追加緩和予想は目先後退、参院選にらみ「春」が増加-日銀サーベイ
2015/12/17 06:00 JST
(ブルームバーグ):12月や来年1月といった近い将来に日本銀行が追加緩和に踏み切るとの予想は減り、夏の参院選をにらみエネルギーを除いた物価が頭打ちになりそうな春ごろに追加緩和をするとの見方が増えている。
ブルームバーグが9-16日にエコノミスト42人を対象にした調査では17、18日の金融政策決定会合は1人を除き全員が現状維持を予想した。1月緩和予想は7人(17%)と前回調査(41人中12人、29%)から減少した一方、3月ないし4月緩和予想は13人(31%)と前回(8人、20%)から増加した。追加緩和なしの予想は20人(48%)とほぼ前回(19人、46%)並みだった。
10月30日の会合で日銀は2%達成時期を16年度の後半ごろと従来の前半ごろから後ずれさせたが追加緩和は見送った。黒田東彦総裁の物価目標2%達成のコミットメントに対する疑問が強まり、目先の緩和予想は低下した。同時にインフレ期待の低下は鮮明で、7月見込みの参院選を前に日銀は緩和に動くとの見方が増えた。
みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「おそらく黒田総裁が裁量的・機動的にカードを切るタイミングを決めてくるので、ロジックはもはや通じない話になってしまっている」と指摘。1月の緩和予想を4月に後ずれさせた。
今会合で唯一追加緩和を予想したクレディ・アグリコル証券の尾形和彦チーフエコノミストは、日銀短観の先行きDIは顕著な悪化で景気の先行きは楽観できる状況にはほど遠いと指摘。とりわけ物価見通しで日銀がますます苦しい立場に立たされているとして「原油価格の底割れがインフレ期待の顕著な後退に結び付けば、日銀としても早期の追加緩和に動かざるを得ない事態になる」とみる。
早期実現とは黒田総裁は11月30日の講演で「デフレという『竦み(すくみ)』の状況を打破するには、誰かが断固たる決意を持って物事を変えなければならない。そしてそれが物価の問題である以上、まず行動すべきは日銀だ」と述べ、「2%の物価目標の早期実現のために必要と判断すれば、躊躇(ちゅうちょ)なく対応する」と繰り返した。
こうした強気なスタンスについて野村証券の松沢中チーフストラテジストは「追加緩和に近付いていることを示すものではなく、10月会合以降、市場では追加緩和の期待が大きく後退しており、現時点ではまだ緩和期待をつなぎ止めておくことが得策と考えたため」と受け止めている。
さらにソシエテ・ジェネラル証券の会田卓司チーフエコノミストは「2%物価目標を『できるだけ早期に実現する』には、景気回復と物価上昇のペースが弱すぎることは明白であり、日銀のコミットメントは有名無実化している」と指摘。
実質成長率が「潜在成長率(0.5%程度)を下回り、需要不足幅が持続的に拡大しない限り、目標はいずれ達成することになり、追加緩和は必要ないというスタンスのように見える」として「追加緩和なし」を見込む。
インフレ期待短観の企業の物価見通しは1年後、3年後、5年後いずれも前回調査から低下、自社の販売価格の見通しも軒並み悪化した。BEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)は引き続き低水準にとどまっているほか、民間エコノミストを対象としたESPフォーキャスト調査で長期のインフレ予想が低下するなどインフレ期待の低下は明白だ。
三井住友銀行の西岡純子チーフエコノミストは「企業・家計部門の期待インフレは下振れており、各種のアンケート調査でみても、16年度後半に2%物価目標が達成できるとの観測は一層後退している。1月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、物価見通しは原油価格の下落で引き下げられる可能性が大きい」と指摘。
その上で「物価目標の達成時期がどんどんと先送りされ続けると、民間部門・市場の期待インフレのコントロールにも支障を来す。実際に、企業物価の下振れが短観によって露呈されたことから言えば、昨年10月と同じロジックで、期待インフレのテコ入れのために追加緩和に動く可能性は高い」として「1月緩和」予想を維持している。
参院選が重要な要素に一方で「3月緩和」を予想するSMBC日興証券の森田長太郎チーフ金利ストラテジストは、金融緩和の条件は物価見通し、為替水準、株価水準、そして政治的要請という4つの要素で決まるとみる。
このうち、日銀が直接動かせるのは金融緩和を通じた為替水準だが、「輸入インフレによる物価の急上昇は家計のセンチメントを冷やして政治的にマイナスになる。しかし、為替変動から物価変動につながるまでには3-6四半期程度のタイムラグがあり、来年7月の参院選のタイミングを考えると、来年春ごろの緩和であればマイナスの影響は限定されるだろう」という。
さらに、「1ドル=130-140円といった極端な円安をもたらさないということでは、ある程度ドル円水準が抑制されていることが緩和を容易にするが、米国の3月利上げ観測が後退する2月以降そういった条件が揃ってくる可能性が高い」と指摘。昨年夏以降の円安がエネルギーを除く消費者物価を押し上げてきた効果も一巡してくるタイミングであり、「物価見通しとの関連付けもしやすい」という。
「4月緩和」予想の大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストも「日銀が『生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価』などの参考指標を重視して物価の基調を判断しており、これら指標が底堅く推移していることを踏まえると、物価面からは直ちに追加金融緩和とはなりにくいだろう。日銀は来年夏に実施される選挙をにらみつつ、慎重に金融緩和のタイミングを探る見通しだ」とみている。
日銀ウオッチャーを対象にしたアンケート調査の項目は、1)今会合の金融政策予想、2)追加緩和時期と手段、3)コメント-。過去の日銀サーベイはNI SURVJPCENをご覧ください。
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更新日時: 2015/12/17 06:00 JST