【サンフレッチェ広島が証明したこと】サンフレッチェ広島対リーベル・プレート
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マッチレポ2015×Jリーグ
サンフレッチェ広島は、怪我人が多発。チャンピオンシップから続く連戦で、疲労も限界。日程に文句を言いたい気持ちはわかる。でも、開催国枠からの出場なので仕方ない。もちろん、チャンピオンシップなんていらんかったんや!という指摘もよくわかる。でも、決まったことは仕方ない。疲労困憊で挑むリーベル・プレート。しかし、世界の強豪を相手にすれば、自然と身体も動きそうな予感。しかし、その後の反動は凄まじいものがありそうだけど。
トヨタカップ的な感覚でいうと、リーベル・プレートは久々の来日。といっても、今夏にスルガ銀行杯でガンバ大阪をやっつけたばかりであった。トヨタカップを思い出すと、フランチェスコリがいたころの記憶はある。そのあとはボカ、ボカ、ボカとボカ祭りが続いていたような。有名どころでいえば、サビオラとルチョ・ゴンサレス。ポンシオもサラゴサで見た記憶がある。監督はあのガジャルド。そして、アイマールも観戦に来ているらしい。
■リーベル・プレートのミシャ式対策その1
最初にサンフレッチェ広島のボール保持へのリーベル・プレートの対策を見ていく。
サンフレッチェ広島のボール保持は4-1-5で行われる。平たく説明すると、5トップに気を取られると、ビルドアップ隊の4-1への対策がおろそかになるという罠がある。
リーベル・プレートは4-3-1-2で対抗した。ただし、インサイドハーフの役割がかなり興味深かった。
1列目のツートップは、サンフレッチェ広島のセンターバック(森崎と千葉)に対応する。林に戻せば、林まで躊躇なくプレッシングをかける現象が見られた。森崎和幸の運ぶドリブルが厄介なサンフレッチェ広島のセンターバックコンビに、時間とスペースを与えない狙いを見せたリーベル・プレート。ビルドアップの出発点を潰すことによって、5トップに対するずれを使わせる前にしとめる目的が見える。
2列目のトップ下とインサイドハーフは、青山と中間ポジション(ボールサイドのサイドバックと青山を結んだ中間)に位置していた。例えば、森崎和幸がボールを持っていると、ピスクリチが青山、サンチェスは佐々木にボールが出たらすぐにプレッシングをかけられる位置にいながら、茶島へのパスコースをきっていた。逆サイド(塩谷)の場合は、ポンシオが出てくることもあれば出てこないこともあった。基本的にはサンチェスが前、ポンシオが後ろ。ボールサイドの位置に応じて、サンチェスとピスクリチが横にスライドしながら青山とサイドバックに対応していた。
2人で横幅をスライドできるわけはない。つまり、それを可能にしているのが1列目のプレッシング。千葉と森崎和幸に時間とスペースがあれば、2列目のスライドは体力の浪費に繋がる。マンマークのようにプレッシングを浴びれば、時間とスペースはなくなる。そうなれば、蹴るしかないわけで、林が蹴っ飛ばしたり、ビルドアップ隊が蹴っ飛ばす場面が多かった。サンフレッチェ広島からしてもこれは予想通りだったようで、そのために前線に皆川が起用されている。
3列目のマスチェラーノ二世とインサイドハーフの片割れは、ツーシャドウについていた。インサイドハーフは幅広く動き回ることが求められていたが、マスチェラーノ二世はかつてのガゴのように、中央にポジショニングしていた。こういう選手がアルゼンチンからは定期的に出てくる印象がある。
4列目のディフェンスラインで、サンフレッチェ広島のウイングバックとワントップを観る。柏と清水への対応はサイドバックと中盤の選手のヘルプで対応。複数を用意することで、突破されてからのクロスはほとんどなかった。
■リーベル・プレートのミシャ式対策その2
上記のようなリーベル・プレートの準備によって、サンフレッチェ広島はボールを上手く保持することができなかった。最初の15分間は地獄のような時間だったかもしれない。しかし、サンフレッチェ広島は地獄を快適に過ごすだけの守備を持っている。次に、サンフレッチェ広島の5-4-1に対するリーベル・プレートを見ていく。
