東海旅客鉄道(JR東海)が2027年の開業を目指すリニア中央新幹線(品川―名古屋)の建設で、最大の難所と目される「南アルプストンネル」の工事が18日、本格的に始まった。山岳トンネルとして世界有数の約25キロメートルの工事は10年かかる長丁場。リニア新幹線の計画全体の行方も占う重要な区間となる。
リニアの建設コストは品川―名古屋が5兆5000億円、大阪までは計9兆円に達する。南アルプストンネルのほか東海道新幹線の営業を続けながら地下に新ホームを通す品川、名古屋の両駅など難しい工事が控える。南アルプストンネルは計算上のコストと工期を守れるかの試金石となる重要工事だ。
資材費や人件費が上昇する中、JR東海が建設に踏み切るのは長期の経営安定に欠かせないと判断したため。運輸収入の約9割を東海道新幹線に頼るが、リニアは品川―名古屋を40分で結び、旅客のメリットは大きい。老朽化が進む東海道新幹線を災害時に補完することもできる。
「最先端のトンネル技術に全幅の信頼を置いている」。同日午前、山梨県早川町の「早川非常口」付近で山梨工区(約7.7キロメートル)の安全祈願を終え、柘植康英社長は強い口調で話した。
施工するのは大成建設、佐藤工業、銭高組の共同企業体。大成建設は激しい海流で知られるトルコ・ボスポラス海峡の海底トンネルを建設した実績がある。工期が延びる可能性を問われた大成の村田誉之社長は「心配ない」と自信を見せた。
南アルプストンネルは静岡、長野県境で地表からの深さを示す「土かぶり」が国内最大の1400メートルに達する。高い土圧に加え、懸念されるのは山脈内を走る地下水脈への対応だ。多くの犠牲者を出した黒部ダム建設をはじめ、噴き出す地下水に手を焼いた山岳トンネルの工事は枚挙にいとまがない。
山岳トンネルは地質調査を何度繰り返しても「掘ってみないと何が出るかわからない」(JR東海)。南アルプストンネルでも大量の出水を伴えば作業員に危険が及ぶうえ、水を抜く対策が必要になる。
山梨工区は来年3月ごろから工事用に斜めのトンネルを掘り始め、リニア車両が実際に走るトンネル本体の掘削は来年秋にも始まる。JR東海は残る長野、静岡県の部分も来年以降に建設会社を決めて工事に入る構えだ。
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