすった。
ただしそれには一つだけ条件が。
(与兵衛)条件とは?どこへ押し入るか教えていただきたいんで。
そいつはまたどういう訳で?訳というほどのことでもねえんですがね。
あっしは8つのときに京橋の線香問屋に丁稚奉公にやられたんですがねそこの主人が因業な野郎でございましてあっしを目の敵にして散々いじめやがった。
でも子供ですから逃げる所もござんせん。
結局7年も辛抱して初めて給金がもらえるというその日に店の金を盗んだと主人が難癖をつけましてあっしを追い出しやがったんで。
そんときに何年ぶりかで会いに来た親父と運良く会うことができましてあっしがひでえ目に遭ったことを話しますと親父は意趣返しに線香問屋に押し入ろうと…。
卯三郎どんが盗賊だってお前さん知ってなすったのかい?いえそんとき初めて打ち明けられまして…。
(岩五郎)一緒に100と40両盗んだのがあっしがこの稼業に入ったきっかけなんでございます。
ハァ…。
卯三郎どんも罪なことをしたもんだ。
(岩五郎)以来あっしは気休めかもしれませんが盗むなら悪人からと心に決めてそれだけは一度も曲げずにやってきたんで。
いやお前さんの気持ちはよく分かる。
(岩五郎)では押し入る先を教えていただけますか?ああいいとも。
(与兵衛)目当ての店は本郷一丁目の醤油酢問屋柳屋だ。
(甚右衛門)何…。
チョウキチ何だこの掃き方は。
ええ?お前は。
バカなやつだな。
手を…。
きちんと掃きなさい。
ほら外行くよ。
(男性)いってらっしゃいまし。
(与兵衛)あるじの甚右衛門は裏では高利の金を貸して血も涙もねえ取り立てをしてる業突く張りだ。
その目で確かめてみるがいい。
(甚右衛門)ほら行くよ。
はい。
(甚右衛門)ほら急ぎなさいもう。
(丁稚)あっ!
(甚右衛門)な…何…。
何をやっとる!何を!もう!この役立たずが。
荷物拾ってついてきなさい。
まったくもう。
今日はもう飯は食べさせない。
ったくもう。
急ぎなさい。
(岩五郎)おっかさん…。
どうなすったんで?
(お八百)いやはばかりへ行こうと思ったらね何だか音がしたもんだから。
何をしていたんだい?ええ…。
何でもありません。
眠れねえもんでちょっと。
おお…。
うーん…。
(鼻をすする音)一杯やっていたのかい?
(岩五郎)ええまあ。
お気になさらねえで。
さあさあさあ。
はばかりまでお連れいたしやしょう。
もう一人で行けますよ。
ハァ…。
岩五郎からその後何の合図もないか?
(酒井)日に何度か人をやって確かめてはいるのですが…。
うーん…。
かさはつってねえんだな?
(酒井)はっ。
この2〜3日岩五郎は昼間は店におらぬようです。
いつ行っても姿が見えぬそうで。
卯三郎はどうしてる?はっ。
厳重に見張りをつけておりますがあれ以降まるで借りてきた猫のように長屋でおとなしくしております。
ばくちの借金でよっぽど懲りたんであろう。
(小林)海老坂一味とつなぎをつけるような気配はまるで見えませずおまさが申しますにはもはやおつとめからは一切身を引いているのではないかと。
そうかもしれねえ。
(男性)ごちそうさん。
(お勝)ありがとうございました。
お気を付けて。
(お勝)まあいつぞやの…。
すまねえが水を一杯所望したい。
ええええ。
どうぞお入りくださいまし。
どうぞ。
どうぞどうぞ。
(お勝)この間のご浪人さまが寄ってくださいましたよ。
(お八百)えっ!?
(お勝)はい。
こっちこっち。
ここね。
はい。
よいしょ。
はい。
ここ座って。
今日も亭主は留守か?はい。
何ですかこのところ急に商売っ気を出しましてね今日も朝からわらじを売りに。
そんなに売れるものかね。
(お勝)それがもうまるっきりなんでございますよ。
うちのご亭主は商売が下手で困ったもんでございますよ。
いいじゃありませんか商いが下手だって。
あんなおっかさんを大事にしてくれる優しい人はどこを探したって見つかりゃしないんだから。
(お八百)まあ…。
お前さんお客さんの前でおのろけかい。
(お勝)もう!もう…。
ハハハッ。
ご亭主はどうもつかみどころのねえ人のようだな。
(お八百)ええもうせんだってもね何を思い付いたのか部屋にこもって夜なべを。
ほう。
わらじでも編んでたのかい。
さあ何だか知りませんがね一杯やりながら一人でせっせと仕事を。
ほう。
仕事をな。
お水よりお神酒の方がよろしかったんじゃございませんか?いやこれでいい。
ちょっと用事を思い付いてな。
(伊三次)ごめんよ!
