(テーマ音楽)皆さんからお寄せ頂いたお便りでつづる「忘れられないわたしの旅」。
今回は313通の手紙やメールを頂きました。
大切な人と歩いた思い出の道。
まぶたに焼き付いた一瞬のきらめき。
第1回は時を超えて輝く忘れじの風景をたどります。
最初のお手紙は木下直美さんから頂きました。
50年の時を経て心に残る旅の思い出です。
「私は札幌の高校を卒業後地元の新聞社で電話交換手の仕事に就いていました」。
「当時私の夢は旅に出る事。
21歳の時職場の友人5人と京都に行く計画を立てました。
ところが間際になって全員の都合が悪くなり結局行けるのは私一人になってしまいました」。
このころ木下さんには京都に文通する人がいました。
相手は25歳の男性京友禅の職人でした。
「『京都を旅したい』と手紙を送ると『案内します』との返事。
私は思い切って旅立ちました」。
「彼に会うまで内心では『どうかいい人でありますように』と不安と祈りの気持ちでいっぱいでした」。
「実際に会って話をしてみると悪い人ではなさそうでほっとした事を思い出します」。
「それから4日間彼は仕事を休んでくれて2人で秋の京都を巡りました」。
「高山寺では美しい庭を見ながらすっかりくつろぐ私」。
「まるで古くからの友達のように素のままでいられる自分が不思議でした」。
「こんな事もありました。
おなかが減るのです。
初めて会ったばかりの人につい私は『おなかぺっこぺこ』と言ってしまいました」。
「そんな私を彼が連れていってくれたのは有名なうどんの店。
おいしくて満足しました」。
「そのあともおなかが減る度に伝えていると彼はにこにこしながら『あんたはおなかぺっこぺこのぺっこちゃんやなあ』。
私は旅の間『ぺっこちゃん』と呼ばれる事になりました」。
「三千院の燃えるような紅葉の美しさはまるで絵画のようで息をのむほど」。
「彼が言いました。
『この景色の全てが僕の作品のモチーフになる。
伝統的な京都の友禅として残したい』と」。
「彼の仕事への情熱は私の心に強く残るとともに『この人は何に対しても誠実なんだろうな』そんな印象を持ちました」。
「最後の夜2人は京都市内を見渡せる高台に登りました」。
「嵐山大原伏見いろいろ回ったなあと感慨もひとしお」。
「ふと『この街に住んでもいいな』と感じていました」。
お手紙を下さった…旅の2年後2人は結婚しました。
京友禅の工房を構える敏之さん。
図案作りから絵付けまで全て一人で手がけています。
直美さんはいつも傍らで支え続けてきました。
「主人は職人かたぎの厳しい人ですが今も仕事への情熱をなくさず前向きに頑張っている姿に頭が下がります」。
「京都での4日間は『小さな旅』でしたが私にとっては『大きな旅』でした」。
続いては…「母は花が好きな人でした。
いつどこの花が一番きれいか知っていてよく写真を撮っていました」。
「特にカタクリの花が大好きでした。
昔は田んぼのあぜ道によく咲いていたと話してくれました」。
「そんな母が47歳で卵巣がんと診断されました。
『絶対に治ってみせる』と治療を続けてきた母」。
「しかし50歳を前にした5月母はベッドからほとんど起き上がれなくなりました。
みんなもう長くないと感じていました」。
「そんな時母が言ったのです。
『カタクリの花を見に行こう』」。
「翌日両親と弟私の4人でカタクリの花が咲くという丘に出かけました」。
「窓の外を見ながら母がつぶやきました。
『カタクリを見ると本当に春が来たなって思うんだよね』」。
長野県飯山市の信濃平。
母照子さんがカタクリの花を撮影するため度々訪れていた場所です。
「この日カタクリはなかなか見つからず『もう咲かなくなったのかな』と残念そうな母」。
「しかし車を降りると『わっ!』と声を上げました。
足元を見ると小さな紫色の花が一面に咲き誇っていたのです」。
「それまでつらそうに息をしていた母は腰を下ろし夢中でカメラのシャッターを切りました」。
「写真を撮り終えた母はとても穏やかな表情」。
「病気の前に見せていたひょうきんな笑顔も戻っていました。
その1か月後母は亡くなりました」。
