(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(三遊亭小遊三)もうしばらくのご辛抱でございますんで。
世の中ってぇのは何かのきっかけでガラッと一遍に変わっちゃうっていう人と10年20年という歳月をジワジワジワジワかけて少しずつ少しずつ変わってって気が付いてみたら大きく変わってたとまぁいろいろあるようでございますけども寄席というのも気が付かないうちに変わりましたですね。
建物とかそれからやってる事はズ〜ッと同じなんですよ。
変わったのはお客様が変わりましてね。
ええ。
手前が前座の時分に平日の昼席なんてぇとお客様の数も少ないしそれから女の方というのはほとんどいなかったですね。
じゃあどういう人が平日の昼間客になってるかってぇと営業で行き詰まったセールスマンですよ。
(笑い)ええ。
でまぁ「もうどこへ行ってもしくじっちゃってしょうがない」と「喫茶店で油売ってると上司に見つかったりなんかするといけない」ってんで寄席へ逃げ込んでくるんですね。
背広着てネクタイした人がポツンポツンポツンポツンと。
もう目がうつろですからねええ行き詰まってるんですから。
そういうお客さんばっかりだったんですがこの節だんだんだんだん平日の昼間にお客様が来るようになって。
これどうしてそういう事になったかというと女の方が来るようになったからですね。
女の方の威力というのはすごいもんでございまして男ってぇのは寄席へ来ても戦力になんないんですよ。
(笑い)笑わないですからとにかくね。
(笑い)そりゃそうでね大の大人が噺家の小咄聞いてダハハハハなんて入れ歯ほき出しながら笑ってたりなんかしたら「ここの家は大丈夫かな?」って心配になりますんでね。
でそこいきますと女の方ってぇなぁねものを考えませんから。
あ〜いやいや…。
(笑い)あの〜感受性が豊かですからね…。
(笑い)感覚が鋭いというか面白ければド〜ンと笑って下さるんですよ。
もう女の方がいるだけでパッとね客席が明るくなる。
だから昔の寄席の客席と…。
今は女の方がねほとんど半分以上っていう日が随分とありますね。
ええ。
女の方ってぇなぁ一輪の花ですからねもう女性イコール一輪の花ですよ。
もう女でありさえすりゃ一輪の花ですからね。
(笑い)「あなたは男ですか?女ですか?あっごめんなさい。
男じゃなかったんですね」というような方でも一輪の花ですから。
(笑い)もう今日もこのニッショーホール女の方相当いらっしゃいますよね。
「東京落語会」女の方なんか来なかったもんですよ。
ここは女人禁制みたいな所だったんですから。
(笑い)それがこれだけいらっしゃるというんですからまぁ失礼ながら上から拝見させて頂きまして寄席の客席という雰囲気じゃございませんよ。
まるでお花畑を見るようなね。
(笑い)いろんな花が咲き乱れておりまして。
ダリアフリージアポインセチア。
チワワプードルブルドッグあっこれは犬ですか。
(笑い)まぁその間にペンペン草がチョンチョ〜ンといるというような非常にバランスの取れた客席でよろしゅうございますが。
まぁ寄席が終わって「ちょいと反省会でもやろうか」なんてね。
反省会ったってまぁ科白は決まってんですよ「どうだった?今日は」「あ〜今日は客が悪い」ってそれでお終いですから。
(笑い)大して反省する訳じゃない。
ただあとはもうパ〜パ〜言いながら飲んでるというね。
まぁちょいと酔っ払ったお客さんから「あっ噺家か〜。
いいな〜お前たちはな〜いい商売だよ。
