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 まだ野心は捨ててない? 「ポスト安倍」窺う船田氏

 かつて「政界のプリンス」とまでいわれながら、最近ではすっかり影が薄くなってしまったのが自民党の船田元・衆院議員である。昨年12月の衆院選で永田町カムバックを果たしたものの、現在は党憲法調査会推進本部長代理として「裏方」に徹する日々だ。
 憲法改正の国民投票の投票年齢をめぐり、自民・公明両党の水面下の調整ではいったん「18歳以上」とすることで合意しながら、自民党は保守派の強い反発で「当面20歳以上」とする方針を決定。船田氏は公明党との再調整に当たっているが、合意のめどは立っておらず、孤軍奮闘を強いられている。
 しかし、11月22日に還暦を迎え、「ポスト安倍」を意識した発言も時々口にするようになった。「額賀福志郎会長がどうするか、まずはそれを決めてもらわないと」と最近、周辺に語った。船田氏が所属する自民党額賀派では、年明けに70歳を迎える額賀氏が2015年9月の次期党総裁選にどう対応するかが最大の焦点だ。額賀派副会長の船田氏にしてみれば、額賀氏を差し置いて総裁選に打って出るわけにはいかない。ただ、当選回数が額賀氏と同じ10回。しかも、1979年の総選挙で25歳で初当選し、政界入りは83年初当選の額賀氏よりも2期先輩だ。
 その上、宮澤内閣時代には39歳で経済企画庁長官として史上最年少入閣を果たし、将来を嘱望されるホープとして台頭。94年には米「タイム」誌で「21世紀を動かす世界の百人」に日本人としては唯一選ばれたこともあった。その後は、自民党元幹事長の小沢一郎氏とともに党を離党したり、新党さきがけに所属していた鳩山由紀夫氏との新党結成を画策したりと、政局絡みでも脚光を浴びることも少なくなかった。
 ところが、元NHKアナウンサーで当時参院議員だった畑恵氏との再婚が「政界失楽園」と話題を呼んだが、これが地元栃木1区の支持者離れを招いて、結局は額賀氏に当選回数で追いつかれ、派閥の序列では先を越された形となった。
 無論、野心を捨てたわけではない。「アベノミクスはまだ都市部しか恩恵はない。地方には浸透してない。来年までこの状態が続くと、安倍政権は突然ガタガタになる可能性もある」。船田氏周辺によれば、自身はこんな言葉を口にするという。当然、これは婉曲的な「ポスト安倍」への意欲表明といってよい。
 年が明ければ、自民党内では15年9月の党総裁選をにらんだ動きが活発化する。船田氏が「ポスト安倍」争いに参戦するには、まず額賀派内の関門を突破する必要がありそうだ。


 主張せず首相の言いなり、岸田外相に古賀氏の“脅し”

 昨年末の衆院選に出馬せず議員を引退した自民党の古賀誠・元幹事長が、後継の派閥(宏池会)会長に据えた岸田文雄外相への不満を募らせている。右傾化する第2次安倍晋三政権内にあって、主張を封印し、首相の言いなりになっているとの認識からだ。古賀氏と首相は以前から犬猿の仲。御しやすいと思って岸田氏を後継会長に抜擢したものの、首相から外相に1本釣りされて取り込まれ、読みが外れた。
「手をこまねいていて、(派閥の)伝統の名前だけで政権は来ない。現政権と理念が違っても、保守本流の政策集団があることを国民に知らしめることだ」。岸田派名誉会長の古賀氏は10月24日、派閥事務所の移転前、自転車会館で開いた最後の派閥総会で、岸田氏に積極的に発言するよう「発破」をかけた。
 宏池会は、池田勇人・元首相が立ち上げた名門派閥。田中角栄首相、大平正芳外相(宏池会第3代会長)の下で72年、日中国交正常化が実現したことが象徴するように、旧田中派の流れを汲む額賀派とともに岸田派は伝統的に「ハト派で親中国」だ。しかし、第2次安倍政権の発足以降、自民党内では保守のタカ派が幅を利かせ、ハト派は沈黙を強いられているのが実態。わずかに高村正彦・副総裁や二階俊博・衆院予算委員長らが、ハト派の代表格として一定の発言権を確保しているぐらいだ。首相は憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認や歴史認識の見直しに動いているが、党内で異論はほとんど聞かれない。
 岸田派にパイプのある中堅議員の解説によると、古賀氏の発言は岸田氏への「発破」ではなく、「脅し」。首相の言いなりの岸田氏への「最後通告」だという。実は古賀氏は、議員を引退し派閥の会長職を譲ったとはいえ、派の運営費など資金面ではかなりの部分を今なお手当している。また、望月義夫・事務総長や寺田稔氏、宮沢洋一氏ら、かつての側近と頻繁に集まり、派の運営についてもいろいろと言及。岸田氏に対する不満も漏らしていたが、怒りの余り表で発言したというのが真相だ。古賀氏は、岸田氏と同様、同派の小野寺五典・防衛相にも不満を持っているという。
 もっとも、寄らば大樹、長い物に巻かれるのが政界。古賀氏も若かりし頃、梶山静六・元幹事長に引き立てられたが、梶山氏と野中広務・元幹事長の対立が激化すると、野中氏に乗り換えた。所詮は因果応報?


 中国原発の台頭で考える日本の原潜開発論

 小泉純一郎・元首相が唱える脱原発論が話題を呼んでいる。それに加えて菅直人・元首相らのグループも脱原発の活動を先鋭化している。しかし、日本国内だけの近視眼的な動きは国際社会からは懐疑的に見られている。その国だけが原発を止めても隣国が原発を推進すれば、放射能汚染に常にさらされる危険性があるからだ。日本の場合は中国が原発を推進し、欧州では脱原発を決めたドイツの隣には原発大国フランスが存在している。
 こうした中、英国が2011年の福島原発事故以来、先進国で初めての原発を建設すると決定したことが大きな波紋を呼んでいる。その原発建設が中国とフランスの合弁企業に受注されたためだ。先進国の原発建設に中国の資本が入り、中国製の原発が作られる初めてのケースだ。これを機に中国は、米国、日本、ドイツによる脱原発の流れとは逆行し、今後20年間は世界の原発市場を中国が席巻することになりそうだ。
 一方で、日本が中国の軍事的脅威に対抗する最も有効な手段は原子力潜水艦の建造だと国際軍事筋から指摘されている。海上自衛隊が保有する現行のディーゼル型の潜水艦では長期間の潜水ができずに、息継ぎのために浮上した際、中国側に探知される恐れがある。そのため、原子力潜水艦の開発は日本にとって急務となっているが、日本国内の偏った脱原発の議論で原潜の開発が進まなければ、結果的に軍事的脅威の増大を目論む中国の思うつぼとなってしまっている。


