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猫箱ただひとつ

物語追求blog。アニメ、マンガ、ギャルゲーを取り扱ってるよ

泣きじゃくりながら問いかけた彼女に精一杯の答えを(僕は友達が少ない10巻)

ラノベの感想 僕は友達が少ない
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*10巻ネタバレ注意

 

三日月夜空の問いかけ

 

体育館。逆恨みする女子。キレてしまった柏崎星奈。浴びせられる暴言と中傷に耐え切れなくなった逆恨みをしていた子は泣き出し、遠巻きに見ていた群衆は怒り始める。

そして放たれる一言。

 

  「――あの人、友達いないんじゃないの?」

 誰かが放った何気ない一言。

 恐らくは発した本人もなんとなく言っただけで、効果があるなんてまったく想像もしなかったであろうその言葉。

 しかしそれは――完璧超人柏崎星奈の、唯一にして最大の弱点だった。

 星奈の身体がびくんと震え、かあっと羞恥に頬が染まり、傍目にもわかるほどの動揺が浮かぶ。

 「え、あ、な、あ、う……」

 さっきは流れるように罵倒を発していた口は、ぱくぱくと動くだけで意味のある言葉が出てこない。

 「え、えっ? もしかして……図星!?」

 どっと笑いが――嘲笑が起きる。

「え、マジで友達いねえの?」「そりゃあんな性格ブスじゃあな」「あたし柏崎さんと同じクラスなんだけど、体育のときいっつも先生とペア組んでるよ」「あはっ、それ悲しすぎじゃん!」「へっ、どっちがミジメなんだか」

 星奈は俯き、拳を握りしめて震えている。

 これ以上は見てられない……!

「や――」

めろ、と俺が声を上げて星奈を助けに行こうとしたそのとき、

 

「笑うなあああああああああーーーーーーッ!」

 

 体育館中に響き渡るような怒声を上げて、

「笑うなッ! 笑うなッ! 笑うなッ! 笑うなッ! 笑うなああああああ!!」

 人混みをかき分け、一人の少女が、星奈を庇うように彼女の前に立った。

 黒いジャケットを身に纏った、まるでお姫様を助けに現れた騎士のようなその少女の名前は――三日月夜空

(中略)

 戸惑いを浮かべる群衆に向けて、三日月夜空は叫ぶ。

 生徒会長代理としての立場などをかなぐり捨てて、手にした人望など知ったことではないと言わんばかりに怒りを噴き出し、柏崎星奈ただ一人のためだけに叫ぶ。

 

 「どこまで醜悪なのだ貴様らはっ!!」

 

 その一言で、戸惑っていた群衆は、夜空が自分たちの味方ではないことを理解した。

 「しゅ、醜悪って……」「なに言ってんだ……」「え、私達が……?」「わ、悪いのはその人じゃない!」

 リーダーシップを発揮して騒ぎを止めるために出てきたのではなく――柏崎星奈ではなく、自分たちを責めるために現れた『敵』だと理解した。

 「よ、夜空……?」

 戸惑いの顔の星奈がを目を見開いて夜空を見つめる。

 夜空はちらりと星奈を一瞥し、

 「……たしかにこいつは馬鹿だ。力任せに暴れ回るしか能がなく、ナルシストでワガママで自分勝手で空気も読めず、煌に本気で嫌われていることに気づかないスーパー馬鹿だ。自分のことを完璧超人などとたわけたことをぬかしているが、完璧どころか骨の髄まで穴だらけの抜け作レンコン女……もはや人の形をしたうんこと言っても過言ではない……」

 「あ、あんたねえ……!」

 星奈が文句を言おうとしたのを遮り、

「だがッ!」

 夜空は鋭く叫ぶ。

 「こいつが石を投げられても仕方ないようなどうしようもない大馬鹿であることと、実際に寄ってたかって石を投げつけている貴様らの醜悪さはまったく別の話だ! 自分のみじめさを振りかざす恥知らずな豚ども! わかりやすい正義に群がる浅ましいイナゴども! 勘違いするな! 貴様らは正義なんかじゃない! 思想も信念もなく、ただ憂さ晴らしのために他人を攻撃する貴様らに、正義など微塵もあるのものか!」