サンフレッチェ広島のボールを保持していないときのシステムは、5-4-1。自陣に撤退してカウンターのチャンスを虎視眈々と狙うことが特徴だ。5-4-1だと後ろに重たくてカウンターができなそうだが、ワントップのポスト力、ツーシャドウとウイングバックの走力、そして青山の展開力と、役者は揃っている。また、カウンターができないときは、後方部隊の尋常でないビルドアップ力によって、攻守の展開をリセットすることもできる。それらの能力が5-4-1の守備でも攻撃に可能性を与えている。よって、自陣に撤退守備が可能となっている。
サンフレッチェ広島対策として、青山と森崎和幸を引きずり出す。そして、2列目と3列目の間のスペースを有効利用するというものがある。しかし、これは一つの罠。サンフレッチェ広島は人海戦術を利用した撃退守備(ライン間でボールを受ける動きをセンターバックが持ち場を離れて潰しに行く)からのボール奪取→引き出された森崎和幸と青山経由でカウンターを仕掛けることを得意としている。
攻守は一体であるとすれば、リーベル・プレートからすれば攻撃しながらサンフレッチェ広島のカウンターもどうにかしたい。というわけで、リーベル・プレートのシステムは4-2-2-2となった。ビルドアップでは低い位置にいるサンチェスだが気がつけば前線に走っていく。
ツートップの役割は、サンフレッチェ広島のセンターバックのピン留め。ピン留めとは守備の基準点を準備することによって、他の選手(ライン間で活動する選手)への対応を許さないもの。また、ワントップと異なり、ツートップではかなり自由に両者の役割が入れ替わる。中央に居座る必要もないので、色々な場所に現れることができる。そして、相手の守備の基準点を荒らすことに繋がる。守備の基準点とは、平たくいうと、マークすべき対象である。
トップ下のピスクリチは、ライン間で活動する。また、ブロックの外に出てくることによって、列の枚数の調整を行う。ブロックの外に出る動きによって、青山たちをつりたい。さらに、中盤の横の枚数を増やすことで、守備の基準点が増える。青山たちにプレッシングをかけにくくする狙いがある。そして、サンチェスもどんどん中に入っていく。ピン留めが成功すれば撃退守備も厳しくなる。撃退守備が機能しなければ、サンフレッチェ広島のカウンターの機会は減るという設計になっている。
試合の流れを振り返ると、15分まではリーベル・プレートが自分たちの自己紹介を上手くすませた印象を受けた。サンフレッチェ広島はそれを悲しい目でただただ立ち尽くす。しかし、Jリーグでも見せていた守備で耐え忍ぶ。自分たちのミスで試合を壊さないように。時間がたてば、サンフレッチェ広島も時間とスペースを得るようになっていく。それはほんの僅かなんだけれども、サンフレッチェ広島にとっては十分な時間だった。
■裏へのロングボール大作戦
サンフレッチェ広島の奇襲は塩谷から始まった。
塩谷のロングボールに抜け出したのは皆川。ロングボールと前線からの推進力で期待されていただろう皆川。走る走る。そして、リーベル・プレートのキーパーが前に出ることを得意としていないことを知る。恐らくスカウティングを実際に試したのだろう。その実感はその後も繰り返される。前に潰すのは強いリーベル・プレートの選手たちだが、センターバックはスピードに弱いようだった。それだったら最初から浅野を使えばよかったのに、と思わないでもないが、皆川の高さを考慮するとセットプレーで必要になってくる。だったら、シャドウで皆川を使えばいいじゃないかとなりそうだが、シャドウで機能するかはわからん。
また、相手は中央から来るなら中央へのパスコースを制限しろというわけで、サンフレッチェ広島のシャドウは中よりにポジショニングするようになる。すると、リーベル・プレートは外外(サイドバック→サイドに流れたインサイドハーフかツートップ)という形が増えていくのは凄い。対応力半端ない。しかし、中央から攻略されるよりは遥かにマシなので、サンフレッチェ広島は守備でも相手になれる時間を手に入れていく。海外勢との戦い、未知との遭遇で大切なことは、相手のレベルに自分たちを適応させていくこと、そしてその時間をかせぐことだったりする。