何だか訳の分かんねえ事をパ〜パ〜言ってな〜おいなんとかなるんだから。
俺たちはお前勤務時間ってぇのがあってそれ働かないと月給もらえねえんだよ。
この間寄席へ行ったけど大勢出るよな〜。
ええ?あとからあとから。
あれ座布団の上へ座ってんのがお前たちの勤務時間だろ?いいよな〜一日15分か?」。
「冗談言っちゃいけませんよ13分ですよ」。
(笑い)「余計悪いじゃねえかこの野郎」なんて思いっきり言われる事があるんですがなかなかどうしてこれだけのお客様の前で座布団の上へ座って一席喋るってぇのは楽です。
(笑い)やっぱり楽ですね世間見渡してみてね。
この形は世間へ行くと休んでる形ですからねこれは。
世間で休んでる形が私たちの仕事中でございますんでそりゃまぁね楽といえば楽でございますがね。
まぁ同じ芸人でもいろいろと種類がございまして幇間というね…。
まぁ若い方は「幇間ってヘエ〜餡が入ってんの?」なんてな事をね言いますがこらぁまぁ昔は結構な商売だったようで噺家で飯が食えないそうすると幇間のほうへちょいと転向してで向こうでもって息をついてでまた噺家に戻るというそういう師匠連が何人かいらっしゃいましたですね私らの大先輩で。
で幇間になる時はおかみさんが機嫌がいいそうですよ。
そらぁもう身入りがいいからね。
お米の心配しなくて済むってんでね。
そのかわりもう自分で買う物は無かったそうですよ褌以外は。
あとは全部お客が買ってくれるってんですね。
そりゃまぁ身入りが良かった事は確かでございまして。
で戦後になってまた噺家に戻りたいってんで噺家に戻った途端にまたかみさんの機嫌が悪くなっちゃったなんてねそんな事を言っておりましたが。
まぁでもね大変な商売でございます幇間というのは。
そりゃまぁ私らはここで言いたい事言って裏から逃げりゃどうにでもなるんですがね〜そういう訳にいかない商売ですからね。
でこれを相手にするのが若旦那ってんですがね。
若旦那というのももう絶滅ですね…。
(笑い)若旦那ってぇのは。
いつぐらいまでですかね?若旦那なんてぇ言葉が平気でこう日常会話へ出てたのは。
あれあの〜もう50年ぐらい前ですかね加山雄三さんが「若大将シリーズ」という…。
これが当たりましてね私も随分と見ましたよ。
「若大将」というのはあの時代にもう既に若旦那ってぇのは古くさかったんでしょうね。
それで「やっぱり映画でやるんだから若旦那はいけないよ。
何か他に無いか」っつうんで多分若大将という言葉を考え出したと思うんでございますがね。
でも若旦那と若大将はこりゃもう違うんですよ。
というのは若旦那ってぇのはラグビーとかサッカーはやりませんこれは。
(笑い)ああいう汗まみれになったり泥だらけになったりするような事はね。
若旦那がやるまぁスポーツせいぜい卓球でしょう。
(笑い)ね?
(拍手)まぁあれは上品ですからね。
(笑い)まぁきれい事ですからまぁせいぜいそんなところでございますが。
まぁ落語のほうは幇間と若旦那というね。
幇間のほうもお座敷でお酒が入るんで陽気なほうがいいだろうってんでパ〜パ〜やるってぇと「うるせえなどうもあの幇間は。
ええ?私ゃ今日静かに飲みたいんだよ。
あいつがねヒイ〜ッてんで甲高い声出すってぇと刺身の色が変わっちゃうんだよ。
良くないねあれ。
うん。
もううるさいからね帰していいよ」なんてな事になる。
静かなほうがいいかってんでチマチマっとしてるってぇとお客様の科白ってぇのは決まってましてね「あいつはあれでも芸人かい?おい。
