(松下)いよいよですね総集編の第2部では東京に来て調布編が始まるんですけども調布に来てもまだまだ大変な時代がありましたよね?調布来てからが新しい生活それは大変でした。
まあいろんな展開がありましたからね。
それに徐々になじんで私も環境の変化に順応することも自然に身についたと思ってます。
ドラマの中ではすごく赤貧といいますか貧乏っていうものをやっぱりすごく前面に出して作ってたんですけど実際ってああいう感じだったんですか?お金がないってことはこういうことかと改めて思いました。
大体金が潤沢にある家に育ってはいませんけれどもだけど本当に無一文というものはこういうものかと今は笑って言えますけどね。
変な話明日食べるものが…。
まあ飢え死にしなかったからいいやって。
でも赤ちゃんのミルクが買えないとか水道代ガス代とか…ねえ。
それはもう惨めな…ですけどもそこで惨めになってもしかたがないと私も思うことにしてましたからねその時も。
そう思えるっていうのがすごいですよね。
まあ雰囲気が明るいというか深刻な場面に遭遇しても頑張り通すという意気込みでやってることは分かってますしね。
そこで私が何か愚痴ってもしょうがないから私はそれで周りに順応して徐々に調布の人間になりました。
それでは総集編第2部ご覧ください。
(靖代徳子和枝)読者の集い!?
(美智子)うん。
土曜日の午後。
(靖代)あらえらい急だわね。
(徳子)「調布の星水木しげる先生ご来店」?
(和枝)吉田茂ならともかく水木しげるで人が集まんの?そんなこと言わないでよ。
布美枝ちゃんのお父さんも見にいらっしゃるんだから。
田舎から出てくるんだ。
そうなのよ。
だから人が集まらないと困るの。
いいとこ見せないと布美枝ちゃん立場がないじゃない。
(登志)
布美枝の調布での暮らしを支えてくれたのは貸本屋の女主人田中美智子でした。
上京1日目に置き引きに遭ったところを助けてもらって以来のつきあいです
あっ!泥棒だ!あっ!はいこれ!
(布美枝)ありがとうございます!
(布美枝暁子)お父さん!
(源兵衛)親に来られたら困るような暮らしをしとるのか!
前ぶれもなくやって来た父源兵衛に貧乏暮らしを見られてしまった布美枝たちは父を安心させようと戌井の提案に乗って「読者の集い」を開くことにしたのです
(政志)随分ベタベタ貼ったなあ。
これで花がありゃパチンコ屋の新装開店だな。
あんたが水木さん?
(茂)…はあ。
私美智子の亭主です。
あああ〜こりゃどうも。
お世話になってます。
ふ〜ん。
あんたも戦争でむごい目に遭った口かい?
(美智子)色紙足りるかしら?
(徳子)じゃあ向こうの文房具屋行ってくるわ。
(和枝)じゃあ質屋さん声かけといて。
あらお帰りなさい。
やかましいなあ。
はいごめんよごめんよ。
はいよ。
ほう。
がいに宣伝しちょるなあ。
お世話になっとる貸本屋さんが力入れてくれとるんだわ。
そげか。
うん!ああ…。
お客さん来とりますように!おう!あれか…。
よかった!ようけ人がおる…。
・「『ありがとう』って伝えたくて」・「まぶしい朝に苦笑いしてさ」・「あなたが窓を開ける」・「舞い込んだ未来が始まりを教えて」・「いま輝いているんだ」・「『ありがとう』って伝えたくて」・「あなたを見つめるけど」・「繋がれた右手が」・「まっすぐな想いを」・「不器用に伝えている」・「いつまでもただいつまでも」・「あなたと笑っていたいから」・「信じたこの道を」・「確かめていくように」・「今ゆっくりと歩いていこう」
(亀田)よ〜う!今あんたの店行ってきたよ。
ご苦労さん。
ほらサイン色紙。
妙なもんだね。
漫画家先生うちの質屋の常連なんだからさサインなんて質ぐさ返す時に何度ももらってるっつ〜の。
俺の目当てはこれ!貸本無料券?あれ政志さん知らなかった?サイン書いてもらった人にはもれなく貸本のタダ券がついてくるっていうんだから行列が出来るわけよ。
奥さんうまいこと考えたね。
は〜あいつこんなことしてたのか。
(亀田)なかなか人が集まんないもんだからサクラ総動員したんじゃないの?サクラ満開!あれ!?
