美の巨人たち レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』天才画家の謎多きデビュー作! 2015.12.12


ルネサンスの都この町のシンボルといえば春にご紹介した大聖堂。
実に美しく見事な建物でした。
その大聖堂の丸いドームが見える路地にぜひ立ち寄りたい博物館があります。
入場料は7ユーロですがわりあい空いててお勧めなんですよ。
展示されているのはヘリコプターのようなものから戦車もあれば…。
え?機関銃?これを考えた人は誰かもうおわかりですよね?ルネサンスが生んだ万能の天才。
今日は彼のデビュー作を見に行きましょう。
ウフィッツィ美術館のレオナルドが二十歳の頃に描いた作品です。
この絵に隠されていたのです。
天才の秘密のすべてが。
ただし謎多き一枚。
今日の一枚…。
縦98センチ横217センチ。
ポプラの板に描かれた油絵です。
『受胎告知』は大天使ガブリエルがやがて聖母になるマリアにイエスを身ごもったことを告げる有名な場面。
右側の聖母マリアはゆったりとした衣装を身に付けイスらしきものに座っています。
少し右に向けた顔は表情がよくわかる書見台の上の旧約聖書に右手を置いています。
頭に置いておいてほしいのはこの絵が二十歳の頃の無名だった時代に描かれた作品だということです。
精緻に描かれた布の陰影。
その内側の隠された肉体の存在感。
左側に描かれた片膝をつきユリの花を携え2本の指先を立てた右手はマリアに向けられています。
今告げられたのです。
あなたは身ごもっておられると。
その衝撃の告知をマリアは左手で受け止めました。
2人の間にははるかな風景が描かれています。
海辺にそびえる切り立った高い山。
この青みがかった不思議な山には意味深な謎があるそうですよ。
レオナルドは『受胎告知』という神秘をデビュー作で描ききったのです。
今日の一枚にはレオナルドのどんな思いが隠されているのでしょうか。
さあ出番ですよ警部。
ああ恋しい!トリッパの煮込みにポルチーニのパスタ。
マンマの料理が恋しいなぁ。
男はいくつになってもそうなんだね。
警部ランチタイムですが事件です。
ほう事件ですか?してその相手とは?我らが永遠の宿敵レオナルド・ダ・ヴィンチです。
なんと!マテラッティ巡査ランチにしましょう!え〜っ!?いざマンマの家に!あらゆる名画は画家のダイイングメッセージ。
その謎を解くのが絵画警察。
今回は番外編。
あ〜着いたよお腹がペコペコだ!マンマただいま!ザンパーノどうしたんだい?マンマの料理が食べたくなって帰ってきたのさ。
こっちは相棒のマテラッティ巡査。
どうも。
あ〜我が息子よ!あぁ…マンマ。
マン…。
息子は俺だよ。
そうかいそうかいたんとおあがり。
はぁ〜。
う〜んボーノ!ボーノだよマンマ!そうかい。
ところで今何をしてるんだい?レオナルドの『受胎告知』の捜査中です。
ザンパーノかわいそうに。
マンマどうしてなのさ?お前『受胎告知』はあまたあるけどねレオナルドの『受胎告知』ほど難解な作品はないんだよ。
これは大変なことになっちまったね。
マンマそれは俺のセリフだよ。
『受胎告知』は多くの巨匠たちが描いた宗教画です。
しかしレオナルドの『受胎告知』は明らかに違うのです。
恐るべきはその描写力。
どうやってその技術を培ったのか特別な修業法がありました。
更にこの絵には謎が多すぎるのです。
例えば正確な遠近法で描かれていると思われるのに微妙にゆがんで見えませんか?不自然に短い壁の側面。
少し長過ぎるマリアの右腕。
二十歳のレオナルドが未熟だったのか?その謎を解くのが彼の残したスケッチです。
おやこれは?果たしてこの一枚にいったい何が?聖書のなかにある福音書の一節受胎告知の場面では聖母マリアと大天使ガブリエルとの間にこんな会話が交わされました。