 五輪招致で鳩山家は2敗、2勝で意気軒昂の安倍首相

 1964年の東京五輪(招致成功)、88年の名古屋(失敗)、2016年の東京(失敗)、20年の東京(成功)──夏のオリンピック日本招致運動はこれまでに4回というのがほとんどの国民の理解である。しかし、「もう1回招致しているんだ」と披瀝したのは安倍晋三首相だ。
 首相官邸幹部との雑談の席だった。首相によると、1960年の夏季五輪はイタリア・ローマで開催されているが、実は日本もこの招致に名乗りを上げている。招致時の首相は鳩山一郎氏だった。安倍首相が今頃あえてこの事実に触れたのは、次のことを言いたかったためのようだ。
「失敗した1960年と2016年の招致時の首相は鳩山一郎さんと鳩山由紀夫さん。一方、招致に成功した1964年と2020年は、祖父の岸信介と今回の僕だ。鳩山家は過去2回失敗し、岸・安倍家は2度とも成功した」
 安倍首相が五輪招致成功に高揚を隠せないのは、アベノミクスの成長戦略と密接に関わっているからだ、と官邸幹部は解説する。「20年東京五輪はアベノミクスの第四の矢になる。まさに天恵となった」と幹部は言う。成長戦略の成功は国民の意識が高揚していないと覚束ず、「もしこの招致に失敗していたら、その後の消費税8%アップは苦渋の決断になっていただろう」とも話す。
 経済界では「安倍さんは五輪招致に前のめり過ぎ。もし失敗したら反動は大きい」と心配する声が聞かれた。その噂を耳にした首相は「首相たる者はリスクを取らなければ何もできない。これまでの政権はそれをしなかった。東京都や招致委員会に一任せず、首相が先頭に立って全力投球すべきだ。僕はその信念に基づいてできる限りのことをやった」と言い返したそうだ。
 だが、“勝利”の余韻はもういい。あとは実行あるのみだ。


 ソチ五輪の開会式出席で安倍首相が対応に苦慮

 そんな安倍首相に対しロシアのプーチン大統領が、来年2月7日開幕のソチ冬季五輪開会式に出席するよう要請。しかし、この日は「北方領土の日」に当たるため、首相官邸は対応に苦慮している。
 冷戦期の80年に北方領土の日が制定されて以降、毎年この日は北方領土返還要求全国大会が東京で開かれ、歴代首相は原則的に出席し、演説してきた。欠席してロシア主催の冬季五輪に行くなら、領土問題にうるさい自民党内外の保守派から反発が出そうだ。
 一方で、安倍首相とプーチン大統領は今年4度会談して親交を深め、領土交渉が本格化しようとしている。ロシアが20年冬季五輪を支持してくれたことへの答礼もある。「ソチに行かず、式典に出席して領土返還を要求すれば、ロシア側が反発するのは必至。日露関係改善に水をかけることになる」(外務省筋)とされ、安倍首相はソチを訪れる意向だ。
 官邸筋は、98年の長野冬季五輪の時も橋本龍太郎首相が全国大会を欠席した先例があることを挙げ、「各国首脳が集い、首脳外交を展開するチャンス」としている。
 安倍政権は、北方領土問題に関連する広報動画の作成を当面見送るなど、領土交渉の本格化を意識し、ロシアを刺激しないよう努めている。首相が式典よりソチ五輪参加を重視すれば、日本の一層の軟化と受け取られよう。ただし同筋は、党内外の反発が強い場合、開会式ではなく、2月23日の五輪閉会式出席もあり得るとしているのだが。


 国の舵取りを誤らせる? 北岡伸一氏の名誉欲

 歴代の自民党政権が「憲法解釈上、許されない」としてきた集団的自衛権行使の容認解禁を目指し、タカ派色を強める安倍晋三政権。その安全保障政策を一手に引き受けるのは、「御用学者」とも呼ばれる北岡伸一・国際大学長だ。
 北岡氏は集団的自衛権行使の解禁を検討する「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の座長代理を務める一方、国家安全保障戦略を議論する「安全保障と防衛力に関する懇談会」(安防懇)の座長でもある。この2つの懇談会で重複加入しているのは北岡氏ただ1人。しかも安保法制懇は座長の柳井俊二・元駐米大使が最初の会合に出席しただけで、その後は3回とも欠席。会合の中身を説明する記者会見は北岡氏がこなしている。
 10月にあった第3回会合の記者説明では、「自衛隊の出動範囲はどこまで広がるのか」と繰り返し聞いた記者にイラついたのか、「地球の外だって論理的にはあり得る。宇宙でもどこでも行くかもしれない」と仰天発言した。
 最後は「憲法解釈を変えなければならないのは、集団的自衛権と集団的安全保障のことである」と明言し、国連による武力行使への参加に意欲を示した。
 防衛省幹部は「びっくりです。国連の武力行使といえば湾岸戦争が有名。参加できないから日本は戦後復興資金と称して130億ドルを支払った。本当に自衛隊を多国籍軍に参加させるつもりなのか」。
 北岡氏とはどんな人物なのか。東大大学院、政策研究大学院大学の教授を経て、現職。「日本は常任理事国になるべきだ」と主張して、国連日本代表部次席代表・特命全権大使を務めたが、成果は上げられなかった。
 米国のイラク戦争に際しては「日本は米国を支持する以外に選択肢はない」と主張、当時の小泉純一郎首相に重用され、続く安倍晋三、福田康夫政権を通じて自民党政権に食い込んだ。民主党政権下になると、今度は日米密約を調査した外務省の有識者委員会の座長に就任、常に時の政権近くにいる。
 第2次安倍内閣では「首相は憲法改正のリーダーシップをとるべきだ」と主張、安倍首相の悲願とピタリ一致する。前出の防衛省幹部は「北岡氏の本来の専門は旧日本陸軍の研究。無謀な戦争に突入した太平戦争の悲劇を熟知しているはずだが、強すぎる名誉欲が国の舵取りを誤らせる」と警告している。