(卯三郎)えっ?あっ。
伊三次さんすまねえ。
まだ金の都合がつかねえんで。
ああいいってことよ。
ええ?それよりちょっと一緒に来てもらいてえんだが。
どこへ行くんです?
(伊三次)まあいいから。
ええええ。
お前が伏木の卯三郎か。
あの方は誰ですか?
(おまさ)長谷川平蔵さまですよ。
(卯三郎)えっ?ハハッ。
おまささん人をからかっちゃいけませんよ。
(おまさ)これがからかってる顔に見えますか?・
(戸をたたく音)
(お勝)看板だよ!閉めちゃったよ!・
(戸をたたく音)もう…。
何でい?騒々しい。
(岩五郎)どうした?お前さんのおとっつぁんだって人が表に立ってんだけど。
ハァ…。
(岩五郎)どういうことなんだよ!
(卯三郎)いや行き場がねえんだ。
しばらく置いてくんねえか?
(岩五郎)ほれほれ。
何があった?盗賊改めに目付けられた。
何だって!?何かしゃべったんじゃあるめえな?しゃべろうにもお前おつとめのことは何にも知らねえ。
だからこうやって放されたんだ。
後をつけられてねえだろうな。
いや大丈夫だと思うけどよよう怖くてうち帰れねえんだよ。
(お勝)お前さん父親は死んだんじゃなかったのかい?いえ…そう思ってたんだがなこうやって訪ねてきたところを見るとどうも生き返ったらしいや。
よしとくれよ!縁起でもない!卯三郎…。
近々ね金が手に入る。
おつとめからは一切身を引いているのではないかと。
海老坂のお頭よ。
やってくれるのかい?
(岩五郎)へい!押し込む店と刻限を探り出すんだ。
岩五郎めすでに敵の懐に飛び込んでいようとは。
(権助)ああ〜っ!はい。
よいしょ。
さあどうぞ。
他に何かいる物はありますか?ああできりゃ寝酒をちょっと。
(岩五郎のせきばらい)お勝酒はいいからもう向こうへ行ってな。
あいよ。
(岩五郎)支度金はどうしたんだよ!
(卯三郎)支度金?
(岩五郎)海老坂のお頭から言付かった10両だよ!ああああ…あれなすまねえ。
あの金もう使っちまってよもうねえんだ。
何に使ったんだよ!ばくちの借金でなその返済で。
何でまた…。
何でまたばくちなんか…。
いや俺がおつとめを引くときにな海老坂のお頭から頂いた納め金なあれ病の薬代であらかた使い果たしちまってよ。
そうなるとよつぶしの利かねえ盗賊ほど惨めなものはねえんだよ。
ばくち以外に金を稼ぐ道を思い付かなくてな。
いや俺がつかねえんだよ。
俺が半って言うと必ず丁が出るんだよ。
何の話だ!
(卯三郎)ばくちの話だ。
いいかげんにしろよ!そんな怒んなくてもお酒ぐらいいいじゃないか。
薬代ぐらい俺に頼れよ。
(卯三郎)うん…。
いただきます。
(岩五郎)図面の寸法で錠前にぴったり合うかどうか分からねえんでこころもちやすりのかけ方を違えて合鍵を3本作っておきました。
さすが私が見込んだだけのことはある。
念の入った仕事だ。
で柳屋へはいつ押し入るんで?
