日本銀行がきのう、異次元緩和策を補完する新たな策を決めた。米国が7年続けたゼロ金利政策を終え、金融引き締め方向にかじを切った直後でもあり、日米の金融政策の方向の違いが鮮明になった。

 日本でも雇用は改善し企業業績は好調だ。日銀自身も「景気はゆるやかな回復を続けている」といっている。ならばなぜ副作用が大きなこの緩和策を補完しなければならないのか。

 納得できない理由はいくつかある。第一に、リーマン・ショックという未曽有の危機をしのぐためだったゼロ金利や量的緩和策がますます長期化してしまうことだ。

 政府が発行する国債はいま、最終的にその大半を日銀が買い取っている。事実上、政府の借金を日銀がお札を刷ってまかなう「財政ファイナンス」状態にある。国債が暴落するリスクを抱えて、いつまでも放置して良いはずはない。また、ゼロ金利のままでは、金融市場の機能も次第に失われていきかねない。

 だから一刻も早く「出口」を探らなければいけない。なのに日銀の打ち出す策は出口を遠ざけてしまう。

 第二に、緩和策の効果は、株価や地価など資産価格を押し上げることにとどまっている。景気が良くなって株価や地価が上昇するならいいが、金融政策で先に相場を持ち上げ、そこから経済全体に波及させるシナリオはもはや破綻(はたん)している。

 異次元緩和下の2年半、株や不動産などの資産価格はたしかに上がったが、その間、実体経済を示す国内総生産(GDP)はほとんど横ばいだ。企業や一部の富裕層が豊かになっても、その恩恵が広く行き渡るトリクルダウン効果は起きなかった。

 にもかかわらず、なぜ補完する必要があるのか。

 第三に、今回の補完策が安倍政権の試みを支援する形になっていることだ。安倍政権はみずから主導する官民対話で再三、経済界に設備投資の上積みや賃上げを求めてきた。日銀が打ち出したのは「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象にする上場投資信託(ETF)を日銀が買い上げる施策だ。

 設備投資も賃上げも、企業がみずからの経営判断でおこなうべきものだ。政府の介入で一時的に増やすことができても、真に経済を強くする持続的なものにはならない。

 経済政策として疑問符が付く政策を補完することが、果たして中央銀行の政策として適切なのか。