新しいグルーヴを求めて、日本の精鋭ジャズ・ミュージシャンが集結したRM jazz legacy(以下RM)が、セルフ・タイトルのファースト・アルバムをリリースした。人気DJの大塚広子がプロデュースを手掛けた同作は、DETERMINATIONSにも在籍し、レゲエ/クラブ・ジャズのシーンで長らく活躍する守家巧(ベース)を中心に、東京ザヴィヌルバッハの坪口昌恭(キーボード)、多くのプロデュース業やくるりのサポートなどポップ・フィールドでも存在感を放つmabanua(ドラムス)、屈指の人気を誇るトランぺッターの類家心平やrabbitooの藤原大輔(サックス)、若手筆頭株の石若駿(ドラムス)など錚々たるメンバーが参加している。
大塚がDJならではのセンスを光らせ、実力派ジャズメンのスキルをサンプリング感覚で適材適所に配置。グルーヴィーでダンサブルな演奏によって数々のライヴを成功させてきたRMは、2015年の〈フジロック〉でも熱狂のステージを繰り広げてみせた。そして、今回のアルバム・デビューでますます注目度が高まるなか、MikikiではRMのキーパーソンである大塚と守家、坪口、mabanuaの4人を招いて、〈Jazz The New Chapter〉シリーズ監修の柳樂光隆を進行役に迎えた座談会を企画。RMがめざした最新のモードやアルバムの制作背景に迫ると共に、日本のジャズとクラブ・シーン/DJカルチャーの接近に長年挑んできた当事者たちが打ち明ける、興味深いエピソードを聞くことができた。
※参加メンバー:守家巧(ベース)、坪口昌恭(キーボード)、類家心平(トランペット)、mabanua(ドラムス)藤原大輔(サックス)、石若駿、(ドラムス)田中“TAK”拓也(ギター)、武藤浩司(サックス)、宮嶋洋輔(ギター)、沼直也(ドラムス)、藤井信雄(ドラムス)、吉岡大輔(ドラムス)、ペペ福本(パーカッション)、山北健一(パーカッション)
ジャズは〈そこから出よう〉と努力しないと出られなくなるじゃない? でもクラブにとっては、僕らがやろうとしている音楽はややこしかったんですよ(坪口)
――このユニットは、どういうコンセプトで始めたんですか?
大塚広子「もともとは、昨年12月に(自身のレーベル、Key of Life+から)『PIECE THE NEXT』というコンピレーションを出したときに、新録曲を入れたいなと思って、そこで初めてRM jazz legacyの曲を収録したんですよ。RMというユニット自体、最初はその1曲だけの予定だったんですけど、その後もライヴをいろんな形でやっていったり、〈フジロック〉に呼ばれたりして、そこで演奏していた曲が素晴らしかったんです。それを一つにまとめて形にしたくなったので、今回レコーディングしてアルバムを作りました」
VARIOUS ARISTS PIECE THE NEXT MIXED BY HIROKO OTSUKA JAPAN GUIDE Key of Life+(2014)
――RMには、すごく豪華なメンバーが集まってますよね。
守家巧「もともと僕がRUMBA ON THE CORNER(以下RUMBA)というバンドをやっていて、そこで坪口さんや藤原(大輔、サックス)さんにも弾いてもらっていたんですよ」
大塚「それで、私も2年前にRUMBAのライヴにDJで呼んでいただいて。グルーヴィーだし、踊れるし、フロアでもかけたくなるサウンドだったので、すごく印象に残っていたんです。それから時間が空いたんですけど、『PIECE THE NEXT』を作ることになったときにRUMBAの曲は入れたいなと思って、守家さんに相談したんですよ。最終的に〈ディアンジェロの“Spanish Joint”みたいな曲を作りたい〉とか、具体的な話が進んでいきましたね」
――RMとしては、基本的にはDJとして使える曲を作りたかったんですよね?
