よくブログで自慢気に「毎月100冊本読んでます」とか言う奴いるけどさ
俺がそこの何に感心するかって"本を100冊読む努力"より"読みたい本を100冊も探せた事"なんだよね。
前は「少しの知識欲さえあれば読みたい本なんていくらでもできるだろ」と思ってたけどさ。
最近暇ができていざ読書習慣をつけようと本屋行ったら何も読みたい本がないのな。
なんか"胡散臭い政治本" "超絶難しそうな技術書" "胡散臭い自己啓発書"しか眼に入ってこない。
小説という手もあるが個人的に物語は小説より映像派なのであんまり…
ベストセラーコーナーもなんか「ブログにでも書いてろよ…」ってレベルの新書が並んでる。
この増田のそこはかとないブログへの上から目線もなかなか香ばしいんですが、さて、いろいろ引っ掛かる*1。
引用しつつ考えてみる「読みたい本がない」と読書欲について。
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【目次】
※「はてなの中の失楽」は竹本健治「匣の中の失楽」のネタバレになる可能性があります。ご注意ください
読書と渇望
まずここ
最近暇ができていざ読書習慣をつけようと
ここから違う。
欲求、動機が先にあって行為はその後ろについてくるもの。
ですので「読みたい」という渇望(興味、欲求)がまず先にある。
この増田*2の場合は、暇という時間の空隙に対して読書を当てはめようとしている。
だけど、読書の欲求があるひとは隙間さえあれば読む。
数分でも時間さえあれば読む。眠くても読む。
読みたい本があればKindle片手に歯を磨きながら読み、ブラウザの読み込み時間に読み、山手線の混雑でも読み、テレビのバラエティ垂れ流ししながら読み、飯を食べつつ読む(行儀が悪い)。
忙しい→読めない
暇→読んでみるか
これには「読書に対しての渇望」が感じられない。
ヒマ→だから→読書しよう、という程度の考え。だから渇望や興味がないのに行為が生じてる。
では「読書に対しての渇望」とはなにか?
たとえば美味い飯を食ったとする。
『美味い!超絶美味い!』
そう感じて、次に腹が減ったら『アレまた食いたいなー』と連想し『アレがあんなに美味いなら他にも美味い店があるかも』と他の店を探索したりする。
するとガイド本やグルメブログに目を通し、暇があれば美味そうなところを探しに……。
これが「渇望と行動(行為)」
渇望には、まず経験や興味が必要になる。
だからミステリ読みなんかの読書好きは「うわーやられた!こんなトリックがあったなんて!!」という経験をどこかでしているからこそ「他にどんなトリックがあるんだろう?」と言う渇望に基づいて読み進める。
どんなに壁投本にぶつかろうが、未読本を積みあげようが。
一歩さえ踏みださずに「オレに面白さを感じさせるにはどうすればいいんだ?」と聞いてる時点でなんか違う。
「渇望」ってのは受動じゃなく能動なんすよ。
読みたい本の探し方なんて、増田が見下してるブログに山ほどオススメ本が書いてある。
それを参考にしないなら誰に聞いても同じこと。
個人的には、松岡正剛のオススメが好きですがね。
実に質が高い。
・千夜千冊TOP
映像派
小説という手もあるが個人的に物語は小説より映像派
この映像派ってのもよくわからない。
たとえば神林長平「戦闘妖精・雪風」はアニメ化もされたが、情報量が圧倒的に薄い。
映像化できない(仮にするとしても冗長になる可能性が高い)からこそ活字で読む必要がある。
映像は、具象表現だから小説よりもダイナミックな映像を作ることはできる。
だが心理や哲学といった抽象的なモノを表現するのに映像は向いてない。
だから「戦闘妖精・雪風」の戦闘機によるドッグファイトシーンはアニメで描けても、ジャムという敵の姿や神林氏がテーマとする「機械と人間の境界」や存在などの哲学的な側面を描くのは難しい。
はてなの中の失楽
昨日、新装版で出たばかりだが竹本健治「匣の中の失楽」はミステリの名著。
だが、これも映像化は難しい。
突然だけれど、少し「匣の中の失楽」の構造がどういう風なのか、はてな界隈に置き換えてなんとなく雰囲気だけでも伝わるように書いてみることにする*3。
(以下の駄文より圧倒的に面白い「匣の中の失楽」は是非一読を)
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1