いやに陰気だねどうも。
この間噺家のお通夜へ行ったけどあっちのほうがよっぽど陽気だったよ。
冗談じゃない」。
(笑い)「座が湿っちまうよ帰しとくれ」ってな事になる。
ですからちょいと気の利いた幇間になるってぇと決してお客様に逆らわなかったそうで…。
「一八。
いい天気だな」。
「大将。
いい天気ですね〜。
こんないい天気10年に一遍あるかないかでしょう」。
「おい。
雲が出てきたよ」。
「出てきたね大将いい雲だ。
ご覧あの雲の上にのんちゃんがいるよ」。
「嘘をつきやがれ」。
(笑い)「今食った刺身うまかったな」。
「おいしかったね大将。
ええ?私あんなおいしいお刺身頂いた事ござんせんよ」。
「でもちょいと筋があったろう?」。
「筋だらけだったね今食った刺身は」。
(笑い)「ああ筋が無くったっていい歯へ挟まっちゃって食べにくいもん」。
「若えほうの板前生意気だったな」。
「生意気ですね大将。
私は大将の代わりに張り倒そうかと思ったよ」。
「でもかわいいとこもあったろう?」。
「かわいいったって…」。
(笑い)「体全体かわいいねあの若い板前は」。
「どっか行こうか?」。
「ええ。
行きましょうか?」。
「うんよそうか?」。
「やめちゃいましょう」なんてね。
まぁこういう奴と若旦那のかけ合わせというんで。
「どうもね遊びもあらかたやっちゃったよ。
うん。
食べ物だってそうですよあれを食べてこれを食べてないなんて物は無いんだ。
ね〜。
たまにゃねちょいと変わった味の物を食べてみたいね。
甘酸っぱいようなほろ苦いようなね青くさいような泥くさいようなヌルッとくるようなヌメッとくるようなさ何かそういう物は無いかね〜。
塩辛の餡かけ?グワッ」。
(笑い)「まずそうだねこれ。
ね〜?遊びだってね〜友達が見て『おやっ?そういう遊びがあったの?さすがだね』ってな事を言われたいじゃないか。
何か無いかね〜。
ああ〜この間ね〜親父が肩が凝ったなんたら横丁の鍼医さん呼んできて鍼打ってもらってたよ。
どんなもんかなと思ってちょいと覗いたんだ。
したらあの鍼が親父の背中へプスッといきゃがった。
『よしきたそのまんま心臓まで行け』と思ったら行かないねあれ」。
途中で止まるんだよ」。
(笑い)「プルルルルンなんてな事いってやがってええ?『うん大層楽になりました。
ありがとうございます』ってな事言ってたよ親父さ。
ヘエ〜あんな物で楽になるかね?面白そうじゃねえかちょいとやってみようかしら」ってんで金にあかして道具を揃える。
端のうちは壁ですとか畳打ってたんですが…。
「面白くないね壁とか畳ってなぁ。
何かもうちょいとこの弾力性のある物に打ちたいね。
何か無いかよおい。
あっそうだ使わなくなった空気枕アハハ〜あれやってみようか?うん」。
プスッ。
ファア〜ッ。
(笑い)「腫れはひくけれども面白くないね。
エエ〜鼻から息するもんたっていねえだろうな〜」。
ニャ〜オ。
「クククッいたよ鼻から息するやつが」。
ニャ〜オ。
「古くからいるんだウフッ。
ミケミケ。
おいでおいでおいでおいでおいでおいでおいでほらおいでおいでほらおいで。
おっ。
ヨシヨシヨシヨシよ〜しヨシヨシヨシ。
ハア〜ッお前は毛並みがいいね〜うん」。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。
ゴロゴロゴロゴロ。
「あらららららっおっそろしく喉が鳴るね〜こりゃ喘息ですよ」。
(笑い)「喉が鳴るのは喘息でしょう。
ね〜。
猫の喘息にゃ鍼が一番だ。