マリア恐れることはない。
あなたは身ごもって男の子を産むがその子をイエスと名づけなさい。
その子は偉大な人になりいと高き方の子と言われる。
どうしてそのようなことがありましょうか。
私は男の人を知りませんのに。
この有名な場面をレオナルドがどう描いたのか。
それが問題。
レオナルドが故郷のヴィンチ村から花の都フィレンツェにやってきたのは14歳のときです。
父親のつてによりヴェロッキオの工房に入った彼は非凡な才能で頭角を現していきました。
この絵のなかにレオナルドが描いた部分があります。
左端のバラ色の頬を持つ天使です。
繊細な髪の表現生き生きとしたまなざしとやわらかな表情。
この早熟の天才が二十歳の頃に描いたのがデビュー作今日の一枚『受胎告知』なのです。
お前を妊娠したときもビビっときたんだよね。
マンマランチのときにやめてくれよそんな話はさ。
しかしレオナルドも大胆だね。
えっどうしてなんですか?二十歳のかけだしがだよ?大御所連中が描いた『受胎告知』に挑戦するってことだろ?確かにそうだな。
『受胎告知』は多くの画家たちが手がけています。
当代きっての画家が神秘の奇跡に迫ったのです。
巨匠『受胎告知』を描いていますがレオナルドは強い違和感を抱きこう記しています。
レオナルドの『受胎告知』は静けさに満ちています。
派手な演出を拒否しているのです。
ところがその描写が尋常ではありません。
マリアの足元のテラコッタのタイルを見てください。
素焼き特有の微細な穴や砂粒までもが描いてあるのです。
レオナルドが『受胎告知』のために描いたスケッチが残されています。
天使の袖の部分のスケッチです。
レオナルドのデッサン力は卓越していました。
彼はこの表現力をどう培ったのか。
美術学校のフェッラリーニ教授にレオナルドの修業法を再現してもらいました。
まずこれはヴェロッキオの工房でレオナルドが学んだ方法です。
そして乾かすこと一昼夜。
触ってもこのとおり。
衣装の表情の変化や見え方をこうして追求していったのです。
マリアが聖書を置いた書見台のレリーフは左上からの光が生み出す影を精緻な筆で確実にとらえています。
レオナルドは圧倒的な表現力で細部の一つひとつを描き上げていきました。
更に大天使の羽の表現です。
従来の羽は黄金や七色にデフォルメされたものでした。
しかしレオナルドが描いたのは本物の鳥の羽。
あくまで見たものを自然のままに描いています。
科学者だとしたら妙だね。
マンマどうしたの?肝心のマリアがおかしくないかい?腕が長すぎるよ。
確かに長い。
なんだか不自然だな。
正確なデッサンを誇ったレオナルドなのに。
更にこれはどういうことなのか?まいど絵画警察。
ちょっとお話を。
彼女はマンマ。
はい。
このようにね。
どうしてなのでしょう?フィレンツェ郊外にベッロスグアルドという村があります。
レオナルドの『受胎告知』はかつてこの村の聖バルトロメオ修道院が所有しその聖具室に飾られていたといいます。
この場所こそが絵のゆがみの謎を解く鍵なのです。
では正面から右下に視点を移してみましょう。
『受胎告知』をこの角度から見るとどうでしょう。
不自然に短い建物の壁が適切な長さとなり角度の違和感もなくなったような気がしませんか?書見台はぐっとマリアに近づき彼女の右腕の長さもしぜんに見えてくるのです。
レオナルドはあらかじめこの角度を想定して描いていたのです。
レオナルドが残したスケッチです。
何が描かれているのかわかりませんね。
角度を変えてみると…。
赤ん坊の顔です。
人間の視覚視点というものを深く研究していた二十歳のレオナルドは絵画最高の妙技を使って『受胎告知』を生み出していたのです。
すごいぞレオナルド。
警部ランチをとりながら事件解決って最高です。
さすが僕のマンマだ。
本当にそうかい?