 汚染水問題を深刻化させた菅政権の内部抗争

 福島第1原子力発電所の汚染水問題には、事故に対応した菅政権内部の複雑な政治力学が災いしていた。
 事故を起こした福島第一原発には日量1,000トンともいわれる地下水が流れ込み、メルトダウンした3基の原発を洗うように流れ、およそ400トンの汚染水が今も太平洋に注いでいる。
 発災後2週間、総理補佐官に就任した馬淵澄夫議員が担当したのは、あらゆる放射性物質の環境外への放出を止めるための「遮蔽プロジェクト」であり、当然、地下水問題も含まれていた。土木業界出身の馬淵氏は、原子炉建屋を丸ごと囲う工法で地下水問題を解決しようとしたが、着工寸前に補佐官の任を解かれてしまう。その後、遮水壁はサイトの海側に築かれただけで、今も汚染水の流出を防ぐことができないでいる。もし、馬淵補佐官が地下水対策を続けていれば、とっくに汚染水問題は解決していたといわれる。
 2011年5月の浜岡原発停止要請、さらにその後の全原発へのストレステスト導入の経緯は、原発再稼働を目論む電力業界や経産官僚と、脱原発を目指す菅政権中枢の激しい戦いに彩られている。「浜岡停止要請」直後から吹き始めた激しい「菅おろし」の風が、不信任案否決と倒閣運動再燃の局面を経て、粘り腰の菅総理をも、やがて正式な辞任表明へと追い込んでいく。その前後、菅総理は政権基盤の強化を目指して自民党の参議院議員を大臣政務官に引き抜き、消費税増税をめぐって対立していた国民新党の亀井静香議員を総理補佐官に迎える荒技を見せたが、補佐官から経産副大臣に転出させて原発事故対応も担当させる腹づもりでいた馬淵氏からは拒否される。
 理由について馬淵氏は、自身が国交大臣の折に「尖閣沖漁船衝突事故の映像流出」の責任を取る形で退任させられた経緯があり、同じ内閣に閣僚として戻れないこと、そして事故調査されぬまま安全宣言を出した海江田万里・経産大臣のもとで仕事をするわけにはいかなかったと著書で述べている。結果、馬淵氏は汚染水対策の任を解かれ、できるだけ費用の掛からない対策にとどめようとしていた東京電力は手ごわい政治家から逃れることができた。
 菅元総理自身は遮水壁ができていないことについて、「もちろん私の政権の段階もありますから私の責任、少なくとも責任はあるんですが、その後の政権、あるいは自民党政権になってから、そのことがキチンと引き継がれないで今日になったということなんです。大変申し訳ないと思います」と語っている。


 五輪メーン会場建設で浮上してきた仕切り屋

 「巨大過ぎる」「景観を損なう」といった批判を受けた、東京五輪のメーン会場となる新国立競技場の建設計画が、総事業費を1,800億円にとどめる修正の末、ほぼ固まった。
 新国立競技場は2020年東京五輪を象徴する建造物だけに、ゼネコンはもちろん、設備からメンテナンスに至るまでのあらゆる業者が「歴史的建造物への参加」を求めて“ツテ”を探っている。入札という競争原理だけでは選ばれない可能性があるからだ。
 そこで急浮上しているのが「X」なる人物。以前から文部科学省関連の工事に強く、「仕切り屋」として知られていた。一時、名前が聞こえなかったが、これだけの事業になると各業界からの陳情を受け付け、政治家や文科省に話をつなげ、設計業者やゼネコンとの橋渡しをする人物が必要になり、復活してきた。
 ゼネコン業界とは関係ないし、文科省の官僚OBでもない。名門ゴルフ場運営会社の代表で、各界に幅広い人脈を持つ。中でも政界で近いのは麻生太郎・副総理兼財務相と森喜朗・元首相。これまでにも雑誌や業界紙などで両大物政治家との関係が取り沙汰されたことがある。
 政治家の事務所が陳情を受けても、直接、五輪施設の工事などに影響力を行使することはできないわけで、そこにXの存在価値があり、Xは仲介して業者間に不満が生まれないように仕切る。震災復興、国土強靭化、東京五輪と公共工事が目白押しで、ゼネコン・設備業界が復活する中、Xのような存在も浮上し始めた。


 カジノ誘致をめぐりお台場と築地が名乗り

 カジノ合法化へ向けて気運が高まる中、東京、大阪だけでなく、沖縄、宮崎、北海道なども「カジノ第1号」に名乗りを挙げている。
 1歩リードしているのは東京都。20年東京五輪が決まったからで、これまで水面下で「お台場カジノ」を推進してきたフジ・メディア・ホールディングス(フジMHD)は、単なるカジノ付きホテルを運営するだけでなく、特区認定を受けたお台場の国際観光戦略区域を利用し、国際会議場、展示場を併設、飲食とショッピング施設なども充実させ、一大観光拠点にしようとしている。
 フジMHDの広告収入で事業を推進する手法はすでに限界に近づいている。そこで次の核になる事業が必要不可欠。それをフジMHDは複合観光施設に置き、その中核施設の1つがカジノという位置付けなのだ。ギャンブル1本での誘致でないところが国民の理解を得やすくしており、東京五輪に訪れた観光客の「おもてなし」にもつながる。
 一方、急浮上している案が「築地市場跡地」の有効活用だ。推進役の市場関係者は「築地は15年度内に豊洲に移転することになっているが、跡地の再開発は未定。現時点では住宅棟や商業棟を建築したうえでの『街づくり』が検討されているものの、隣接の銀座に商業施設はあり、佃、豊洲は高層マンションが林立していて、同じような施設が必要かという意見もある。そこで、カジノはどうかとの話になった」と言う。
 築地跡地を絡ませ、カジノ付きホテルを併設、大人のアミューズメント都市をアピールしようというわけだが、東京五輪をきっかけに「カジノ第1号」の気運が高まる東京で、さらに細かい誘致合戦が繰り広げられそうだ。


 みずほ暴力団融資問題が地方銀・保険にも飛び火

 みずほ銀行の暴力団融資問題が、地方銀行や保険会社など他の金融機関にも飛び火している。信販会社に審査や保証を委託する「提携ローン」を実行しているのは大手行だけでなく地銀や生・損保会社も同様であり、特に複数の保険会社は反社会的勢力のチェックを信販会社任せにしていた。3兆7,000億円の市場規模のうち生・損保は約1兆5,000億円の残高を抱えるとされており、疑惑の目はみずほ銀以外にも向けられている。
 提携ローンとは、銀行など金融機関が信販会社を通じて自動車ローンなどの資金を貸す仕組みで、融資するか否かの審査は信販会社が行う。金融機関は営業せず個人から収益を得られるほか、返済が滞っても信販会社に請求できる利点がある。一方の信販会社も自ら資金を拠出せず保証料を得られる。お互い有益なスキームだったが、反社会的勢力の情報に乏しい信販会社に審査を任せていることが抜け穴になっていた。
 今回の件を受け、地銀や保険会社は一斉に提携ローンの見直しに入った。信販会社との取引を停止したり、新規融資を見送ったりする事例が相次いだ。「チェックをすべて信販会社に任せたままの金融機関もある。みずほ銀は反社への融資を放置していたことが問題になったが、実はみずほ銀よりもずさんだった」(大手銀行関係者)らしく、暴力団融資問題の第2幕に戦々恐々としている。
 こうした中、全国地方銀行協会は地銀各行への支援を決めた。地銀の多くは融資後のチェックを行っていたが「大手行に比べて情報に乏しく、チェックには限界がある」(同)からだ。谷正明会長(福岡銀行頭取)は11月13日に都内で会見を開き、「反社情報を信販業界に提供することや、警察庁が持つ反社のデータベースに接続することをフォローしたい」と説明した。生命保険協会も同様に他の金融機関との情報連携に向けて検討に入った。信販会社に依存したビジネスモデルからの脱却には、個々の企業や業界団体が問題への当事者意識を持つ必要がありそうだ。


