治療についてまた福土審さんに伺います。
どうもありがとうございました。
ありがとうございました。
(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(金原亭伯楽)ご機嫌よろしゅうございます。
相変わらずの落とし噺でどうぞおつきあい下さいませ。
江戸の初期から明治大正昭和の中頃まで遊び場と言われた廓というものがございました。
「遊女三千人御免の場所」。
まぁ男の方がいい気分にさせてくれる女性が三千人いたってんですよね。
これもピンからキリまででしてな大変高級な所一番いい位というと「松の位」の太夫職花魁なんて事を言って。
その花魁道中なんというのも有名。
本来はこれはお茶屋さんで騒ぐそこへお客様そういうお客様を迎えに行くというのがもともとの仕来りだったんだそうですがこれは三千人の中から5人か6人しか出なかったそうですよ。
いわゆるファッションショーと美人コンテストを交えたようなね。
それでも中見世辺りで別に花魁道中に出られない人たちでもそこの「お職」いわゆるそこの見世のナンバーワンこうなるてぇと結構格式も高くてちゃんと自分の部屋を持つわ若い女の子なんぞも仕込むというような形でいわゆる「禿」を置くとかねそんな事もあったそうですが。
大変全盛を極めているこういう花魁でも女というのは花の咲く時期は短いもんで25も過ぎて26〜27になってくるとこりゃ張り見世でもって籬のこっちに座っていてもなかなかお客様のお声がかからない。
若い妓のほうがそりゃいいでしょう。
お客さんと早く呼ばれてキャ〜キャ〜キャ〜キャ〜騒ぎながらお部屋へ引き上がる。
お部屋へ引き上がっていくところを自分で横目で見ながらも寂しい思いをしているうちに拍子木が鳴って大引け。
こうなると明かりも見世には落ちてくるもんでしかたがないお内所のほうへ引っ込んできて…。
「お父さん。
また今夜もごめんなさい」。
「またお茶挽いたのかい?ええ?アハハ今日で3日だよ花魁頑張ってくんなきゃ困るな」。
寂しい思いをしながら過ごすような事になる。
腹の中じゃ「悔しい若い者に負けたくはないんだけど」と言ってもしかたがない。
次の日もまた寒い所へ長い間座ってるだけで風邪ひき込んじまってその次の日はしかたがないんで部屋でもって寝込んでるなんてぇ時表預かってる若い衆これがやって来て…。
「花魁花魁。
開けるよ。
おうどうだい?具合は。
ええ?あんまり良くねえのかい?いやねいやもうお見世のほうはすっかりよ片がついちまって小腹すいたんで今鍋焼きを取ったんだ。
で一口すすった時にお前さん患ってるってぇのが分かってさ。
うん。
まぁ俺これ一口食ったんだ。
だけどまだ熱いやなええ?こんな物でも食べてよ温まって早く良くなってくんねえな」。
寂しく患ってるところへこんな男の親切が言われるとそりゃこれがジ〜ンと胸に響くんでございましょう。
そのうちこの若い衆と花魁とが人目を忍ぶような仲になる。
さぁこうなるってぇと見世の旦那だって黙っちゃおりませんで。
「おう辰。
こっちこっち来いちょっと。
花魁花魁。
ちょっとちょっとちょっとうん。
前二人座れ。
ええ?困るじゃねえかうん?辰。
お前だってそうだぞまったく。
まだ見世の者も誰も知らねえからいいようなもんのこんな事がお前脇ぃ知れてみろ俺が一番恥をかくんだよ。
ああ〜?どうしようってんだ?お前たち二人は」。
「クシュンクシュン」。
「黙ってたって分からねえやな。
花魁だってよぅ随分家のためには尽くしてくれた〜。
13の時に家ぃ来たんだよな〜。
で17ん時からもう家のお職を張って随分長え間家のためにも稼いでくれた〜。
今更宿替えするって訳にもいくめえしどうかな〜?ウ〜ン家のおばさんよ50にもなろうってんでなもう上がりてえとそう言ってんだ。
どうだい?お前の借金なんざもういくらでもねえ証文巻こうじゃねえか。
花魁お前そろそろ家のおばさんやってくれねえか。
