NEXT 未来のために「鬼怒川氾濫 濁流からの生還 そして…」 2015.12.17


住宅街の一角にポツンと放置された家。
2階部分を残して全て流されてしまいました。
3か月前の「あの日」の爪あとです。
茨城県常総市上三坂地区。
9月10日記録的な豪雨の影響で地区を流れる鬼怒川の堤防が決壊。
激しい濁流の直撃を受けたエリアに40人以上が取り残されました。
逃げ遅れ救助を待つ住民たち。
誰から先に助けるべきか?救助に当たった自衛隊員たちは究極の選択を迫られました。
あの日から3か月。
命は救われたものの多くの住民が元の生活に戻るめどは立っていません。
平穏な暮らしを突然奪い去った鬼怒川の氾濫。
住民たちの3か月を見つめました。
鬼怒川の流域に広がる上三坂地区。
堤防が150メートルにわたって決壊しその先の住宅街を激しい濁流が襲いました。
今回自宅を流され自らも九死に一生を得た人がいます。
農家の…決壊はまさかの出来事でした。
前日から降り続いていた雨は次第に勢いが収まっていました。
栃木県など鬼怒川の上流で記録的な豪雨が降った事もあり渡邊さんは川の様子を堤防で見守っていました。
水位は上がっていましたが堤防が決壊するとは全く考えていませんでした。
(テレビ)「あちらをご覧下さい。
既に水が住宅街に流れ込んでいます」。
同じ常総市で川が氾濫したと伝えるニュースを見ていた家族もどこかひと事だったといいます。
しかしそのころから鬼怒川に異変が起きていました。
これまで見た事がない高さにまで水位が上がっていたのです。
携帯電話で市役所に土のうを持ってきてほしいと頼んだその直後。
渡邊さんの目の前で堤防が音を立てて崩れ始めました。
濁流は決壊した地点から滝のように流れ込みました。
堤防近くにあった渡邊さんの家。
中には妻と息子の家族合わせて5人がいました。
渡邊さんは自宅に戻ろうとして濁流に足を取られ流されてしまいました。
渡邊さんが流される様子を妻の敏子さんと孫の涼翔くんは2階の窓から見つめていました。
堤防決壊の一報を受けて陸上自衛隊による救助活動が本格的に始まりました。
東日本大震災や御嶽山の噴火など数多くの災害現場で活躍したスペシャリストです。
しかしその彼らにとっても今回は経験した事のない困難な救助活動でした。
ベランダで救助を待つ木造住宅。
渡邊さんの家です。
この時黄色いタオルを振っていたのが孫の涼翔くん。
ヘリコプターに向かって8の字に振っていました。
どの住宅から助けるべきか。
松下機長が最も危険だと判断したのは渡邊さんの家でした。
そうする間にも家の1階部分が徐々に崩れていきます。
同時に4組が救助を求める初めての事態。
松下機長は隊員たちにある言葉をかけました。
午後2時16分渡邊さん一家の救助活動が始まりました。
自衛隊が撮影した映像です。
下に降りるのは菅健二隊員。
菅隊員はこの日特別な思いで臨んでいました。
菅隊員は頂上付近に取り残された人々の救出に向かいました。
しかし噴煙に行く手を遮られ戻らざるをえませんでした。
山頂に着いた菅隊員を待っていたのは遺体の収容作業でした。
あの時救助を続けられたら命を救えたかもしれない。
涼翔くんたちが待つ家に降下を開始した菅隊員。
しかしこの時思わぬ事態に直面しました。
屋根が突き出ているため涼翔くんが待つベランダに直接降りる事ができなかったのです。
更にこの時松下機長は上空で思わぬ事態に見舞われていました。
救助を行ってる間ヘリコプターは空中で静止しなければなりません。
しかしそれが難しい状況に陥りました。
激しい濁流を見ているとそれと一緒に自分が動いてるような錯覚に陥り流れと逆方向に機体を動かしてしまいそうになったのです。
松下機長はとっさの判断で機体を安定させました。
渡邊さんの家は一層激しく揺れ始めていました。
もはや一刻の猶予も許されません。
菅隊員は上でケーブルを操作する石井隊員に合図を送りました。
2人の隊員の息がピタリと合いました。
菅隊員は屋根に手を掛けうまくベランダに滑り込みました。
激しい濁流で揺れる家から最初に引き上げられたのはタオルを振っていた涼翔くんでした。
家族が次々と救助されていきます。
最後の一人が救出された僅か5分後の事でした。