サンフレッチェ広島は裏への放り込みとスピードを活かした攻撃でチャンスを作っていく。キーパーが出てこないんだと。だったら、それを続ければいい。というわけで、皆川に2つのビックチャンス。そして皆川経由で茶島が抜けだした場面と得点が生まれてもおかしくない場面が作ることができた。たぶん、狙いどおりだったのではないかと思う。狙いどおりをちゃんと実現できることは凄いこと。
リーベル・プレートもサンフレッチェ広島のカウンター機会、ボール保持機会を減らしながら、自分たちの攻撃を仕掛け続けていた。しかし、人海戦術に苦しむ。よって、遠いエリアからのシュートが増えて、そこは林にすべてを託しているサンフレッチェ広島にとっては計算内の攻撃に終わっていたと思う。
■困ったときの、セットプレーと相手のミス
後半になると、リーベル・プレートの守備が少し分断し始める。前から追いたいけど、裏も怖い的な。よって、ちょっとおとなしくなる。おとなしくなった代わりに、サンフレッチェ広島もボールを持てなくなかったのだが、青山を完全に消されることとなった。さらに、攻撃面では青山たちの裏で受ける→フリックでそらすなどの攻撃を何度も試みていた。
嫌らしいリーベル・プレートにサンフレッチェ広島はウイングバックの特攻をちょっと諦める。これは勝てないと。よって、ウイングバックの動きで相手のサイドバックをつり、裏にドウグラスを走らせる形でカウンターを狙う。しかし、ドウグラスがブレーキ。実は結果のわりにそこまで技術力があるわけでもないドウグラス。しかも、疲れてきているとなれば、なかなか厳しい状況だったのだろう。茶島も裏に走っていた。これだったら浅野で良さそうな予感。
そして両者は動く。サンフレッチェ広島は、皆川→浅野と柏→ミキッチ。ミキッチならなんとかしてくれると思ったが、やっぱり無理だった。ミキッチのボールの持ち方に対する守備者の立つ位置が素敵だった。
リーベル・プレートはルチョ・ゴンサレスとビウデスが登場。基本的にやり方に変更はなし。後半になって、各々が無理をし始めてそれが機能していくのは流石だった。ボールのキープとかパスコースの創出を、ボール保持者がボールをキープしながら強引にやってしまうのはなかなかの恐怖であった。
そして試合が動いたのはセットプレー。まず、塩谷が相手と交錯して倒れるが笛はなし。その選手のクロスが渡り、林が止めに行くが林の前で折り返されてしまう。そしてこれをアラリオが押し込んで先制に成功する。塩谷が倒れたから林が飛び出したのかどうかは気になる。
残りはだいたい15分。リーベル・プレートはまた気力がましたようで、高い位置からの守備を復活させる。試合の終わらせ方。ボールを奪ったら失わないようにファウルをもらうようなプレーを繰り返していく。すきあらばゴールも狙う。ボールを保持して試合を終わらせるというのが一般的になりつつあるが、もともとはこういうものだったよなと感心する。サンフレッチェ広島はエースの寿人を試合に出すが、チャンスもなく試合を終えることとなった。
■ひとりごと
正直言って、スルガ銀行杯のリーベル・プレートのほうが衝撃的だった。そういう意味で、ガンバ大阪対マンチェスター・ユナイテッド、浦和レッズ対ミランとくらべても、勝つチャンスは大きかったと思う。疲労などを考慮したこの状態で、サンフレッチェ広島のできることを愚直にこなして決定機も作りましたけど、負けてしまいましたというのは評価すべき試合だったのではないかと。
相手のほうが個の能力が高い。相手のほうがフィジカルが強い。足が速い。だったら、試合の結果は火を見るよりも明らかなのかというと、そんなことがないのがサッカーだ。そのことをサンフレッチェ広島はほとんど証明しかけたが、あと一歩で勝利に届かなかった。もちろん、リーベル・プレートから学ぶことは多いし、学べばよりレベルアップするだろう。しかし、それだけの差、相手がリスペクトしてきてくれたことがあったとしても、普通にもうちょっとで勝てたねという試合をできたことはすごかったと思う。というわけで、3位決定戦も頑張れ。
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