12月17日 オンエア
戦慄の始まり…小さな町の怪現象⁉︎★住民襲う恐怖の夜
 
 
photo  今から8年前の2007年1月。 魔の手は音も立てず、しかし着実に忍び寄っていた。 北海道北見市に住む、ピアノ講師の高野明子さん(仮名)は、夫と二人暮らし。 地元合唱団の指導をするなど、町の人から慕われていた。
 明子さんは夜遅くまで、ピアノの練習をしていたため、夫・悟司(仮名)さんは先に寝ることにした。 その年は暖冬だったが、この日だけは例年にも増して厳しい冷え込みとなっていた。
 翌朝…寝室に妻・明子さんの姿がなかった。 悟司さんが明子さんを探していると…明子さんがトイレで倒れて死亡していた。 のちの検死で死因は急性心不全と診断された。
 
 
photo  しかし、事態はそれで終わりではなかった。 その夜…高野さん宅から3軒隣の家でも、若い女性が部屋で倒れていた。 さらに、そこから100mほど離れた家では、中学生の男の子が体調を崩し倒れていた。
 次々と体調不良を訴える住民たち。 そして異変は高野さんの家でも…心不全で妻を亡くした高野さんを心配し、長男と親戚が駆けつけていたのだが、親戚の女性も原因不明の吐き気に襲われていた。 さらに…長男の利樹さん、高野さん本人までも急な吐き気に襲われ、倒れてしまったのだ!
 
 
photo  高野さん宅にいた3人は、すぐに病院に搬送され一命を取り留めた。 だが血液検査の結果、3人の血液から基準を超える一酸化炭素が検出されたのだ。
 一酸化炭素は無色無臭。 空気中にわずか0.04%含まれるだけで、頭痛や吐き気、めまいなどの中毒症状を引き起こす。 濃度が0.1%以上になると、最悪の場合死に至る極めて毒性の高い気体である。 一般的に一酸化炭素中毒の原因として考えられるのは、暖房器具やガス湯沸かし器、浴室のボイラーなどの不完全燃焼。
 事故の可能性が浮上したことから、地元の北見署が聴取を行うと… 高野さん宅では古いガスストーブを使っていたことが判明。 さらに、3人が倒れた日は、1日中付けっぱなしにしていたという。 他に異常は見られなかったため、警察はガスストーブによる一酸化炭素中毒の可能性が高いと判断した。
 
 
photo  だが翌日、事態は思いもよらない方向へ… その朝、同じ病院に運ばれてきたのは、昨夜不調を訴えていた3軒隣の良子さんだった。 そして、彼女の血液検査をした結果…何と彼女も一酸化炭素中毒を起こしていたのだ。 そして、前夜 同じように倒れていた中学生の男の子も一酸化炭素中毒と判明。
 さらに再度検査した結果、トイレで亡くなっていた明子さんの死因も、一酸化炭素中毒だったのだ。 一酸化炭素中毒で死亡し、遺体が長時間 気温の低い環境にあると、心不全で死亡した際の特徴と似ることがあるため見抜けなかったのだ。
 家庭で起こる一酸化炭素中毒は、全国でおよそ年間20件。 そのうちの4件が、同じ日に同じ町で起こっていたのだ!
 
 
photo  被害が出たのは同じ町内の中でも一箇所に集中したいた。 しかもほぼ同時に、一酸化炭素の中毒者が出ている…考えられる原因はガス漏れだった。
 実はこの前年、帯広市の住宅地でガス管が破損し、住民4人が一酸化炭素中毒で搬送される事故が起きていた。 当時、一部の地域で供給されていた都市ガスは、製造の段階でどうしても一酸化炭素を含んでしまう。 そのため、何らかの原因でガス漏れが起き、中毒を起こした可能性は十分にあった。
 だが、明子さんが亡くなった夜や、高野さん本人が倒れた時も、ガスの臭いは全くしなかったという。 実は、都市ガスにはガス漏れがあった時にすぐ気がつけるように、人工的に臭いがつけられている。 しかし…高野さんはじめ、具合が悪くなった人たちは全員、匂いを感じていなかったのだ。
 
 
photo  念のため、警察はガス会社にガス漏れの調査を依頼。 そしてガス会社が近隣の住民に聞き取りを行っていきた時、高濃度の一酸化炭素を検出した。 ガス会社の社員は消防に連絡。
 消防隊員が家の窓を破り、家に入ると…家の中からも高濃度の一酸化炭素が検出された。 そして、この家に住む夫婦が意識不明の状態で倒れているのを発見。 長男はトイレで亡くなっていた。
 さらに、隣に住む一人暮らしの男性は居間で死亡した状態で見つかった。 そして、道路を挟んだ向かいの家でも、倒れていた家族3人が病院に搬送された。 全員の血中からは、一酸化炭素が検出された。 結果、死者3名を含む14名が一酸化炭素に倒れる惨事となった。
 
 
photo  前代未聞の事態から、北見市は町内で深刻なガス漏れが発生していると判断。 77世帯、178人に避難勧告を出し、一帯を完全封鎖した。
 一方、ガス会社は、ガス漏れが起きた箇所を特定するべく、被害がでた住宅を中心に掘削調査を開始。 だが、一向に漏れている箇所は見つからなかった。 そして、多発的にガス管が破損するとも考え難いことから原因は他にあるのではないかという意見も出た。
 広範囲のガス中毒といえば、火山性のガスが考えられる。 北見市の近くにも、雌阿寒岳などの活火山があったが、火山性のガスが発生したという報告はなかった。
 
 
photo  そして、避難勧告が出されてから1時間半後。 ある場所から、大量のガスが検出されたのだ。 そこは、一番近い被害者の家から30m離れた道路の上だった。 強いガスの臭いも感じられた。
 すぐさまガス会社はガスの供給を止め、高濃度のガスが検出された地点を掘り起こした。 すると…地下1.6メートルに埋められていた直径15cmのガス管が、まるで刃物で切られたように完全に切断されていたのだ!
 
