西村奈緒美、佐藤達弥
2015年12月17日07時26分
日本有数の宝石サンゴの産地である高知県で、サンゴ漁業者が5年で倍以上に増えた。中国人が宝飾品を買い求め、サンゴの原木が高騰しているからだ。サラリーマンからの転職組らも顔をほころばせるが、資源保護の問題も浮上している。
高知県香南市の漁港に11月10日朝、県内外から宝石サンゴの漁師や卸売業者ら50人以上が集まり、日本珊瑚(さんご)商工協同組合(高知市)の「珊瑚原木入札会」の競りが始まった。
卸売業者らが原木を手に取って色や形を品定めし、入札金額を書いた「投げ帳」と呼ばれる帳面を開札人に次々と投げる。
「53匁(もんめ、約200グラム) 103万3千円!」「109匁(約410グラム) 343万8千円!」。開札人の声が響き、落札者が次々決まっていく。
同県大月町の漁師、中川順一さん(44)は約4キロの赤サンゴを出品。15分ほどで計910万円の値がつき、「今日は相場がよかった。思っていたより高く買ってもらえました」と笑みをこぼした。
元は自動車販売会社の営業マンだったが、32歳で転職。サンゴ漁師の父の新谷(にいや)喜一さん(77)を手伝い、38歳で独立した。「漁師なら苦労した分だけ見返りが直接返ってくる」。現在は年間約6600万円を売り上げる。「仲買人からは『まだ需要がある。高値が続く』と言われている。漁獲量を伸ばしたい」
「一家の生活がかかってますからドキドキです。期待半分、不安半分ですね」。同県室戸市の藤本豊彦さん(43)は落札の様子をじっと見つめていた。
市内の食品メーカーを辞め、4年前サンゴ漁師に。地元の漁師に「うまくいけば年間売り上げは1千万円」と言われたのがきっかけ。漁の経験はほとんどなかったが、サンゴ漁船に乗り、技術を学んだ。昨年の売り上げは1200万円にのぼった。
「良質で大ぶりのサンゴが採れるかは運。当たれば大きい」。この日は6点で計2キロ近くの赤サンゴを出品し、落札額は678万円に。落札が進むにつれ、表情は晴れやかになり、「よかった、よかった」と会場を後にした。
小笠原諸島(東京都)の小笠原母島漁協に所属する漁師、平賀秀明さん(72)は13日、赤サンゴ約5キロを出品し、計1207万円で落札された。
メカジキを取っていたが、2年前にサンゴ専門に切り替え、収入は1・5倍に。「魚は移動するが、サンゴは磯にへばりついている。サンゴがいる海域さえわかれば、安定した収入に結びつく」。将来は漁協関連の仕事などで出向く時のため、首都圏にマンションを買いたいという。
香南市で11月9~13日の5日間開かれた入札会の落札合計額は11億7884万円。日本珊瑚商工協同組合は同市で年3回入札会を開催してきたが、今年からは1日の開催時間を短縮するために4回に増やし、11月が今年最後の入札会だった。土佐湾産サンゴの今年の落札合計額は58億1592万円で、過去最高だった昨年の50億794万円を上回った。
■台湾の業者「品質トップ」
サンゴ漁師の数は激増している。高知県が許可した漁業者の数は2009年の144から、15年には364に増えた。来年1月からはこれを許可数の上限とする考えだ。高知の許可数は全国の9割以上を占め、全国では高知を含め6都県が計393件の許可を出している。高知県のほか、東京都21件、長崎県5件、和歌山、鹿児島、沖縄各県が1件ずつと続く。
和歌山県は今年初めて、和歌山南漁協など12漁協で構成する共同経営体に1件の漁業許可を出した。漁船152隻が登録され、1日50隻を上限に操業する。県によると、サンゴ漁参入に関して漁業者から「サンゴ漁をやりたい」と問い合わせが県に相次いでいた。13年までは「地元漁師が細々と行う程度」だったため、許可制ではなく、自由な漁を認めていた。昨年1年間、調査した結果、今後は大規模なサンゴ漁が想定されると判断し、許可制に踏み切った。
急増の原因はサンゴ価格の高騰だ。日本珊瑚商工協同組合のまとめでは、土佐湾産の平均落札額は、05年の1キロあたり17万9195円から年々上昇し、13年は158万1475円に。14年は137万2717円とやや下がったが、高止まりしている。
「購買力をつけた中国人が宝石サンゴ、特に赤サンゴを縁起物として珍重し、日本産のサンゴを買い求めている」。宝石サンゴ原木の加工・販売会社「KAWAMURA」(高知市)の川村裕夫社長(68)が説明する。
同社は原木の7割を台湾に輸出する。「中国はサンゴの輸入規制が厳しいので、中国人の業者や観光客は台湾にサンゴ製品を買いに来る。台湾の業者は『日本の赤サンゴは赤色が濃く、世界トップの品質だから、ぜひほしい』と言うんです」。同社の宝石サンゴの輸出高は10年前の10倍に増えた。
財務省の貿易統計でも、14年のサンゴ全体の輸出額は57億1937万円。8億4787万円だった04年の6・7倍にのぼった。14年の輸出先は台湾が99・2%を占めている。
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