でおう辰と一緒になったらどうだい?ええ?そうしちゃお前家の仕事を辰が表やってお前がおばさんやってくれりゃよ家も助かるんだけどもな」。
「クシュンお父さんありがとうございます」。
「情夫がいるなら添わせてやろう間夫がいるなら添わせてやろう」。
お内所の旦那の温かい気持ちでもってこれが夫婦で見世の物を食べて見世の風呂へ入って見世にいるという訳にいかないので廓の外の長屋の一間を借りて二人で稼ぐ事になる。
ああ。
お客を呼び込む若い衆は相変わらずで…。
「エイッどうもどうも旦那どうもどうもええ。
あ〜大将大将ダダダ〜ッえ〜お登楼がんなはい。
えっ?どの妓?あっあの妓?いや〜こりゃどうも恐れ入りやしたなお目が高い。
エイッどうぞエイッはい。
お登楼がりだよ」なんてな事を言うとこのお客が登楼がってくるわ。
で二階の梯子段上がった所にこのおばさんいわゆる遣手婆てんでお客と妓の子の間を取り持つ役でございますな。
これがそのお客をつかまえるってぇと…。
「あらま〜本当にいい妓をお見立て。
あんなにも器量の良くてねそうして気だてのいい妓はいないんですよ。
ええ?いくらって言われたの?階下…?エエ〜ッそんな値段?そりゃちょっとかわいそうよあの妓に。
本当にいい妓なんだからさもうちょっと出してあげてよ」。
「だってお前階下の若え衆がそれでいいってそう言ったんだよ」。
「そりゃそう言うわよ。
何でも若い衆が上げちまやぁいいと思って上げるんだけどウ〜ンそれじゃあの妓がかわいそう。
ね?ね?なんとかしてもうちょっとほんの少しでいいんだからさ」。
「弱ったな〜。
ウ〜ンじゃあしょうがねえな。
ええ?ちょいと待てよ。
あ〜この辺に少しあったかもしれねえ。
オウッどうだ?これで」。
「すみませんどうもありがとうござ…。
これだけ?これじゃあの妓かわいそうよ。
もうちょいと。
ね?もうちょいと出してくれればあなたにさ〜あと扱いが良くなるんだからもうちょいと出して」。
「だってお前無えものはお前袖も振れねえやな。
ええ?じゃあ俺はここで裸になろうか?」。
「何言ってんのそんな事しなくたっていいわよ。
じゃあちょいとここへ座ってね?ね?ちょいと。
いいからさこの椅子へちょっと座ってよ」。
「ウ〜ッじゃあここへ座るの?」。
「そうそう。
ちょっと待ってね」。
「おい何だい?だ駄目だよ俺の足袋」なんて足袋脱がすと中にあったお金取っちゃったりなんかしてね。
これを遣手婆と言うんだそうですが。
さぁ半年も二人で働くってぇとそりゃ女のほうは欲が出る。
部屋のほうにはいつの間にか夏冬の物もすっかり揃うもんですからもうひと踏ん張りしてどっか小さな一軒家でも借りられるようにと女のほうは一生懸命になるんですが男のほうはちょいと懐が温かくなってくると浮気の虫と言うんですかなこれがカ〜ッと頭持ち上げてくる。
「ええ?いつも吉原でお客ばかり遊ばしててアハッこっちもたまにゃなんだな〜どっか行って遊びてぇもんだな〜。
うんそうだ明日の朝にゃ帰ってきてそしてちゃんと勤め出りゃいいんだからよしちょいと遊び行ってみようか」。
吉原で遊ぶ訳にいかないから千住の「こつ」へやって来る。
「こつ」というのは千住のお女郎屋さんがある。
ここでもって遊んでちゃんと朝帰ってきて夕方の勤めには間に合うように。
こんな事は2〜3日のうちはよかったんですがな数重なるうちに千住のほうにも友達ができる。
「ええ?おい何だいそうまっすぐ帰る事もねえだろう。
たまにはつきあえよ」なんてんでその友達に連れていかれるってぇとそこはポ〜ン「勝負」なんてぇ所へ連れ込まれちゃった。
端の1〜2回は勝たしてくれます。
ところがなかなかそうは問屋が卸さない。
負けが込んでくる。
ああ〜借金までしてその負けを取り返そうと思うけれどもこれがうまくいかねえわ。
ああ。
見世を休むような事になる。
「ええ?どうしたい?おいお前ん所の辰よぅどうしたってんだよ?」。
「ごめんなさい。
なんですか風邪をひき込んだようで『とても今日はお見世が務まらない』とか」。