よ〜し今鍼打ってお前の喘息治してやるからな。
イ〜ヨッ」。
ニャ〜ウ。
「あ痛たたっ。
ア〜アッ手ひっ掻いて鍼背負って逃げちゃったね。
猫はいけませんね〜。
人間?人間たって打たせる奴はまさかいない…。
いましたねいました藤吉郎いましたいましたアハハ幇間の一八幇間の一八。
あいつはね私の顔を見るってぇと『へえ若旦那のためなら命も要りません。
たとえ火の中水の中』ってんだ。
火の中水の中へ飛び込もうって奴だ鍼の1本や2本どうって事はねえや。
よしあいつに決めた」ってんで決められたほうはいい面の皮だ。
これから馴染みのお茶屋へやって来るってぇと…。
「おかみ。
ちょいとね今日は一八とさしでもって話があるんだ。
うん。
誰も入ってこなくってもいいよ構わなくていい。
早いとこねすぐと一八呼んどくれ」。
「訳ありでございますか。
はいはい。
じゃあすぐに呼びますんで。
あの〜一八っつぁん呼んどくれすぐ来るようにって」。
「どうもおかみ。
ご機嫌よろしゅうございます」。
「おやまあ〜早かったじゃないの」。
「ど〜うも。
せんだって私ばかな酩酊を致しましてええ年ですね〜お酒が弱くなっちゃった。
明くる日二日酔いってんですか?もうあ〜往生しましたよエ〜エ〜。
いえいえ。
もうあれからこっちずっとお酒は控えとります。
ええ万事大丈夫で。
おやっ?板さ〜ん。
お前さん評判いいよ〜。
いや〜本当ですよ。
大きな声じゃ言えないがねここのお宅はお前さんの腕で保ってるってばかな評判ですよアハハ。
嘘じゃないってんですよ何を仰る兎さん本当に。
おやっ?お清どん。
相変わらずよく働くね〜。
人間働きゃいいってもんじゃないんですよ。
ね?骨を休めるって事を知らなくっちゃいけない。
骨は休めるもんですよ埋めちゃいけないんだからね。
いや全くの話がアハッ。
おやっおかみ。
まあ〜お宅がいいと猫までかわいい」。
「何を言ってんの。
猫を褒めてどうすんのよ。
あの〜伊勢屋の若旦那がお呼びですよ」。
「ウワッ」。
「伊勢屋の若旦那がお呼び」。
「ハハ〜ッ今朝の胸騒ぎはこれか」。
(笑い)「何?その胸騒ぎって。
大事なお客様でしょ?」。
「そりゃねおかみ大事なお客様には違いございませんよ。
ところがあの若旦那ちょいと洒落がきついんだよ。
この間だってそうですよ私にさんざっぱらお酒飲ましといて『さぁ一八この辺でコップと替われ』ってんですよ。
『若旦那。
堪忍して下さいもう私ここまでもうお酒浸かっちゃってんだからもう飲めませんから今夜は帰して下さい』ったって『駄目だ飲め』ってんですよ。
『本当に飲めません』って『飲め』『飲めません』『飲め』『飲めません』。
したらあの若旦那なる者が何をするのかなと思ったらス〜ッとね?懐へ手を突っ込んで金貨ですよあなた金貨ね?この金貨をコップのお酒ん中へサラッと入れたね。
『さぁ一八酒を飲んだら中の金貨をやるぞ』とこう仰るんですよ。
お銭がかかりゃこっちは商売ですから『左様ですか?へい。
それじゃ頂きます』ってんでこいつをキュ〜ッと飲んで中の金貨を取ろうと思ったらこれが足袋のこはぜだこれ」。
(笑い)「十文三分としっかり出てたよこれ。
ええ?ああそういういたずらをするんですよあの方てぇ者は。
いえいえいえ大丈夫でございますよ。
ええ。
私も商売でございますしくじるなんてぇ事はございません。
ええ?どちら?二階の萩の間?イヨッ心得てますよ。
ヘッヘエ〜ッしかしね〜合わないんだよとにかく。
すれ違っただけでジンマシンが出ちゃう。
ああ」。