 孫・ヤフー出店無料化に三木谷・楽天の巻き返し策

 前号で伝えたネット通販の覇権争いが激化している。口火を切ったヤフーが通販サイトへの出店料を無料にしたところ、出店申し込みが発表から3週間で約6万に達したという。「こんなにECに興味のある人がいるという手応えを感じた」(宮坂学社長)。申込者が出店するとは限らないが、約2万店だったヤフーのサイトへの出店者数は「今後大幅に増えることは間違いない」(大手証券アナリスト)。ヤフーでは無料化を機に店舗数や品揃えを拡充して集客力を向上、ネット広告やEC関連のサービスなどで収入増を目指す考えだ。
 このヤフーの動きに焦りを見せるのが楽天の三木谷浩史社長だ。「(楽天は)出店手続きに2〜3カ月かけている。出店料は無料化しない」と発言。出店者の審査や指導、サイトの管理にコストがかかる以上、無料化はできないとの立場だ。
 三木谷氏は表向き冷静さを装っているが、「本心は相当な危機感を抱いている。何せ相手が世界を股にかける孫正義氏だからだ」(ヤフー関係者)。ヤフーの出店無料化の会見には親会社・ソフトバンクの孫社長がヤフー会長の立場で乗り込んでいた。
 楽天は「足元の日本で電子取引市場を広げないとじり貧になる」(同)。三木谷氏の巻き返しに注目が集まる。


 ソニーが介護事業参入、10年で経常益数十億円へ

 ソニーフィナンシャルホールディングス(ソニーFH)が介護付き有料老人ホームを運営するシニア・エンタープライズを11月に買収し、完全子会社化、介護事業に参入した。
 シニア・エンタープライズは1999年10月に設立。介護付き有料老人ホーム「ぴあはーと藤が丘」を運営している。介護・医療の連携による質の高いサービスが特色で、ソニーFHは同社が持っている独自の有料老人ホーム運営ノウハウを取り込むことを機に、新たに介護事業に参入し、中長期的に介護事業を生保・損保・銀行の既存3事業に次ぐ第4の事業の柱に育てることを狙っている。
 シニア・エンタープライズの資本金は1,000万円、13年9月期の売上高は1億9,100万円だったが、買収直後9億7,000万円の増資を行うとともに、代表取締役にソニーFH執行役員兼事業企画部長である出井学氏が兼務するなど、取締役3人と監査役を派遣。前代表取締役の岡?公一郎氏は業務執行取締役に就任し、引き続き同社の経営に関与する新たな体制をつくった。
 ソニーFHは14年3月期の連結経常収益を1兆1,560億円、純利益を390億円とすることを目標とした中期経営計画を進めているが、シニア・エンタープライズの完全子会社化を機に、今後は有料老人ホームを中心とした高齢者向け住宅の運営、開発に取り組む方針。展開エリアは1都3県(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)を想定。今後は在宅ケアや通所介護へのM&A(企業の合併・買収)や戦略的アライアンス等も視野に、10年後をメドに介護事業だけで数十億円規模の経常利益を目指すとしている。


 社会貢献型投資も拡大するクラウドファンディング

 企業や個人がインターネットを通じて不特定多数の投資家から小口の資金を集める「クラウドファンディング」が注目を集めている。「クラウド(群衆)」と「ファンディング(資金調達)」を組み合わせた新しい金融ツールで、1口数千円から数万円単位で、資金の対価を求めない「寄付型」と、商品・サービスなど対価を求める「報酬型」がある。既存の金融機関が取り組み難い、小口の社会貢献型資金調達手段として、世界中で500以上のクラウドファンディングが組成されている。
 東京都文京区に拠点を構えるサイト「レディーフォー」は、日本初のクラウドファンディングのサービス主体で、2011年4月のオープンから500近いプロジェクトの資金調達を行い、合計3万人から約3億円が支援されている。支援プロジェクトには、女児特有の難病「レット症候群」への支援をはじめ、東日本大震災で被災した陸前高田市の空っぽの図書館を本で一杯にしようという活動、津波被害を受けた帽子工場を生かして新ブランドを立ち上げたいという活動など、身近で切実な社会貢献プロジェクトが数多く並ぶ。
 一方、クラウドファンディングは米国でも隆盛を極めつつある。金融版のソーシャルワーキングサービス(SNS)と位置付けられており、「08年のリーマン・ショック以降、個人向けローンからの撤退が相次いだ米銀大手の隙間を埋める形で存在感を高めている」(銀行アナリスト)といわれる。最大手の「レンディングクラブ」の融資実績は今年7月で累積20億ドルを突破した。
 小口の投資家と借り手を仲介する米国のクラウドファンディングは、借り手の信用度に応じて金利が設定されており、クレジットカード金利など既存の金融商品に比べて割安なのが特徴。お金を借りたい人は、目的や期間、希望する金利などをネットで登録し、貸したい人はあらかじめ一定の金額を出資して投資収益の形で利回りを得るタイプが多い。対象分野は個人向けローンのほか、学生ローンや中小企業ローンにまで拡大している。
 インターネットを駆使した「クラウドファンディング」は、既存の金融機関の融資ではコスト面や与信リスクの観点から対応が難しい、小口で商業ベースに乗りにくいプロジェクトに最適な金融スキームといっていい。特に地域興しなど、身近な地域密着型のプロジェクトには最適といえる。


 農業活性化で“財農”が連携、TPPや規制緩和は“不問”

 環太平洋連携協定(TPP)や農業分野の規制緩和などをめぐって、これまで立場の違いを鮮明にしてきた財界とJA(農協)グループが、農業の競争力強化を目指し共同歩調を取ることになった。経団連と全国農業協同組合中央会(JA全中)が11月11日、東京都内で今後の業活性化策を検討する作業部会の初会合を開き、共同作業をスタートしたからだ。
 農業に競争力を付け、成長産業に育成したい経団連と、農業従事者の高齢化が進むなど農業の衰退を食い止めたいJA全中が歩み寄り、農業生産効率化や農産品の輸出促進などを図り、産業としての農業の再生につなげるのが狙いとみられる。両団体が手を組むのは異例のケースで、呉越同舟の“財農”連携に映る。
 ただ、両団体に“鬼門”となるTPPなどの対立点に関しては、今回設立された作業部会においては触れないとの暗黙の了解があるようだ。なぜなら、今回の作業部会の設置がJA全中からの申し入れで実現した経緯があるからだ。
 政府・与党は5年後の18年度にコメの生産調整(減反政策)の廃止の方針を打ち出しており、その流れから農協組織も改革を迫られるのは避けられない。それだけに、地盤沈下を防ぎたいJAグループの強い危機感が、経団連との連携に強く働いたことは容易に想像がつく。
 11日の初会合でJA全中の万歳章会長が、農業活性化は「待ったなし」との認識を示し、危機感は十分にうかがえる。これに対し、経団連の米倉弘昌会長も「JAとの協力で農業を強力な産業にしていきたい」と、エールを送った。作業部会は、経団連側から農業事業に関心の高い企業が参加し、JAグループの幹部と今後、1〜2カ月の頻度で農業活性化策の検討を進める。
 農業の活性化については政府も、農産品を生産から加工、流通まで総合的に推進する農業の6次産業化を目指しており、企業と農家の連携は避けて通れない。その意味で、今回の経団連とJA全中による共同作業は一定の成果につながる可能性はある。経団連は従来から農業の競争力強化に向けて提言をまとめ、傘下の団体・企業による参入事例も増えており、今後の進展次第ではその流れが加速するかもしれないからだ。
 しかし、TPPや規制緩和といった対峙する部分で、農家の企業に対する不信感は根強いのも疑いのない事実であり、農業の活性化、競争力強化で、経団連とJAグループがどこまで足並みを揃えられることができるかは不透明な面が残るのも否めない。


