【釧路】釧路市議会が議会広報「くしろ市議会だより」に一般質問の一部を掲載しない方針で調整している問題で、専門家からは「市民の知る権利の侵害につながる」「市議会が本来のチェック機能を果たせなくなる恐れがある」との懸念や批判の声が上がっている。市議会は今月中にも各会派の代表者会議でこの問題を議論するが、開かれた市議会の根幹にもかかわる問題だけに、慎重な対応が求められる。

 議会だよりは年4回、8万3500部を発行。新聞折込や戸別配達で各家庭に届く。定例市議会で一般質問した議員が自ら希望した質疑を掲載している。

 問題となったのは、梅津則行氏(共産党)が、「アベ政治を許さない」と書かれたクリアファイルを所持しているか道教委が教職員に調査した問題について市の対応をただした質疑。

 議会だよりを編集する議会広報特別委の金安潤子委員長(市政進)が「政権を批判する文言で疑問を感じた」と異議を唱えた。広報委が各会派に意見集約したところ、全6会派のうち、自民、公明、市政進、新創クの4会派が「掲載は不適切」、市民連、共産党の2会派が「掲載するべきだ」とした。

 市議会事務局によると、議会だよりの掲載基準について、関連の規則はなく、今回のような理由での差し替え例はないという。

 11日深夜から12日未明の市議会本会議で、村上和繁氏(共産党)は「議会での発言の責任は議員個人が負い、有権者が判断する」と指摘。これに対し、金安委員長は「議会広報は政治家個人や会派の意見を載せるものではなく、議会の合意なく発行するものではない」と反論した。

 ただ、「アベ政治―」の文言は、どんな内容のクリアファイルかを指す言葉で、質問のため、事実関係を表したに過ぎない。札幌学院大の神谷章生教授(政治学)は「人権侵害でない限り、公的な質疑は最大限市民に伝えるべきだ。少数政党の意見を押さえ込む動きは市民の知る権利の阻害につながる」と懸念する。

 釧路公立大の辻信幸准教授(憲法学)は「そもそも政治活動で政権批判の表現があったとして何が問題なのか。議員活動への過度な介入だ。議員活動の自制につながれば、権力に対して議会は拍手するだけの御用機関になってしまう。それが最悪のシナリオだ」と指摘している。(鈴木誠)