(亀田)お宅どちらさん?あ〜!いやいや!ちょっと!ありがとうございました。
おかげさまで盛り上がりました。
盛り上がったのはええですがお店は大丈夫ですか?えっ?これ落ちてましたよ。
あら!どうりで途中から客が増えたわけだ。
申し訳ありません。
すみません勝手なことして。
いやいや。
景品をつけるのも戦略のうちですから!おかげでどうにか格好もつきましたけん。
(源兵衛)格好がついたとはどげな意味だ!あっ!布美枝はおらんのか?あれ?もう戻っとる。
お父さん喫茶店で待っとってって言ったのに。
ん?どげしたの?お前…わしをだましとったんだな。
えっ?さっきの客の行列あれは景品で釣ったサクラでな〜か!親の目をごまかすとはどげな了見だ!お父さん違うのこれには訳があって…。
ええことばかり手紙に書いてよこしてもそげにうまくいっとらんことぐらい分かっとったわ。
親の目は節穴ではな〜ぞ!はい。
一生懸命働いてそれでも貧乏なら堂々と貧乏しとったらええんだ!それを周りの人まで巻き込んでええふうに見せようとするお前やちの考えがわしは気に入らん!すんません。
お父さん待ってください。
違うんですよ。
このサービス券は私が勝手につけたものなんです。
何ですと?本当に申し訳ありません。
無理を言って先生に来ていただいたんで一人でも多くお客さんを集めたくて。
(キヨ)そうなんですよ悪いのはうちですから。
それを言ったらそもそもこの会をやろうと言いだしたのは僕なわけで…。
あんたは何だ?戌井といいます漫画家仲間の。
漫画家仲間?
(戌井)はい。
あっ!さっきの出版社の社長あの男…。
回想
(深沢)三海社の深沢です。
この本はどげなもんでしょうか?余人をもって代え難い才能と言うべきでしょうな。
「鬼太郎夜話」はいずれ必ず高く評価されると私は確信してますよ。
漫画のことを大いに褒めとったがほんならあれも芝居か?お父さん何言うの!深沢さんはこの会を知ってわざわざ駆けつけてくれたんですよ!あ〜っ!わしはもう何を信用していいか分からんわ!茂さん。
は…。
あんたはもっと堂々とした男だと思っとった。
娘が何を頼んだか知らんがこげな小細工に手を貸すとは。
どうもすまんことしまして。
(源兵衛)ええ男に嫁がせたと思うとったがわしの間違いだったかのう。
そげなこと言わんで。
ん?お父さんは何も知らんけんそげなふうに思うんだわ。
何?うちの人は小細工なんかせんですよ。
何言われてもいつも堂々と自分の好きな漫画に打ち込んどる。
私はよう知っとります。
夫婦ですけん。
うちの人が精魂込めて描いとるとこ一番近くで見とるんですけん!間違いだなんて言わんでごしない。
うちの人は本物の漫画家ですけん!もうええ。
けど…。
ちょっこしええとこ見せようとしたのがいけんだったな。
頑張れよ。
はい。
40年50年と連れ添ううちにはええ時も悪い時もある。
ええ時は誰でもうまくやれる。
悪い時にこそ…人間の値打ちが出〜だけんな。
はい。
化粧品でも買えやい。
お母さんには黙っとけよ。
手紙に書いたりするなよ。
だんだん。
なあお父さん…。
何だ?お金はないけど…私毎日笑って暮らしとるよ。
そげか?うん。
え〜と家賃1,500円。
はあ…。
おばば最近ちょっこし楽になってきたよ。
三海社からは「鬼太郎夜話」の原稿料が順調に入り僅かながらあの下宿代も助けになってやりくりはほっと一息のはずでしたが…
う〜ん…。
どうもうまく進まん…。
回想深沢さんしっかりしてください!深沢さん!深沢さん!
深沢が病に倒れて三海社は倒産。
茂の原稿も次の仕事も原稿料と共に消えてしまいました
いや…やるしかない。
茂はこれまでつきあいのなかった出版社の仕事を受けていました
また空いとる…。
いやまだまだここからが勝負だわ。
ところが…
あれ?おかしいな。
目がしょぼしょぼするわ。
やっぱり徹夜したのがこたえとるのかなあ?あらどげしました?いや原稿届けに行く。
ああ…。
えっ?