「そうか?早くお前治って出てきてくんなきゃ困るぜ本当に」。
さぁ遊びに通ってるうちはよかったんですけれど家へ帰ってきちゃかみさんの着物なんぞを持ち出して質へ置く。
すっからかんになっちゃった。
家財道具まで売っ払ってそうしちゃ遊びに行くというような按配。
こうなってくると自然とこの見世はくびになっちまう。
亭主がくびになったのに自分も働いている訳にいかないというので自分もそのお見世をやめちまうわ。
「誰だい?そこに帰ってきたのは。
ええ?お前さんかい?よく家を忘れないで帰ってきたね」。
「ああ」。
「ああじゃないよ本当に。
どうすんのさ?これから。
見世はあんたはくびになっちまうしお前さんがくびになって私が一人で働いてる訳にいかないだろ?私だってやめちゃったんだよ。
どうすんの?これから」。
「アア〜ッすっかり目が覚めちゃった」。
「何を言ってんだい。
どうしようってぇのさ?これから。
ええ?いいよ別れよう別れよう。
ヘッ私だってね道楽の亭主持ってるよりゃ一人で働いたほうが…。
今からだってねどこのお料理屋さんのお運びやったって女の口一つぐらい食べていかれんだ。
あん?別れよう別れよう」。
「おいおいおいそんないきなり別れよう別れようなんてそんな事言うなよ俺だってすっかり目が覚めたんだから」。
「何が目が覚めたんだ。
どうしようってぇのさ?これから。
ええ?お飯食べなきゃならないんだよどうすんの?」。
「どう…。
ウ〜ン俺はなさっきな辰に会ったんだよ。
ええ?いやいやあの〜辰五郎って俺と同じ名前なあいつは。
うん。
そしたらよぅ『どしたい?お前あそこやめたっていうじゃねえか』って言うから『まぁやめたってぇかやめさせられて』って言ったら『おっ嬶もやめたらしいな』って言うから『おっ嬶もやめちゃったらしいんだけどな』って話してたら『どうだい?蹴転の見世が1つ空いてんだ。
これをお前の嬶をまぁ頼りに話をするんだけどもよぅええ?どうだい?よかったらあそこの見世やってみてみたらそうしたらなんとかなるんじゃねえか?』ってこんな事言われてよぅ。
ウ〜ンどうかな〜?蹴転の見世」。
「お前さんが蹴転の見世やろうってぇの?お前さん蹴転の見世ってどういう見世だか知ってんの?」。
「何言ってんだ。
この廓で何年俺は飯食ってんだ。
知ってるよ。
ええ?嫌なお客ばかりじゃねえや。
いや小っちゃい二畳ばかりの部屋でもってよぅええ?男ってぇものはよぅなにも登楼がらなくたっていいんだ。
ああ好きな奴は吉原一回りしなきゃ家へ帰って寝つけねえなんてぇのがいくらも居る。
そういうのが居てええ?妓の子と喋ってるうち若い衆が外でもっていいとこへきたなと思うってぇと『直してもらいな』って『お直しですよ』ってぇとお前ウウ〜二百だよ。
うん。
知ってるよそのくれえ。
でまた話をしてるうちにいいとこへくると『直してもらいな』そんでもって四百。
な?これが六百八百ってんでそのうちにお客が帰ってくなんてそういう商売だよ。
うん。
なにも登楼がる客ばかりじゃねえ」。
「よく知ってんじゃないの。
ええ?だけどいくら見世やるったって握りっ拳じゃできやしないよ。
お金が要るんだよ?うん。
若い衆はどうすんの?若い衆は」。
「ウウ〜ッ若え衆は俺がやるんだよ」。
「お前が若い衆やるの?ああ〜そうかい?じゃあ玉はどうすんの?妓の子はさ」。
「ウウ〜ッいや〜お前にやってもらいてえ」。
「何言ってんのあんた。
私ゃお前さんの女房だよ。
堅気になったんだよ?何だい?そりゃ。
私にその商売妓の子をやれってぇのか?」。
「そうだよお前背に腹は替えられやしねえやな。
アア〜いや辰んべだってよぅお前が器量良しだってぇとこ見込んでお前がやってくれりゃってんで話持ってきたんだよ。
頼むよ背に腹は替えられねえ」。
「何言ってんだよ。
この年をして白粉塗って紅さして冗談じゃないよそんな事できるかい」。
「でできなきゃ…できなかった…。
お前にやってもらわなきゃ成り立たねえじゃねえか。