 世界一・ダイキン工業が特許を無料公開する理由

 現在、名実ともに世界一と呼ばれる日本企業は容易にお目にかかれないのが現実である。
 そんな中、ダイキン工業は売上高世界1位の空調機器メーカーにのし上がっている。その直接の引き金は、2006年に実施したマレーシアのグローバル空調機器企業OYLの買収だった。投下資本は2,320億円。ダイキンの狙いは、OYLが持つ、空調機器の最大市場、米国での販売網を手に入れることだった。
 結果、売り上げ世界首位企業となったダイキンだが、その後も海外部門の拡充に手を緩めなかった。今期の総売上高に占める海外部門の比率は73%が見込まれている(前期実績は63%)。海外力の源はM&A戦略。例えば、米国の業務用空調大手マッケイ社を、昨年11月には米国の住宅用空調機器最大手のグッドマン社を3,000億円で傘下に収めた。無論、規模の拡充ばかりでなく、シナジー効果の最大化も図っている。具体的には、グッドマン社の高級機種とマッケイ社の全機種を「ダイキン」ブランドに統一した(今年10月)といった具合である。
 周知のとおり、低温を得る(冷凍サイクル)過程で媒体となるのが冷媒。メーカーにとり冷媒をどう使うかはまさに企業秘密のはずだが、ダイキンは、冷媒を使いエアコンを作るための基本特許(HFC32)を、タイ、インドネシア、中国、アルジェリア等の新興国で無料公開する策を進めている。業界に明るいアナリストによると、HFC32は「日本で主流となっていた従来の冷媒に比べ、地球温暖化への負荷が1/3ほどですみ、かつ冷房能力は1割程度高くなる」と言う。ダイキンは何を意図して「HFC32」の無料公開という策を講じたのか。
 アナリストは、「新興国の空調機市場はこれからが普及・拡大期。ダイキンは基本特許の無料公開という“損”をする代わりに、市場形成のリーダーシップを取りに向かった」とする。だがダイキンの関係者の間からは、「この上ない深謀遠慮の一策」とする声が強い。
 関係者はこう言う。
「仮にタイでどこかの先進国のメーカーが空調機市場に進出する際でも、そのメーカーはHFC32を無料で使用できる枠組みになっているのです。どこに真の狙いがあるかはおのずとお分かりになるでしょう」
 この関係者が言わんとすることは、「ダイキンは自社の冷媒を世界標準とすることを狙った策を打った」というわけである。


 YouTubeタレント専門の支援事務所経営者の顔ぶれ

 05年2月に設立された米ネットベンチャーYouTube社(06年10月にネット検索大手Google社に買収され、同社子会社に)が運営する動画コンテンツ共有サイトが日本でも利用者を増やしている。同時に、テレビなどの既存のマスメディアには登場しないがユーチューブで絶大な人気を集める音楽アーティストやコメディアンが存在感を増している。そうした「ユーチューブ」で人気を集めるタレントを専門に扱う事務所を設立、注目を集めているベンチャー企業が、東京・渋谷に本社を構えるuuum(ウーム)だ。
 トップクラスのユーチューバー(YouTubeでの活動を主としたインターネット上のタレント)がよりクオリティの高いコンテンツを制作できるようにサポートすると同時に、企業とのタイアップ案件の窓口機能や、動画制作のサポート業務やグッズ販売、イベント運営、キャンペーン展開など、さまざまな活動において彼らのパフォーマンスを最大限に活かせるように支援を行うという。
 ウームに所属するユーチューバーは「HIKAKIN」や「ジェット☆ダイスケ」、瀬戸弘司、佐々木あさひなど。例えば、声や口の動きなどでレコードのスクラッチ(ひっかき)音やベースギターの低いリズム音を再現する「HIKAKIN」氏は、自身のYouTube動画の総アクセス数が3億5,000万回を突破、チャンネル登録者は計150万人以上を記録しており、ポップからゲームミュージックに至るまで、さまざまなジャンルを口だけで再現するそのスキルは世界中から絶賛されている。
 ウームの社長である鎌田和樹氏は、テレコムサービスでソフトバンクショップを単月100店舗出店したトップ営業マン。その後、ショップ運営、アライアンスなど、さまざまな経験を積み、11年からはイー・モバイル1次店の代表取締役を務めたが、孫泰蔵氏との出会いに衝撃を受けてベンチャーの道に。その後、HIKAKIN氏との出会いを契機に30歳を手前に独立、ウームを設立した。
 ウームの取締役には、06年にテレコムサービスの社長に就任し、ソフトバンクモバイル販売全国ナンバーワンを達成した実績を持ち、12年にルートワン・パワーを設立した服部義一氏。執行役員にはHIKAKIN氏、顧問にジェット☆ダイスケ氏、新星堂の社長を務めた砂田浩孝氏が就任している。
 なお、鎌田氏は有名ユーチューバーの商品レビュー動画を集めたサイト「ON SALE TV」も立ち上げており、こちらもユーチューブ利用者の人気を集めている。


 「つぶやき」が視聴率に? ビデオリサーチが新指標

 テレビ番組の視聴率調査を一手に引き受けているビデオリサーチ社が、来春からツイッター社と提携して、「つぶやき」を番組ごとに集計する調査を始める。「視聴率至上主義」の放送界だが、番組を評価する新たな指標の登場で一喜一憂する場面が増えそうだ。
 新指標の対象となるのは、地上放送のすべての番組。番組ごとに、タイトル、出演者、「じぇじぇじぇ」「倍返し」など事前にキーワードを設定。ツイッター上で、登録した言葉が書き込まれた数(ツイート)や読まれた数(インプレッション)を足し込んで総数を算出する。
 放送界では以前から「視聴率とつぶやき数には相関関係がある」といわれてきた。8月に放送されたアニメ「天空の城ラピュタ」で、主人公のせりふに合わせて視聴者が一斉に「パルス!」とつぶやき、1秒当たりの瞬間ツイート数が世界記録を更新したことはよく知られている。
 視聴率は民放各局にとって「生命線」だが、録画によるタイムシフトやモバイル視聴のようにテレビの楽しみ方が多様化し、視聴実態を十分に掌握できなくなっている。しかも、ごく少数の視聴者を対象にしたデータに依拠しているため、結果的に微妙な誤差が生じるのは避けられない。
 これに対し、「つぶやき」のデータは実数値として提供され、番組に対する視聴者の動きがストレートに反映されるため、テレビ局もスポンサーも歓迎する向きが多い。
 米国の視聴率調査会社ニールセンは、すでに10月から同様の仕組みを取り入れているという。「つぶやき」という新たな指標をめぐって新たな競争が始まりそうだ。


