韓国大統領の名誉を傷つけたとして起訴された産経新聞の前ソウル支局長に対し、韓国の裁判所が無罪を言い渡した。言論の自由を保障した法に照らし、当然の判決である。

 そもそも、大統領の気に入らない記事を書いたとしても、検察という公権力が記者を起訴すること自体が異常だった。

 「わが国が民主主義制度をとっている以上、言論の自由を重視せねばならないのは明らかだ」とする判決は妥当である。検察当局は控訴せず、速やかに判決を受け入れるべきだ。

 問題になったのは前支局長が昨年8月、ネット上に出した記事だ。旅客船沈没事故の際、所在不明になった朴槿恵(パククネ)大統領が男性と会っていたのでは、という「うわさ」を紹介した。

 これに大統領府が「責任を追及する」と公然と反発し、市民団体の告発を受ける形で検察が捜査し、起訴した。前支局長は長らく出国を禁じられた。

 韓国の法律では、被害者の朴氏が処罰を望まないと言えば、訴追は免れた。起訴から1年2カ月間公判が続き、判決にまで至ったのは、朴氏自身が訴追を求めたからとみるべきだ。

 権力者の意向次第で報道機関の記者を訴追することが、韓国の民主主義にどんな禍根を残すか、考えなかったのか。

 日本のみならず、海外のジャーナリスト団体などからも、韓国政府に対し、強い懸念の声が相次いだのも当然だった。

 判決公判の冒頭で裁判長は、「善処」を求める日本の要望を考慮するよう、韓国外交省が裁判所に求めていたことを明らかにした。異例の措置であり、韓国政府が日韓関係や国際批判などを考えて自ら決着を図ろうとしたとも受け取れる。

 もともと公訴を提起すべきでない問題を、自ら政治問題化してしまった責任を、韓国政府は反省しなくてはならない。

 それでなくとも近年の日韓関係は、政治の関係悪化により、市民交流にも暗い影が落ちている。無用ないさかいを生んで外交問題にする振る舞いは、日韓両政府とも慎むべきである。

 一方、判決は記事が取り上げた「うわさ」について、虚偽であることを前支局長は認識していたと認定した。産経側も裁判の途中からそれに異を唱えなかった。報道機関としての責任をまっとうしたとは言えまい。

 いずれにせよ、この問題は、日韓間の懸案の一つだったのは間違いない。一刻も早く終止符を打ち、両政府は慰安婦問題など大きな課題の解決に全神経を注ぐべきである。