銭がある訳じゃねえしさ〜。
だけどさ辛抱していくらか銭になったらよぅそしたらまたちゃんとほら『お母さん』とかなんか言われるように若い妓の子かなんか雇やぁお前だってお母さんでいられるんだよ。
そうしたら俺ももっともっと働く気になれるんだ。
なんとかしてくれな〜」。
「冗談じゃないねこの年になって私が。
そりゃさヒビのいってる体だね〜お前さんにそこまで頼まれてむげに嫌だって訳にいかないけど。
身装だって必要なんだよ身装だって」。
「損料屋へ行って借りてこいや」。
「損料屋へ行って?ウ〜ンしょうがないね。
で今夜からすぐにってんで?アア〜ウ〜ン分かった。
じゃあ私もその気になってやってみるけれどだけどお前さんに務まるかね〜?」。
「何が?」。
「何がってお前さん嫉妬やきだからさ〜お客と喋ってる時に嫉妬なんかやかれたら商売にならないよ」。
「冗談言うなよ。
商売でやるのになにもお前嫉妬やく訳無えじゃねえか本当に。
頼むよな?本当に」。
「分かったよ。
じゃあ私は損料屋へ行って着物を揃えてそれからお化粧してね?少し暗くなってから行くからお前さんその借りる見世ってぇのきれいに掃除をして向こうで待っててちょうだい。
ね?いいね?」。
「おうおう。
じゃあ頼むよ本当に」なんてんで話はまとまって亭主のほうは蹴転の見世へやって来る。
「あ〜ここがそうか」ってんでたった二畳の部屋ではございますけどきれいに掃除して「まだ少し明るいな。
辺りの様子はどうなんだろう」なんてんで歩いて帰ってくる途端に…。
「お前さん。
ここかい?」。
「ここかい…。
お〜いおっ嬶か?驚いたなこりゃ。
ええ?こんなにきれえたぁ思わなかったな〜。
俺ぁ惚れ直したぜ」。
「何ばかな事言ってんだよ。
他の見世のほうも様子を見てきたの?」。
「様子を見てきたよ。
ひでえ妓ばっかだ驚いたね。
ええ?お前はお前本当に辰んべは言ってたよ。
『お前ん所のかみさんが蹴転で働きゃお前掃溜に鶴だよ』なんて言われてたんだよ。
ちょうどいいやこれからな商売始めようじゃないか」。
「そうかい?うん。
じゃあいいね?私ゃ見つくろってうん?いろんなお客さん来るからさ。
ね?あっちょいとちょいとほら見てごらん。
あそこあそこあそこあの若旦那ふうの人ね?あの人ちょっとつかまえてごらん」。
「分かりましたよ。
エイッ私がねエイッエイッ。
大将若旦那。
ちょいと…。
ジャ〜ジャ〜ジャ〜ジャ〜トット。
ウ〜ン逃げられちゃった」。
「逃げられたって何言ってんのさ袂なんて掴んだって逃げる…。
ここはね蹴転ってんだよ。
お客様を蹴とばして中へ入れるから蹴転ってんじゃないか。
それを『逃げられた』ってばかな事言うな。
袖なんぞ掴んだら駄目!袖ん中手入れちゃうの」。
「そんな事すりゃお前着物破れちゃう」。
「向こうの着物なんか構やぁしねえじゃない。
全くもうそんなこんで商売できるかよ本当に。
ええ?あっ向こうから来た酔っ払いほら職人ふうの。
うん。
新しい半纏腹掛け。
ええ?あ〜股引のあの人酔っ払ってるようだけどあれちょっとつかまえてごらんね〜つかまえて」。
「大将大将大将大将大将。
ヨ〜ヨ〜ヨ〜ヨ〜」。
「タイッタイッタイップワ〜ップワ〜ッそんな〜オラ〜ッダ〜ッ掴むなってんだよ逃げやしねえや。
ええ?俺のこと大将っつったのか?」。
「へい。
いや〜立派な大将。
家へ帰りますってぇと若い衆が大勢いるようでございますな〜。
え〜どうぞひとつお登楼がりを」。
「ええ?何を言ってやんでぇ。
こんなお前ここが有名な羅生門河岸蹴転って所だろ?噂にゃ聞いてたよ。
どんな所かと思って来てみたらひでえ妓ばっかだお前冗談じゃねえや」。
「そんな事言わないでねちょいと見ていってやって下さい。
ええちょいと見ていってやって下さいよ〜。
ええ?ちょいとでいいから。
ね?」。
「どれ?どれだい?だ…どれ?お前…」。
「あっおいああれかい?あれ?ヘエ〜ッちょいと年ゃくってるけどいい女だね〜。
ああ。
