ドイツ、ハンブルク近郊のある牧場には、ウシの群れと一緒に暮らすことで一躍有名になったイノシシがいる。
牧場主のディルク・レーゼ氏は、数カ月前にやってきたこのイノシシを「バナナ」と呼んで、じっと見守ってきた。ウシは新しい仲間を特に嫌がる様子もなく、イノシシの方はウシに囲まれながら、まるで自分の家にいるかのように、のびのびとすごしている。
近年、イノシシについてはあまりいい話を聞かない。米国やヨーロッパでは、生息数の増加で、敷地に侵入したり、物を壊したりする被害が相次いでいる。(参考記事:「米で急増するイノシシ、感染症を拡大か」)
しかし今回のイノシシは、何の悪さもしていない。この子がウシの群れに加わったのは、おそらくイノシシが知的で、仲間を必要とする動物であることが理由と考えられている。
賢くて社交的なイノシシの仲間
「ブタを含めてイノシシの仲間について言えるのは、彼らが非常に複雑な社会を築いているということです」と、米国ユタ州にあるキンメラ動物支援センターの代表、ローリ・マリーノ氏はそう語る。「野生下では、社会的な集団をつくって暮らしています。飼育下の場合、1頭で飼われているとすっかり覇気をなくしてしまうことがよくあります。しかし、数頭を一緒にしてあげると、仲間から刺激を受けて元気を取り戻すのです」
マリーノ氏によると、イノシシの仲間はまた、犬に匹敵するほど頭がいいという。「なぜこのイノシシが単独で行動しているのかはわかりませんが、森から出てきて、たまたま見つけた相手にくっついているのでしょう。イノシシの仲間は頭がいい動物です。この子も自分が何をしているのか、わかっているはずです」(参考記事:「食べ物を洗う、グルメなイノシシが見つかる」)
一方、ウシも特別な能力をもっており、かつて考えられていたような愚鈍な動物ではないとマリーノ氏は言う。「人間が思うよりも、ウシはいろいろなことを考えています。ただ単に大きな図体をして、足元の草をはんでいるだけの存在ではありません」。たとえば、友情を育んだり、恨みを抱いたりするし、記憶力も非常にいいという。
かわいい間違い
イノシシとウシが家族のように仲良くできるもう一つの理由は、彼らが似た者同士だということだ。どちらも有てい類であり、その行動には似通った部分がある。「ライオンにつきまとっているわけではありませんから」
イノシシは草も食べるが、主食は地面の下にのびる根や虫だ。そのためウシと一緒に暮らしても、食べ物が争いの種になることはない。
「イノシシとウシの家族は、かわいらしい間違いから生まれたものですが、彼らの社会がいかに柔軟かということがわかります。互いの関係から、双方が何かしらの利益を得ているのです」とマリーノ氏は語る。(参考記事:「【動画】まるで兄弟、子チーターと犬の動画が話題」)