 
photo  しかし…都市ガスが空気より軽いため、普通なら破損した部分のすぐ上の地表に放出されるはずだった。 不可解なことはそれだけではない。 ガス管からは、毎秒20リットルという大量のガスが漏れ出していた。 にもかかわらず、被害の出た家に共通していたのは、ガスの臭いがしなかったことだった。
 そして、金属の劣化だとしても真っ二つに切断したように破損するものか?という疑問も残る。 通常、菅の劣化によるガス漏れの場合、その破損箇所は大きくても数センチのヒビが入る程度。
 警察は地震が原因で大きく破損したのかと考えた。 実は北見市では、その月に入ってから震度3以上の地震が2回 観測されていた。 また4年前には、多くの被害を出した十勝沖地震も起きていた。
 
 
photo  しかし、経済産業省から依頼を受けた調査員は、地震が原因で破損した可能性は低いと判断した。 地震が起きたのは1週間前。 その時に通報がなかったことを考えると原因は他にある。
 調査員はすぐに原因究明に乗り出した。 調査員が注目したのは土だった。 掘り起こした土が砂利が多いことが気になったのだ。 実はこの周辺一帯は昔、川だったことから砂利が多かったのだ。
 
 
photo  調査員が今回の事故の原因に特定したもの…それは、凍上現象だった。 凍上現象とは、地中の水分が凍り体積が増すことで地盤が隆起する現象。 道路がひび割れることもある。
 土が凍ったことで、本来クッションの役割を果たす土が固まってしまい、交通による衝撃が直接ガス管に伝わったため、ガス管が破損したという。 現場周辺の交通量は多かったが、土壌がクッションの役割を果たしていた。 通常ならガス管に衝撃が伝わることはない。 だが、土が凍ることでその衝撃がダイレクトにガス管に伝わってしまう。 しかもガス管は40年前のもので、凍上現象によるダメージが長年蓄積されていたと考えられた。
 
 
photo  さらに、以前は川だったこの地域は砂利が多く含むため地盤が弱く、局所的に小規模の地盤沈下がなんども起きていた。 実際、ガス管が破損した箇所では、地盤が5cm 沈下していた。
 つまり、凍上現象によってダメージが蓄積されたガス管。 そこに地盤沈下が起きて、一気に切断された。 さらに事故当時、漏れたガスは氷で蓋をされたような状態になり、地中のガスは逃げ場を失っていたのだ!
 ガス漏れを発見した時には、冷え込みも緩和し、凍上現象もおさまっていた。 強い匂いを感じたのは、ガスがその場に放出されていたからだ。
 
 
photo  しかしなぜ、ガスは30m離れた住宅に放出されたのか? 地中で唯一凍らない場所…それは下水管。 下水管は、常温の水やお湯が流れるため凍らないのだ。 そのため、漏れ出たガスが下水管周りの土の中を伝っていき、住宅の床下の流れこんでしまったのだ。
 地中にできた唯一の逃げ道を伝い、毎秒20リットルという大量のガスが、一気に付近の家々の床下に流入。 被害者宅の多くが古い木造建築だったこともあり、床や壁に生じていたわずかな隙間から屋内に入り込んだのだ。
 
 
photo  しかし、被害者たちはガスの臭いはしなかったと証言している。 漏れたガスが原因ならなぜ臭いはしなかったのだろうか?
 実は、ガスが下水管周辺の土を伝って移動する際、土が脱臭剤の役割を果たし、ガスにつけられた臭いの効果を低下させてしまったのだ。 3名の尊い命を奪った事故。 それは、北海道の厳しい寒さと町の独特な地質。 そこに様々な条件が重なって起こった、不幸な事故だった。
 
 
photo  驚くべき力を持つ凍上現象。 特に気温の低かった3年前の冬には、北日本を中心に11道県、合計およそ2000箇所で観測されている。 凍上現象を契機に起こったガス漏れ事故。 だがその後、驚くべき新事実が明らかになった。
 実はガス漏れの兆候は、避難勧告の3日前にすでに起こっていた。 それは、ガス管の破損が見つかった場所の周辺の家々で、警報機がガス漏れを検知して作動。 だが、通報で駆けつけたガス会社の職員は、その全てを誤作動と判断し、その後、調査を行わなかった。 この時点で調査を続け、一酸化炭素を検出すれば、すぐに対策が打てたかもしれない。
 
 
photo  さらに、この地域のガス事業は事故の前年に、市からガス会社に譲渡されていた。 だが、譲渡した北見市が交換回収の目安が30年と言われるガス管を40年使い続けていたのだ。 ガス会社は菅の老朽化を認識し、随時交換を行っていたが、事故現場の周辺は2年後に取り替える予定だったという。
 これらの事実を受け、ガス会社は遺族らに謝罪。 釧路簡易裁判所は、ガス会社の責任者2人に対し、ガス漏れを予見できたのに対策を怠り、被害を拡大させたとして、業務上過失傷害の罪で罰金80万円の略式命令を出した。
 死者3名という惨事に発展したこのガス漏れ事故。 原因は自然現象だけではない。 人が気づき、いち早く対策を立てていれば、悲劇は防げたのかもしれない。