(笑い)「もうああいう奴のねお座敷へ出るかと思うともうウ〜ンもうね『芸人やめちゃおうかな?』と思うんだよねあ〜嫌だ嫌だ。
二階の萩の間ここですよ。
ね?中に居るから悔しいね。
開けた途端に煙かなんかと一緒にフワ〜ッと居なくなって祝儀袋だけそこにあるとそういうような事にはならないのかね?全くね。
ア〜ア本当に何の因果かね?どうも若旦那。
あなたどうしてたんですよ?まあ〜。
方々散財して歩いてるってばかな噂ですよあなた。
いけませんよ〜。
いくらねお銭があるからって湯水の如く使っちゃ。
ええ?もう私あなたの家来ですからねあなたの傍を離れませんよ。
あなたのあとをズ〜ッとついて歩いてねあなたが無駄遣いしないようにお財布の紐かなんかキュッと締めちゃうから全くの話が。
あっそうだこの間湯河原へ連れてくってさ寝転しちゃってずるいぞ全く。
分かってますよ〜向こうでこういう者が待ってたんでしょ?だから私が邪魔になったってんで…。
何が?向こうじゃ〜麻雀して寝ちゃった?嘘だ〜あなた。
あなたねただ麻雀して寝ちゃうってそういうお方じゃありませんよ。
よく存じ上げておりますよ全く。
そりゃいやあなた麻雀お上手ですよ。
あなたの麻雀のお上手なのには驚いちゃったね〜。
ええ?夜明かしでもって麻雀やって科白が二言だ。
『ロン』『ツモ』これしか言わないんだから」。
(笑い)「これまた鮮やかなもんなんだけれど居たんですよこういうのが。
ええ?ええ。
夜中の2時頃『若旦那。
麻雀お終い?あらま〜そう。
じゃあ入ってもよろしくって?あ〜ら嫌だわよいきなりそんな所を触っちゃくすぐったいじゃありませんか』ってな事を言われたんだろ?この助平」。
(笑い)「うるさいよお前は」。
(笑い)「何なんだい?入ってくるなりパ〜パ〜パ〜パ〜。
余計な事を言わなくってもいいよ。
今日はねちょいとお前に頼みがあるんだが聞いてくれるかい?」。
「嫌だねあなた何てぇ口のきき方するんですよ。
私ゃあなたのためなら命も要らないんだよ。
ね?あなたが『寒中水ん中へ飛び込め』。
ニッコリ笑って飛び込むよ。
『一八。
火ん中へ飛び込め』。
飛び込みますよ。
『一八。
さぁここで1万円やるぞ』ったらもらうんだ私ゃね?」。
(笑い)「それを何ですよ『頼みがあるんだが聞いてくれるかい?』ってそういう他人行儀な口のきき方しちゃいけませんよ。
命令口調で言ってもらいたいな。
『一八。
あれをやれ。
これをやれ』。
やりますよ私ゃ。
でもできない事もありますよ。
『一八。
目で南京豆を噛め』ってこれはちょいとしょっぱい」。
「うるさいってんだお前は」。
(笑い)「まぁしかしそう言ってくれるってぇなぁありがたいね。
いや実はねこの節ちょいと凝ったものがあるんだ」。
「偉い偉いねあなた。
さぁそらぁそうですよあなたはいずれね大旦那になる方だ。
ね?いろいろと遊びをしとかないってぇと人の使い方が分からないってやつだ。
ね〜。
でもなんでござんしょ?また新規に何かやろうってんじゃないでしょ?まぁあらかたの遊びやってますからね若旦那はね。
え〜…。
ちょいと仰るな仰るなってんですよ。
家来が万事心得てますよ。
ね?え〜そうねうんア〜ッまたあの〜ゴルフでもやろうってぇの?まだみんながあんまりやってない時分に私はあなたのお供で行ったよ。
エヘッ何てんですか?こういうやつこう長いのええ?スナックじゃねえキャバレーじゃねえあっクラブ。
そうそうクラブクラブ」。
(笑い)「クラブでもって白い小さい球を張り倒すってんだ。
