主演堺雅人で来年1月10日にスタートするNHK大河ドラマ「真田丸」の第1話試写が先ごろ行われた。
脚本三谷幸喜氏による戦国ものという話題性もあり、会場は文字通りの盛況。見た人の多くは「面白い」と大喜びで、私自身もその1人だ。歴史ゲームソフトのプロデューサーが監修する3D地図など、わくわくする演出も多い。ネタバレしない程度に、見どころを4点挙げてみた。
◆大河黄金期のDNA
三谷氏にとって大河ドラマは特別なものだ。70~80年代の黄金期の作品群を10代のころに見て「大河でテレビドラマの面白さを知った」という大河DNAの持ち主。1年かけて主人公の人生を追体験し、村田蔵六(花神、77年)も呂宗助左衛門(黄金の日日、78年)も平沼銑次(獅子の時代、80年)も「みんな僕だった」と回想している。ナレーションの人選では、制作統括の屋敷陽太郎チーフプロデューサーに「『国盗り物語』(73年)のように」とリクエストしている。
6歳下の私も、やはり「黄金の日日」(脚本市川森一)や「獅子の時代」(脚本山田太一)あたりを夢中で見た1人なので、言いたいことがなんとなく分かる。いつの間にか大河は重厚感や厳格な歴史考証ばかりが求められるコンテンツになってしまったけれど、当時は子供も夢中で見る娯楽の決定版だった。私自身、ストーリーや映像の記憶は今も鮮明にあり、その後のドラマの好みのベースにもなっている。
「真田丸」は、そんな三谷氏の根底にある大河DNAを実感できる作品だった。オープニング映像で若き真田幸村が走るシーンがあったのだが、菅原文太が髪振り乱して激走する「獅子の時代」みたいな疾走感、土臭さがあって「大河はこうでなくては」とにやけてしまった。ちなみに、「獅子の時代」の主人公、平沼銑次は架空の人物。そのくらい、脚本家が自分の世界観で自由に書いていた。ここでは内容をお伝えできないが、画面からはみ出しそうな「真田丸」のファーストシーンを見て、自由で、広々とした大河の世界観が戻ってきたように感じた。
◆三谷ワールド
三谷氏の大河DNAに、喜劇作家らしい笑って泣ける人間模様がプラスされて、オリジナリティー抜群。補助席を含めて100人くらい座っていた試写室では、突然来る爆笑場面にドカンと笑い声が起こったり、切ない展開に涙をふく人がいたり。なりふり構っていられない戦国時代ならではの人間交差点が生き生きと描かれる、文字通りの三谷ワールドだった。
物語は、仕えていた武田家が織田軍に攻め込まれ、滅亡する一大事からスタートする。主演不在の子役時代からのんびり描く前置き型ではなく、1話から「この主演俳優についてこい」と堺雅人の時代から描くエンタメ志向にわくわくした。作品の世界観を背負い、興行や視聴率に大きくかかわるのが主演俳優であり、ここをどれだけ早く魅力的に見せるかがドラマ作りの肝だと個人的には思っている。自由で大胆で合理的な幸村の魅力が1話からよく分かって、一発でこの人のファンになった。主演を軸に、周辺の人物も魅力的。幸村の父、真田昌幸を演じる草刈正雄の食えない感じにくぎ付け。
◆「信長の野望」が監修する3D地図
大名の勢力図や移動ルートを示す際の地図が、戦国ゲームの画面のように表示されるのも楽しい。「信長の野望」シリーズのプロデューサー、シブサワ・コウ氏が監修しており「信長の野望・創造」で使用されたフル3D全国一枚マップのCG技術を提供している。マップ画面右上のウインドウに武将の顔と名前が表示されるデザインも同じだ。
立体地図だと、山や谷、平地、川などのアップダウンがよく分かる。屋敷チーフプロデューサーは「直線距離ではなく、実際の領土や移動ルートは山が立ちはだかっていたり、道がくねくねしていたりするのが分かりやすい。立体地図のデータを1から作るのは大変で、シブサワ・コウさんにCGデータのご協力をいただき、監修してもらった」。戦国ゲームのファンが大河ドラマに目を向ける入り口にもなりそうだ。
◆オープニング映像はアナログの味わい
発表されている範囲内でお伝えすると、作品の顔であるオープニング(OP)映像は、かなりアナログな味わい。最近の大河ドラマのOP映像はCGを使ったキラキラ系のエフェクトが多かったが、今回はゆかりの地の風景などが中心。題字も、左官職人の挟土秀平氏が土壁をコテでえぐって書いた達筆で、CGとは対極の迫力がある。屋敷氏は「CGを多用するのではなく、泥くさい、土くさい、実際にあるものの手触りを大事にした」。
音楽は、ど頭のソロバイオリンのインパクトが話題に。屋敷氏は「大地をえぐっていくような音色が、挟土さんのコテの動きみたいに感じて感動した」。音楽は服部隆之氏。三谷×服部のコンビは「新選組!」(04年)と同じ。大河55作の歴史を振り返れば、面白い作品にはいい音楽がついている。「新選組!」同様、今回も印象に残る音楽だ。
【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)