(ナレーション)この夏日本から1人の職人がパリに向かいました。
かつて海を渡ったたくさんの浮世絵。
江戸時代の貴重な作品がパリには数多く残されています。
(竹中)すっごいな。
(ビトゥーゼフランス語)歌麿の版木であればうちの父が何枚かすっていると。
ほんなら僕もそれをすりたいなぁという。
浮世絵の版木をする摺師の竹中健司さん。
二十歳で父親に弟子入りしました。
浮世絵は江戸時代に成立した色をすり重ねた木版画で比較的安く手に入ったことから庶民の間で人気を呼びました。
京都の大通りを少し入った所にその工房はあります。
竹笹堂。
明治から続く木版印刷の老舗です。
当代5代目の竹中健司さんがすっているのは「いまうきよえ」。
現代の美人画浮世絵です。
浮世絵は絵師彫師摺師の共同作業で作ります。
今回の絵師は…。
大手企業の広告なども手がける人気イラストレーターです。
彫師は絵師が描いた絵の写しを版木に貼り付け絵柄の線を小刀で起こします。
輪郭だけ彫られた版木を……といいます。
摺師は竹中さん。
この道25年竹笹堂の社長です。
輪郭は墨でするものですが今回は赤の絵の具でイメージを形にしました。
紙の角と端を……という印に合わせます。
これだけでええよなもう。
(野嶋)そうですねははははっ。
いやいや彫りもお見事でした。
…は輪郭を彫った骨板の他に色ずり用の板が必要です。
色の数だけ別の板に彫ります。
竹笹堂の昼食は若手の職人たちが用意します。
わかれへんことある?大規?
(永井)はい。
わかれへんことある?
(永井)クックパッドで調べてるのでとりあえずは大丈夫ですが。
クックパッド先生大丈夫ですね?
(永井)クックパッド先生僕信頼してますので。
わかりました。
(清八)こう切ったら自分の手ここへこう持っていく。
手…指こうして猫にして。
竹中さんの父親で4代目の清八さん。
孫弟子の包丁さばきが気になります。
この日は手ごねずしです。
食べよ。
いただきま〜す。
お昼は全員が集います。
おいしいよ。
ちゃうちゃうはまぐりや。
豪快。
ほんまやな。
伝統のもの作りに引かれた若者が集まり社員は10人まで増えました。
竹中さんはパリで歌麿の作品と伝えられている版木をするために許可を申請していました。
何かいろいろ言うてますがありがとうございます。
すいませんお願いします。
付けて。
でこう付けたら1置く。
でめくるとこういうふうに出てくると。
こういう感じです。
フランス国立図書館は版木をすることで文化財としての価値が損なわれることを懸念し彼女に調査を依頼しました。
(メルツフランス語)美人画で知られる…。
…は上半身を大きく描く大首絵を画風に取り入れ多くの作品を世に出しました。
しかし残っている版木は4点だけです。
…にある歌麿館。
ここには歌麿のオリジナルの版木が2点あります。
歌麿のオリジナルの版木もう1点は鳥取にあり残る1点はアメリカのボストン美術館が所蔵しています。
竹中さんの父清八さんだけが国内の歌麿の版木3点全てをすりました。
前見たときとちょっと感じがちゃいます。
甘ぁ見てたなぁははっ。
前見たときは甘ぁ見てました。
すれるわ!みたいな感じで思てましたけど。
職人歴65年の80歳。
竹中さんの師匠です。
ここ殺してしもたんや…。
えっ今僕攻められたん?これ。
そうですな単なる印刷物ですな私から言わしたら…僕のまあ…なんで。
あんまりそういう画家さんの…先生の作らはった何に対してあらしまへんな興味は。
1回でもうわさ…あいつはあかんで手抜きしてお金に走ったとかいうこと言われんのはもう絶対嫌やさかいね。
これも惜しかったな。
反対やったな。
京都に息づくさまざまな色彩。
竹中さんは赤の発色で悩んでいました。
う〜んどうしようかな。
イメージどおりの色が出ません。
どっち入れよ?もうちょっと赤みが欲しい。
あっでもろこれじゃないねんけどベースこれ引いたら出なくなってそれで今これぐらいの色出してね。
で黄色出てくるやん。
でこれなってるやんか。
うん。
白とそこはレッド入れて。
うん。
白は入れんほうがええのんちゃう。
白入ってへんほう…。
いらないってこと?いらん。