 星奈の罵詈雑言よりも鋭利な、あまりにも苛烈な言葉に、今や群衆の怒りの矛先は完全に星奈から夜空へと移っていた。

 どうして夜空がここまで怒っているのだろう。

 どうして夜空が星奈のためにここまでするのだろう。

 そう疑問に思った俺の脳裏に、夜空と初めて会ったときのことが鮮烈に蘇る。

 大勢のクラスメートに囲まれ、一方的にいじめられていた俺。

 そんな俺を、ヒーローのようの助けてくれたソラ。

 そして夜空が助けたのは、あのときの俺だけじゃなかった。

 小鳩を助けたり日向さんを助けたり――損な選択だとわかっていながら、両親が離婚したとき母親のほうについて行ったり。

 本質的な部分で夜空は、目の前で弱っている誰かを手を差し伸べずにはいられない。ヒーロー気質なのだろう。

 見ず知らずの少年(タカ)ですら助けてくれた。

 本人には特に興味もなかったであろう俺の妹(小鳩)を助けてくれた。

 疎遠だった姉(日向さん)にさえ手を差し伸べた。

 そんな三日月夜空が、彼女の中で最も大きな存在の窮地に――好きな男羽瀬川小鷹なんかよりもはるかに大事な――『友達』柏崎星奈の窮地に、飛び出さないわけがなかったのだ。 

 「理解できないものを憎悪し、変わろうとする努力さえ悪意をもってとらえることしかできない凡愚ども! 被害者面するだけで自分を高める努力をせず、誰かの足を引っ張ることしかできない蛆虫どもが! 貴様らごときが柏崎星奈を泣かせるな!」

 あのとき正義の味方になりきっていたいじめっ子たちに受けた、ライダー飛び膝蹴りやアソパンチの痛みが、まざまざと蘇る。

 とかくこの世界は、間違っているとされた者に厳しい。間違っているものを攻撃することが善しとされている。

 けれど夜空は、叩いていいとされた者を、悪であると世間が認められた者を、一緒になって叩くことを善しとしない。

 それは正義ではない。悪は攻撃して滅ぼすのが正義なのだから。

 だからきっと――この場でみんなに悪であるとされた柏崎星奈を助けることは、正しくなんてない。

 正義の味方などではなく。

 三日月夜空は、生きにくい者の味方なのだろう。

「……いつもいつも逃げてばかりで、勝手に幸せが転がり込んでくるとでも思っているのか……!」

 夜空のトーンが落ち、まるで独白のようになる。

 「他人を僻んで現実を恨んでばかりで、自分からは何もしようとしない……」

 それはかつて、理科が夜空に向けて言った言葉だ。

 夜空の台詞は自虐でもあり、群衆への攻撃でもあり、そして、自分自身を含めた世界全てへの弾劾だった。

 「命がけで人助けをした勇気ある青年のニュースに胸を震わせ、余命幾ばくもない少女の手紙に涙を流したその脳と心臓で、今度は他人を憎悪する! 物語の主人公に自分を重ね、強く正しく美しく在りたいと願いながら、その手で他人を傷つける! 愛や友情の素晴らしさを語ったその口で、他者を蔑み自分を偽る……! 考えない想像しない成長しない、救いがたいほど愚かしい醜悪な獣――それが私たちだ!」

 涙を滂沱と流しながら、夜空は拳を握りしめ、震える声で叫ぶ。

 

「ヒーローや魔法少女に憧れ、正義であることを望み、悪を憎み、愛や友情を美徳としながら! どうして貴様らは……どうして私たちは、人に優しくなれないんだ!!」

 

 それはきっと、この場にいるほとんどの人間が、年を重ねるうちにつれていつの間にか、なんとなく自分の中で折り合いをつけてしまっているような――幼い問いかけだった。

 自分は自分。他人は他人。自分は普通の人間だから。画面の向こうにいるのは特別な変わり者。物語を真に受けてどうする。フィクションと現実の区別くらいつけろ――。

 しかしそんな稚拙ながら切実な命題を、十六年以上生きてきてなお真剣に問い続ける夜空のことを――現実に妥協してしまった者達のいったい誰が嗤えるというのだろう。

 

――三日月夜空柏崎星奈、群衆.(僕は友達が少ない10巻)p220-227

 

 

夜空の真っ直ぐな問いかけは思わず目を逸らしてしまうほどに答えにくくて、でもちゃんと答えなきゃいけないものだった。泣きじゃくりながら問いかける彼女につられて私も思わず泣いてしまったそれは稚拙で、未熟で、幼い問いかけにもかかわらず、でも、懐かしい響きを持った問い。

私はまだこれに答えられないかもしれない。答えるための言葉を持ちあわせていないかもしれない。でもちゃんと答えを出したいなとは思う。

 

   ◆

 

