【コラム】民間企業に「1兆基金」を要求する不可解な韓中FTA

 ところで、国であれ組織であれ、自ら構造調整を実施するのは実に難しいことだ。誰がより生産的で、誰が生産的でないのかを見極めて仕分けるのは容易ではないからだ。このような場合、外部と競争する方向へと誘導すれば、競争力の劣る集団が、新たな変化を模索するようになる。多くの人が、少なくない苦痛の伴うFTAに参加するのが正しい方向だと共感する理由もここにある。特に、世界経済が長期低迷という「ニューノーマル(新たな常態)」に向かっている今のような時代には、このような構造調整が必要不可欠だ。

 ただし、国家と政治は、FTAによって損害を被る人と産業を支援しなければならない。失業・倒産を免れないケースを支援金によって何とか生き残らせるのではなく、変化を模索させ、変化を誘導し、新たな競争力を身に付けさせるというのが正しい方向だ。

 しかし、今回の韓中FTAの批准過程で韓国政府と政界が見せた姿は、韓国がなぜFTAを締結しなければならないのかという根本的な疑問を投げ掛けてくれた。FTAは市場を育てると同時に、より広大な競争の海へと導いてゆくものだ。ところが政府と政界が、競争に乗り出す企業に「貴社は今以上にもうかるようになるから、基金を拠出しなさい」と要求するのは、FTAを特定企業の支援制度と規定しているようなものではないか。企業は今以上に稼ぐのなら、その分税金を払えばよいのだ。

 韓国は、「中国の工業製品市場は10年後に開放する」という中国側の要求も受け入れた。これは韓国の農産物市場を守るためだ。そのころには競争力が変化し損益計算書が変わってくる可能性もある。このような内容のFTAを締結しておきながら、早速来年から年間1000億ウォンを企業から集めるというのは果たして正しいやり方なのだろうか。

李仁烈(イ・インヨル)記者
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