「あれから10年信濃平は今でも大切な思い出の場所です」。
「毎年春になると夫や子供たちと一緒にカタクリの花を見に行くのが楽しみです」。
最後は静岡県長泉町からのお便りです。
お手紙を下さった…そして…「現在夫は72歳。
54歳の時難病ALS筋萎縮性側索硬化症と診断されました」。
「今では指一本動かす事ができず一日中ベッドで上を向いて過ごす夫。
それでも『幸せだよ!』と気持ちを伝えてくれます」。
お茶の時間なんだけど何する?今日。
武男さんは僅かに動かせる眉を使って特別なパソコンを操作。
ひと文字ずつ時間をかけて入力し朝子さんと言葉を交わします。
(パソコン音声)「紅茶を下さ〜い」。
(朝子)はいOK。
うす紅茶持ってくるねちょっと待ってて。
「それは夫の誕生日を前にした今年8月のある日の事」。
「『どっか行きたいなあ』と夫が言います」。
「誕生日には外に連れ出してあげたい」。
「できる事なら若い頃よく行った富士山五合目に行きたい。
ヘルパーや友人に相談したところ一緒に行ってくれるとの事」。
「夫に『どこに行きたい?』と尋ねると…」。
「『富士』。
即答でした」。
「車で僅か1時間半の道のりですが入念な準備が必要です。
夫のための流動食そして万が一に備えて呼吸を補助する器具も用意しました」。
「旅の当日。
夫を車椅子のままワゴン車へ乗せると準備万端。
総勢6人で出発です」。
「走りだすとすぐに富士が姿を見せ存在感をアピールします」。
「夫は首を動かせないので周りを自由に見る事ができません。
どこを走っているとか何が見えたとか友人たちが話すのを集中して聞いているようでした」。
「二合目を過ぎた頃から霧が立ちこめ何だか不安になってきました」。
「くねくねとした坂を上っていくときれいに晴れ渡り山肌がすっきりと見えました!」。
「夫の目が笑っていました。
『ほら計画どおりだ!』と言わんばかりです」。
「午後5時半富士山五合目に到着です」。
「家では毎日天井を見ているばかりの夫。
この日は目を細めて雲海を眺めていました」。
「ささやかながら夫の誕生パーティーです。
赤飯にデザートそれに温かいお茶」。
「夫には温めた流動食です」。
「そして友人たちからオカリナの演奏をプレゼント」。
(「ハッピーバースデートゥーユー」)「夫は精いっぱいの笑顔を返してくれました」。
「元気だった頃2人で毎年のように見た五合目の星空はあのころと変わらず光り輝いていました」。
「車椅子の背もたれを少し倒して見やすくすると夫はしばらくの間じ〜っと見上げていました」。
「後でその時の気持ちを教えてくれました。
『幸せです。
生きていてよかった。
ありがとう』って」。
掛けがえのない旅の記憶。
人生という旅路を照らし続けます。
(テーマ音楽)
(テーマ音楽)2015/12/12(土) 05:15〜05:40
NHK総合1・神戸
小さな旅 手紙シリーズ 忘れられない わたしの旅 第1回「寄りそう旅路」[字]
視聴者からお寄せいただいた手紙でつづる「忘れられないわたしの旅」。第1回は時を越えて輝く、それぞれの情景をたどる旅。紅葉の京都での恋の思い出などをたどる。
詳細情報
番組内容
心の支えとなった景色や大切にしてきた旅の記憶を視聴者のみなさんからのお便りでつづる「忘れられないわたしの旅」。第1回は、時を越えて輝く、それぞれの情景をたどる旅です。偶然、秋の京都を旅することになった女性と文通相手の男性、ふたりの旅のゴールは…。花を愛する母が最期に見たいと言った長野県飯山市のカタクリの花の思い出。難病の夫と大好きな富士山五合目を目指した妻。旅の思い出を美しい映像でたどります。
出演者
【語り】国井雅比古
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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サンプリングレート : 48kHz
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