通学用の自転車ヘルメットはドカヘル(作業用安全帽)なのか

『乗りものニュース』に「自転車の安全妨げるドカヘル 多感な中学生への逆教育」という記事がアップされていました。

自転車事故の際に命を守るヘルメット。しかし、かぶらない人が少なくありません。その理由のひとつは、中学生への“逆教育”かもしれません。

情報源: 自転車の安全妨げるドカヘル 多感な中学生への逆教育 | 乗りものニュース

乗りものニュースがYahoo!ニュースに配信している関係で、本稿執筆時点でYahoo!のトップにも掲載され、話題となっているようです。

yahoo_topics

さて、この記事に少々気になる記述がありました。

乗りものニュースのほうから引用しますが、2ページ目。

ずいぶん前から中学生たちはヘルメットを強制されてきました。私(疋田 智)の郷里・宮崎県でもそうで、中学時代、白地に青線のヘルメットを義務づけられていたものです。もちろん、工事現場用ヘルメットの流用品。通称で「ドカヘル」とも呼ばれます。

情報源: 自転車の安全妨げるドカヘル 多感な中学生への逆教育 | 乗りものニュース

なるほど、昔はそういうこともあったかもしれませんね。

そのあと、「ドカヘル」の一例が紹介されています。

「ドカヘル」とも呼ばれる一般的な通学用ヘルメット

……というキャプションとともに紹介されているのは、通学用ヘルメットとともに「SGマーク」が貼付されたヘルメットです。

そして「ドカヘル」について次のように書かれています。

本来の自転車ヘルメットというものは、硬質発泡スチロールと樹脂でできたもので、軽く、スリット入りで(風が通り)、もしも何かにぶつかったとき、ヘルメット自体が割れることで衝撃を吸収する構造になっています。

ところが中学で強制される「ドカヘル」は、おおむね“その逆の性質を持っている”といえます。硬質プラスティック製で、まず重いです。次に空気が通らないので、蒸れます。男子中学生がかぶっていると、1か月ほどで臭くなります。汗をかく年頃ですから、すぐに剣道着や柔道着のような“かぐわしき香り”を漂わせてしまいます。

重い、蒸れる、臭う……というのはまったくそのとおりだと思います。内装を洗わない人も多いでしょうしね。

しかし、気になるのは以下の記述です。

さらには、もしも何かが起きたとき、ヘルメット自体が割れてくれないため、衝撃をそのままアタマに伝えてしまう。これは構造上当たり前で、もともとの工事現場用のヘルメットは金槌なり、鉄筋なり、鋭角のものが頭上から降ってきた際に、そのダメージを防止するものだからです。

一方、自転車事故による頭部損傷は多くの場合、衝突後、平たいアスファルトにアタマを打ちつけてしまうことで起きます。つまり「ドカヘル」の性質は、そもそも自転車に向いてないわけです。

ここで疑問として湧いてくるのは、そもそも通学用ヘルメットは「ドカヘル」、つまり工事現場用のヘルメットなのか?ということです。先に紹介されていた通学用ヘルメットには「SGマーク」が付いていました。工事現場用のヘルメットとしてSGマークを取得したものを、通学に使わせているのでしょうか。

まず確認したいのが、通学用ヘルメットに貼られたSGマークです。一般財団法人製品安全協会によるSG制度とは、下記のようなものです。

そのために、SG製品は対象製品ごとに安全性品質に関するSG基準を定め、この基準に適合したものとして認証された製品にのみSGマークを表示します。このような厳しい条件のもとで安全性が追求されているSG製品でも、全く事故がないとは限りません。SG制度は万が一の製品の欠陥による人身事故に対しても消費者保護の立場から賠償措置が実施されます。

情報源: 一般財団法人製品安全協会

消費生活用製品安全法に基き開始された制度で、安全基準が定められているだけではなく、製品に欠陥があった場合は賠償が受けられるというものです。「自転車用・電動車いす等用及び走行遊具用のヘルメット」という認定基準と基準確認方法が定められています。