熱を出した茂に代わって描き上がった漫画の原稿を届けに行った布美枝でしたが…
(春田)はいご苦労さん。
受取書いて。
えっ?あの…。
何?1万円頂いてくるように申しておりました。
ん?何の話?そういう約束だと主人から聞いております。
約束…そんな約束してないけど。
でも…。
うちはね初めての人はみんなこの額でやってもらってんの。
新人料金。
新人って…困ります。
お宅の旦那が「どうしても描きたい」って言うからこっちは人助けのつもりで仕事をお願いしたの。
けど…。
え…。
あ〜もういい。
分かった。
はい。
あっあの…。
不服だったら持って帰ってくださいね!あ…。
水木洋子?回想
(春田)聞いてなかったんだ。
旦那が少女漫画でも描きたいって言うんだけどさ水木しげるって名前じゃ売れないじゃん。
それじゃ困るから別の名前にしてもらったの。
水木洋子なんて誰も知らないっしょ?こんな思いで…仕事しとったんだ。
こんなつらい思いして…。
仕事しとったんだ…。
ただいま戻りました〜!これ!飲んでいただきたくて。
コーヒーか!珍しいな。
いつもは「節約節約」言っとるくせに。
一生懸命働いてくださっとるんですけんこれぐらいいいかなと。
入れましょうか?ああ風邪の時にコーヒーはいけんかな。
ええぞ。
俺が入れる。
私はええです。
あなたのコーヒーですけん。
遠慮するな。
あんたも嫌な思いして原稿料もらってきたんだろ?え…。
もう一つ入れるか?相当言われたな。
漫画見たのか?…はい。
驚いたろうな。
何も話してくれんのですもん…。
柄にもない少女漫画描いて名前も女の名前で今度ばかりはちっと具合悪かったけん言いそびれたわ。
私…恨んどったんです。
えっ?仕事部屋には入れてもらえんし知らん女の人は入れるのにって。
だら!何を言っとる。
どげしたら女の読者に受けるか悩んどるとこに天の助けか少女漫画家が現れたんだ。
回想はあ目の中でようけ星が光っとるなあ。
この人が作者。
こちらの坊やが。
私女ですけど!すんません。
けど名前まで変えるなんて…。
う〜ん。
あげなことは構わんのだ。
えっ?名前を変えた方が売れるなら変えたらええ。
名前を変えても絵を描いて生きていくんは変わらんのだけん。
それでええんだ。
あっいっそのこともっとしゃれたペンネームを考えておくか。
えっ?水木洋子というのは間に合わせであ〜2度は使えんけんな。
そげですね。
うん。
あんた何か考えろ。
分かりません私には。
ほう〜ならあんたの名前で描こうかな。
駄目です。
嫌なら何か考えろ。
え〜っ。
ほんなら…テツポチハチ!だら!犬の名前考えてどげする。
あっそうですね。
あっ!ごちゃごちゃ言っとって砂糖いくつ入れたか分からんくなったわ。
あっ入れすぎ!ほい出来たぞ!うんおいしい。
うまいな。
貸本漫画界は苦しくなる一方でした。
暮らしのために働きに出ようとしたそのやさきのこと
回想
(靖代)もしかしてさおめでたじゃないの?できたんじゃない?赤ちゃん。
(医者)おめでたですね。
赤ちゃん今2か月の終わりくらいですよ。
あの…先生。
(医者)はい?赤ちゃんですか?
(医者)ええ。
おめでとうございます。
ありがとうございます!ただいま戻りました〜!外ええお天気ですよ。
あれ…どげしました?
