米連邦準備制度理事会(FRB)が9年半ぶりとなる利上げを決めた。2008年のリーマン・ショック後に開始した「ゼロ金利」から7年を経て抜け出す。リーマン後、日本や欧州に先駆けての利上げでもある。

 ありあまるお金が金融市場に投じられる異常な緩和状態を作り出してきた大元が、米国の金融緩和だった。引き締めに転じることで世界のお金の流れは大きく変わる。金融政策が正常化へと動き出すことは長期的な世界経済の安定には望ましく、その意味で決定は評価できる。

 米景気は総じて明るくなっている。雇用が改善し個人消費も堅調だ。

 しかし、物価の上昇は、FRBが目標とする2%に届いていない。新興国経済に活気がないことから、輸出増を見込んだ設備投資も盛り上がっていない。

 景気が上向くなかで実施してきた過去の利上げと今回とではずいぶん様相が違う。だからだろう、FRBのイエレン議長は今後ゆっくりと段階的に利上げを進めると説明している。

 米国の大規模緩和は、リーマン・ショックから世界恐慌へと危機が広がることを封じる意味はあった。だが、緊急避難だったはずの政策が7年間にも及び、新しい危機リスクのエネルギーを蓄積させた側面がある。

 とくに懸念されるのは資産価格の動向だ。ゼロ金利下でいくらでもお金を調達できる環境となったことで、株や債券への投資が進み、歴史的な高値が続いている。8年前に問題となった低所得者向けのサブプライムローンが再び自動車ローンなどで増加している。マネーの巻き戻しで、こうしたお金の動きが調整されていくことは避けようがないだろう。

 FRB自身の出口戦略も簡単ではない。FRBが買い進めた国債や金融商品などの保有資産は平時の5倍の4・5兆ドル(約550兆円)にのぼる。FRBはこれを少しずつ減らし、市場に注ぎこんだ大量のお金を回収する必要がある。ペースによっては市場を混乱させる恐れもあり、慎重さが不可欠な、息の長い試みとなる。

 金融政策は今後、米が引き締め、日欧が緩和というねじれ状態になる。それが国際的なマネーの流れにどんな影響を与えるか、読みにくい。あらゆる事態を想定しておくべきだ。

 日本銀行と欧州中央銀行(ECB)も大規模緩和の手じまいに向け、出口戦略を練っておく必要がある。先行するFRBのかじ取りは、そのための教材となるはずである。