あれが相手をしようっていうの?ままさかその気になって向こうへ行ってお銭を取って『ちょいと待っててね』ってんで他のが出てきて『今のは看板でござんす』なんてんじゃ…」。
(笑い)「そういうんじゃねえんだろ?」。
「大丈夫でございますよ。
間違いありませんのでね〜ちょいとちょいとそこまで行ってやって下さいな」。
「ちょいと。
こっちいらっしゃいな。
ね〜いらっしゃいってば。
そこの色男こっちいらっしゃい」。
「キッヒッヒッヒッいらっしゃいってやがるフフフッいらっしゃいってやがるフフフッ。
いらっしゃっちゃおうかな〜ハハハアア〜ッ。
ウイ〜ッいい女だな」。
「何言ってんのよ。
ちょっとこっちいらっしゃいこっち。
まあ〜冷たい手をして〜ええ?懐手ぐらいしなさいよ。
出っ端をすぐに手を汚したりけがしたりしたらどうすんのさ?本当に」。
「いや放せよ放せよ本当に」。
「どこ浮気してきたの?ね〜どこ浮気をして…」。
「何言ってやんでえ俺は浮気なんぞしてこやしないよ」。
「何言ってんのよ〜お前さんみたいないい男この廓でもうほっとく訳はないだろ?どこで登楼がってきたの?」。
「いやいやだから…。
じゃあそりゃ本当の事を言うけどよ俺は左官屋なんだよ。
ああ。
んでなウ〜ン俺が仕事をしたそこのお店の今日新築祝いがあって大工も来りゃ経師屋も来るわお前畳屋もみんなでもって一杯ご馳走になって祝儀もらってよぅうんさてお開きってぇ事になった時に建具屋が『おう。
ちょいと吉原行こうじゃねえか』ってんで二人で吉原行った。
向こうは馴染みがいるからいいよ。
俺は初めての妓。
見て驚いちゃった。
面の長えああ上見て下向くってぇと真ん中忘れちゃうって顔なんだよ」。
(笑い)「馬がお前屑籠咥えたような長い面。
ああ妓の前で『お前なんか相手されてたまるか』ってんで飛び出してきてよぅああ?フラフラ歩いてるうちに『あ〜ここが蹴転という所か。
羅生門河岸』ってんで入ってきちゃったってこういう訳だ」。
「あらまあ〜そうだったの?だけどその顔の長い妓の人私にとっちゃ福の神だよ」。
「な何だい?その福の神ってぇのは」。
「だってその妓がお前さんが嫌ったから私ん所へこうやって会えたんじゃないか。
左官屋さん。
羨ましいね私若い時からね左官屋さんの女房になるのが夢だったの」。
「ホホ〜ンうめえ事言うねお前。
ええ?どうして?」。
「どうしてったってさ〜江戸の町は火事が多いでしょ?どんなにさ〜立派な家建てたからといって火事になりゃすっかり無くなっちまうじゃない。
そこにさ土蔵のすごいのがド〜ンと建ってりゃ百年も二百年もそうやって。
あんな立派な仕事をする左官屋さんて私ゃ女房になりたいなって思ってたのよ」。
「おい。
ハハハいい心持ちにさせやがんな〜本当に」。
「直してもらいな」。
「お直しだって」。
「お〜構わねえよ。
アハハ〜直そうじゃねえか。
ええ?本当かい?そりゃ。
うれしい事言うじゃねえか。
な〜いや俺だってよぅ俺だってお前エヘヘヘヘ何だか知らねえけどお前のことを好きになっちったな〜」。
「直してもらいな」。
「お直しだって」。
「あ〜いいよいくらだって出すよ。
だけどお前みてえないい女が何だってこういう所にいるんだよ?何だってこんな所にいるんだよ?」。
「嫌な事聞かないでよ〜。
当たり前じゃないのお銭借金」。
「何だい?借金て。
アア〜ッ男が道楽者で借金…」。
「そんなんじゃないのよ。
おっ母さんが患っててね〜ああ私ゃ堅気だったんだけどもさ〜人参という高い薬を飲まさなきゃならないってんで借金が重んじまってそれでもまぁ労咳なんてしょうがないねおっ母さん死んじまったの。
うん。
借金ばかり残ってねでこんな所へ身を沈めてるってこういう事なのよ」。
「フ〜ンあ〜そうかそりゃ気の毒だ。
ウウ〜ッその借金ってぇのはいくらなんだ?」。
「20両なのよ」。
「20両。
じゃあなにか?20両持ってくるとお前身請けできんのか?」。
「何?その身請けって。
私をお前さんの女房にしようってぇの?冗談じゃないよ。