(中森)奥さん。
お世話になりました。
中森さんなあ大阪に帰るそうだ。
私…漫画を断念しました。
実はもう3か月以上女房に金を送ってないんです。
奥さん子供さんと一緒に実家にいらっしゃるんですよね?ええ。
子供3人連れて親元に身を寄せているのですが親が病気になりまして。
上の子高校に行きたいと言ってるのですが学費はおろか給食費すら払えない有様で…。
子供がおる人は大変だなあ。
食べさせて着させて学校行かせて病気もすればけがもする。
貸本漫画描いとってはとても子供は養えんな…。
布美枝は身ごもったことを言いそびれてしまいました
布美枝ちゃん!所長から聞いたわよ!あんたやっぱりおめでただったんだってね!よかったわね〜布美枝ちゃん。
(一同)おめでとう!そう。
まだ伝えてないの。
ちょうど中森さんのこともあって「子供がいると大変だ。
貸本漫画じゃとても育てられん」ってうちの人が言うもんですけん言いだしにくくて。
でもそれは先生がまだ子供ができたことを知らないからでしょう?夫婦二人食べていくのでさえやっとなんです。
この先どげなるのか働いても働いてもどんどん貧乏になっていくような気がするんです。
喜んでくれんかもしれん。
困らせるかもしれん。
そげ思ったら怖くてなかなか言いだせんのです。
子供ができたことが力になるかもしれないわよ。
え?うちの亡くなった子供智志っていうんだけどね。
はい。
智志がおなかにできた時は戦争中。
仕事から戻ってきたうちの人にね子供ができたこと話したの。
そしたら何も言わずにぷいっと飛び出していって。
えっ?でもしばらくして戻ってきた時シャモ持ってたの。
「これ食って元気な子を産んでくれ」って。
喜んでくれるわよきっと。
はい。
美智子の言葉に背中を押されて布美枝は授かった新しい命のことを茂に打ち明けたのです。
ところが…
困った顔しとった。
回想子供ができました。
赤ちゃんが生まれるんです。
子供は大変だぞ。
あの人喜んどらんだった。
あいつ帰ってこんつもりか?
(舌打ち)勝手にせい!
(暁子)村井さん電話の1本もかけてきたらええのに。
(ため息)私がおらんでも困らんのよ。
1人でやってきた人だけん本音のところは家族がおらんでもええと思っとるんだわ。
だけん先のことも考えんし子供のことだって…。
・塚本でございます。
あら林さん?PTAのことで?うん。
ん?分かった。
うん。
心配しとらんのだろうか…。
回想子供は大変だぞ。
(玄関のブザー)
(暁子)あら誰かしら?フミちゃん出てくれる?うん。
は〜い。
あなた…!おっ!勝手なことしてすんません。
迎えに来てくれるとは思わんだった。
うん。
大変なのは分かっとります…。
今でも苦しいし不安ですけど…。
なんとかなると思うんです。
あなたも私も遅い結婚でしたけどこげして…子供を授かりましたけん。
せっかく授かったんですけん大事にしたいんです。
私…産みます。
映画でも見て帰るか。
えっ?せっかく2人で出てきたんだ。
まっすぐ帰ったらもったいない。
今のうちだけんな。
子供が生まれたら2人で外には出られんぞ。
まあ今までもそろって出かけたことはなかったか。
いきなり聞いたんでびっくりした。
子供のこと…。
男には心の準備がないけんなあ。
まあなんとかなるだろう。
はい!は〜い。
こんにちは。
美智子さん。
靖代さんから聞いたわよ。
塩抜きでもおいしい料理作ってきた。
減塩料理のメニューいくつか考えてきたから試してみて。
ね。
美智子さん…。
大丈夫よ。
自信を持って。
きっと無事に生まれるから。
はい。
うん。
・
(靖代)美智子さん来てる〜?は〜い。
(太一)あっ俺行きます。
すんません。
・
(徳子)あ〜!太一君も来てたんだ。
お邪魔します。
お邪魔しま〜す。
どうしたんですか?ちょっとお届け物。
これねえおむつ。
お古なんだけどさ新品よりもね柔らかいしこれがまたよく吸うのよ!
(徳子)こっちはバーバーの使い古しのタオル。
それとベビー服のお古。
ねっ?みんなで応援してるから安心して。
はい。
そしてその年の12月24日クリスマスイブのこと
すんません。
生まれましたか?
(看護師)えっ?えっ?あっむ村井です。
村井布美枝。
ああ村井さんですね。
まだですよ。
これ入院の荷物持ってきたんですが…。
こちらでちょっとお待ちください。
はい。
・
(産声)生まれた…生まれたぞ!
(赤ちゃんの泣き声)
予定日より少し早く無事に赤ちゃんが誕生しました。
3,100グラムの女の子です
(ドアの開く音)来てくれたんですか。
おう。
お父さん似ですね。
ほ〜らほっぺがぷっくりしてる。
女の子です。
そげか。
大丈夫か?はい。
ご苦労さん。
お母ちゃん。
だんだん。
お父ちゃん。
うん出来たぞ。
さて何から食うか…。
じゃあまずお白酒いただきましょうか?よし。
ほれ。
はい。
アハハ…お父ちゃんは食いしん坊ですねえ。
あ…雨あがっとる。
藍子が生まれてからも村井家の暮らしは一向に楽になりませんでした
・
(水道屋)村井さ〜ん水道の集金で〜す!今日はおらんことにしよう。
・
(水道屋)村井さ〜んお願いしま〜す!
