東京が壊滅する日 ― フクシマと日本の運命
【第44回】 2015年12月16日 広瀬 隆 [ノンフィクション作家]

SEALDs躍進のかげに、
卓越した「後輩育成システム」あり!?
――おしどりマコちゃん×広瀬隆対談【最終回】

『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が増刷を重ね、第6刷となった。
本連載シリーズ記事も累計309万ページビュー(サイトの閲覧数)を突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者と、吉本興業所属の芸人・おしどりマコちゃんが初対談! 
おしどりマコちゃんは、フクシマ原発事故以降、マスコミ記者顔負けの「ロジカルな質問力」で東電幹部も答えに窮する場面も多数あったという。
芸人ながら、タブーといわれる原発事故の真実に、詳細なデータベースで迫る稀有な女性だ。聞けば、以前、鳥取大学医学部生命科学科に所属していたという。
そんな折、8月11日の川内原発1号機に端を発し、10月15日の川内原発2号機が再稼働。そして、愛媛県の中村時広知事も伊方原発の再稼働にGOサインを出した。
本誌でもこれまで、43回に分けて安倍晋三首相や各県知事、および各電力会社社長の固有名詞をあげて徹底追及してきた。
スベトラーナ・アレクシエービッチ著『チェルノブイリの祈り』がノーベル文学賞を受賞した今、精神論やきれいごとでなく、真の科学的データで迫る姿勢が日本でも問われている。
なにごともなかったかのように、次々再稼働される日本の原発。本当にこれでいいのか?
安倍政権によって、真実の声がかき消される中での対談最終回をお届けする。
(構成:橋本淳司)

知らなかった!
SEALDsのすごいところ

広瀬 隆
(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

広瀬 原発事故のあと、マコさんはSEALDsたち、若者グループの動きにもくわしいですね。

マコ SEALDsの奥田愛基(おくだ・あき)さんらの先輩たちとは、以前から知り合いでした。彼らはグループをリフレッシュしながら活動を続けていて、SEALDsの前には、Ex.SASPL(エクスサスプル)、SASPL(サスプル)、T.A.Z(タズ)などがありました。原発事故のあと、若い方が動き出したのを見てきました。

広瀬 彼らと交流するきっかけは何だったのですか。

マコ 2011年秋に経済産業省前で、4人の学生が「将来を想うハンガーストライキ」をしていて、そのときの取材がきっかけでのちにT.A.ZやSASPLを引っ張っていく1人と仲よくなりました。
 その後、毎週金曜に反原発デモが行われていて、それを学生たちが見にいっていました。原発反対・推進を問わず、まずはデモを見て、その後、日比谷公園で話をするという活動でした。
 それがT.A.Z(タズ=the Temporary Autonomous Zone)という団体でした。
 デモを見た後に話をするだけでしたが、集まりが50人を超えた時点で、公安の目が光るようになりました。

広瀬 公安がいるというだけで、こわがって参加しない学生が出てくる。それが公安の狙いなのでしょうが……。

おしどりマコちゃん
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。社団法人漫才協会会員。認定NPO法人沖縄・球美の里理事。フォトジャーナリズム月刊誌「DAYS JAPAN」の編集委員。 兵庫県神戸市生まれ。鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんとん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。 東京電力福島第一原子力発電所事故(東日本大震災)後、随時行われている東京電力の記者会見、様々な省庁、地方自治体の会見、議会・検討会・学会・シンポジウムを取材。また現地にも頻繁に足を運んで取材し、その模様を様々な媒体で公開中。 【Twitter】https://twitter.com/makomelo

マコ そうなんです。そこで彼らは開催場所を移しました。クラブを借り切ったり、大学の教室でやったり。クラブで音楽かけて踊って、一人がスピーチして、また音楽かけて踊って……。
 そのうちに、音楽がかかっていても、みんなが大声で議論を始めて。そのときに、いまのデモのスタイルができていった感じがします。

広瀬 あの人たちをずっと見ていて、何か気づいたことはありますか。

マコ なんと言っても、後輩を育てるのが上手です。自分たちは4年で大学を卒業することがわかっているから、活動を続けるために後輩を育てるしくみができています。T.A.Zをつくったメンバーが先輩になり、後輩ができたとき、イベントの仕切りを後輩に一切まかせたことがありました。後輩がイベントを仕切るから、絶対に粗相がある。だから、粗相をしても許してくれそうな人、ちゃんとした大人じゃない人! というので、私たち「おしどり」に白羽の矢が立ちました(笑)。