家にちゃんと女房がいるんだろ?」。
「いや。
ちょっと俺独り者だよ独り者なんだよ〜。
ええ?こっちだってお前家ぃ帰った時によぅ女房がいて手拭い渡してくれて『湯へ行っといで〜』なんて帰ってくるってぇと『一杯つけといたわよ。
うん如何?』なんてんでもって一杯やるのがそれが夢なんだよ。
俺はお前身請けしようじゃねえか。
20両でみ…」。
「ウ〜ン身請けしてもらうとなるといろいろね世話になった所へお礼したりなんかしてご挨拶しなきゃなんないし30両」。
「おうおうそうか30両。
30両持ってこようじゃねえか。
ええ?いやいやいい。
今のな店が片づいたと思ったらもう一つ大きな店でもって蔵建ててくれって言われてんだ俺一人じゃとても出来ねえいろんな職人連れてってまぁ半年から1年はかかろうって蔵なんだ。
ええ?そこのお前旦那に話をしてよぅ明日の朝30両持ってお前身請けに来ようじゃねえか。
どうだ?それで」。
「ちょいと。
ばかは本気にするよ」。
「いいよ本気にしろよ。
俺は冗談で言ってんじゃねえんだ本当なんだから。
ええ?どうだい?」。
「本当に?おかみさんにしてくれるの?うれしいわ〜本当に。
本当嘘つくってぇと私ゃ化けて出るよ」。
「嘘なんか言えねえよ。
30両でいいんだな?本当に?よしじゃあ俺はこれからだよすぐに行ってなああ店の旦那に話をして明日今頃はまた30両持ってくるからその時にお前連れて帰るようにすっかり段取りしとけよ。
いいな?」。
「本当に?ええ?」。
「直してもらいな」。
「お直しだって」。
(笑い)「分かったよ。
もう直すもなにもねえやなお前ありったけ置いてこうじゃねえか。
ええ?大した形は無えけどよこれだけ細っけぇけどこれだけあんだこれでいいだろう。
な?じゃあ俺はすぐにお店へ行くから」。
「騙しちゃ嫌だよ〜。
脇で浮気なんかしないで〜。
私って厄介者が居んだから〜。
ハア〜ッ」。
「何お前さんボ〜ッとそこで立ってんの?」。
「この商売よそうじゃねえか」。
(笑い)「何で?」。
「何でったってお前あいつと…明日30両持ってきたらあいつん所へ行っちまうんだろ?」。
「何ばかな事言ってんのよ。
そうでも話を進めなかったらお金取れやしないじゃないの。
ええ?だからそう言ったの」。
「いや〜だってお前あいつの手を取ってジ〜ッと持って上目づかいに睨んだ目はエッエッただの目じゃねえ」。
「ばか。
お前さんぐらい嫉妬やきはない。
だからこんな商売務まる訳ゃないってそう言ったんだよ。
ええ?私だってすき好んでやってる訳じゃない。
よそうよそう。
ね?いいよ別れりゃいいんだから。
私ゃさ一人になったほうが身軽でいいよ」。
「おいおいそんな…いきなりそんなお前。
お前がお前話してる事があんまり真実味してるからついこっちもお前そうなっちゃった。
お前商売であれやってたのか。
ヘエ〜驚いたなこれは。
そんな別れる別れるなんて言わないで。
な〜な〜。
いや分かったよ〜俺が悪かったよ。
もう少しな?もう少し様子見て」。
「何ばかな事言ってんだい。
クシュンこの年して白粉塗って紅さしてこんなばかばかしい事やりたかぁないよ。
だけど私だってお前さんと別れたくないと思えばこそ…」。
言ってるうちにさっきの酔っ払いがフラフラっと帰ってきてこの様子を少し見てたけど…。
「おう。
直してもらいな」。
(拍手)2015/12/12(土) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
日本の話芸 落語「お直し」[解][字][再]
落語「お直し」▽金原亭伯楽▽第675回東京落語会
詳細情報
番組内容
落語「お直し」▽金原亭伯楽▽第675回東京落語会
出演者
【出演】金原亭伯楽
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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