(藍子の泣き声)
(小声で)藍子藍子。
(泣き声が大きくなる)・
(水道屋)赤ちゃんの声聞こえてますよ〜!失敗…。
半年前に戌井が立ち上げた北西出版は本を出す度に赤字が増える有様でとうとう事務所を引き払い今は国分寺の借家が自宅兼事務所です
ありませんよ。
ああ…すいません。
今日は原稿料半分しか払えなくて…。
う〜んまあええです。
あっ次はなんとか…。
「劇画ブック」売り上げは相変わらずですか?
(戌井)内容はどんどんよくなっとるんですが売り上げは下がる一方で…。
ああ…。
意気込んで出した作品は軒並み撃沈です。
あげく半年も待たずして事務所畳んでこうやって長屋の片隅で仕事しとるわけですから我ながら情けないです。
(恵美)怖いよ〜!子供が泣いてるじゃないの!おい!たまにはこの子が喜ぶような漫画も作ってくださいね。
バカ!僕は大人が読める漫画を目指してるんだ。
理想言ったって食べていけなきゃどうしようもないじゃないの!理想をあげて何が悪いんだよ。
そのために出版社始めたんだぞ。
日本一小さい出版社ですけどねえ!むむむ…。
(茂の笑い声)すいません。
会社の経理すべて任せとるもんでどうにも…。
奥さんなかなかええこと言いますな。
えっ?日本一小さい出版社。
ええじゃないですか。
気安そうでどことな〜く今後の可能性も感じさせますよ。
はあ…。
ほんならまた。
(早苗)お気をつけて。
(雷鳴と雨の音)あ…落ちてきたか。
(雨の音)お父ちゃん遅いねぇ。
その夜深夜を過ぎても茂は戻ってきませんでした
お父ちゃんどげしたの!?…うん。
心配しとったのよ。
戌井さんとこに泊めてもらったんですか?いや…。
道に迷っとった。
えっ?戌井さんちを出て雨も降っとるし多磨霊園を通り抜けて近道しようと思ったんだが…。
出口がないんだ。
どういうことですか?分からん。
何度も通り抜けとるのにゆうべは走っても走っても墓場から外に出られんのだ。
真っ暗い迷路の中を走っとるようだった。
あ…これ原稿料。
これだけだ。
(小銭の落ちる音)
何だか嫌な気持ちがしました。
走っても走っても暗闇を抜けることのできない自転車。
それは出口なしの貧しさの中であえぐ自分たちの姿のように思えたのです
(男)愚劣な貸本漫画が日本の将来を担う子供たちにいかに悪い影響を与えるか。
あなたたちも考えていただきたい!
(日出子)下品でどぎつくて陰湿で。
漫画は明るく健全でなければなりませんわ。
漫画はよい子のものですよ。
はい。
「不良図書から子供を守る会」としましては小中学生に貸本漫画を貸し出さないよう要望します。
「子供の健全な育成のために俗悪低級な漫画を絶滅させ」…。
ひどい!
(キヨ)時々来るんだよ。
市民団体だか何だか知らないけどね正義のたすきを掛けてね。
貸本漫画はどうなるんでしょうか?潰されてしまうんでしょうか?大丈夫よ。
これまでだってこういうことはずっとあったんだから。
それでも貸本漫画はなくならないしうちだってなんとか続いてるでしょ。
はい。
・
(子供たち)・「空をこえて」
漫画の主流は既に週刊漫画雑誌に移っていました。
そしてテレビアニメの時代が本格的に幕を開け貸本漫画はますます時代から取り残されていくようでした
昨日有り金全部印刷屋に持っていかれてしまってすっからかんです。
暮れまでには必ずなんとかしますから。
よろしく頼みます。
うちも少しぐらいないと年が越せんですから。
本当に申し訳ないです。
あいつやっぱりここにも。
あっ。
(ため息)
どこもかしこも貧乏神に取りつかれているようでした
500円…。
たった500円!?
描いても描いてもたまるのは質屋の札ばかりです。
どこまでも続くぬかるみのような貧乏暮らし。
その中で…
模型?