了解。
さすがやな。
ははははっ。
めっちゃきれい。
ははははっ。
神様清八様。
何何?何だって?ははははっ。
暑ぅ〜。
おはようございます。
(カンバラ)おはようございます。
出来とります。
おっ。
いい感じでしょ?いい感じやん。
はい。
へぇ〜ふ〜ん。
いいのが出来ました。
へぇ〜夕焼けっぽい。
秋っぽいね。
秋なんだ?うん秋に出すのにちょうど良くなったね。
もうでも自分の絵じゃなくなってるんです渡した時点で。
はははっ。
私の絵ですけど一緒に作った絵になってるので。
楽しいんですけどね。
自分の絵の世界で終わってないので。
その人の熱意やら思いがみんな入ってくるので面白いなと思いますけど。
1人でやってないのがね。
6年前にパリで浮世絵の版木に出合いました。
版木をする許可が出た国立図書館に向かいます。
Bonjour.フランス国立図書館は17世紀から20世紀までの浮世絵およそ3,000点を所蔵しています。
竹中さんは歌麿の作品を見せてもらいました。
19世紀中頃のフランスでは浮世絵を見た画家たちに日本ブームが広がりました。
20世紀初めに活躍したフランス人の木版画家プロスペール=アルフォンス・イザアクの作品です。
イザアクも浮世絵の魅力に引かれた1人です。
彼は日本人の版画家に手ほどきを受け浮世絵版画の第一人者になりました。
美術専門誌に日本技法による木版画という記事を寄稿しています。
記事では水彩木版を使っての色ずりや道具などについて詳しく書きました。
およそ100年前にイザアクは竹中さんが出合った浮世絵の版木をすっています。
父が歌麿のオリジナルをすってほいでええなぁと思ったことがやっと僕もすれるようになったんやなというのがちょっとそこがうれしいかなと思います。
全然若いときすらせてもらえへんかったのにやっとこれ回ってきたんやっていうのんでそれがすごいうれしいです。
何ですかねすぐ近づいた気がしたんですがやればやるほど遠ざかっていくというのが今の答えですね。
理由はわからないです。
何かやっぱ違うんやなっていう。
(フランス語)すごいですね。
すごいな。
(フランス語)そうか。
すごいな。
この日のために越前和紙を持ってきました。
和紙を水でぬらして墨を入りやすくします。
文化財として保管されている浮世絵の版木が運ばれてきました。
彫られていたのは着物姿の女性。
美人画で有名な江戸時代の浮世絵師喜多川歌麿の作品だと伝えられています。
竹中さんは100年以上すられていない版木に水を含ませました。
版木を傷めないためです。
名前が削ってありますね。
ここにちょっと削られた跡が。
理由はここだけ色が薄い。
他黒いでしょ?ということはここにもしかしたら文字があって誰かが削らはったかもしれない跡が残ってるんです。
(通訳フランス語)
(フランス語)
(通訳)よくあることなんですか?いやないと思います。
ここも触ってる…。
黒がず〜っと付いてるところから削ったっていうことは蓄積してないっていうことなんで。
ここが明るいということは。
この版木にはあるはずの歌麿の名前が刻まれていません。
パリの版木に墨の柔らかな輝きが宿りました。
和紙に染み込んでいく女性の姿。
江戸時代の美人の姿がよみがえりました。
(セルバックフランス語)竹中さんはこの絵を京都に持ち帰り色彩を加える予定です。
(シュルエルメルフランス語)めちゃめちゃすりやすい版木ですったというよりもすらしてもうたみたいな版木でした。
いい版木やったなと思います。
とりあえずは5枚のうちの1枚を僕がすれたということに対してすごい感動を覚えます。
やった!っていう感じです。
でこれすってきた。
ここに文字が入ってんの削り取られててんやんか。
竹中さんは大学の研究者と組んで木版画の制作で失われてきた伝統技術の復元を目指しています。
ただすってみると削り取ったりね黒の墨が取れてるから…。
この日はパリで浮世絵の版木をすったことを報告しました。
普通入ってるやろ名前が。
落款が入りますね。
そうそうそれが取られてるのがちょっと不思議かなという。
ちなみに歌麿じゃない可能性は大いにありますか?僕の…絵的な感じでいうたら歌麿やと思うねんけど。