「へぇ……これ書いたの?」
「えぇ、そうなんですよ。まだ第一章だけなんですけど」
”村長”は、わたしが書いた原稿に目を通す。
「おぉ、実名小説?あざなわさん得意だね」
「えぇ、はてな界隈のひとらを実名で出して事件が起きるのが面白いかなーと」
スーツに身を包んだ”村長”の姿は、ネット上の犬アイコンとはずいぶん印象が異なる。
やり手のビジネスマンに見えなくもない。
安物のスカジャンに身を包んだわたしと”村長”がスタバでテーブルを囲み原稿を読む様子は、新人作家の原稿持ち込みに見えるかもしれない。
「……おぉ、でhagexさんが殺されるんだ」
一章の最後、hagex氏が密室で殺される。そういう展開。
「これ探偵役は誰なの?」
「悩んでるんですけどねー。サイトーさんに神の声が聞こえて事件解決する神官探偵とか、名医シロクマ探偵とか。もしくは多重解決ものとか」
「多重?と言うと?」
「芥川龍之介の「藪の中」のように真相が曖昧なまま多重に解決が提示され終わるような……幻想小説みたいな感じも面白いんじゃないかと」
素人探偵などが複数登場しさまざまな推理を披露し、幾つもの解決が提示される。
ミステリにおいてそんな多重解決作品は結構多い。
有名どころだとバークリー「毒入りチョコレート事件」ノックス「陸橋殺人事件」アシモフ「黒後家蜘蛛の会」あたりだろうか。
他にも……
「ちょっと待ってね、電話が」
”村長”は、上着の内側から震えるスマフォを取り出し耳に当てる。自転車のストラップが揺れている。
「はい、もしもし。kanoseですけど……え?orangestarさんが死んだ?」
2
「……で、オレが死ぬわけですか」
orangestarさんはニヤニヤしながら原稿を返してくる。
初めて書いたミステリ、まだ第一章しかない実名小説。
第一の被害者は、目の前にいるorangestarさん。
「どーですかね?」
「いやー、オレもはてな村奇譚で結構殺してるから文句はないよ。でもkanoseさんに電話がいくほど仲よくはないな」
「まぁ、そこはフィクションなんで」
オフ会の会場になった個室居酒屋の一室。
まだ自分とorangestarさんしかいない。
そこへ扉を開けてhagex氏がやってきた。
派手なジャケットにハット。
「「「おつかれーっす」」」
なぜかオフ会のあいさつって大概「お疲れ」なんだろうと思わなくもないが、お疲れというくらいがいい距離感なのかもしれない。
「いやー、まいったまいった」
席に座るなりハットを脱ぎおしぼりで額を拭く。
「どうしたんです?道混んでました??」
「いや、そうじゃなくて、聞いた?kanoseさんが失踪したってさ」
「え?」
3
orangestarさんの葬儀から数日。
わたしは渋谷のサイトーさんの家に来ていた。
相変わらず雑然とした部屋。
山手線で来たわたしと一足先に自転車で来た”村長”は椅子に座り、その様子を見ている。
いつものサイバーサングラスをかけたサイトーさんはカメラのセッティングをしてい
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……といった具合。
ちょっと長いですが、ざっくりこういう虚実が入り乱れるメタ構造。
「匣の中の失楽」は複雑で衒学的。
映像化もされる見込みもないし、仮に映像化されてもそれは原作とは別物になるだろう。
だからこそ「活字で読む意味」がある。
こう言う本に出会うから「活字を読もう」という気になる。
最後に
読みたい欲求がないなら読まなければいい。
何か気になる作品があれば手に取ればいい。
単にそれだけのことでしかない。
自分で探して面白い本に出会えれば気づけば「読書の渇望」が生まれるかもしれない。
仮に本なんて読まなくたって死ぬわけじゃなし。
読書なんざそんなに大した行為じゃない。
ヒマならネットになんかわーわー書いてればいいんじゃね?
映像派ならXVIDEOSでも観てりゃいいだろうよ。
ウチは「掟上今日子の退職願」と「ナチスの財宝」「マネーの進化史」「ミステリーアリーナ」をさっさと読んで「新装版 匣の中の失楽」を再読したいんだけど、時間がなくて困ってんのよ。
人生は晴耕雨読で生きられないように出来てるねぇ……。
読みたい本は多すぎて、人生は短くて、だから困る。
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