茂は連合艦隊の模型作りを始めたのです
回想
(政志)俺には分かるよそういうもん作る男の気持ち。
どうしようもない時こそ熱中するもんが欲しくなるんだよ。
なあ?お〜これならよう見えるな。
あっちょっこしそこ曲がっとりますよ。
えっ?ほらそこそこそこ。
コチョコチョうるさいな〜。
ほんならお前がやれ。
これな。
この穴だ。
はい。
そしてとうとうあの人が戻ってきました
(郁子)こちら水木しげる先生のお宅でしょうか?あ…はいそうですけど。
よかった!社長やっぱりこちらのお宅ですって。
・おおそうか。
深沢さん!いや〜奥さん。
ご無沙汰しました。
私また会社を作りましてね。
ほう。
あれ?どこだっけ?名刺名刺。
お預かりしてます。
あっありがとう。
嵐星社といいます。
嵐星社。
私これを始めました。
「忍術秘帖」。
水木さん忍法漫画描いてもらえないかな?毎月1本短編で。
やります。
ぜひ描かせてください。
そう。
じゃあよろしく頼みます。
しかしねえ…。
貸本漫画はもういけない。
雑誌だね。
これからは漫画も雑誌の時代だよ。
しかし貸本から雑誌に移れる書き手はめったにおらんのですよ。
うん。
だからね私自分で作ることにした。
えっ?実は今漫画雑誌創刊の準備を進めてるとこなんだ。
雑誌の創刊?大手からはいろんなのが出てるけどどれもこれも子供相手のものばかりでしょう。
ええ。
私はね貸本漫画の読者「鬼太郎」や「悪魔くん」を愛読する青年たちに向けて雑誌を作るつもりなんだ。
秋には創刊です。
水木さんにはぜひ雑誌の柱になってもらいたい。
力になってください。
はい。
出来たな!はい!とうとう雑誌に進出だ!はい!ここだ。
あら?
(浦木)はした金しかもらえない貸本漫画なんか描くやつの気が知れねえよ。
浦木さんみたいなこと言っちょう。
村井家にやっと希望の光がさし始めました。
その一方でこみち書房は日に日に客足が減っていったのです
(子供)今日漫画の発売日だね。
本屋さんに買いに行こう。
(子供たち)うん。
あれ楽しみなんだよね。
早く読みたいね。
早く行こう!
(子供たち)うん。
子供が来なくなるとこの商売は駄目ね。
地代の値上げも待ってもらえそうにないし。
ばあちゃんは?病院。
リューマチの薬もらいに行ってる。
ああ。
ちょっと出てくるわ。
ねえ。
どうしたらいいかな?何だよ?聞こえてたでしょ?地主さんの話。
ああ…。
今の店の売り上げじゃ地代の値上げに追いつかないのよ。
やめちまえよ。
えっ?
(政志)やればやるほど赤字なんだろ?だったらやめちまえよ貸本屋なんか。
何で簡単に言うのよ!やめろなんて…何でそんなこと軽く言うのよ。
うるせえな俺に絡むなよ。
だってそうでしょ?ここがあったから今までやってこられたのよ。
悪かったな稼ぎの悪い亭主で。
そんなこと言ってるんじゃないわ。
この店があったから町の人や子供たちが集まってくれてみんなで笑ったり泣いたりできた。
だからやってこられたの。
ここがあったから。
あなた私にも自分の人生にも背中向けたままじゃない。
私を許さずいつだって背中で私を責めてる。
そんな人とどうやって暮らせばよかったのよ!なんとか言ってよ!出てくる。
子供を亡くし戦争の傷を抱えた美智子と政志の間には長くつらい葛藤の日々があったのです
(政志)おい!どこ行くんだ。
帰ろう。
(政志)美智子。
俺ここを出ようと思ってる。
千葉の鎌田さんから電気工事の会社に誘われてるの知ってるよな。
(美智子)ええ。
もういっぺん電気工としてやってみる。
長いこと現場離れてるから苦労するかもしんねえけど戻るなら今しかねえ。
一緒に来てほしい。
ばあちゃんと一緒に3人で行こう。
そうね。
行こうか。
おばあちゃん一緒に行こうよ。
3人でまたやり直そう。
昭和39年10月10日前の日まで降っていた雨があがり真っ青な秋晴れの空が広がっていました
どげです?もうじきオリンピックの開会式始まりますけど。
分かっとる。
ちょ…そげにたたいたら壊れます。
もうお父ちゃんは機械に弱いんだから。
何を言っとる!貸してみろ。
こんなもの気合い入れてたたけば直るわ。
・
(太一)ごめんください!うん?どうしたの?大変です。
こみち書房が…。
えっ?もう荷物ねえか?うん終わり。
全部積んだ。
美智子さん!今日が引っ越しってどうして言ってくれなかったんですか?黙って行くなんてあんまりです。
