サイエンスZERO シリーズ原発事故15▽最新報告 廃炉を阻む壁 核燃料デブリ 2015.12.13


廃炉に向けた作業が進む…事故から4年半余り。
現在敷地内の放射線量を下げる取り組みが進められています。
しかし原子炉がある建屋の内部はどんな状態になっているのかいまだ詳細は分かっていません。
事故当時原子炉の中では核燃料が溶け落ちるメルトダウンが発生しました。
この時溶けた核燃料や構造物の塊が…廃炉を進めるにはこのデブリを取り除かなければなりません。
廃炉への最大の難関といわれる核燃料デブリの取り出し。
最新の研究で見えてきた課題と対策に迫ります。
原発事故の影響で避難されてる方も多くいらっしゃいますから廃炉作業はやっぱり早く進んでほしいですよね。
そうですね。
今日はこの廃炉の現状と課題を検証しながら最新の状況を見ていきます。
はい。
水野さん廃炉までに30年から40年かかるといわれてますけど本当にそんなに長くかかるんですか?世界でも初めての取り組みが今行われている訳ですので少なくとも40年はかかるという感じですね。
まずはですねこちらをご覧頂きたいのですが事故の際はですね福島第一原発6基原子炉ありましたけども事故では1号機から3号機で内部の核燃料が溶け落ちるメルトダウンという深刻な事態が起きました。
なるほど。
実際今福島第一原発というのはどういう状況なんですか?先月ですね実際に現地に取材に行ってきましたんでその映像をちょっとご覧頂きたいんですけれども現地では敷地内の放射線量を下げる作業が進んでいました。
そのおかげでですね以前は多くの場所で顔全面を覆うマスクが必要だったんですけどもこれ私が自撮りしてるんですが…こういう格好でいいという事ですね。
全面マスクだとマスクが曇るという事もあるんですがそれは当然ありませんしお互いの表情が分かると。
そうすると意思の疎通がしやすくなって作業がやりやすくなったという事なんですね。
半年ぐらい前に私行ったんですけどもこの時に比べて一番進んでいたのはこの汚染水対策でこれはですね港に遮水壁を設けまして汚染された地下水が港に出ないようにしてるものでこれは完成していました。
ただですねこれ建屋これ3号機ですけれども建屋の中このようにまだ…敷地周りはいいんですけども建屋の中はまだまだ分かっていないというのが現状ですね。
こういう状況で今廃炉作業自体っていうのはどこまで進んでるんですか?こちらご覧頂きたいんですがこれはですね今年6月に政府と東電が改定した廃炉工程表なんですけれども当面の最大の課題となるのは最難関といわれます核燃料デブリの取り出し。
これ2021年から始める事になっていまして今はですねそれに向けた準備作業という位置づけで構内の放射線量を下げる作業を行ったりそれからロボットで建屋内の状況を確認する作業が行われています。
核燃料デブリの取り出しが終わったあとようやく建屋の解体に入るという事で…という事で…東電はですね1号機と3号機についてはもう大部分の燃料は格納容器の底に溶け落ちてしまっているとしてるんですけども唯一2号機だけはですね原子炉の中に一部の燃料が残っているだろうというふうに今シミュレーションで推定しているんですね。
ただそれもあくまでも推定という事なので正確な把握が必要なんですね。
という事でロボットによる内部調査も進んではいるんですがただですね中に入らなくても内部の状態が推定できるような技術開発も進んでるんですよ。
原子炉内部を観測する鍵。
それはなんと宇宙にあるといいます。
星が寿命を迎えて爆発した時などに発せられる放射線…その中で地球の大気とぶつかった際に出来るミューオンという宇宙線を利用するのです。
この方法について研究している名古屋大学の…ミューオンを捉えるこのフィルムを原子炉の前に置く事で内部の様子を把握しようというのです。
一体ミューオンとはどういうものなのか。
その特徴を見られるのがこちらの箱。
中は蒸気で満たされています。
たくさんの白い霧状のものが見えます。
これは大気中にある放射線の粒子が蒸気の中の原子とぶつかって出来た跡です。
ミューオンが通った跡はこちら。
この細くまっすぐな形で現れるのがミューオンの特徴です。
高いエネルギーを持つためまっすぐに進むのです。