大塚「そうですね」
守家「絶対条件でしたね」
――RUMBAはセッションで曲を練っている要素が強かったと思いますけど、RMはスタジオで作り込んだ感じがありますよね。ビートもカッチリしているし。
守家「僕もクラブでずっと遊んできて、ミュージシャンとDJが対等にやって、新しいものが生まれていた時期を知っていますからね。曲単位で言うと、今回のアルバムに関しては(尺を)3分半~4分にしたり、DJが使えるような構成、まとまりのある演奏などをかなり意識しました」
――そこにmabanuaさんが参加していることが、RMでやりたいことを明確に表しているようにも思いました。
大塚「まずはmabanuaさんしか想定してなかったですね。ドラムとベースに関しては、クラブのフィールドでやってきた人にやってもらって、ウワモノを一流のジャズ・ミュージシャンが演奏するというのが、理想的な形だと思ったんです」
――守家さんや坪口さんはmabanuaさんと一緒にやるのは初めてですよね。みんな微妙に違う場所にいたんじゃないかと。近いようでそうでもない。
mabanua「僕ね、どこに行っても微妙に違う人たちとやる感じになるんですよ(笑)。自分が〈なんの〉ドラマーかといった肩書きがないので。ロックでもジャズでもないし」
坪口昌恭「みんな多方面に向いている人たちですよね。類家くんはスタンダードもやるし、フリーもやるし、ノイズも出すし、エフェクティヴにもできる。僕もそうだし、藤原くんや田中"TAK"拓也くんもそうだよね。ジャズ・ミュージシャンといっても異端的な存在なので、こうやって結集できたんじゃないかな」
――mabanuaさんが叩いてる“Night Flight”は少しラテンっぽい曲調ですね。
mabanua「さっきも話に出た、“Spanish Joint”みたいな空気感ですよね。ディアンジェロのあの曲のテイストが欲しいから僕(がドラムス)なのかなと思ってました」
守家「僕もあの曲の感じをイメージしてました。“Spanish Joint”をリアルタイムで聴いたときに、ラテンとかダンスホール・レゲエみたいだと思ったんですよ。あきらかにお腹より下の低域を鳴らしているシンセ・ベースみたいなベース・ラインは、スライ&ロビーから影響を受けたダブとかレゲエの感じですよね。ビートは裏拍で、ニューオーリンズみたいな感じ。そういった解釈でやるんだったら、ドラマーはmabanua君かなと思ったし、そういうリズムの上で類家くんがラッパを吹いたものも過去にないから、トライしてみようと思ったんです」
――確かに、意外とありそうでなかったですよね。
守家「RHファクターはありましたけど、あれより2小節や4小節のグルーヴにフォーカスして、もっとダンス寄りにして、このメンバーでセッションしたら、たぶん自然にジャズの経験のある人からはジャズのニュアンスが出てくると思って。実は、今回の“Night Flight”は『PIECE THE NEXT』に入れたヴァージョンをもう1回バラバラにして、ミックスし直してるんですよ」
坪口「全然違うよね、ベースがきゅっと締まってる。コンピのヴァージョンだと、ベースの音がボンって出てたんだけど」
守家「コンピのほうはハウス/テクノ寄りのエンジニアにミックスを頼んだんですけど、今回はとにかく素材がいいから、その良さとダイナミクスを活かしたかったんですよ。例えば、mabanua君の演奏にはすごいダイナミクスがあるから、コンプレッションせずに、それを活かしてやろうと思って」
坪口「mabanuaさんの演奏は、グルーヴィーでなんにもしてなさそうだけど、よく聴くといろんなことをやっているんだよね。でも、そういうふうには聴こえない。すごく不思議なドラムだと思う」
――今年、Nia※のライヴでmabanuaさんの演奏を観た時も、かなり格好良いブレイクビーツを叩いてましたよね。クリス・デイヴが派手に叩くような感じとは違う、品の良さがあった。まるで、王道のサンプリングを使ったヒップホップを聴いているみたいな。
※ナガシマトモコ(orange pekoe)によるプロジェクト
大塚「mabanuaさんのドラムは聴いてて安心するんですよね。あの質感に安心するから、ほかに替わりがいないんです」
坪口「でも〈フジロック〉の時に、音楽を一番ドラマティックに進行させていたのがmabanuaさんなんですよ。あのドラムが音楽を立体的にしていたよね」
mabanua「あのときは目の前に黒人のSPさんがいて、よく見たらときどきリズムにノッてるんですよ(笑)。だから、この人をノリノリにさせようと思って演奏してました。それにしても、夜中の〈フジロック〉であんなに人が来ることあるんですね。それがびっくりで。結構パンパンでしたよね」
守家「6曲演奏する予定が5曲で持ち時間いっぱいになっちゃって。引き下がろうとしたらブーイングが起きたんですよ。それで急遽10分くらい延長したんだよね」
坪口「ちょうどお客さんも温まってきたところだったから、これからというときに終わったら〈えー!〉となるよね(笑)」
――ところでmabanuaさんは、いわゆるソウルクエリアンズ的なジャム・セッションをかなり経験してきたんじゃないですか。