ね〜?で見てましたよ私ゃ。
したらあなたがポ〜ンとやったら球がそこにあってクラブが飛んでったよ。
シュ〜ッ」。
(笑い)「でこう芝生が平らになったらグリーンってんですか?ええお子様ランチの旗みてえのが立ってて。
ね?下に穴が開いてるってんでしょ?あの穴へ入れようってんだ。
入りますよそりゃ穴が開いてんだから。
それをあなたは偉いよあの穴入れないようにあっち打ったりこっち打ったり…」。
(笑い)「ひっ叩くぞコンチクショー」。
(笑い)「ゴルフなんざぁとうに飽きちゃったよ」。
「あらっ?飽きたから山形?あらまあ〜そう」。
(笑い)「ヘエ〜ゴルフじゃない。
ゴルフじゃないとなるとあ〜そう?馬?乗馬?ね?あなたがねヒラリと馬へまたがって人参ぶら下げて鞍馬天狗みてえな料簡になってパカパッパカパッパカパッパカパッパカパッってんでね?前に塀みたいなやつがある。
あれをあなたスポ〜ンと跳び越したね〜馬と別々に」。
(笑い)「じゃあ落っこったんじゃねえか」。
「あれ落っこったんですか?」。
「馬じゃないよ」。
「馬でないとなるとあ〜そう?球橦きビリヤード四つ球。
私ゃね随分凝ったんだあのビリヤードにゃ。
ね〜。
だけどあなたにゃ敵わないね。
あなたのキューの効くのには驚いちゃったよ。
ス〜ッと構えてコ〜ン。
コンコ〜ン。
行くね?またあなた。
ス〜ッ。
コ〜ン。
コンコ〜ン。
ンフフ。
ス〜ッ。
コ〜ン。
コンコ〜ン。
『さぁ今度は赤赤だ』なんてやってンフッコンコ〜ン。
『白赤だ』。
コンコ〜ン。
ンフッ。
『赤白だ』。
コンコ〜ン。
ンフッ。
4つの球みんな隅へ寄っちゃってあなた今度キューの形を変えたよ。
『今度はマッセだ』ってんでス〜ッと構えてポ〜ンとやって羅沙破いておばさんに怒られてたね」。
(笑い)「ろくな事を言わないね全く。
今時四つ球なんぞやってる奴はいないよ。
球撞きじゃないよ」。
「球撞きでない?ヘエ〜。
となるとホウ〜あっ野球?ね〜草野球。
いいねあれ。
ね〜。
朝早く起きてバット担いで…。
あなたなんざぁね脚が長いからまたユニフォームがよく似合うんだ。
ええ?土手の上から見てましたよあなた。
何てんですか?こういう四角い所へ入ってあなたがこのこういうの持ってさ〜ええ?バットかええ?あれ持ってでピッチャーってぇの?あれが第1球のモーションピャ〜って投げたけど打ちませんね奥ゆかしい。
ええ?」。
(笑い)「2球目も見送るよ。
3球目だって打ちませんよあなたね〜。
であのフォアボールってぇの選んであなた一塁へ滑り込んだ時のあの形の良さね」。
(笑い)「お前野球なんぞ知らねえんじゃないか。
フォアボールでもって一塁へ滑り込むかい」。
(笑い)「あれはけつまずいたんだい」。
「あっけつまずいたんですか」。
「お前には分からないよ私の凝ったものなんざ」。
「左様ですか?何です?」。
「鍼だ」。
「ええっ?はり?はりっはりっはり〜っ?はりとは気が付かないやこらぁ。
さすがだね若旦那。
裏をかいたねまた意表をついたね。
はり?ヘエ〜。
じゃあなんですか?宴会の席やなんぞで芸者衆の袂がほころびるってぇとあなたが『何?袂がほころびた?じゃあちょいとこっちぃ持っといで』ってな事を言ってあなたが…」。
(笑い)「私ゃ仕立て屋じゃないんだよお前」。
(笑い)「その針じゃないよ打つ鍼だ」。
「ヨオ〜ッ?打つ鍼ってぇとあのト〜ンといくやつ?チクリンチョンコリコリってあれですか?若旦那。
ヘエ〜エ私あの鍼大好きなんですよ」。