 過去最高業績のJTが大規模リストラする理由

 日本たばこ産業(JT)は10月30日、国内4工場の閉鎖、さらに国内正社員従業員の2割近くに当たる1,600人規模の人員削減を柱にした国内たばこ事業の再編に踏み切ると発表した。同社は2013年4〜9月期の連結最終利益で過去最高を更新し、さらに14年3月期通期でも過去最高益を見通す。
 業績面で順風が吹く中で、意外感もある大規模リストラという大ナタを振るうのは、十分な体力を備えているうちに、縮小基調をたどる一方の国内たばこ市場で収益力を維持したいという狙いがある。
 同日、記者会見した佐伯明・副社長は「国内たばこ市場は減少の一途をたどっており、(事業縮小は)先送りできない」と、待ったなしの国内たばこ事業の再編策であることを強調した。決断を促した要因は、来春の消費税増税。健康志向などで、ただでさえ縮小基調をたどる国内のたばこ市場は、消費税引き上げを「適正に価格転嫁する」(佐伯副社長)方針の中でさらに縮小が加速することは避けられず、先手を打って国内事業の基盤固めを急いだといえる。
 同社は国内市場縮小に備え、1985年の民営化当時に50工場を、現在9工場まで減らした。一方で、海外たばこ企業の大型M&Aによって世界第3位のたばこメーカーに躍進し、海外事業がすでに国内事業を上回る。ただ、連結営業利益で4割を稼ぎ出す国内事業の死守は、次の成長戦略を描く上で欠かせず、株式市場は今回の大規模リストラを好感すると同時に、リストラで生み出される資金面の行方に早くも視線を向けている。


 外国資本の食い物になる日本の太陽光発電市場

 このほど、太陽光発電パネル世界2位の米ファーストソーラーが年内にも日本市場に参入すると発表した。パネル販売だけでなく、大規模太陽光発電所(メガソーラー)を自ら建設し、投資家などに売却して収益を確保するという。さらに、豪投資銀行大手、マッコーリー・グループが早ければ来年から再生エネ発電所の建設に取りかかるほか、中国の素材・電力大手、GCLポリー・エナジーも、来年から着手する発電所建設に計1,000億円を投じる。米ゴールドマン・サックスも3,000億円を投資するなど、日本の再生エネ市場に海外マネーが一気に流れ込む。
 2013年の日本の太陽光発電市場は投資額ベースで12年比8割増の200億ドル(約1兆9,700億円)。世界シェアは24%で、再生エネ大国のドイツを抜き首位に立つ。その呼び水となっているのが割高な日本の再生エネ買い取り制度で、13年度で1キロワット時当たり税込み37.8円。前年度より1割下げたが依然、世界最高水準だ。
 買い取り価格の原資は、一般家庭などが毎月の電気代に上乗せして支払っている負担金だ。日本がモデルとしたドイツでは、制度導入で国外マネーも流入し太陽光発電ブームが起きた。しかし青天井で費用負担が増え、電気料金は上昇。政府が買い取り価格を引き下げると、今度は需要が減速し、太陽光発電設備メーカーの法的整理が相次いだ。日本も以前のドイツのような太陽光バブルの様相になっているとの指摘もある。
 再生エネ事業者の利益が増えるほど国民負担が増す構図をどのように解消していくかが課題となるが、「今のところ妙案はない」(経産省幹部)。このまま、日本の太陽光関連市場は外資勢の食い物にされるのだろうか。


 自動ブレーキ試乗車事故があまり報道されない理由

 マツダのスポーツタイプ多目的車(SUV)「CX-5」が自動ブレーキ機能の体験走行試乗会でまさかの衝突事故を起こした。事故が起きたのは11月10日。埼玉県深谷市の自動車販売会社の駐車場で開かれた試乗会会場での出来事だった。
 7メートル先のボードに向かって走行した車は自動的にブレーキをかけ、止まるはずだった。ところが、車は止まらずボードを倒し、その先にあるフェンスにぶち当たって前部を大破、乗っていた男性2人が骨折や捻挫などの重軽傷を負った。
 さらに驚くのは、自動ブレーキ搭載車は別の試乗会でも衝突事故が起きていたというのだ。それも、10月15日から東京ビッグサイトで開かれた「ITS世界会議東京2013」のデモ走行の時だという。マツダのほかにトヨタ自動車、ホンダなど10社が参加しており、「少なくとも10回近くは発生した」(目撃した記者)。
 自動ブレーキは開発中なのだから、完全ではない。事故の発生もありえよう。だが試乗会という公開の場でトラブルが起こったのだから、世間に公開されてもいいはずなのに、なぜそれがなされていなかったのか。
 その答えはマスコミ各社が抱える番記者制度だ。最近では多くのマスコミが経済部でも番記者制度を採用している。自動車業界も例外ではなく、担当する記者が四六時中張り付き、その動静を探っている。記者は業界と昵懇となり、情報もとりやすくなるが、その業界に不都合なことはできるだけ書かないで、その業界とうまくやりたいという意識も働く。開発中の自動ブレーキはまさにその典型的なケースといえ、残念ながら記者に正常なブレーキ機能が働かなかったのかもしれない。


 インフルエンザや外傷とアルツハイマーの関係

 スポーツや事故で頭をぶつける、インフルエンザや風邪などの炎症性疾患によくかかる、歯周病がある、こんな人は、がんや認知症には要注意だ。外傷や炎症が将来、がんやアルツハイマーなどの認知症を引き起こしやすいことが、最近の研究で次々に明らかにされている。
 その1つが米国のフットボール選手の研究だ。プロのチームに所属して引退した513人の元選手の調査では、アルツハイマーの症状テストで、35%が認知機能に問題があるという結果が出た。特に脳の損傷が目立ったのは、補欠選手よりもレギュラー選手だった。
 頭部への強い衝撃やその繰り返しで脳細胞や神経組織が傷つき、脳に炎症が生じる。これが認知機能に悪影響を及ぼし、将来アルツハイマーを起こしやすくするという。
「慢性炎症はアルツハイマーやがんなどと深くかかわっていると、最近の医療界ではよくいわれています。病気や怪我などで慢性的な炎症にさらされると免疫力が低下し、がんになりやすくなるという説が注目されています」(医療ジャーナリスト)
 かつて「米国心臓病学会誌」(10年6月22日号)では、炎症を抑える働きのある善玉コレステロール(HDL)値が高いほど、がんのリスクが36%低下するという研究が報告されたが、このことは、炎症があるとがんのリスクが高まることを示していた。認知症やがん予防には、まずはインフルエンザや怪我、歯周病予防を。