ミューオンは原子炉の構造物も通り抜けてくる事ができます。
そのミューオンを原子炉の前に設置した特殊フィルムで捉えるのです。
ただし原子炉内部の物質の密度や量によって通り抜けてくるミューオンの量は異なります。
もし原子炉の中に核燃料が残っていればその部分を通り抜けてくるミューオンの量は少なくなります。
逆に核燃料が溶け落ちてしまっていたら通り抜けるミューオンの量は多くなります。
森島さんは去年と今年原発メーカーと協力して2号機の前に特殊フィルムを設置しました。
シミュレーションではなく実際に内部を観測する試み。
2号機では初めての事です。
顕微鏡を使ってフィルムに記録されたミューオンを一つ一つ分析。
どれぐらいの量が通り抜けてきたかを計算し原子炉内部の物質の量を推定します。
すると意外な結果が示されました。
原子炉内部にある物質の量を表した画像です。
赤い色ほど物質量が多い事を示しています。
健全な核燃料があった5号機と比較してみると核燃料が存在する原子炉の中心部の物質量に大きな差が出ました。
一体どれぐらいの核燃料が溶け落ちたのでしょうか。
どこまで溶け落ちたかは更なる分析が必要なものの大部分の核燃料が溶け落ちている可能性が示されました。
2号機の核燃料ほとんどが溶け落ちてるかもしれないという可能性があるっていうのは結構衝撃ですよね。
そうですね。
ただ森島さんのインタビューでもありましたように70%から100%というふうにやはり数字に開きがあるんですね。
ですのでやはり…ところでこういう廃炉に関わる研究とか技術開発というのはどういう体制で行われてるんですか?こちらをご覧頂きたいんですがまずですね廃炉に関わる技術的な大方針は政府が作った原子力損害賠償・廃炉等支援機構というところが決めます。
その大方針に基づいてですね研究開発を行っていますのが原発メーカーや原子力研究開発機構などで作るIRID国際廃炉研究開発機構というところなんですね。
このほかにもですね全国各地の大学や研究機関が基礎的な研究を行っています。
この廃炉はもう日本の英知を結集して臨まなくてはいけないような大変な作業な訳ですが今日はIRIDなどで廃炉技術全般についてアドバイスをしている淺間一さんにお越し頂きました。
よろしくお願いします。
核燃料が格納容器の底まで落ちてしまっていたらどんな影響が出るんですか?まずこちらをご覧下さい。
核燃料が溶け落ちるまずここ圧力容器の底にたまる訳ですね。
この状態でもし上から取り出そうとすると上にこういう機器を設置して上からこうアクセスするという事になります。
これが更に溶け落ちて圧力容器から格納容器の底まで燃料デブリが落ちますとアクセスは上からですと更に伸ばさないといけない。
更にですねそれがこう横にずっと格納容器の底で広がってしまいますと格納容器自体を損傷させるというおそれもありますし上からのアクセスだけでは更に難しいという状況になってくる訳です。
じゃあもう…名古屋大学の今回の調査結果っていうのは今後生かしていけそうなんですか?名古屋大学がやった研究というのはですね非常に小さいフィルムでしたので例えば1人で持ってってポンと置いてできます。
それから電源も要らないんですね。
非常にやりやすいっていうのはあるんですがただですねこういった大学が研究を行ってるという事を当時の経済産業省はこれを把握していなかったんですね。
きっと連携したらすごい力になると思うんですけど。
(淺間)そうですね。
連携がうまくいかないんですか。
IRIDでいろんな研究開発はやっているんですけども全てそれをIRIDだけでやろうとするとなかなか難しいものもあります。
そういった意味でやはり…ここまでは核燃料デブリがどこにあるのかという問題を見てきましたが一方で…ちょっとこちらをご覧頂きたいんですけども原発が普通に運転してます時は原子炉の中にはですね核燃料が集まった燃料集合体が入っています。
その中に入っていますのは燃料のウラン。
それからそれを覆うジルコニウムという金属のさやで覆っています。
またこの燃料集合体の間には出力を調整する制御棒が挿入されます。
制御棒はホウ素という物質とそれからステンレスで出来てるんですね。
事故ではこの燃料集合体と制御棒が溶け落ちました。