広瀬 初めて司会をした学生は緊張したでしょうね。

マコ 緊張して声が出ないとか、いろいろトラブルがあったのですが、それを先輩たちが「いいよ、いいよ。がんばれ」みたいに和やかに見守っていました。そのとき、緊張して目に涙をにじませながらイベントを仕切っていた人が、いまやリーダーです。

広瀬若い世代に任せるから、人が育つんだね。いつまでも同じ人がリーダーではなくて、次の世代にリーダーを譲ってゆくというのは、すぐれた考えですね。

組織は毎年リフレッシュさせる

マコ もう1つの特長は、彼らがいろいろな活動を勉強していることです。
 学生だけで集まるのではなく、市民アクションの手伝いに行ったり、インターンとして行ったりして、組織のあり方や活動のやり方を学んでいます。
 原発都民投票の手伝いや、辺野古のシンクタンクのインターンなど、メンバーがいろいろなところに行って、また集まって話し合うので、一人ひとりに専門性が出ると同時に、他の団体のよい部分、悪い部分を共有できているような気がします。

広瀬 たしかに、年輩の人たちの活動は、知識が豊かでいい部分もあるし、長年の活動で疲れている部分もあるでしょうから。ちょっと気になるのが、「SEALDsが来年の参院選のあと解散する」という新聞記事が出ているけれど、ここまできたのだから、みんな解散してほしくないと思って見ているのに……。

マコ それが、面白いんです。テーマごとに、団体名を変えて活動を続けていく彼らのやり方の特徴でもあります。
「九条の会」の手伝いに行っていたSEALDsのメンバーが、
「『九条の会』も毎年活動のテーマを変えて、リフレッシュしたほうがいいのではないか」と言っていました。
 それを聞いたとき、SEALDsはもうそろそろ終わるのかなと思いました。
 1つのテーマに、1つの団体、というやり方はうまいと思います。その他の考え方が少し異なっていても、それを排除することなく、一つのアクションができるからです。

広瀬 活動の目標をつくって一点に集中する、というやり方が激動する現代に合っているのかもしれませんね。

それぞれがそれぞれの時間を
有効に使ってやっていく

マコ 2013年に、SASPL(サスプル)のメンバーに、
「こういう活動をしていることをクラスでは何と言われているの?」
 と聞いたら、
「デモ学生」
 と言われると。つまり、変わり者扱いされていたようです。
 でも今年は、すごく雰囲気が変わって、同級生が「今日行けたら行くわ」と言うようになったそうです。

広瀬 2011年からずっと見ていると、社会に大きな変化が起きている! デモ暮らしーが、デモクラシーに。

マコ 悲しいのは、SEALDsの話を私が出すと、すぐにいろいろクレームがくることです。反原発活動をやっている人から、「SEALDsは反日のスパイだから警戒しなければならない」というような、トンデモナイ長文メールがくると、憂うつな気持ちになります。なんだよ、これはと。

広瀬 あるんだよね。「そんなこと関係ない」と言っても。

マコ 渋谷や国会前でのアクションの様子をツイキャス(ネットの生中継)すると、被曝のことを気にする人たちから、
「若い子が、汚染された東京にマスクもせずにいるなんて」とか、
「本当に被曝の問題は大切なのに、何も気にしてない」
 というクレームが何度も何度もきました。
 個人的に、彼らのルーツは原発事故から立ち上がった若い人たちであることはわかっているので、それを説明したりもするのですけれど、SEALDsのアクションのツイキャス(ネットの生中継)をやっていると、アイコン画像が旭日旗のような人たちから「デモとかバカなの?」「ヒマ人?」「中国が攻めてきたらどうするの?」とか執拗に何度も何度もからまれます。
 最初は「現行の個別的自衛権で対応できますよ」とか丁寧に応答していましたが、何も会話が成立しません。
 そういう絡まれ方と別の絡まれ方もあるのです。
「SEALDsは被曝をわかってない!」
「SEALDsは原発事故のことを言わないのはおかしい!」
 というふうに、脱原発というアカウントの方が、何度も何度も執拗にからんできて「いや、彼らは原発事故のことも考えていて、過去にそういうアクションもしていて、でも今は安保関連法案のことで動いているんですよ」と説明しても、聞く耳を持ってもらえない。
 会話が成立しない、という点で、同じように感じてしまったことがあります。