 壊滅的状況の輸入エビ、価格は2倍以上に急騰

 バナメイ、ブラックタイガーの輸入エビが、芝海老、大正海老、車海老といった国産エビに化けていた。オークラやパレスなどの超一流ホテルがこんな偽装表示をしていたのだから、日本全国のレストランでも平然と行われていたのだろう。
 その輸入エビに、深刻な問題が発生している。魚病が発生して生産量が激減し、今後日本への輸入も3割程度減少する恐れがあるのだ。生産地のタイで白斑病、ビブリオといった魚病が拡大し始めたのは2011年8月の大洪水後。ウイルス汚染のある養殖地の水が広範囲の池に流れ込んだ。ほとんどのエビの死亡率が高まり、生産量が落ちている。
 タイからベトナムに魚病が飛び火したのは12年の春。媒介者は野鳥で、ウミウが主体。野鳥は養殖池で死んで浮いたエビを食べ、ベトナムに飛来して養殖池でエビを探す。その糞で新たな汚染池が発生する。
 タイ、ベトナムでのバナメイ、ブラックタイガーの生産量は、今夏は1年前に比べて4割も落ちている。輸入価格も1キログラム当たり500円が1,100円と、2倍以上にアップしている。エビ輸入専門業者は「来年1月下旬頃まで価格は下がらない」とみている。
 わが国では芝海老と大正海老は養殖できない。車海老は養殖しているが高級料理店向け。バナメイとブラックタイガーの魚病による生産減は、世界一エビ好きの日本人の食生活に寂しさを与える。中華料理店には痛い影響を及ぼすことは必至だ。


 創価学会内部でくすぶる次期会長選びの思惑

 「池田大作・名誉会長の気が変わった?」──。11月18日の創立記念日に総本部が完成し、布教拡大へ新たなスタートを切った創価学会。これを節目に原田稔会長が交代するとの説が根強く流れたものの、結局は見送られ、これがまた、さまざまな憶測を呼んでいる。
 交代説の根拠となったのは、(1)昨年末の衆院選、今年7月の参院選で公明党がリベンジを果たし、当面国政選挙がない、(2)地方組織で幹部の交代が進んでいる、(3)原田氏の体調が万全ではない──ことなどだ。ところが、11月8日の方面長会議でも翌九日の本部幹部会でも人事はなし。これに先立つ5日には総本部の落慶入仏式が行われ、池田氏が原田氏ら幹部を伴って勤行。この写真が6日の「聖教新聞」に掲載され、池田氏は健在ぶりをアピールした。
 もっとも、いくら池田氏が健康回復をアピールしても、公の場に現れなくなってすでに3年半。「早めに後継の体制を決め、世代交代を図るだろう」(ベテラン会員)との見方は消えず、ポスト原田をめぐり創価学会内で暗闘が続くのは間違いない。
 次期会長に名前の挙がる正木正明・理事長は原田会長に次ぐナンバー2。創価大OBで、創価学会内で一大勢力を誇る同大出身グループのトップ。一方、谷川佳樹・副会長は東大卒の能吏で、創価学会職員を束ねる事務総長の要職にある。「学会一の行動派」の佐藤浩・副会長が谷川氏を推しているとされる。
 会長レースの行方も、以前は谷川氏が有力視されたが、ここにきて「正木氏が本命」との見方が広がりつつある。内情に詳しいベテラン会員によると、「谷川・佐藤コンビが世代交代を図ろうと派手に動き、内部で反発が広がった」という。ドンはどういう最終判断を下すか?


 犬の被害続発の英国で飼い主に最長14年の懲役

 英国では危険な犬の飼い主が厳罰に処されることになりそうだ。英国の犬はよく訓練されて行儀がいいというイメージがあるが、実際には年間21万人余りが犬に?まれ、6,400人が病院で治療を受け、さらには2005年以来、17人が死亡している。このため、被害者死亡の場合の懲役刑をこれまでの最長2年から14年に延長するなど、飼い主の責任を厳しく追及することにした。早ければ今年中にも施行される。
 法案では、被害者に重傷を負わせた場合は最長5年、盲導犬を殺した場合は同3年の懲役となる。これに加えて、上限なしの罰金が課される可能性もあるという。また自治体には、飼い主に犬の訓練への参加や、公共の場所ではヒモでつなぐことを強制できるほか、危険な犬を去勢する権限も与えられる。
 英国でも危険な犬に対する対策は年々強化されており、1991年から特別な許可がない限り、ピット・ブル・テリア、土佐犬、ドゴ・アルヘンティーノ、フィラ・ブラジレイロの4犬種は飼育が禁止された。また、16年までに飼い犬すべてにマイクロチップを埋め込むことが義務付けられた。
 しかし、禁止された犬種を隠れて飼育していたり、私有地内で口輪や引きヒモなしで違法に放し飼いにしていたりする例が続出。今年に入っても3月に、14歳の少女が4匹のブル・マスティフという番犬に襲われ死亡。11月には4歳の少女が自分の家のペットのブルドックに?まれ亡くなっている。毎年、2万3,000人余りの郵便配達人が襲われているが、そのうち70%が私有地だったという。


 総書記急死から2年、金正恩体制安定の観測

 北朝鮮の金正日・労働党総書記が急死して早くも2年。当初は、息子・金正恩・第1書記の力不足により北朝鮮の内部が動揺するとの予測も一部に強かったものの、現時点で体制崩壊の兆しはない。最近は「金正恩体制は安定している」(中国の北朝鮮研究者)との観測が強まっている。
 11年12月に金総書記が死んだ際には正恩氏の有力な後見人役と目されていた李英鎬・朝鮮人民軍総参謀長が12年半ばに更迭され、今年夏には李氏の2代後の総参謀長である金格植氏も退任するなど、軍上層部の人事が目まぐるしい。人民武力相(国防相に相当)や人民保安相(警察機構のトップ)も交代した。このことから、熾烈な権力闘争が発生したとの見方が一部で根強かった。
 しかし、実際のところは「北朝鮮で深刻な対立は起きていない」(日本政府筋)ようだ。端的に言えば「正恩氏は党と軍をともに掌握している」(韓国のシンクタンク研究員)のが北朝鮮の現状。李英鎬氏らの解任、更迭は、軍の持つビジネス利権や資金を党のコントロール下に置き、経済再建・国民生活の向上に回すための変化の一環というのが、多くの北朝鮮ウオッチャーの共通認識だ。北朝鮮は、軍優先の「先軍政治」からの脱却と方針転換を急いでいる。
 その意味で注目されるのが、北朝鮮の人事異動だ。韓国統一省は10月、北朝鮮の党・政府・軍の主要幹部のうち、正恩体制発足後に44%が交代したとの分析を公表した。北朝鮮事情に詳しい消息筋は「次官級に30代後半から40代の人物の起用が増えている。軍も同じだ」と指摘する。この消息筋は、そうした人事の断行は「金第1書記の権力基盤が盤石であることの証左」と言う。