そうだよ。
(靖代)美智子さん!美智子さんあんたどういうこと?私たちにまで内緒って!随分じゃないの!ほら言わんこっちゃない。
早くしないからいつもの連中が来た。
あ〜あ今日ならみんな開会式にくぎづけで見つからないと思ったんだけどな。
美智子さん。
ごめんなさい。
後で手紙書くつもりだったの。
みんなで送別会しようって計画しとったんですよ。
そうよ。
そうなのよ。
そんなことしてもらったら別れるのつらくなっちゃうじゃない。
ほらもう泣き顔。
そんな顔見たら私だって笑ってられない。
何だよまたメソメソして。
だからね見送られるのは嫌なんだよ…。
(政志)あっ先生。
俺やってみるよ。
今から追いつけるかどうか分かんねえけど。
はい。
布美枝ちゃんどこで店開いてもこみち書房の一番のお薦めは水木先生の漫画だから。
はい。
頑張ってね。
そろそろ行くぞ。
皆さんお世話になりました。
(ラジオ)「いよいよこれから選手団の入場行進開始であります。
華やかなパレードが開始されます」。
こみち書房の一家が新しい人生に向かって旅立っていったちょうどそのころ…一人の男が茂の漫画を読んでいました
(豊川)いいなぁこの味のある絵。
ザラッとくるな〜水木しげるは。
こちら水木しげる先生のお宅でしょうか?
(2人)はい。
よかった。
迷ってウロウロしてしまいましたよ。
あんた誰?あっ…。
私雄玄社の豊川といいます。
それで話というのは?失礼します。
「少年ランド」に…。
「別冊少年ランド」に漫画をお願いしたいのです。
へ?うん?おおっ。
ふう!ご主人。
うん?質流れしたテレビありますか?えっ?テレビ買います!え〜っ!?
(豊川)テレビよりも面白いものを描いてください。
読者の子供たちが今夢中になっているものは何と言ってもテレビです。
ああ。
しかし子供たちをテレビに取られては雑誌は商売になりません。
子供たちの目が漫画に向くようにテレビよりも面白いインパクトのある作品を描いていただきたい!紙芝居も貸本漫画もテレビに蹴散らされて消えていったようなもんだ。
(テレビ)
(テレビ)「しょうゆラーメン。
味も量も大きくなって新登場」。
おおっラーメンか。
はあ〜腹減ったな〜。
うん?あれ?「ハルちゃんラーメン。
ツルツルツルツルツ〜ルツル。
悔しい時もハルちゃんラーメン」。
あ〜っ!えっ何?テレビくんだ。
かわいい!うん。
なかなかええだろう。
うん。
この子がテレビの中を自由に歩き回るのか。
これなら子供にも好かれるな。
はい。
じゃあ続き描くか。
「おいしすぎて一日3回だって食べたいな〜」。
あっ!テレビくんだ。
(テレビ)「大江戸製菓のドーナツ。
チョコレート味出たよ」。
(テレビ)「ヒロシ君にも教えてあげなきゃ」。
あっ!あんたいたずら好きだね。
大変結構です。
原稿ちょうだいいたします。
ありがとうございました。
やった!
「週刊少年ランド」で「墓場の鬼太郎」の連載も始まって…
質ぐさ請け出しに来ました。
全部出してください!何〜!?はあ〜懐かしいなこの背広!あら随分型崩れしとりますね。
うん。
それは嫁入りの時に母ミヤコが持たせてくれた青海波の着物でした
回想早こと戻ってくるおまじないです。
えっ?あなたも何でも預ける時はこのおまじない紙に書いて貼っといたらええですよ。
おまじない…効いたのかな。
・ええわ俺が出る。
仕事の電話だろう。
原稿の催促かな。
締め切りはまだのはずだが。
はい。
ええそうです。
えっ!?ああ…はい分かりました。
はい…。
仕事の電話ですか?ああ。
豊川さんからだ。
原稿の催促?いや。
ほんなら新しい仕事の話で?そげなことじゃない。
まさか打ち切り…!俺に賞をくれるそうだ。
賞?雄玄社のマンガ賞。
えっ!?「テレビくん」が今年の雄玄社マンガ賞に決まったそうだ!「テレビくん」が漫画の賞を…!ああ。
1年に1回しかない立派な賞だ。
まあ俺がこういう賞をもらうのは当然の結果だがな。
そげですね。
驚かんのだな。
ええ。
必ずこういう日が来ると思ってましたけん。
信じられんとか夢のようだとかは一つも思いません。
お父ちゃんはそれだけの努力をしてきたんですけん。
やっと来るべき時が来たんですよ。
来るべき時か…。
おめでとうございます。
うん。
えらいことになったぞ!