広瀬 本当は仲間であるべき人たちが、叩き合うのは、よくないね。

マコ そうなんです。

広瀬 私はそういう言葉は、聞こえないようにしています。
 どの問題でも、誰かが何かやると、必ず足を引っ張るのが出てくる。「ツベコベ言わずに、一緒にやれよ」と、言いたいけど。

マコ 私のスタンスとしては、基本的には取材に徹しているので、アクションすることはありません。ただ、原発は、まったく不要ですし、なんでいらないか、どうするべきか、ということもしっかり取材してあるから、説明できます。だから、「いつでも何でも聞いてください」という構えでいます。

 デモと集会はもちろん大切です。けれど、私はまず事実を知りたい、自分で調べたいと思っています。それぞれがきちんと、いろいろ調べて考えて判断していくことが一番重要だと思うからです。その結果としてデモと集会があるのよね。

 私は、2011年4月に1回だけデモに参加したことがありました。
 4万人が参加したデモですが、立ち止まる時間が長く、5時間くらいほぼ立っているだけでした。そのとき私、5時間あったら、そのあいだに勉強できるなと、思ったのです。だから、4万人が5時間勉強したら、原子力に関する状況が変わるかもしれないと思ったのです。

広瀬 マコさん、あなたには、それが正解だと思います。そういう人がいたからこそ、これだけ日本の社会を変えられたのです。私も基本的には、調査第一主義です。原発必要論者を一人でも減らして、原発ゼロにしたいからです。
 そのためには事実を伝えて、そこから社会を変えたいと思って、本を書いてきました。しかし同時に、原発現地の人たちから学ぶことが多いので、現地のデモと集会には、できるだけ参加するようにしています。

マコ 私は今後も、原発の再稼働問題にしても、自分がどうアクションしていくかより、誰よりもいつまでも勉強して取材し続けて、報じていきます、という心構えでいます。

広瀬それを続けてくださいね。そして、私たちに事実を教えてください。
 一人ずつ、いろいろな生まれ育ち、年齢、知識と体験があって、個性がみんな違うからいいんです。それぞれが、それぞれの貴重な時間を有効に使って、やっていくことですね。それに尽きます。誰が正しいとか、どれがベストということはないですね。原発即時ゼロで一致していれば、それでいい。
一人ずつみんな違うんだから。その力を結集しましょう。

 5回にわたる対談、本当に楽しかった。でも、内容は深刻でもあります。改めて感服しました。ありがとうございました。
 最後に、読者にお伝えしておきますと、マコちゃんのお隣には、ずっとケンちゃんが付き添っていて、漫才師としてはボケ役の顔を装っているけれど、マコちゃんの話の途中で、すぐにパソコンからデータを取り出して、次々と私に見せてくれたのでした。
 名コンビです。人もうらやむ、おしどり漫才! おしどり万歳!

(おわり)

なぜ、『東京が壊滅する日』を
緊急出版したのか――広瀬隆からのメッセージ

 このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。

 現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超
 2011年3~6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文部科学省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。

 東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。
 映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951~57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。

 1951~57年に計97回行われたアメリカのネバダ大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発~東京駅、福島第一原発~釜石と同じ距離だ。

 核実験と原発事故は違うのでは? と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウムよりはるかに危険度が高い。

 3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。

 不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。
 子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない

 最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?

 同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。

 51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。

「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実

 よろしければご一読いただけると幸いです。

<著者プロフィール>
広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『日本のゆくえ アジアのゆくえ』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

 

おしどりマコちゃん
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。社団法人漫才協会会員。認定NPO法人沖縄・球美の里理事。フォトジャーナリズム月刊誌「DAYS JAPAN」の編集委員。 兵庫県神戸市生まれ。鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんとん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。 東京電力福島第一原子力発電所事故(東日本大震災)後、随時行われている東京電力の記者会見、様々な省庁、地方自治体の会見、議会・検討会・学会・シンポジウムを取材。また現地にも頻繁に足を運んで取材し、その模様を様々な媒体で公開中。 【Twitter】https://twitter.com/makomelo