歌麿的ですけど。
やんな。
(金子)私後もう1個絵ですごい気になってることがあるんですけど。
これ巻物でしょ。
巻子でしょ。
巻子って開いていったらこうですよ。
こっちからこっちに開いていくもんなんで普通は巻軸がこっちにないといけない。
それが逆になってるのが絵として何の意味があるんだろうかということがとても気になってるんです。
・逆なんですか?これ。
逆ですね。
巻物の向きがこうだったらわかるんですね。
ここ……でこっちにこう巻いていってこっちこう巻いていって。
これぐらいの幅で開くもんなんだと思うんですけど絵は逆なんですよね。
(金子)単純なミスとは思えないので。
お願いします。
何版出てきた?うん?30枚…。
同じもんを?うん。
あっそうか。
ふ〜ん割としっかりしてるな。
うん。
ふ〜ん。
上がけっこうね何か雑いねんなぁ。
何でやろな?何か面白い図が描いてあるんか?ここ。
わからへんねん。
あっないの?うん。
骨だけしかなかったん?そうそう。
またはめ込まなしゃあないな。
今考えてまんねん…ははははっ。
あっそう。
いやしっかりしてるやん。
やっぱ保存がええな。
(清八)汚さんうちに返しとくわ。
うん。
(清八)はい。
届かへんわ。
(清八)そんだけすってきたら大したもんやな。
(ヴァルスフランス語)この日京都で現代アートの祭典「白夜祭」が開かれました。
・ありがとうございます。
・竹中さんご案内こちらで。
それではこちらのほうでですね浮世絵…。
フランスのヴァルス首相にパリですった浮世絵の版画を手渡します。
(門川)首相に飾っていただきたい。
(ヴァルス)Mercibeaucoup.アリガトウ。
(拍手)歌麿。
有名な歌麿でございます。
(通訳フランス語)Mercibeaucoup.緊張した。
握手…はははっ。
フランス国立図書館が歌麿の作品として所蔵している版木の謎。
歌麿の名前が刻まれていません。
頭の上の巻物が逆向きです。
浮世絵が専門です。
竹中さんは打ち合わせに来た横谷さんにパリですった浮世絵の版画を見てもらいました。
これでした。
これが歌麿の…あった版木。
(横谷)はい。
大首絵だ。
はい。
へぇ〜。
ふんふん。
ふ〜ん。
板はすごい状態良かったです。
はい。
ですってはったんが100年前にフランスの人がすらはったらしいんですけどもそのフランスの人はえ〜っと…何やったっけな忘れたな。
骨板やのに歌麿の落款もないん?そうなんですよ。
何かこれ模刻なんちゃうんかな。
模刻版はでもあんまり見たことないなぁ。
どっかにあるんですかね?またそれはそれで。
(横谷)う〜ん版木自体はね。
もしかしたら外国人用にもっといろいろ情報量多い解説を入れたかったんかもしれない。
いずれにしろオリジナルの歌麿ではありえへん。
うん。
うん。
多分模刻でほぼ間違いなさそう。
(横谷)現地行ってジャッジしてみたいですけど。
偽もんとかほんまもんとかそういう言葉じゃなくてフランスに100年ほどいた日本人の女性を僕が勝手にすって持って帰ってきたわけですから。
その彼女をちょっと偽もんやほんまもんやっていうふうにさらしてしまったっていうのがちょっと恥ずかしいので。
まあそれはちょっと別としてこの人きれいに復刻して仕上げようかなという気持ちだけは決まったかな。
まあもちろん決めてたんやけども更にちょっとしっかりやろうかなということで思ってます。
竹中さんは浮世絵研究の権威大和文華館の浅野秀剛館長を訪ねました。
あぁそんな版木があんねやなと思ってうちの父がこの間何枚かすらしてもらってるのがあってほんならこれ歌麿の版木ちゃうかみたいなことで。
でお話いうててする機会を得たので行ってきたんです。
(浅野)歌麿の時代の歌麿様式であることはまあもちろん言えると思うんですけど歌麿その人の版木かっていうことについては歌麿が下絵を描いた版木そのものかということについて言えばまあストレートにはいかないというふうに思ってるんですけど。
この目と頬線のバランスが典型的な歌麿の作品とは少しずれるんです。
ずれるんですか。
(浅野)ええ。
