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絶対に“狙って”はいけないアニメで町おこし  大洗巡礼後記

(2015年12月17日午後2時53分)

 茨城県大洗町の商店街  茨城県大洗町の商店街


 この秋、旅ルポの取材で茨城県大洗町に通った。2012年から13年にかけて放送され、11月21日に待望の劇場版も公開されたアニメ『ガールズ&パンツァー』(ガルパン)の舞台としてにぎわう商店街を歩き、いわゆる“聖地巡礼”の片鱗を味わう旅だ。記事を読んだ方からは「半分プライベートだろw」という鋭い指摘もありましたが、正直プライベートが8割でした。ごめんなさい。特に反省はしていません。

 下見なども合わせると、3カ月弱の間に5回ほど足を運んだだろうか。驚いたのが、いつ行っても多かれ少なかれファンの姿があったことだ。基本的には人の集まるイベントに合わせて行くのだが、お店の取材などは忙しい日を避け、イベント明けの平日に予定を入れてもらうことになる。さすがに今日は誰もいないだろうなと思いつつ商店街をとぼとぼ歩いていると、向こうからカメラを提げた男性が歩いてくる。複数歩いてくる。確認しておくが月曜日の午前10時である。さらに近づいてみると、つい数週間前に別のイベントで見かけた顔だったりする。いくら劇場版の公開を控えて盛り上がっている時期とはいえ、皆さん一体いつ仕事しているんでしょうかと若干うらやましくなる。3年前から足しげく通う常連さんの中には、最終的に大洗で仕事を見つけて移住してしまった人もいる(しかも1人や2人ではない)。

 アニメの聖地に人が集まるという話は昨今さほど珍しくもないが、移住者まで出したとなると尋常ではない。「アニメで町おこし」の世にもまれなる成功例として大洗には全国から視察が相次いでいるというが、大洗町商工会の大里明さんは「どうやったんですか、と聞かれると少し困る。狙ってやったわけじゃないから…」と苦笑いする。「まず作品がヒットしないと人は集まらない。来てくれた人が楽しめるような工夫はしたけど、どうやって人を呼ぼうかとか、そんなに考えていませんでした」

 どうも町おこしとは対極にあるような商売っ気のないセリフだが、この“商売っ気のなさ”こそが大洗の魅力だとファンは口をそろえる。ある常連の男性は「他の聖地にも行ったことはあるが、観光地みたいにお金を使ってもらおうとしている感じがあった。それが大洗だと、何も買ってないのに店先で何時間も話ができる。ただただ歓迎してくれているのが伝わるから、すごく居心地がいい」と話す。最近はガルパンに関係なく、大洗に来ることそのものが目的になりつつあるという。町おこしを前面に出さない姿勢がリピーターを生み、作品を超えて町の魅力を知ってもらうきっかけになっているのだ。

 アニメで町おこしをしたいなら、殊更に町おこしを狙ってはいけない。かといって無関心もよくない。さじ加減は非常に難しく、やはり狙ってできるものではないだろう。長年お客と向き合ってきた大洗の“おもてなし力”が、今まさに花開いている。なぜかお店に寄るたび持たされるお土産を両手に抱えて商店街を歩きながら、しみじみとそう感じた。(高田麻美・共同通信記者)

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