ふたりで食べるからごはんがおいしい。できてた高校生姉妹のほんのり百合風味ごはんマンガ! 柊ゆたか『新米姉妹のふたりごはん』第1巻
食いしん坊だけれど小動物のようにちっこくて元気な姉のサチ。寡黙で一見とっつきづらいけれど烏の濡れ羽色のようなきれいな髪を持ち料理が得意な妹のあやり。ふたりは親の再婚により即席の姉妹になるが、両親が新婚早々に海外出張へと旅立ってしまったため戸惑いとともに新居に残される。
そんなふたりを繋いだのは豚の脚――両親がお土産として送って寄越した生ハム、ハモン・セラーノの原木だった。食べることが大好きなサチと料理を作ることが大好きなあやり。できてたの新米姉妹はごはんによってその絆をだんだん深めてゆく――。
『新米姉妹のふたりごはん』を何度も読み返して思ったのはこのマンガが大変卑怯だということだった。もちろん褒め言葉的な意味で。
まず、サチの食いしん坊表現が卑怯だ。サチは見るとたいてい何か食べている。例えば、1話では朝の教室で親友の絵梨とちょっとした会話を交わす間に菓子パン2つとおにぎり2つを平らげているし、2話ではうま○棒的な棒菓子を食べながら帰宅して咥えたまま靴を脱ぐという大変お行儀の悪いことをしている。ハムスターだってひまわりの種を食べるときは両手で持つぞ。
でも、その食いしん坊のサチがあやりの作った料理を本当においしそうに、幸せそうに食べる。そりゃあ、そんなサチを見ていたあやりがその笑顔に惹かれ、懐柔されてしまっても仕方がないというものです。というか、あやりさんちょっとチョロくないですか。まあ、確かにサチの表情はくるくる変わるから見ていて飽きなさそうだけどね。
次に、あやりがどんな調理器具を持っても絵になるから卑怯だ。例えば、1話で生ハムを削ぐため笑顔で獲物を構える姿は完全にその筋の人だし、2話で変わった道具の使い方をサチに体でわからせようとする様子はどう見ても拷問だ。
でも、普段はクールに見えるあやりがこと食べ物や料理のことになると相好を崩す。サチという姉を得てからは本当に楽しそうに、幸せそうに料理を作り、サチと一緒に食べる。そりゃあ、食いしん坊のサチがあっという間にあやりに胃袋を掴まれ、餌付けされてしまっても無理もないというものです。というか、サチさんあれだけ食べているのに体型が変わらないとか燃費悪すぎじゃないですか。まあ、体型が変わらなすぎてあやりよりお姉さんなのに幼児体k(ry
そして、これは大変重要なことだが、サチとあやりがなにげに百合百合しているから卑怯だ。別にサチとあやりの関係が(今のところは)姉妹以上の関係になっているわけでもなければ、サチとあやりのスキンシップが過剰というわけでもない。
だがしかし。駄菓子菓子。例えば、1話には料理の邪魔にならないようにとサチが自分の髪から解いたシュシュであやりの髪を束ねる場面がある。2話以降ではあやりがこのシュシュを料理の度に着けている姿が見られるが、サチがシュシュをあやりにあげた描写は本編のどこにもない。ついでにサチがそのシュシュを2話以降で着けている様子もない。これはつまり 「さ、サチ姉さん! こ、これ、ありがとうございました! お返しします!」「いいよいいよ、そのまま使って欲しい!」「え……あ、ありがとうございます!」(エヘヘ……///)みたいなやりとりがあったに違いないわけで。なんという尊さ。新米姉妹最高かよ。
そしてそして極め付けは。4話ではサチとあやりがサチの部屋で勉強会を開くが、あやりの作った夜食でお腹もいっぱいになったサチは勉強疲れも手伝って寝落ちしてしまう。それを見たあやりは着ていたカーディガンを脱いでサチにかけ、そしてそして……! ぎゃー! と・う・と・す・ぎ・か!! 寝落ちした女の子に相方の女の子が毛布や上着をかけるのは百合的名場面の五指に入ると常々思っているが、その上さらにあんなことをするなんて!!! あやりさん何て大胆なんだ!!!!
そんな感じでサチとあやりが天然の百合オーラを醸し出してくるので、それを見せつけられる自分はもうどうしたらいいかわかりません(どうもしなくてよろしい)。見た目も性格も反対という素敵百合ップルが成立しやすい条件を押さえているし、ひとつ屋根の下でふたり暮らしという特殊な環境も整っている。その上、義理の姉妹だから血の繋がりがない。一線を越えても何の問題もないじゃないか!!
とにかく、あやりがサチのために作る料理は本当においしそうだし、サチがあやりの作った料理を本当においしそうに食べる。ごはんマンガを読むとたいてい俺も食いてーとか混ぜてくれーとか思うものだけれど、『新米姉妹のふたりごはん』の場合はちょっと違うんだよ。サチとあやりがふたりでごはんを作ってふたりで食べている姿をずっと眺めていたいんだよ。ふたりごはんは不可侵なんだよ。『新米姉妹のふたりごはん』は世知辛い現代に残された最後の聖域(サンクチュアリ)であり、サチとあやりは聖域でふたりごはんを作って食べる天使(エンジェル)なんだよ。我々はそれを美術館で絵画を眺めるがごとく静かに見守る仕事をするだけなんだよ。あ、でも、たまごふわふわはスプーンでもすっとやってみたい。
繰り返しになるが、『新米姉妹のふたりごはん』を読むことはすなわち至福だ。ふたりで(ときどき)一緒にごはんを作り、ふたりで一緒にごはんを食べる過程はそのままふたりが姉妹になり、家族になってゆく道程である。2話であやりの部屋に忍び込んだサチが「隣の部屋なのに全然ちがう匂いがする」(p.44)という感想を抱いたのは、とりもなおさずふたりが今まで違うものを食べ、違う洗剤を使い、違う人と生きてきたからであり、逆に言えばサチとあやりはこれから同じ匂いになってゆくということを示唆している。その様子を愛でることのできる感激を至福と言わずになんと言おう?
1巻の最後ではサチと新米妹のあやり、親友の絵梨との三角関係も浮かび上がってきたし、ごはんマンガ的な意味でも家族マンガ的な意味でも百合マンガ的な意味でもこの物語からは目が離せそうにない。単行本化に当たり、連載時にあった作中の料理をレシピにした「今日のふたりレシピ」と料理漫画研究家である杉村啓氏のコラムが収録されているのも嬉しい。『新米姉妹のふたりごはん』、それは幸せを作るための新しいレシピなのかもしれない。
【出典】
・柊ゆたか 『新米姉妹のふたりごはん』第1巻、アスキー・メディアワークス<電撃コミックスNEXT>、2015/12/19発行
・新米姉妹のふたりごはん / 柊ゆたか - ニコニコ静画 (マンガ)→試し読みあり
・Under The Bed→作者のtumblr
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