まず遠い日の約束をどうして私たちは守れないんだろうね? から手を付けていこうと思う。

どうして私たちは遠き日の約束を守れないんだろうか?……簡単だ。重すぎたんだ。背負うに重すぎて歳を重ねるごとに軽くなりたくてついつい下ろしてしまう。たとえ引きずりつつも日々のせわしない些事にてんてこ舞いになってしまいその約束のことも忘れていってしまう。そうしていつの間にか…いつの間にかに…あの日の約束を忘れた自分が出来上がるのだろう。

――成し遂げたいことがあった。ああはならないと固く誓ったことがあった。

こうなりたいと天空に願ったことさえあるのに……けれどそれを保ち続けられたのはせいぜい数年だ。私たちは変わっていくし変わり続けろと世界が弾劾してくる。時間の矢によってどうしようもなく変化を強いられ、変質を免れず、変容を許諾した。

 

永遠はない。

故にちっぽけな約束さえ守り切れない。

 

それに何年、何十年、昔日の約束を守りきることができたとしても、その時は世間から白い目で見られるという結末が待っている。当たり前か。もう誰も抱いていない夢を持ち、理想を抱くなんてとても馬鹿馬鹿しくて寒々しいことなんだよ。世間はそれをなんていうか知っているか?ガラクタだ。夢でも約束でも願いでも宝物でもない、ガラクタだ。

時間を拒み、永遠を愛し、倫理を踏み越えていく者なんて一体どれだけの人間が成しえるんだ? そんなのただのエリートじゃないか?あるいは狂人だ。凡人がそこに到達できるとでも思っているのかよふざけんなよ意志がなく気骨は脆く精神は薄弱な者に「約束」を持ち続けるなんて最初から無理だったんだよ―――。

 

言い訳だ。こんなの本当に。ただの言い訳だ。馬鹿か私は……。

 

理想を抱いて溺死しろ

 

アーチャーは言った。それは皮肉を込めた言葉だったが、でもそもそも「理想を抱ける者」なんて少ないんだよね。そしてもし理想を抱けて溺死できるならそれは思いの外幸せなことだとすら思う。…なぜなら理想を抱き続けることはとても辛いからだ。その覚悟のあるものしか理想は抱けない。凡人は理想を抱けない。抱いたまま遠くにはいけない。

だから理想を抱き、抱いたまま、死ねるってのはとても幸福なことだと私は思うよ。

 

三日月夜空は他の者が笑ってしまうような理想をいままで抱いていたんじゃないだろうか。誰もが笑って、誰もが泣かずいられる世界。善が悪を砕く、わかりやすいほどに明快な世界を。

英雄願望。

タカを救い、小鳩を助け、母を手助けしようとし、最後にはあんなにも嫌っていた姉をも手伝おうとする夜空はもう誰もが諦めた「ヒーロー」になることを未だ叶えようとしている人間なんじゃないか?

だからこんなにもまっすぐな質問が彼女の体から出てくるのではないかと、そんなふうに思わずにはいられない。

 

「ヒーローや魔法少女に憧れ、正義であることを望み、悪を憎み、愛や友情を美徳としながら! どうして貴様らは……どうして私たちは、人に優しくなれないんだ!!」

 

――三日月夜空

 

 

…そうだな……私は―――私が認めた者しか優しくしないからだ。じゃないと辛いからだ。あらゆる人にリソースは割けない。感情だって資源のひとつだ。使えば使うほど、共感すればするほど私は疲れていってしまう。気を使えば使うほど心が擦り切れてぼろぼろになっていくのは……とてもじゃないけど耐えられない。だから私は私が認めた者しか優しくできないのだ。あとは非干渉を貫くか、傷つけることを覚悟で接していくしかない。

これが今出せる泣きながら問いかけた彼女に対して、私が出せる答えだろうか。

……

…………

昔日の想いは叶わない。しかしそれを受け入れられるほど現実に屈したいわけでもない。理想と現実。その2つが交錯するとき軋みをあげるのはまず自分自身であり、貫こうとすればするほど瓦解していく。つまりこれは「時間の矢」に戦いを挑むのと同義ってことになる。やんなるかな嘆きのイカロス……ってか……

 

  ◆

 

夜空の言葉でまた一つ、私は守りたい約束が出来てしまったけど、さて凡愚にどこまで守り続けることができるのだろうか。楽しみだ……(涙

 

"こいつが石を投げられても仕方ないようなどうしようもない大馬鹿であることと、実際に寄ってたかって石を投げつけている貴様らの醜悪さはまったく別の話だ! "

 

誰に約束をしているのだろう?

きっと明日の私に、そして星奈をかばった三日月夜空という少女に対して。

 

 

 

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