mabanua「僕と類家さんは古い仲なんですよ。池袋のマイルス・カフェ※というお店に、RHファクターとかネオ・ソウルを聴いてるミュージシャンが集まって、ディアンジェロ的なグルーヴを試すセッションをやったりする小さいシーンが2004年から2006年くらいにあって。僕はそこで、そういうリズムを鍛えましたね。そのときに繋がりのあったトランペッターが類家さんだった」
※セッション専門店、2011年にSOMETHIN’ Jazz Clubに改名
――urb(類家が所属していたバンド)が演奏していた場所ですよね。
mabanua「そうそう。urbやgroovelineに、僕がやっていたOvallもマイルス・カフェから出てきたバンドなんですよ。あそこのジャム・セッションで知り合って、いまがあるという感じ。あそこ出身のミュージシャンは多いと思いますね」
――Kan Sanoくんもそうだけど、〈urbやgroovelineのセッションを観に行ってました〉とか、〈そこで演奏してました〉と語る若いミュージシャンが最近増えてますよね。あそこから出てきたものが実を結び出している。
mabanua「その少し前だと、渋谷のTHE ROOMで〈SOFA〉というジャム・セッションのイヴェントがあって。cro-magnonとかSOIL&"PIMP"SESSIONSはSOFAで演奏していたんですよね。類家さんはそっちにも参加していたのかな」
――レイヴ系のジャム・バンドと、ネオ・ソウルとジャズの中間みたいなことをやっているバンドが同じシーンから出てきたというのはおもしろいですね。その頃に、坪口さんは東京ザヴィヌルバッハをやっていた。
坪口「まだLIQUIDROOMが新宿にあった頃で、僕はクラブ・イヴェントによく通って、(東京ザヴィヌルバッハの)デモをDJやオーガナイザーに片っ端から配りまくってました。その頃から、藤原くんや沼くんが結成していたphatは、僕らより先にLIQUIDROOMでダンサブルなライヴをしていて格好良かったんです。ライヴァルみたいな感じだったね」
――確かにその当時、ディアンジェロやRHファクターと並行して、urbや東京ザヴィヌルバッハ、phatにDETERMINATIONSも聴いていたので、そういう話はすごくわかる気がします。とはいえ、そのメンバーたちが2015年に一つのバンドとして集まってアルバムを出すなんて想像してなかったですけど。
大塚「ジャズの人とかヒップホップの人みたいに、なんとなくカテゴリーを分けられていたんだけど、本当はそれぞれジャンルの境界を越えていくような活動をされていたんですよね」
坪口「ジャズは〈そこから出よう〉と努力しないと出られなくなるじゃない? 例えば、新宿ピットインで自分のライヴをやって、満員になるくらいお客さんを集められるようになってきても、そこに安住しないで、むしろそれを捨てるくらいの覚悟で外に出ないと何も変わらない気がして。それでクラブ・イヴェントに出ようと思ったけど、なかなか難しかった。クラブにとっては、僕らがやろうとしている音楽はややこしかったんですよ。リズムがややこしいわ、和音は変わるわ、いろんな要素が入り組んでいるわけだけど、そういう音楽は(クラブでは)求められてないわけですよ。でも、こっちはやりたいこともあるし、そこのせめぎ合いだったね」
――東京ザヴィヌルバッハは即興が核になってますし、ダンス・ミュージックとは少し違いますよね。
坪口「藤原くんや沼くん、類家くん世代であるthirdiqの渥美幸裕くんとか、天倉正敬くんとも交流はできたけど、クラブにアピールするのは僕一人では難しかった。だから守家くんと出会ったのは大きいですね。大塚さんと理想を語れて、そこに守家くんが現れて、RUMBAに誘ってくれて、形にすることができる気がしてきた。RUMBAはレゲエ色が強いから、ウワモノとしてはレゲエのストラクチャーをやっていたほうがハマる音楽だったし、和音が転回しちゃうとレゲエらしくなくなるので、キーボードとしてはそこまで自由はなかったけどね」
守家「RUMBAはダブとレゲエがコンセプトですからね。でも、僕の立場からすると、それでも坪口さんはそのなかで動かしてくれるんですよ」
坪口「動きたくてしょうがないからね(笑)」
mabanua「ジャム・セッションしてる時に、ウワモノが全然動いてくれないというか、こっちでいろいろやっていてもテンションが変わらない人もいて、それだとおもしろくない。類家さんや坪口さんは常に展開を作ってくれるから、ドラマーとしては嬉しいです」
坪口「逆に、守家くんやmabanuaさんみたいな人がいなくて、ジャズメンばかりでやるとみんなが展開しちゃうんですよ。それだと圧倒しがちな音楽になってしまう。でも、グルーヴ・ミュージックって圧倒せずにラヴリーでウェルカムな感じにしたほうがいいんだよね。それをわかっていても圧倒しちゃうんだよな(笑)。〈このリズムすごいだろ!〉みたいに。そうならないボトムがあるというのは、自分としては画期的なことというか、やろうと思ってもなかなかできなかったことだから」
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