(2人)えっ?3人目の問題はどうするんだい?3人目だって?え?って誰?そうこの絵の中にはもう一人の人物が描かれていたのです。
ヒントは『最後の晩餐』。
それはいったい?今日の一枚『受胎告知』は横長の画面です。
構図はほぼ左右対称のシンメトリー。
ここに遠近法の線を引いてみると海辺にそびえる山に集まっているのです。
そういえばあの作品も…。
自然を厳しく観察したレオナルドが独自に生み出した技法があります。
レオナルドは『絵画論』でこう記しています。
空気の量湿度などから編み出した…。
遠くのものは青みを帯びかすみがかったように描くのです。
この風景は傑作『モナ・リザ』に描かれているものです。
では『受胎告知』はどうでしょうか?背後の山々や風景はかすみがかったようにうっすらと青みを帯びています。
レオナルドの空気遠近法は『受胎告知』を描いたときすでに完成していたのです。
すごいぞレオナルド!二十歳の頃から天才だったのか!でもマンマ。
もう一人の人物っていったい誰なの?ザンパーノ最後のディナーだよ。
え…マンマ!そんな悲しいことを。
違うよ。
レオナルドの絵のことだよ。
あっ『最後の晩餐』のことですよ。
あの絵が『受胎告知』の謎を解くカギを握ってるんだ。
え?どういうことなの?レオナルド最大の作品である『受胎告知』と同じようにこの壁画も横長の画面で左右対称のシンメトリーの構図。
しかも正確な遠近法で描かれています。
その線が集まるところはイエス・キリスト。
(2人)ま…まさか!?『受胎告知』の遠近法の線が一点に集中する場所はこの切り立った高い山です。
その意味するところは?古代キリスト教最大の神学者アウグスティヌスはその書物のなかで神が山に語りかけた言葉をこう記しています。
レオナルドはやがて生まれくるイエスの姿を遠景の山の姿に託して描いていたのです。
自然のなかで見たものしか描かないという科学者の目と途方もない表現力。
隠された肉体を感じさせる実在感。
光の当たり方影の生まれ方。
絹ずれの音さえしそうな布の感触。
圧倒的な表現のすべてが一点に集中したその場所にイエス・キリスト。
その後に生み出す傑作の種は二十歳のデビュー作のなかにすでに生まれていたのです。
『受胎告知』という命の誕生の場所で。
いや〜これで事件解決ですね。
マンマありがとう。
ってどこにいるの?え?警部のマンマがいない!?ここだよ〜。
あっ!マンマ・ミーア!わあ並んでますね。
すごい行列。
ウフィッツィ美術館は本当に込み合うのでネットでの予約をお勧めします。
並ばなくてもこちらの入口からならストレスフリー。
もしウフィッツィ美術館を訪ねたら一度右下からこの絵を眺めてみてください。
もうひとつの姿が浮かび上がります。
あらかじめ画面をゆがませて描くという妙技が隠されているのです。
レオナルド・ダ・ヴィンチ作『受胎告知』。
天才の伝説はここから始まる。
ひと昔前の東京下町。
2015/12/12(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』天才画家の謎多きデビュー作![字]

毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチ作の油絵『受胎告知』。

詳細情報
番組内容
今日の作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチ作『受胎告知』。無名だった20歳の頃のデビュー作です。大天使ガブリエルがやがて聖母になるマリアに、イエスが身ごもったことを告げる有名な場面。背景に描かれているのは遥かなる風景。一方、巨匠たちが描いた『受胎告知』とは明らかに違う、不自然な構図や歪みが…その謎を解く鍵は、残されたスケッチと『最後の晩餐』にあったのです。また恐るべき描写力を培った驚きの修行法とは?
ナレーター
 小林薫
 蒼井優
音楽
<オープニング&エンディングテーマ>
辻井伸行
ホームページ
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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