(ミヤコ)布美枝何かあったんですか?
(邦子)村井さんがどうとか?がいな賞を取ったそうだ!えっ?雄玄社マンガ賞言っとったな。
(2人)ええっ!特級の一番高い酒米だるで用意しぇ!祝いに東京に送るぞ。
はい!けど村井さんお酒飲めんですけんねえ。
あ〜そげだったなあ!下戸の婿はこげな時に困る。
ユキエのとこと貴司のとこと港の輝子のとこにも早こと知らしぇ!はい!回想うちの人は本物の漫画家ですけん!とうとうやったか…。
(早苗)何かあったの?「テレビくん」で雄玄社マンガ賞だ!よかったなあ水木さん。
ウイスキー買ってこようか!今日は飲もう。
祝杯あげよ!あら!レコードようけ持っとったんですねえ。
もう随分聴いとらんがなあ。
あれ!はあ〜…。
お前小さくなったなあ。
何!えっ?何ですか今の?あれはなあ…。
貧乏神が逃げてく…。
とうとうあいつとも縁が切れたか…。
はい。
見てお父ちゃん!星がきれい!ああ。
あっ流れ星!ああ!願い事するの忘れた。
また流れんかな…。
続きまして第6回雄玄社マンガ賞を受賞されました水木しげる先生よりお言葉を賜ります。
(拍手)え〜この度はこのような立派な賞を頂きましてまことにありがとうございます。
自分は長らく貸本漫画を描き続けていて…。
堂々としたもんだな。
ええ。
とちるなよ〜ゲゲ。
だから今回の受賞には大変驚きました。
「テレビくん」はより多くの子供たちに楽しんでもらえるように苦心しました。
そのかいもあってかこのような賞を頂けたのだと思っています。
今後も努力を怠らず描き続けていきます。
え〜…ありがとうございました。
(拍手)あ〜腹減ったな。
おっうまそうだ。
授賞式でごちそう出んかったんですか?ああ。
ようけ人が寄ってきてああだこうだ聞くもんだけん何も食えんだった。
まあこげに遅い時間まで?バーを連れ回されたがあげなとこはつまらんな。
食いもんがない。
おお!太ったギョーザだ。
相変わらず緑色だな。
うん!うまい!これ食ったら仕事するけん。
締め切りが近いからな。
はい!ここからがスタートだ。
もうやめるか漫画!出口がないんだ。
真っ暗い迷路の中を走っとるようだった。
我々の生活が貴様らに分かるか!お父ちゃん…。
おめでとう!総集編第2部いかがでしたでしょうか?明日は水木プロを立ち上げてからの第3部お届けいたします。
どうぞお楽しみに。
2015/12/12(土) 16:05〜17:13
NHK総合1・神戸
水木しげるさんを偲(しの)んで 連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」総集編 第2回[解][字]
茂(向井理)の漫画はなかなか売れず、布美枝(松下奈緒)は貧乏暮らしを送っていた。大手出版社の編集者・豊川(眞島秀和)が訪れ、大きなチャンスが舞い込むが…。
詳細情報
番組内容
茂(向井理)の漫画は、なかなか思うようには売れず、布美枝(松下奈緒)は貧乏暮らしを、なんとかやりくりする日々を送っていた。貸本漫画業界のちょう落は、押しとどめようがなく、ついに調布で茂を支援し続けてくれた貸し本屋「こみち書房」も、店をたたまざるを得なくなる。「こみち書房」の美智子(松坂慶子)との別れの後、大手出版社の編集者・豊川(眞島秀和)が茂のもとを訪れ、大きなチャンスが舞い込むが…。
出演者
【出演】松下奈緒,向井理,大杉漣,松坂慶子,眞島秀和,南明奈,梶原善,村上弘明,佐々木すみ江,光石研,杉浦太陽,東てる美,尾上紫,棟里佳,【語り】野際陽子
原作・脚本
【原案】武良布枝,【脚本】山本むつみ
音楽
【音楽】窪田ミナ
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:27708(0x6C3C)