ほかにもですね格納容器の底のコンクリートなども混ざり合っているんですね。
へえ〜。
実はこうしたいろんな物質が混ざって固まってしまうと取り出し作業にも悪い影響を与える事が分かってきたんです。
日本原子力研究開発機構の研究所です。
ここで今IRID国際廃炉研究開発機構の下核燃料デブリがどのような物質で構成されているのか研究が進んでいます。
材料は燃料棒に使われているウランとジルコニウム。
制御棒に使われているホウ素とステンレスなどを混ぜ合わせたものです。
これを熱で溶かし核燃料デブリを模擬したものを作りその実態に迫ろうとしているのです。
実験を再現してもらいました。
事故の時の原子炉内部を想定して温度は2,500度近くに設定。
すると中の物体は僅か数分でドロドロに溶けていきました。
こちらが冷えて固まった…中身はどうなっているのか電子顕微鏡で観察してみると…。
右半分を占めるのはウランと金属のジルコニウムが溶け合ってセラミックスに変化したもの。
左半分にはステンレスなどが溶けて固まったものがあります。
それらが完全に溶け合わずに複雑に混ざっている事が推測されたのです。
この事がデブリを切り出すのにどう影響するのか。
デブリを切り出す技術を開発しているメーカーが実験を行いました。
まず金属のステンレスに対してドリルを当ててみる事に。
難なく貫通する事ができました。
続いてセラミックスに同じドリルを当ててみます。
すると…。
ほとんど削れないどころかドリルの先端が潰れてしまったのです。
核燃料デブリと一口に言ってもその中身はステンレスやセラミックスなどが複雑に入り交じってるんですね。
そうですね。
その…大変ですね。
実際海外でですねこの燃料デブリを取り出した事があるんですね。
これは1979年に事故を起こしたアメリカのスリーマイル島原発。
ここでですね実際に核燃料デブリの取り出し作業が行われました。
これ見て分かるようにですね下の方のこれ核燃料デブリなんですが燃料デブリだけじゃないんですね。
周りにこの配管のようなものがありますよね。
こういったものも取り出さなきゃいけない訳で一つの道具だけではいけない。
こういうふうにドリルみたいなものを使う場合とボーリングマシンのようなものを使って取り出したりして結局11年ぐらいかかったんですね。
簡単にはいかないですね。
セラミックスはどうやって取り出せばいいんですかね。
一番硬いものっていうとダイヤモンドが世の中で一番硬いのでダイヤモンドの工具のようなものを使ってですね切るという手が一つあると思いますね。
ただいずれにせよ切り粉というんでしょうかね削ると出てくるくず。
そういうものがあるとですね作業もしにくくなりますしそれが飛散してですね環境がまた汚染されるという事もありますのでそういった問題も考えながらやる必要があると思います。
何か新しい方法ってないんでしょうか。
まさにですねその取り出しに向けた技術開発がメーカーの方で行われてるんですね。
デブリを切り出す新しい技術開発を行っているメーカーです。
技術者たちが注目したのは…1平方センチメートルに6トンもの力がかかります。
これをドリルでは全く歯が立たなかったセラミックスに当ててみます。
高圧水を当てて5分ほど。
果たして結果は…?ドリルではほとんど傷をつける事ができなかった所に削り跡が出来ました。
デブリを切り出す新しい技術の可能性が見えてきました。
水の力って本当にすごいんですね。
ですね。
この高圧水にはもっとすごい成果もあるんですよ。
ちょっとこちらをご覧下さい。
これ水中にステンレスの板があります。
そこに高圧水を当てているんですが…。
ほら。
ちゃ〜んとこれステンレスの板に穴が開くんですね。
すご〜い。
へえ〜。
水の中でもですか。
でもそもそもどうして水の中でやる必要があるんですか?これね現場で役立つと思うんですね。
というのはですねデブリを取り出すためにはやはり放射線遮蔽しなきゃいけませんので格納容器全体をですねこのように水で満たす冠水工法というのも検討されてるんですね。
これ実際に行われた場合は水の中でデブリを切り出すという事になりますので今見てきたような成果はこれ意義があるんじゃないかなと思います。
じゃあもうこれを使えばデブリは取り出せるって事ですか?