激流に耐えられず家は流されました。
まさに間一髪の救出劇でした。
続いて同じ部隊の別のヘリが現場に到着。
まず電柱につかまっていた男性を救助。
更に白い家に取り残されていた母親と2人の子ども。
そして屋根の上で犬を抱いて待つ夫婦が相次いで救助されました。
この日第12ヘリコプター隊は合わせて43人の住民を救助しました。
濁流に流された渡邊操さん。
その後消防隊に無事救出され家族と再会しました。
「鬼怒川の堤防が決壊するはずがない」。
そう思い込み備えをしてこなかった事を反省しています。
渡邊家で最初に救助された孫の涼翔くん。
救助に当たった自衛隊員へのメッセージを取材班に託しました。
渡邊さん一家を間一髪で救い出したヘリコプター部隊。
救助時間の更なるスピードアップが必要だと痛感しています。
あれから3か月上三坂地区では今も復興に向けた工事が続いています。
濁流に寸断された道路は今月開通する予定です。
住民の多くが日常生活を少しずつ取り戻しつつあります。
しかし濁流が直撃し家を流されたエリアだけは全く復興が進んでいません。
濁流で土地が深くえぐられたため簡単には元の状態に戻せないのです。
こちらの女性は息子の家と畑を根こそぎ流されました。
今後地域の復興をどのように進めていくのか。
市長も出席して住民説明会が定期的に開かれています。
市役所の避難指示が遅れた事もあり被災した住民から全額補償を求める声が上がりました。
自衛隊に命を救われた住民たち。
しかし厳しい現実に直面しています。
濁流に耐え抜いた白い家のあるじ中澤和弘さんです。
堤防が決壊した時たまたま外出していたため妻と2人の子どもが取り残されました。
3年前に建てたばかりの自宅。
家族は今も戻ろうとしません。
これ直るまで本当に…。
屋根の上で愛犬を抱いて救助を待っていた夫婦。
自宅は全壊。
しかし建て替えるにも自治体からの助成金は200万円が限度です。
残りの費用を捻出できず夫婦は隣町でアパート暮らしを続けています。
救出から僅か5分後に流された渡邊操さんの家。
元の場所から300メートル流された畑の上に2階部分だけが残されています。
建て直すめどは全く立っていません。
3世代6人が暮らしていた我が家。
見る度に以前の暮らしを思い出してしまいます。
3か月たった上三坂地区の今。
救助に当たった自衛隊員に見てもらいました。
救助したあとに住民たちを待ち受けていた重い現実。
いつか必ず家を建て直す。
渡邊さんは復興活動の先頭に立っています。
この日は激しい濁流に襲われたエリアの大規模ながれき拾い。
ボランティアや地域の住民300人以上が集まりました。
9歳の涼翔くんも朝から参加です。
バラバラで避難生活を送っていた渡邊家。
先月下旬からはアパートで一緒に暮らせるようになりました。
渡邊さんには目標があります。
「来年はコメを収穫する」。
鬼怒川の氾濫によって一瞬のうちに濁流にのみ込まれた小さな町。
住民たちは厳しい現実を一歩一歩乗り越えようとしていました。

(テーマ音楽)2015/12/17(木) 00:10〜00:40
NHK総合1・神戸
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今年9月、記録的な豪雨により鬼怒川の堤防が決壊した茨城県常総市。取り残された住民、救助にあたった自衛隊員…人々は何を考え行動したのか?今明らかになる救出劇の真実

詳細情報
番組内容
9月10日、台風18号の通過に伴う記録的な豪雨により鬼怒川の堤防が決壊した茨城県常総市上三坂地区。避難指示が遅れたこともあり、多くの住民が逃げ遅れた。2階のベランダからタオルを降る親子、屋根の上で犬を抱きかかえる夫婦、電柱にしがみつく男性…。誰を優先的に救助するのか?そして救助にあたった陸上自衛隊の精鋭部隊が直面した想定外の事態。人々は何を考え、どう行動したのか?今明らかになる救出劇の真実に迫る。
出演者
【語り】大杉漣

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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