◇最後に主文は「無罪」
【ソウル大貫智子】大方の予想を覆し、判決は無罪だった。外国メディアによる韓国国家元首に対する名誉毀損(きそん)罪の成否を問う産経新聞の前ソウル支局長をめぐる事件。ソウル中央地裁は17日、加藤達也前支局長(49)はコラムで書いた内容は虚偽と認識しており、韓国国民として同意しがたいと再三強調しつつ、公人に対する言論の自由を広く認めた。
「無罪」。3時間にわたる判決文読み上げの最後に主文が言い渡されると、日韓両国のメディアで傍聴席が満席だった法廷は、驚きで一瞬時間が止まったように固まった。
李東根(イ・ドングン)裁判長は、判決文の前半でコラムの内容が虚偽だったと断定。「(記事で言及した)うわさの存在自体は確認した」との弁護側の主張も退けた。傍聴していた日本人の間に、無罪判決の見方が強まったのは、後半に入り、公職者に対する報道の自由は広く認められるべきだとの判断が示されてからだ。主文言い渡しが迫ると、傍聴席前方には警備要員が十数人配置され、前支局長に対する暴力行為などを警戒した。
判決前、日韓メディアや専門家の多くは、執行猶予付きの有罪判決や、刑の宣告自体を猶予し、2年間無犯罪ならば宣告もなくなる「宣告猶予」を予想していた。李裁判長は今年3月、前支局長が書いたコラムの内容は事実でなかったと認定。10月の被告人質問では前支局長の答弁にいらだちを見せる場面もあったからだ。
判決言い渡しに先立ち、裁判長が韓国外務省から提出されたという「日韓関係改善の流れを鑑み、日本側の意向に配慮してほしい」という異例の要請文を読み上げた際も、新しい証拠が提出された場合は裁判冒頭で読み上げられるため、予想は変わらなかった。
主文が最初にくるか最後にくるかは裁判長によって異なる。47ページの判決文読み上げは通訳をはさみ、約3時間に上った。途中、弁護人が前支局長が座って聞けるよう言葉を挟んだが、李裁判長は「体が不自由などの特別な理由がない限り、被告人は判決は立って聞くことになっている」と拒否していた。
判決後にソウル中心部・光化門(クァンファムン)で記者会見が開かれた。前支局長は、同じ産経新聞の先輩記者から拍手で迎えられると、初めて硬い表情を崩して笑みを見せた。しかし、再び厳しい表情に戻り、「産経の記者である私を、狙いうちにした」と手元に用意した紙を読みながら批判し、検察に控訴しないよう訴えた。
最初の質問で、無罪を予想したかと聞かれ、前支局長は「予想できなかった。無罪は最も可能性が小さいと弁護士からもいわれていた」と本音を語った。また、外務省の要請文について事前に知らされていたことも明らかにした。
◇熊坂・産経新聞社長「裁判所に敬意を表する」
熊坂隆光・産経新聞社長の話 韓国が憲法で保障する「言論の自由の保護内」と判断した裁判所に敬意を表する。裁判が長きにわたり、日韓両国間の大きな外交問題となったことは誠に遺憾だ。コラムに大統領を誹謗中傷する意図は毛頭なく、セウォル号沈没という国家的災難時の国家元首の行動をめぐる報道・論評は公益にかなうものだ。韓国検察当局には控訴を慎むよう求める。
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