(テーマ音楽)秋の京都は美しい。
そんな感傷に浸る余裕は草刈刑事にはなかった。
長年捜し続けていた容疑者をついに見つけ出したのだ。
心の声
(草刈)下手な変装しやがって。
その口元のほくろ忘れるもんか。
次はどんな男をだますつもりだ?いや…俺が絶対に捕まえてやる。
草刈刑事を乗せたバスが向かうのは京都の奥座敷。
今日は皆さんも一緒に奥へ奥へとお連れします。
・「京都大原三千院」・「恋に疲れた女が一人」・「恋に疲れた女が一人」フン。
さんざん男をだまし続けといて今更何を祈ってやがる。
いや待てよ。
疲れた…祈る…まさかあの女!京都の奥座敷。
まずは大原から。
京都市中心部から北へ車で1時間足らず。
比叡山の麓に大原の里はあります。
大原といえば三千院。
1歩足を踏み入れると深い静寂に包まれます。
ひっそりたたずむ往生極楽院。
作家井上靖が「東洋の宝石箱」と称したその中には…。
輝く金色の仏。
国宝阿弥陀三尊坐像。
平安時代後期を代表する仏像です。
ふくよかで満月のような顔だちの阿弥陀如来。
仏の理想像として平安貴族の信仰を集めました。
でもお堂の中でちょっと窮屈そう。
なんと阿弥陀如来像のために天井は舟底を逆さにしたような形で高くしつらえられています。
舟の形は極楽往生を願う人々を浄土へと運ぶ舟を意味するとも言われています。
阿弥陀如来の左右には勢至菩薩と観音菩薩。
こちらもどこか親しみを覚えるたたずまいです。
足元に注目すると正座のような仏像には珍しい座り方。
実は前のめりになってこちらへ近づいていらっしゃるのです。
実際のところは座っているというよりは立ち上がろうとしているその動作の一瞬を捉えたそういう仏様だと言われております。
極楽浄土でもある往生極楽院から今まさに立ち上がって我々を助けに行こう迎えに行こうとそういうふうなお姿をされてる。
政争の絶えなかった平安時代末期。
都からは貴族が比叡山からは僧侶が安息の地を求めて大原を目指しました。
人々を静かに受け入れたのが大原の仏でした。
今日一つ目の壺は…
(声明)三千院に程近い勝林院。
平安時代より大原に響いてきた音色が聞こえてきます。
仏典に節を付けた声明です。
インドで生まれ中国を経て日本に伝わりました。
声明の修行の地として栄えた大原。
勝林院はその道場として開かれます。
声明は民謡や浄瑠璃にも影響を与えました。
(声明)お経の脇にある点や線。
どう唱えればよいかが事細かに書かれています。
まあ一番よく使われる節はですね「ユリ」というですねちょうど風がゆったりとこう揺れるような節があるんですね。
・「イ〜イ〜イ〜」「モロ下」は木の葉が舞うように。
・「イ〜イ〜イ〜」・「イ〜イ〜イ〜」こういう世界が仏様の世界なんだなという事がですね何かこうおぼろげながらでも想像できる近しいものではあったんじゃないでしょうか。
(声明)声明の音色はもう一つの大原の美。
里の自然と響き合います。
(声明)別世界にいざなう大原です。
(声明)・おい待て!おい!ちょっと待て!ちょっと待ってくれ!早まっちゃいけない。
人はだませても自分はだませないんだぞ!京都の奥座敷。
次は高雄へ。
市街地から1時間足らず。
トンネルを抜けると…。
景色は一転四方を緑に囲まれます。
京都の北西部高雄の山々です。
その中腹にある神護寺。
空海ゆかりの寺で古くから山岳信仰の拠点として栄えました。
神護寺は京都屈指のもみじの名所。
「紅葉といえば高雄」と中世より都人たちが詣でました。
洛中より一足早く色づく高雄のもみじ。
お堂の黒い屋根に映える赤。
古びた石段との鮮やかな対比。
静まりかえった境内で味わうのです。
今はもみじを見ることだけに集中して皆さん来られますけどそうじゃなくて全体の雰囲気を楽しんでこういう郊外へ来るっていうことがふだん置かれてる世俗の環境と違った意味合いでね山へ登ることによってそういうものを忘れてですねパッと目の前に開けるこういう紅葉のシーンを見て癒やされるというかすっきりする気持ちが多分おありになると思う。
空気もきれいですしね。
冷気が漂う秋の高雄。
山ならではのもみじの味わいです。
今日二つ目の壺は…神護寺の麓高雄のもみじ狩りを描いた屏風です。
穏やかな秋の日。
都から重箱を持って紅葉見物に訪れます。
開放的な雰囲気の中で味わう野のもみじ。
川のせせらぎとともに愛でる都人の風流です。
屏風に描かれていたのは高雄を流れる清滝川。
絵さながらに赤く色づいています。
京都の植物に詳しい松谷茂さんです。
ここのポイントはすばらしい絶景ポイントですね。
川面にもみじの赤。
水辺に映えるには訳があります。
とりわけもみじ類かえでの仲間なんかは水が大好きですので山の斜面で言うと下のほうにうまく自然に生育している。
ちょうど紅葉の条件がそろっている場所じゃないかなと思います。
渓流に紅葉を愛でるもまた格別です。
更に松谷さんお薦めの野山での紅葉鑑賞法があるといいます。
万葉人は野山に出かけていった時に黄色く変わった木を愛でていたんかなと思いますね。
紅葉といえば赤もあるし黄色もあるし褐色もあるしオレンジもあるよという。
いろんな色がその中にあるんだということを見つけていくというのも大事かなと思いますね。
自然が作り出した赤や黄色。
その一つ一つが山肌に点描画のような景色を織り成します。
いにしえ人が目にしたもみじの原風景です。