(笑い)「ちょいと肩が凝りましょう?ト〜ンと打ってもらうってぇとスッと楽になるね。
ヘエ〜じゃあなんですか?東京中の鍼医さんを一堂に呼んであなたが主催でもって鍼医さんのコンテストかなんか催そうってんですか?」。
「そうじゃないよ私が打つんだ」。
「ええっ?若旦那が御自らお打ちになる?ヘエ〜エッ。
芸者衆に?」。
「いや。
お前に打つんだ」。
「えっ?」。
(笑い)「私に?あなたあなたが私に鍼を打つ?また斬新な事考えたねまた」。
(笑い)「よしましょうよそれ。
それ陽気が良くないよそれ。
何…。
それ忘れましょう今の話ね?もっと他に世の中にためになるような事を考えましょうよ。
ね?東京オリンピックのエンブレムはどういうふうにしたらいいかとかそういう事を考えましょうよ」。
「アア〜ッ嫌なのか?お前。
さっき何つった?『若旦那のためならたとえ火の中水の中』そう言ったじゃないか。
だから私ゃ芸人ってぇなぁ嫌いだってんだ。
胆と口じゃ違うんだから。
いいよ別に。
幇間はお前一人じゃないんだから鍼一本につきご祝儀に羽織の一枚もつけるったら誰だって打たしてくれるんだい。
お前でなくていいよ。
帰っていいよ」。
「チョッチョッチョッチョッチョッチョッ」。
(笑い)「ちょいとあなた何ですよそういう物があなたつくんですか?なぜそれを先に仰らないんですよ。
私だってなにも『嫌だ〜』ってはっきり断った訳じゃないでしょ?嫌だけれども…」。
(笑い)「ね?私は『けれども』ってぇ言葉が好きでね家は先祖代々『けれども』が好きなんです。
家の事をね『けれども家の一族』ってんだからね」。
(笑い)「ええ嫌だけれども大好きな若旦那のためだ打たせますよ私ゃ。
そのかわりね1本2本じゃこじれったいから嫌ですよ。
10本ぐらいまとめてド〜ンと打って下さいな」。
「ホホ〜ン10本まとめて打っていいのか?」。
「よござんすよ。
そのかわり場所がありますよ。
場所限定ね?踵へ10本ってぇのはどうです?」。
「ばか野郎鍼踵に打つ奴があるかい」。
「じゃあね手の甲。
こいつねこうツネツネを致しまして富士山の形を作りますこっちが静岡こっちが山梨ね?でここグ〜ッとこういきますからねこの一番薄い所横へ2本スウ〜ってぇのはどうです?」。
「ウ〜ン鰻じゃないよお前」。
「どこへ打つんです?」。
「腹だよ」。
「は…腹はよしましょうよ。
ここは。
背中まで大切なもんがいっぱい詰まってんですよ?これ。
こここれ…」。
「あ〜そう?ヘエ〜いい芸人になったね〜羽織も要らなきゃ祝儀も要らない。
いいよ別に帰って」。
「そ…。
あなたその皮肉な事言っちゃいけませんよ。
分かりましたよ〜打たせますよ打たせりゃいいんでしょ?でもなんでしょ?もう方々でお打ちになってんでしょ?そりゃそうですよ。
ええ?壁に枕?」。
(笑い)「フフフいや鼻から息するもんにお打ちになってんでしょう。
猫?」。
(笑い)「じゃあなんですか?あなた猫からいきなり私なんですか?猫と私の間には親戚も大勢いるこった…」。
(笑い)「余命いくばくもない伯父さんか伯母さん1人や2人いそうなもんじゃないの」。
(笑い)「ええ?大丈夫?」。
「大丈夫だよ。
いいから腹出しな」。
「分かりましたよ。
ええ?私だってね芸人してたって男だ。
ね?鍼の1本や2本どうって事ねえやハア〜ッ。
しかし昨晩の夢見が悪かったかな〜?」。
(笑い)「豚にへそなめられてる夢だ」。
(笑い)「何をくだらない事を言ってんだよ。
早く腹出しな」。
「分かりましたよ。
よし覚悟しちゃったぃ商売商売。