(淺間)有望な技術ではあると思うんですけれどもただ材料によってはホウ素ですね…それをどう取るかって一つ問題が残っていると思います。
ホウ化物って何ですか?ちょっとこちらをご覧下さい。
これ先ほどの模擬核燃料デブリの電子顕微鏡の写真なんですけどここに細かい細い針状の結晶があると思うんですがこれがホウ化物になります。
これ制御棒に含まれている炭化ホウ素から化学反応でこういうのが出来てしまう訳です。
実際のデブリの中にこういった…いずれにせよどんなデブリか分からないしどんな環境で使うかっていうのも今は分からない訳ですので…このようにデブリの切り出しの技術開発は進んでるんですけどそもそもですねデブリの取り出しに大きな課題があるんですよ。
どんな課題があるんですか?実はこの除染作業に当たって特に重要なのがこちらです。
これ高い天井とか配管に放射線源の70%が集中してるような場所があるんですね。
そこで今こうした高い所の除染を進めるための技術開発がIRIDを中心とした国のプロジェクトとして進んでるんですね。
原子炉建屋1階の一部を再現した施設です。
たくさんの配管がひしめいています。
高所除染はこのような隙間を縫って行わなければなりません。
そこで開発されているのがこのロボット。
配管が複雑に入り組んだ天井に向けてレーザーを当て配管と配管の隙間を見定めます。
そこへ6メートルまで伸びる長い首を伸ばして…。
高圧水を噴射して除染。
2メートル先の対象物まで除染できます。
実証試験では8割以上の模擬汚染物質を除去する事に成功。
現場で十分活用できる事が示されました。
これをもう使えば汚染されてしまった部分もちゃんと除染できそうですね。
まあただですねなかなかこれだけでは十分でないというふうに考えておりましてコンクリートの奥の方まで汚染されてる時にはもっとガリガリ削らないといけないですし高いところでその線量が高いケースというのは…そういう装置も必要になるかもしれません。
何か課題は山積みな感じですね。
そうですね。
やっぱり水野さん自身も現場によく行かれて感じるものってありますか?本当にですねこれ放射線が強いんでどうしても遠隔操作をしなきゃいけないと。
なかなか先にたどりつけないと。
ただまあ一歩一歩は進んでるんですね。
時間はかかるんですけれどもそれを支える人材というのを今から育てていかないとなかなか30年40年では終わらないかもしれないと。
そういった事に危機感を持った大学の関係者が自分たちの学生を引き連れて10月に福島第一原発の見学に行ったんですね。
私もそれ一緒に行って取材してきたんですけどその様子をご覧頂きたいんですが。
ふだんは近畿大学の研究炉で実習をしている学生たちが中心なんですけれども。
ほか名古屋大学と九州大学の人たちが入ってますがフィールドワークしようという事で東京電力の方からいろいろ話を聞いたりして廃炉の大変さというのを学ぶ。
やはりこれ非常に技術開発必要なんで…
(淺間)私も授業で遠隔操作機器を使ってこういう廃炉作業が進んでるという事を話したりするんですけれどもこれから多分世代を超えたこういう作業をやっていくというようなミッションがある中で学生は非常に高いやはり関心を僕は示しているというふうに思ってます。
これからやはりそういう人材育成をですねどんどんこういう現状も話しながらやっていくといいというふうに思います。
今日はいかがでしたか?何かたくさんの方法も見てきましたけど突破口を見つけたと思ったら壁があってっていう繰り返しではあるんですけどやっぱりいろんな技術が出てきているので廃炉作業が早く進むのを願うばかりですね。
淺間さん今日はどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
2015/12/13(日) 23:30〜00:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO シリーズ原発事故15▽最新報告 廃炉を阻む壁 核燃料デブリ[字]

廃炉作業が進む福島第一原子力発電所。40年かかると言われる廃炉の最大の難関が、溶けた核燃料と構造物の塊・「核燃料デブリ」の取り出しだ。その課題と対策に迫る。

詳細情報
番組内容
廃炉作業が進む福島第一原子力発電所。40年かかるといわれる廃炉の最大の難関といわれるのが、溶けた核燃料と構造物の塊・「核燃料デブリ」の取り出しだ。しかし、原子炉内部の状況は、がれきや高い放射線量に阻まれ、未だに詳細はつかめていない。核燃料デブリは原子炉内のどこにどのように広がっているのか。そして、そのデブリをどのように取り出せばいいのか。最新の研究から見えてきた、今後の廃炉に向けた課題と対策に迫る
出演者
【ゲスト】東京大学工学部教授…淺間一,【司会】竹内薫,南沢奈央,【語り】土田大

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
情報/ワイドショー – その他

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0x0808)
EventID:25297(0x62D1)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: