【元番記者が語る北の湖理事長】(25)大麻騒動渦中での宴会の真相

2015年12月17日11時0分  スポーツ報知

 弟子を我が子と思い育ててきた北の湖親方。その考えは、徹底していた。

 あれは、大麻問題で理事長を辞任した2008年9月8日だった。大麻問題とは、この年の8月に幕内・若ノ鵬が大麻を所持していた疑いで逮捕。日本相撲協会を解雇された。直後に協会は、すべての関取に尿検査を実施。判定の結果、ロシア出身の兄弟関取だった大嶽部屋所属の露鵬と北の湖部屋の白露山に陽性反応が出たのだ。

 この時、白露山の師匠だった北の湖理事長。9月8日に開かれた臨時理事会で、責任を取って理事長を辞任した。露鵬と白露山は解雇となった。その夜、私は、辞任した理事長に話を聞こうと北の湖部屋へ向かった。この問題は、大きなスキャンダルとして本紙も含め各メディアは連日、大々的に報じた。北の湖部屋の前には大勢の報道陣が張り込んでいた。理事長が辞任した当日も、その取材の波は収まっていなかった。

 部屋に着くと、耳を疑った。2階の大部屋から力士たちの大きな笑い声が聞こえてきたのだ。明らかに宴会を開いていた。師匠が辞任となり、白露山が解雇となった当日になぜ?部屋の前の報道陣のほとんどがあきれ顔を浮かべていた。大きな疑問を抱いて、部屋に入ることなく私は、再び両国国技館の記者クラブへ戻った。

 後日、週刊誌には、この夜の宴会について「KY(空気読めない)」など批判記事が並んだ。私は、宴会の真相について力士から話を聞いた。すると、提案したのは、北の湖親方本人だったという。目的は、解雇となり現役引退を余儀なくされた白露山の送別会だった。それにしても部屋の前には報道陣がいる。あらぬ誤解を受けることは、避けられない。送り出すなら別の場所でやるなど他の方法があったのではないだろうか?騒動が一段落したころ、私は北の湖親方に自分の疑問をぶつけた。

 「自分の弟子が土俵を去るというのに、何にも声もかけないでいられますか?オレにはできない。他の弟子にとっては、一緒に稽古で頑張ってきた仲間です。どんな理由にしろ、弟子が辞める時に頑張ったな、と送り出すのは当然ですよ」。外に報道陣がいようがいまいが関係がなかった。引退の理由も関係はなかった。ただただ「自分の弟子」という1本の絆を大切にしたい。その姿勢は、他人から批判されようが誤解されようが変えることはできない。師匠としての揺るぎない哲学だった。

 白露山の問題がなければ自らは理事長を辞任することはなかった。「オレのことはいいんだ。白露山が胸を張って次の世界で頑張ってくれればいい」。そう思っての宴会だったともいう。

さよなら北の湖さん
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