よし。
さぁさぁ打っつ下さい。
お打ちなさいな。
さあ〜ベンチ声出してこうぜ」。
「おい。
高校野球じゃないんだからな」。
(笑い)「お前は病人なんだから唸んなさいよ」。
「よくそういう細かいとこへ気が回るねまた。
ばかばかしい唸るんですか?エヘッじゃあ唸りますよ。
ウワ〜苦しいウワア〜苦しい。
『一八。
どこが苦しいんだ?』って聞かれても弱るけれどもおつきあいで苦しいな」。
「そんな唸り方があるかよ。
真面目に唸んな」。
「唸りますよ。
ウワ〜苦しいムムム〜苦しい」。
あっあっ…」。
「ハハ〜いやこりゃだいぶオホンお困りのようですな」。
「気取っちゃ嫌だよそんなとこであなた」。
(笑い)「花道の七三じゃあるまいし。
早いとこお願いしますよ。
ね?さぁ商売商売さぁくるかな?オ〜ットオラッどうだ?あらっ?おやっ?何だ若旦那あなた猫からいきなり私だなんて脅かしといて方々でお打ちになってますよ。
手つきがいいもん痛くもなんともない。
うん。
これなら大丈夫。
やってるかやってないか分かんないもん。
ええ?まだやってない?早くやって下さいよあなた」。
(笑い)「いつまでも他人のお腹なで回してちゃ嫌だって。
いや〜くすぐってぇなどうも。
おへそおへそそこはおへそですよ〜。
へそん中へ指突っ込んでかき回しちゃ駄目だってぇのそれ。
今プチッっつったけどどうしたの?『お前のへそのゴマ取った』?駄目だよこのゴマ取っちゃ。
これ乾物屋で売ってないんだ替えがきかないんだから。
頼みますよ本当に。
イヨ〜ッとくるかな?そうだ。
どうだ?ね?ご祝儀ご祝儀。
ほらっイヨ〜ッうん?アハン。
ちょっとちょっと若旦那駄目だよ。
それちょっと痛い痛い駄目駄目駄目痛い痛い痛い痛いよ若旦那痛いっ」。
「ばかだねお前は動くんじゃないよ。
ほ〜ら見ろ鍼が折れた」。
「は…」。
(笑い)「鍼が折れたってあなたどうしてくれるんです?」。
「いや落ち着け落ち着け脇へ迎え鍼ってぇの打つてぇとス〜ッと迎えるから」。
「あなたそれ本当に迎えて下さいよ〜。
勢いつけて送り込んじゃっちゃ嫌だよ私ゃ。
ハア〜ッお迎えお迎えお迎え。
駄目駄目駄目駄目それも痛いそれも痛い痛い痛いっ痛いよ」。
「ばかだな動くんじゃないってんだよ。
ほ〜らまた折れた」。
「また折れた?」。
(笑い)「どうしてくれるんですよ?」。
「知らねえや。
あとは医者に診てもらいな。
あばよ千葉よだ」。
「千葉よじゃないチキショーメバ」。
「どうしたの?一八さん大きな声を出して。
あらっ嫌だまあ〜お腹から血を出して」。
「おかみ。
見つ下さいな。
若旦那が鍼を打たせろってんでこの始末」。
「ばかだねお前素人にそんな物打たせて。
でもお前もこの界隈じゃちったぁ鳴らした幇間だろ?いくらかにはなったんだろうね?」。
「いいえ。
皮が破れて鳴りませんでした」。
(拍手)2015/12/13(日) 14:00〜14:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 落語「たいこ腹」[解][字]
落語「たいこ腹」▽三遊亭小遊三▽第675回東京落語会
詳細情報
番組内容
落語「たいこ腹」▽三遊亭小遊三▽第675回東京落語会
出演者
【出演】三遊亭小遊三
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
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