もう一つ京都の奥座敷ならではの楽しみ方があります。
せせらぎを間近に感じながら紅葉を楽しむ「川床」です。
もみじ狩りのお昼。
お膳の上にももみじの赤や黄色です。
川床自体は私たちが子供のころから昭和の20年代ぐらいからは皆さん川遊びをされておりましたですね。
アクセスが今のように良くない時例えば路線バスが走ってない時でもやっぱり…やっぱりこれは郊外独特のものになりますね。
はい。
見渡せば絵巻のような風景。
秋の一日がゆっくり過ぎてゆきます。
待て!待て!奥座敷最後は美山です。
まるでおとぎ話に出てきそうな里。
決して夢ではありません。
京都から北へ車で1時間半。
美山町です。
京都観光に訪れる人々を引き付けてやまない隠れ里です。
貴重な景観は21年前に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。
実はこのお地蔵さんも文化財の風景の一部。
花が咲き誇る家の石垣ももちろんかやぶき屋根も。
美山にはたくさんの「懐かしい」があります。
今日最後の壺。
シンボルは38戸のかやぶき屋根。
ふき替えが行われていました。
20年に一度行う大がかりな作業。
美山の風物詩です。
屋根をふくのに必要な茅は全部で2,000束近く。
職人の経験が頼りの屋根造り。
積んだ茅の先端をならしながら屋根のラインを決めていきます。
細かい箇所を修正しながらも屋根の全体像を思い描いています。
美山で生まれ育った棟梁の中野誠さんには美しいと思う屋根の姿があります。
わりと美山はまっすぐな屋根に見えるんですけど実際近くで見ると結構膨れてるんですよね。
まっすぐふいちゃうと今度離れて見た時反った屋根に見えちゃうんです。
それがまあ僕は何ともいえない美というかそういうふうに思いますね。
はい。
丸みのある優しい屋根のシルエットが美山のおおらかな景色を作り出していたのです。
この里に魅力を感じて33年前に京都市内から移り住んだ新道弘之さん。
以来里の様子をかやぶき屋根に限らずたくさんカメラに収めています。
おいさんおおきに。
またようけもらいまして。
いやいやいや。
ありがとうございます。
風光明美な景色は日々の暮らしの積み重ねであると気付いたのです。
庭で育てた茶はうちで煎って自家用に。
かやぶきの材料も自分たちで調達しました。
美山に生きた村人の記録です。
どんどんどんどんお年寄りが亡くなったりしてねいろんなことが変わってきてますけれどもねまあ依然としてね自分とこのいわゆる自作の農園をねいつもお花で飾ったりねいろんなきめの細かい日常の暮らしっていうもんがあるでしょ。
人に見せるわけでも何でもないけれども自然の営みとしてそういうことをやってる。
いくら風景が良くてもいくらかやぶき屋根がノスタルジアがあっても…新道さんがたたえてやまない暮らしの名人がいます。
中野弘子さん。
77歳の今も畑仕事を1人でこなします。
150年以上前に建てられたかやぶき民家に住む弘子さん。
寒くなると作るものがあります。
郷土食のさばずしです。
山深い美山では貴重なさば。
秋祭りのごちそうでした。
味付けは各家庭で思い思いのあんばいに。
弘子さんはよく酢につけ込んでさばの色合いを鮮やかに仕上げます。
ごはんをたっぷり使うのが昔ながらの美山のさばずし。
昔はね2合乗せたんです1本に。
(取材者)これよりもっとですか?はい。
もうちょっとそうですね。
(取材者)大きいおすしのほうがやっぱりいいですか?
(弘子)豪華に。
昔はね。
箱を使わずにふきんで巻くのが弘子さん流。
丸く丸く整えます。
弘子さん自慢のさばずし。
かまぼこのような形は弘子さんの手のひらの形です。
ここの村の方は皆さんさばずしなさいますしいろんなやり方がありますし私らよりかちょっと下の人から上の人も80でも90でもみんなものすごく元気でなさいます。
遠いようで近い京都の奥座敷。
皆さんを優しく迎えてくれます。
待て!おいちょっと待て!速いな。
おいちょっと待て!よ〜し捕まえた。
ハアッ。
口元のほくろが動かぬ証拠だ。
さあ観念しろ。
キツネ!?しかもほくろのキツネ。
だましたな!コ〜ン。
え…かかし?待て〜!廃炉に向けた作業が進む…2015/12/13(日) 23:00〜23:30
NHKEテレ1大阪
美の壺・選「京都の奥座敷」[字]
身近なテーマを中心に3つのツボでわかりやすく指南する美術番組。今回は「京の奥座敷」女ひとり大原、紅葉渓谷の高雄、美山でごちそう 案内役:草刈正雄 語り:木村多江
詳細情報
番組内容
秋の京都。今回は中心から離れて、「京の奥座敷」とも呼ばれる大原、高雄、美山に注目。左京区・大原に広がる仏の世界。ひとり静かに向き合う仏様の独特のたたずまいとは?仏典に節をつけて唱える麗しき声明も紹介。中世より京都の人の紅葉狩りの名所である右京区高雄では、山野の澄んだ空気の中で紅葉を味わう。さらに市街から2時間の美山町では、かやぶき屋根のふき替えから手作りのさばずしまで、隠れ里の暮らしに原風景を見る
出演者
【出演】草刈正雄,【語り】木村多江
ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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