(与兵衛)まず明後日。
早えに越したことはねえ。
一つ気になることがあるんですが。
(与兵衛)何でい?言ってみねえ。
盗んだ金をどうやって運ぶつもりです?近くに堀でもありゃ舟を使うという手もあるがあいにく柳屋の辺りにはそれがねえ。
となると町木戸を開けさせて押し通るしかございませんが。
ハハッ。
お前さんいいところに気が付きなすったな。
まっ見ねえ。
(与兵衛)柳屋からはす向かいのここん所に借家がある。
住んでるのは艶っぽいので評判の文字春という常盤津の師匠なんだがこの女何者だと思う?えっ?まさかこっちのお仲間ですか?そのまさかよ。
(与兵衛)文字春を1年も前からここに住まわせてるのはむろんいざおつとめというときのためでね。
(甚右衛門)はい行きますよ。
(与兵衛)柳屋のあるじとはずいぶん懇ろになっておかげで店の内情はみんなこっちへ筒抜けだ。
(甚右衛門)おおお師匠さん。
持ちましょう持ちましょう。
さあどうぞ。
どうぞどうぞ。
はい。
(甚右衛門)・「手を付いて」
(文字春)よう。
・「ふっと見合わす」・「顔と顔」
(与兵衛)盗んだ金はいったんこの文字春の家に運び込んで朝まで寝かしておく。
で町木戸が開いてから堂々とここまで運んでくるんだ。
(岩五郎)真っ昼間に千両箱を大丈夫でござんすか?そこは抜かるもんじゃねえ。
ハハッ。
まあ見てなせえ。
うわっ!
(卯三郎)おい。
(岩五郎)うん?うん?どこ行ってたんだよ。
(岩五郎)海老坂のお頭の所よ。
押し込みは近えのか?
(岩五郎)あさっての晩。
あさって!?押し込み先はどこだい?そいつは親にも明かさねえのが盗賊の仁義ってもんだぜ。
違えねえ。
いい心掛けだ。
(久栄)ねこ殿ちょっと。
(村松)はい。
何でございましょう?このところ味付けが変わったようだと殿様がおっしゃっておいでですが。
やはりお気付きで。
(久栄)というと何か?実はこのところお体のためをと思いましてなるべく薄味にと。
(久栄)あっそうでありましたか。
いつもながらよく気の付くことです。
何のこれしきのこと。
時に明朝は膳ごしらえは不要だと殿様の仰せです。
味付けにご不満でも?
(久栄)そうではありませぬ。
明日は早くからお出掛けになられるそうでにぎり飯でもこしらえてくれればそれでよいと。
(村松)では香の物でも添えましょう。
10人分いるそうです。
10人分?朝から大勢で遊山にでもお出掛けですかな?
海老坂の与兵衛一味が柳屋へ押し入ったのはその夜のことである
(戸をたたく音)
(彦蔵)てめえ!
(岩五郎)四半時お待ちくだせえ。
・
(物音)
(あくび)
(解錠音)ああ…。
・
(甚右衛門の鼻歌)あっ!鍵が!あっない!ない!ない!誰か!誰か!
(岡っ引き)下がれ下がれ!
(岡っ引き)下がれ。
下がれ。
(男性)同心の方はまだですか?
(岡っ引き)もうすぐだ。
(男性)はぁ…。
(岡っ引き)おうあけろあけろあけろ!どけ!
(文字春)お頭支度が整いました。
(与兵衛)うん。
(岡っ引き)下がれ。
(同心)おうどけどけ!どけ!
(岡っ引き)あっご苦労さまです。
(甚右衛門)千両箱2つ…。
どうしよう…。
ああ…。
お頭は?
(善太郎)追っ付け来なさる。
(彦蔵)よっと。
海老坂の与兵衛であるな?千両箱をかごに載せるとは噂にたがわぬ人を食った野郎だ。
お手前が盗賊改めの…。
長谷川平蔵じゃ。
・
(忠吾)ごめん!
(文字春)どちらさまでございましょう?
(忠吾)火付盗賊改方の者だ。
でそんな怖い旦那が私に何のご用です?しらばっくれようたってそうはいかんぞ。
あら旦那近くで見るといい男…。
神妙にせぬか…。
これだから女は油断ならぬ。
(彦蔵)おいいくら何でも遅過ぎやしねえか。
(善太郎)ちょっと様子を見に行ってきやす。
おい。
(善太郎)うわっ!くそ!くそ!やーっ!うわー!火付盗賊改めである!神妙にいたせ!
(岩五郎)おお!
(卯三郎)どうしたい?海老坂のお頭がお縄になんなすった。
えっ?
(お勝)お前さんどうしたんだよ?ちょいと出掛けてくる。
(お勝)どこ行くんだい?当分帰れねえかもしれねえ。
(お勝)えっ…。
お…お勝。
お勝な…何かあったのかい?ええ?ええ?おっかさんを大事にしてやんなよ。
(お勝・お八百)えっ?おい。
俺も連れてってくれ。
(岩五郎)ああ…。
(お勝)お前さん!
(お勝)へそくりだよ。
持ってっとくれ。
すまねえ。
与兵衛何か言い残すことはないか?わしにできることがあれば何なりとかなえてやるぞ。
19の年を皮切りに今日まで四十数年盗賊稼業を全うしてきました。
心残りなんざただの一つもございません。
しかしながらお聞きしてえことが一つだけ。
申してみよ。
あっしらの動きがどこから盗賊改めに漏れたものか。
どこから漏れたと思う?岩五郎。
いやあいつじゃねえ。
(与兵衛)となると他にはまるで思い当たる節もねえが…。
ああそれともう一つ。
あっしらの動きを見通していながらなぜ昨夜のうちに捕まえなかったんでございます?そりゃ俺がお前を大したやつだと認めているからよ。
海老坂の与兵衛ともあろう者が押し込み先でとらまえられたりしちゃ生涯の最後にきて大盗賊の名に傷が付く…そう思ってな。
誠でございますか?ああ。
かたじけのうございます。
だがそれだけじゃねえ。
いや実はな事前に知ったのはおつとめの日取りだけで場所を知ったのはお前たちが押し込んだ後のことだ。
それだから後手を踏んで慌てて出張るよりここはじっくりと腰を据えて網を張った方がいいと俺はそう考えたんだ。
夜は闇に紛れて何人か取り逃がすこともあるが昼間なら一人も取り逃がすこっちゃねえからな。
(与兵衛)ハッ。
ハハッ。
さすがは長谷川平蔵さまだ。
縄目を受けても悔いはございません。
お泊まりいかがですか?ご飯もついてますよ。
そのころ岩五郎はようやく草加まで足を延ばしていた
(女性)安いよ安いよ。
(女性)お泊まりいかがですか?
(女性)お泊まりいかがですか?ご飯がついて120文ですよ。
(岩五郎)姉さん2人だ。
(女性)お二人さま!
(男性)ああどうぞどうぞお入りください。
(女性)いらっしゃいませ。
・
(女性)失礼します。
(卯三郎)おう姉さん明かりを早くつけてくれや。
(女性)はいはい。
(岩五郎)うん?姉さん酒を頼んだ覚えはねえんだが。
向かいのお客さんにつけるように頼まれたもんでね。
向かいの?どんな人だい?どんな人ってお客さんが確かめたら?おうご苦労だったな。
そんなとこ立ってねえでこっち入んな。
(卯三郎)へい。
岩五郎わ…悪く思わねえでくれ。
(岩五郎)どういうことなんだ?お前のそぶりがあんまり妙なんで親父に言い含めてお前を見張らせていたのよ。
じゃあ海老坂のお頭が捕まったのは…。
親父がおつとめの日取りを教えてくれたんでその日はずーっとお前をつけていたのよ。
あっああっ…。
(五郎蔵)この大バカ野郎!何だって長谷川さまを裏切りやがった!
(岩五郎)勘弁してくだせえ!めったに拝めねえ大仕事で錠前の図面を見たらどうしても外さずにはいられなくなっちまったんでございます。
岩五郎をかばうわけではございませんが眠っていたこいつの心をその気にさせちまったのは海老坂の与兵衛ならではのことでございます!しかしだとすると与兵衛のような盗賊がもしまた現れたら岩五郎は同じ過ちをしでかすかもしれねえ。
(岩五郎)いえ二度とは決して!バカ!密偵に二度は通用しねえんだ!うわー!
(五郎蔵)今後は一切錠前をいじれねえようにいたします。
ですからどうか命だけは…。
(岩五郎)うっ…。
もういい五郎蔵。
悪いのはお前たちばかりじゃねえ。
岩五郎が錠前外しをしでかそうとしているのを知っていながら俺が止めもせずとことんやらせたんだからな。
盗っ人どもをとらまえるためにはどんな手段も選ばねえこの俺が誰よりも一番…ヘヘッ悪いやつかもしれねえよ。
それから3日がたった
(男性)ごめんよ。
浅草御厩河岸の居酒屋は相変わらず繁盛しているが以前とは2つ変わったことがあった
1つは岩五郎が密偵の役目を解かれてただの居酒屋の亭主になったこと
お前さんほら魚焦げてるよそれ。
うん!?