歌麿じゃないと現時点で断言できるかっていうとそこまでの根拠自信もないと。
ですからパリは間違えているというふうなところまで申し上げるつもりは全くありません。
詳細な報告はないみたいで。
あっそうですか。
(浅野)幕末のはね今言ったように大量にあるのであれはあれでだいぶ…。
竹中さん以外はいつもの工房でした。
紫な紫きれいな。
(清八)そやけどどっちか言うたら派手な方がええのちがう?ど派手なことはせんかってええけどちょっと派手めなほうが僕は好きやけど。
古着着てるみたいなってまうし。
芸者は絶対古着着ぃひんし。
売れっ子スターやったら…。
昔からそれでようもめてるけどなぁ。
僕はどっちか言うたら派手めがええ。
みんな違う言いよる。
古着着せるんかいうてははっ。
どない言うたらええんな私のほな今まですってきた…頭に入りきってるさかい何より決まった絵になってしまいますわな私が言うたら。
そやからいらんこと言わんほうがええんやと思てまんねや私は。
だから一応やるだけやれ!と黙ってやるだけやって後で文句言うたらあかん?はははっ。
パリですった浮世絵に色ずりを加える竹中さん。
微妙に色ずりの位置が合いません。
今んとこOKですね。
ちょっとうれしい。
父清八さんがすった孔雀明王像が所蔵されています。
もう見せるしかないっていうことですよね技術を。
技術っちゅうかやったことを。
でかいですね。
父が1,340回色を重ねた孔雀明王像。
父清八さんが孔雀明王像をすったのは24年前。
竹中さんが弟子入りした頃でした。
お先でございます。
ごめんやす。
(野嶋)お疲れさまです。
さいなら。
お気を付けて。
おおきに。
なっ合わんやろ?ふと迷いが消えました。
大人にならはりましたね。
大人になっちゃったね。
うんいいっす。
てじな〜にゃ。
出来ました。
これが骨ででカラー版がこんな感じ。
合うてるやろ?毛割のとこ。
うん。
ええわ。
まあそこまでが答えで今回は。
ようやりました上等です。
精魂込めて作り上げるっちゅうのが入ってますのでね。
一色ずりであろうが百色ずりであろうが千色ずりであろうがねもう一生懸命やりますので。
歌麿さんっていうたら歌麿さんかっていうだけのことですので。
(清八)ようやったなせやけど。
私が作って精魂込めてるうちは私がほんまもんやな……で買わはってくれはった人が買わはった人がほんまもんとして買うてくれはるわけやな。
そういうこっちゃな。
ひょっとしたらこの人があんたんとこへお礼に来はるかもわからんぞ。
それちょっと怖いようなうれしいような…はははっ。
ドキッとしたで。
(清八)横にさぁ〜!と座ってさおにいさんありがとう…ははははっ。
うれしいような。
「うれしい」はははっ。
ははははっ。
京の摺師が色を重ねた浮世絵は再びパリに渡ります。
2015/12/13(日) 01:35〜02:30
関西テレビ1
ザ・ドキュメント 京の摺師〜パリに渡った浮世絵〜[字]
散逸した浮世絵の復刻を目指す京都の木版画作家を4Kカメラで取材
詳細情報
番組内容
「眠ったままの古版画・版木を再生し次世代の遺産へ」をテーマに、竹中さんは国内だけでなく、海外で日の目をみずに埋蔵されている浮世絵の版木の再発見に取り組んでいる。欧米の美術館には、明治維新以降の混乱で日本から流出した浮世絵の版木が“埋蔵”されている。竹中さんは機会あるごとに、“発掘”に取り組んでいる。
2015年夏、竹中さんは、フランス国立図書館所蔵の歌麿版木を摺るためパリにいた。
番組内容2
数年前、国立図書館で歌麿の「大首絵」を彫った版木に出会った。知らない絵柄だった。歌麿のオリジナル版木は世界に4枚現存するだけ。忘れられていた歌麿の美人画か?何度も交渉を重ね、版木を摺る許可が出た。竹中さんの夢はかなうのか。
出演者
竹中健司(竹中木版五代目摺師)
スタッフ
【ディレクター】
山村ひろし
【撮影】
樋口耕平
【編集】
赤井修二
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
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