 ユン・チュアンの新作はなんと「西太后」

 ユン・チュアンといえば、『マオ(毛沢東)』が世界的ベストセラーとなって中国国内では発禁処分。何しろ毛沢東の闇の部分が克明に暴露されており、中でも延安の洞窟における逃亡生活では仲間の粛清と、革命に憧れてきた女性を片っ端からハーレムにしていた真実に読者は驚いた。
『マオ』の邦訳は講談社から上下2冊。中国語の翻訳(原文は英語)は香港で売られているので大量に中国国内に持ち込まれ、海賊版が秘かに売られた。
 チュアン女史のデビュー作は91年に出版された『ワイルドスワン』だ。欧米で評判を取り、世界的な名声を確立した。それゆえ新作が期待されていたが、まさか中国歴史上の「悪女」とされる西太后(中国名は慈禧太后)を取り上げるとは。すでに英語圏で大評判で(原題「EMPRESS DOWAGER CIXI」)、中国語訳は来年1月に出る。邦訳もいずれ出版されるだろう。
 西太后は政敵を粛清し、正妻だった東太后も殺害した極悪非道の悪女というのが、これまでの評価だった。チュアンは8年間かけて過去の歴史文献を渉猟し、未発見の資料を見つけ、過去の悪評とは異なり、まさに西太后こそは慈悲深き、戦略性を兼ね備えて改革を志向した1級の政治指導者だと評価している。
 香港誌「開放」11月号によれば、その歴史観の転覆もさることながら、欧米読者が驚いたのは記述のなかに克明に描かれた中国人の性格の深淵、文化的側面の影響など微に入り細を穿つ表現力でもあるという。


 難民対策に手を焼くEUが国境監視システムを導入

 欧州連合(EU)が、押し寄せてくる難民対策に手を焼いている。10月3日にはリビア・ミスラタ港を出港した難民船がイタリア最南端のランペドゥーザ島沖で出火、沈没し、乗っていた約500人のうち350人以上が死亡、国際社会の注目が一気に集まった。
 欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)によると、今年1〜9月にアフリカからイタリアに入国した移民、難民は約3万人に上り、すでに前年1年間の3倍に達した。たどり着く前に海の藻屑と消えるボートピープルも多く、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は2011年上半期だけで1,500人と推計。移民支援団体、ミグルーロップは1990年代半ば以降、「ヨーロッパは地中海で少なくとも2万人を殺してきた」と指摘している。
 EUは元々、外国人を積極的に受け入れ、危険や迫害から逃れてきた難民を保護する人道主義が伝統。昨年も10万2,700人の難民申請を認めた。しかし、40万人以上の申請者からすれば、4人に1人の狭き門だ。最も多い2万2,000人を受け入れたドイツは、東欧諸国などからのIT労働者が中心で、難民対策というよりも、むしろ自国の労働力不足対策だ。経済的負担に加えて、文化摩擦も生みかねないアフリカ難民が、反移民感情の高まる欧州で歓迎される余地はほとんどない。
 EUが10月末の首脳会議で確認したのも、08年から開発に取り組んできた欧州国境監視システム(EUROSUR)の早期導入だった。EUの南部および東部国境に位置している加盟国には12月2日から適用される。それ以外の加盟国への適用は来年12月からだ。
 システム稼働の狙いは、不法難民と国境犯罪(密入国・密輸)の削減。従来の巡視船、哨戒機、レーダー、赤外線カメラに加えて、通信衛星や無人航空機などのハイテク装置を投入するなど、情報収集活動を強化し、収集した情報をEUROSURを通して加盟国と共有する。
 EU各国はこれにより、地中海に漂流する不法難民の動向をこれまで以上に迅速、正確に把握することが可能になるが、システムの目的は、それを使って難民を救済することではなく、難民の位置を監視することだけだ。難民の不法入国を水際で阻止するシステムで、決死で海を渡ってくる難民は浮かばれない。


 テロ事件相次ぐ中国は大動乱の時代に突入?

 天安門前の車両炎上(10月28日)、山西省共産党本部近くでの爆弾破裂(11月6日)は、習近平政権の「大中華圏の復活」が幻に終わり、新たに動乱の時代に突入したことを世界に知らしめた。
 天安門車両炎上事件直後に、当局がこれを新疆ウイグル族による「テロ事件」と断定し、死亡した30代の夫婦と母親(70歳)を東トリキスタン独立運動の活動家と発表。また、山西省の事件は過去に窃盗罪で懲役9年の刑を受けた男(41歳)が犯人と発表した。
 情報の統制や操作が日常茶飯事で、餃子事件では真犯人とは別の人物を犯罪者に仕立て取り繕う国だと分かっていても“家族一家でのテロ”“懲役九年の男”という顛末は異常だ。
 太子党3世の地方政府の高級官僚はこう分析する。
「天安門前炎上事件と山西省事件は2つとも政府が仕掛けた。尖閣諸島の攻撃で国民を結束させようとしたが、国際世論を引き寄せられなかった。それで、強引にウイグル人一家を独立運動の活動家に仕立ててテロ事件にし、不満の芽をウイグル人に向けようとした。山西省の事件は、ウイグル人は一般市民に危害が及ぶのを恐れない悪人だというイメージを喚起するために起こした。爆弾が庁舎でなく市民の通る側で爆発したことが証だ」
 このような見方が出るほどウイグル人の漢民族への恨みは深く、またたびたび暴動を起こしてきた。ウイグル族はイスラム教徒で、若者の中にはアフガニスタンのタリバン秘密基地で軍事訓練を受けてきた者もいるといわれる。
 例えば山西省の事件では、「立ち退きを命じられ雀の涙の補償金では生活できない」と犯行に及んだ41歳の男を犯人と断定したが、使われた爆弾は圧力鍋型の高度な殺傷兵器で、軍人か火薬専門家が関与しなければ鉄釘や鋼鉄球を爆弾に装着できないとされる。しかも九つの爆弾装置を時限発火装置で連続爆破させたのだから、背後に組織の存在をうかがわせるに十分だろう。それが当局そのものだとしたら不気味だが、中国全土に不満が充満しているのもまた現実。そしてそれはウイグル人だけでなくチベット人、モンゴル族など漢民族を除く55の民族に暴発の可能性があるということでもある。
 天安門テロでは、怨念を晴らすことを意図したウイグル人家族3人は、カシュガルから延々と4,000キロをドライブして北京へやって来て天安門近くの歩道に猛スピードで突っ込んで通行人を2人ひき殺して自爆とされた。そのカシュガルでは11月17日、警官2人が殺害され、犯人グループ9人がその場で射殺された。この国の社会不安は募るばかりだ。


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