いまひとつは厄介者が1人増えたことである
・
(鼻歌)
(忠吾)あ痛っ!・
(鼻歌)
(忠吾)フフフッ。
何だ?この匂いは。
あっうさぎ!
(忠吾)あっはい。
何かご用でございますか?
(久栄)何やら花のような匂いが。
ああそれは私が…。
(久栄)髪油でございますね。
めかしこんでどちらへお出掛けですか?はっちょっと…。
ちょうどよかった。
俺と一緒に行ってうなぎでも食おう。
ああせっかくですが私ちょっと大事な用が…。
待て。
あっおう…。
(久栄)何でございますか?
(忠吾)あっ!まあ!何が大事な用ですか。
だがお前吉原で遊ぶ金があるのか?おい。
せんだって賭場でもうけた金が…。
ああそうかそうか。
あんとき幾らもうけた?10両ばかし…。
正直に言え。
きっかり30両。
それだけの金子があれば刀でも買い求めるのが武士のたしなみではございませぬか。
いやもうまあまあ…。
おい。
近江屋の羽衣煎餅を忘れずに買って帰るんだぞ。
それはもう…。
ハハッ。
では。
ハハハッ。
2015/12/18(金) 21:00〜22:52
関西テレビ1
金曜プレミアム・鬼平犯科帳スペシャル浅草・御厩河岸[字][多]
伝説の大盗賊から大仕事の依頼を受けた鬼平の密偵。大盗賊への義理と鬼平への忠義との間で激しく心が揺れる。そして下した苦渋の決断に鬼平の驚愕の裁きが!
詳細情報
番組内容
長谷川平蔵(中村吉右衛門)の密偵、大滝の五郎蔵(綿引勝彦)と伊三次(三浦浩一)は、通りで男が老人を張り飛ばす現場に居合わせ、止めに入る。結局、乱闘となるが、その隙に老人は逃げおおせた。同じく密偵のおまさ(梶芽衣子)は、目を腫らした伊三次の治療をしながら、大人気ないとあきれ返る。片や五郎蔵は、老人に見覚えがあるのだが、誰だか思い出せずにいた。
翌朝、老人が伏木の卯三郎(左とん平)だと思い出した
番組内容2
五郎蔵は、おまさに報告。おまさからそれを聞いた平蔵は、大盗賊と知られる海老坂の与兵衛(田村亮)の配下だった卯三郎が一仕事を企んでいるとしたら見逃せない、と鋭く言う。平蔵と同じことを考えた五郎蔵は、卯三郎の息子で御厩河岸に暮らす岩五郎(田辺誠一)の元へ。岩五郎は、若い頃から五郎蔵が面倒を見てきた男で、岩五郎も五郎蔵に恩義を感じていた。岩五郎は卯三郎には何十年も会っていないが、自分を訪ねて来ることが
番組内容3
あれば連絡すると約束した。
海老坂一味は、用心深く仕事ぶりも際立つことで鳴らし、配下の者ですら一人として捕まったことがなかった。平蔵は、何としても与兵衛を捕まえてその面を拝みたいと思う。
そんな矢先の夜遅く、岩五郎の元へ卯三郎が姿を見せた。物音に気付いた妻のお勝(小林綾子)をはぐらかした岩五郎は、卯三郎に握り飯をやる。それをむさぼった卯三郎は、与兵衛が岩五郎に会いたがっていると明かした。
出演者
中村吉右衛門
多岐川裕美
中村又五郎
勝野洋
尾美としのり
三浦浩一
綿引勝彦
梶芽衣子
/
田辺誠一
田村亮
他
スタッフ
【原作】
池波正太郎 「浅草・御厩河岸」(文春文庫刊)
【脚本】
田村惠
【プロデューサー】
成河広明
羽鳥健一
佐生哲雄
足立弘平
【監督】
吉田啓一郎
【音楽】
津島利章
【制作】
フジテレビ
松竹株式会社
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32724(0x7FD4)
TransportStreamID:32724(0x7FD4)
ServiceID:2080(0x0820)
EventID:36044(0x8CCC)