【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を年0~0.25%から0.25~0.50%に引き上げた。利上げは9年半ぶりで、2008年末から続くゼロ金利政策を解除した。未曽有の金融危機に対処した前例のない大規模緩和策は終幕を迎え、世界のマネーの流れを変える転換点となる。
利上げは全会一致で決めた。政策金利は17日から適用する。FOMC終了後に発表した声明文では「雇用改善が進んだため、中長期的に2%の物価上昇率目標に達すると確信し、利上げを決断した」と強調した。
今回の会合でFF金利の誘導目標を0.25%引き上げたのは市場の予測通りだ。今後は先行きの追加利上げのペースに焦点が移るが、声明文では「利上げ後も緩和的な政策スタンスが続く」とした。
16日公表したFOMCメンバーによる政策金利予測(中央値)では、16年、17年にぞれぞれ1%ずつの金利上昇を見込んでいる。0.25%ずつの引き締めペースであれば年4回の利上げを予想していることになる。
FRBが利上げに踏み切ったのは、米国の景気拡大局面が6年強に及び、雇用情勢も金融危機前の水準まで改善したためだ。当初は9月に利上げに踏み切るとの観測があったが、直前に中国の景気減速をきっかけとする世界同時株安が発生して、利上げを見送った。金融資本市場の動揺が落ち着き、市場関係者が十分に利上げを織り込むのを待って、9年半ぶりの利上げを決断した。
ただ、FRBの政策目標である物価上昇率は伸び悩んでいる。主要指数である個人消費支出(PCE)デフレーター(食品とエネルギーを除く)の上昇率は1.3%にとどまり、FRBが目指す2%には遠い。物価上昇率が高まらなければ、追加利上げのペースがFRBの想定より遅れる可能性もある。
金融危機以降の世界経済は、大規模緩和であふれた低利のドル資金を借り入れて、新興国の金融資産や原油などの商品に投資する流れが強まった。米国が利上げ局面に突入することでマネーの巻き戻しが起きて、新興国の通貨安や原油などの商品安につながりやすい。世界経済はいずれ「金融緩和頼み」からの脱却も求められる。
また、米国にとっても大規模緩和は一区切りとなるが「金融政策の正常化」(イエレン議長)はこれからだ。とりわけFRBは量的緩和によって長期国債や住宅ローン担保証券(MBS)などの買い入れが膨らみ、保有資産が4兆5千億ドル(約540兆円)に達している。
現在は保有する証券や債券が満期を迎えても同額分を再投資することで市場の混乱を抑えているが、FRBはいずれ資産圧縮に転じる方針だ。異例の大規模緩和をどう手じまいしていくか。過去の利上げ局面とは異なり、格段にきめ細かい政策運営が必要になる。
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