また、JISでも自転車用ヘルメットについて定められているのは(JIS T 8134:2007)、ご存知の方も多いでしょう。

一方の工事現場用ヘルメットはどうでしょうか。

作業帽や保護帽、保護メガネの分野ではおなじみ「ミドリ安全」のWebサイトに、保護帽の規格についてまとめたページがありました。

保護帽とは、頭部損傷、あるいは頭部感電による危険を防止または軽減するために使用される保護具で、厚生労働省が定める労働安全衛生法第42条の規定に基づく「保護帽の規格」に適合したもので、以下の検定基準に基づいて製造されています。

情報源: 保護帽の規格 | ミドリ安全のSCヘルメット

その解説によれば、「飛来・落下用」と「墜落時保護」とでは、異なる基準になっています。さらに、電気工事の際の「絶縁用保護具」についても別に規格があります。労働安全衛生法で規定されており、検定基準も設けられているのですね。

つまり、工事現場や作業現場の種類によって、使われるヘルメットは異なっています。もちろん兼用できる製品もありますが。

作業帽・産業用ヘルメットなら、ミドリ安全

情報源: 保護帽の使用区分について | ミドリ安全のSCヘルメット

以上のことから、通学用に支給されている自転車用ヘルメットは、仮に「ドカヘル」のような見た目であっても、作業用安全帽ではない、つまり「乗りものニュース」の記事がいうところの、

金槌なり、鉄筋なり、鋭角のものが頭上から降ってきた際に、そのダメージを防止するもの

……ではない、ということは間違いありません。

※もし、通学用として生徒・児童に「作業用安全帽」を支給しているという例をご存知の方がいたら、お教えください。

※JIS T 8134として自転車用ヘルメットの規格が定められたのは1982年であることから、昔はいわゆる「ドカヘル」的な作業用安全帽をそのまま被らされていたであろうことは想像できます。

もちろん、この記事の著者が3ページ目で述べている、

そのヘルメットを嫌わせるような教育を、なぜわざわざ施さなくてはならないのでしょうか。学校が「ドカヘル」を強制する必要なんて皆無でしょう。「自転車用のヘルメットをかぶろう」「自分の好きなデザインの、安全性の高いものを選ぼう」で良いのではないのでしょうか。そうして「自転車にはヘルメット」というのを習慣化させていく、それこそが真の教育ではないでしょうか。

情報源: 自転車の安全妨げるドカヘル 多感な中学生への逆教育 | 乗りものニュース

……という主張には全面的に同意します。

しかし、「おおまかな主張があっていれば途中に大きな事実誤認やごまかし、“嘘も方便”があっても構わない」という、昨今の人気自転車クティビスト界隈の風潮が、本当に世の中にとってプラスになってるのだろうか……という疑問は消えません。

というわけで、CyclingEXの当記事の結論は「ドカヘルのように見える通学用自転車ヘルメットも、SGマークが貼付されている以上は自転車用としての基準を満たしている」、です。頭上にトンカチが落ちてきたら、逃げましょう。

ちなみに、OGKカブトのWebサイトを見ると、今までよく見かけたタイプの通学用ヘルメットは「これまでの定番ヘルメット」という分類になっていました。

情報源: 通学用ヘルメット | OGK KABUTO

OGKカブト SN-8
OGKカブト SN-8

これからのスタイルは、下記のようなものだそうです。

OGKカブト SN-11
OGKカブト SN-11

また、通学用ではないけれど、SGマークが付いている製品もいくつかあります。例えば、コレ。

KABUTO SP-3
KABUTO SP-3

SG基準をクリアした、エクストリームスポーツ・ヘッドギア。

情報源: SP-3 | SP-3 | OGK KABUTO

SP-3のようなヘルメットも通学用として使われるようになれば、自転車通学の風景も変わってるかもしれませんね。

(Gen SUGAI)




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須貝 弦

1975年東京都新宿区生まれ、川崎市麻生区在住。印刷製版会社営業アシスタント、DTP雑誌編集者、コールセンター勤務等を経て、フリーランスのライター&編集者へ。雑誌原稿の編集・取材・執筆の他、企業内Webサイト、企業ブログ、メールマガジン等の制作にも携わる。2009年より、自転車ブログメディア「CyclingEX」を運営。須貝 弦(Gen SUGAI)のGoogle+はこちらです

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