大畠章宏幹事長は24日、大阪市を訪れ、経済不況の中で仕事や住まいを失った人々のためにシェルター提供や就労支援の事業を行っている「一般社団法人大阪希望館」(同市北区)、「特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構」(同市西成区)の取り組みを視察した(写真上は釜ヶ崎支援機構・山田理事長の案内であいりん地区の三角公園を視察する大畠幹事長。後に見えるのは同機構の運営する夜間宿泊所)。

大阪希望館の相談センターで沖野事務局長や利用者の話を聞く大畠幹事長ら

大阪希望館の相談センターで沖野事務局長や利用者の話を聞く大畠幹事長ら

 大阪希望館は2008年秋のリーマンショック以降、世界的な不況が深刻化する中で「派遣切り」などによって仕事も住まいも失って野宿や野宿直前の状態に追い込まれた人々が駆け込んで再出発できる支援施設として、連合大阪などの労働組合、大阪の労金・全労済・生協連などでつくる労働者福祉協議会、カトリックをはじめとする宗教団体、福祉団体やホームレス支援団体などの協力で09年に発足した団体。仮住まいや就労訓練、カウンセリング、生活支援などを通じて一人ひとりのニーズに沿った求職活動をサポートしている。仮住まいの居室は個室を無料で3~6カ月間提供し、まず落ち着ける環境を確保することを重視する。生活費や求職活動費は「中間就労」と呼ぶ淀川河川敷などでの清掃作業で各人が受け取る作業手当(日額4500円)でまかなう。開館からこれまでに77人を受け入れ、うち68人が職に就いて「卒業」した。

 同館事務局長の沖野充彦さんは、もともと釜ヶ崎支援機構の理事として日雇い労働者の労働問題、福祉などの相談に関わってきた。「ネットカフェ難民」の問題が広く知られるようになった2000年代後半以降、中高年の日雇い労働者に混じって若者が仕事を求めて釜ヶ崎に来るようになったが、日雇い労働者の集まる労働福祉センターの雰囲気になじむことが難しく、精神面でのサポートなども必要と考えていた。ちょうどその頃にリーマンショックがあり、行政だけに任せておけないと、この大阪希望館を立ち上げることになったという。

 同館では、働ける若い人々については、生活保護を使わなくても自立していけるモデルを追求している。「若い人たちは、これまで生活保護より多い手取り額をもらったことがなく、長期化すると就職へのあきらめが出てきてしまう。それでいいのかという思いですわ」。沖野事務局長は、2008年に始まった国の緊急雇用創出事業が今年度で切れる一方、新たに政府が提出した生活困窮者自立支援法案は成立しても2015年4月からの施行になるため、なんとか緊急雇用創出事業を延長してほしいと大畠幹事長に要請した。

 現在同館の仮住まいを利用して求職活動中や最近就職の決まった若者3人からも話を聞いた。「最後は情熱や意欲。将来自分のレストランを持ちたいという思いがあるので、多少厳しくともがんばりたい」「放浪生活をしていた時からは想像できないくらい落ち着いた状況で、仕事探しに向けて体調や体のリズムも戻ってきた」「ここを利用しながら30数社受けて、ようやく正社員登用の道のある職場に入れた。結構いい職場だと思う」などと話してくれた。ネットで検索して同館にたどり着いたという2人が検索したキーワードを尋ねると、「お金がない」「路上生活」という言葉だったという。

釜ヶ崎支援機構の山田理事長の案内で西成労働福祉センター内を視察する大畠幹事長

釜ヶ崎支援機構の山田理事長の案内で西成労働福祉センター内を視察する大畠幹事長

 釜ヶ崎支援機構は西成区の労働福祉センターや簡易宿泊所(ドヤ)、飲み屋や食堂などが集まる「あいりん地区」で、野宿生活者や野宿に至るおそれのある人々の社会的処遇の改善、自立支援が図られる地域づくりなどの活動を行っている。「就労支援と福祉援護の垣根を超える総合支援」「官民協同のセーフティネットワークでソーシャルインクルージョン(社会的包摂)の実現」が活動の目標。特に社会的就労事業として府・市の施設や道路の除草・清掃作業に高齢の日雇い労働者を雇用したり、600人分の夜間宿泊所を運営。技能の向上と就労機会創出のために放置自転車リサイクルなどの仕事も実施している。

夜間宿泊所内を見学

夜間宿泊所内を見学

 同機構の山田實理事長は、「グローバルな市場経済からはじき出された人たちがどう誇りを持って仕事を得て暮らしていけるか。いわゆる『措置』型でない仕組みを作っていくことがポイント。国が仕組みを作って、実際の事業は非営利団体が地域の実情や必要に応じてやっていけばいい。これまでは大阪市の生活保護世帯の半分があいりん地区の住人で、ホームレス対策のために合わせて500億円もかけていながら、結局高齢者と野宿者と病人ばかりが残るという不効率な仕組みだった。これからは、例えば里山保全や山間地の間伐対策など社会的に求められている治山治水などを皆で協力して地元で守っていく仕組みを作り、それで生活できるようにしていくべきだ」と話す。

 大畠幹事長は同日記者団に、「あいりん地区などを視察して厳しい状況を実感した。さまざまな話を聞いたが、政治が力を発揮すべき分野のひとつが雇用だと思う。来年の通常国会では、雇用をあらためて大きな柱に据えて政策を訴えていきたい」と感想を語った。