なぜ社内の情報共有は進まない?社員全員が競って情報共有する不思議な企業が!
「情報共有」は、会社の大きな課題であると同時に一大ビジネスでもある。試しにグーグルなどの検索エンジンで「情報共有」と検索してみてほしい。
「営業支援システム」「社内SNS」「グループウェア」など、数多くの広告が表示されているだろう。この手の商売は、会社の悩みが尽きることがないので良い市場でもある。
だが、うまく情報共有をしている会社は残念ながらほとんどない。大事だと思っていても、皆できない。筆者の前職でも「社内SNS」はあったが、活用している人は全体の1割から2割程度だっただろう。
なぜ大事だとわかっていても情報共有ができないのか。
答えは簡単だ。ほとんどの会社は「情報の入れ物」を導入することには熱心だが、その入れ物に情報を誰がどう入れるのか、ということを考えるのに熱心ではないからだ。
そういった入れ物は本来、自発的に情報を入れてもらわなければ質の高い情報が集まらないのだが、ほとんどの組織は「入力をルールにすればよい」と考えているため、ろくな情報が集まらない。
もしあなたがベテランでノウハウもある営業担当だったとして、情報を入れたいと思うだろうか。逆に、あなたが新人だったとして、皆に役立つ情報を入れることができるだろうか。
どんなに優れたソフトウェアやサービスであっても、中に情報を入れるのは、結局のところ社員だ。だが社員は本当に情報共有を望んでいるのだろうか。
たとえば、あなたが営業担当だったとする。今日電話した件数、会いに行った顧客の数、そこで交わされた会話、顧客から得られた知見、そういったものを「すべて入力してください」と言われて、あなたは本当にそれをやるだろうか。
どう考えても、喜んでそれをする人は少ないだろう。実際現場の本音はこうだ。
「自分の行動がすべて見えるようになってしまう」
「自分が馬鹿なことをしているのを上司に知られてしまう」
「監視されたくない」
皆、口では情報共有してほしいと言う。 だがそれは「世界平和が大事」と言うレベルと変わらない。「総論は賛成だが各論は反対」、それが現実だ。
要するに、経営陣が「情報共有をしたい」と思っても、従業員たち、特にノウハウを持っている従業員は「自分が特別な存在でいるために知られたくない」「大した仕事をしているわけではないので、知られたくない」と思っている。
●ノウハウがうまく共有された会社は何が違うのか
一方、会社以外では、人々の行動は大きく異なる。ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)やメッセンジャーなどで、情報共有は熱心に行われる。会社にいるときとは正反対だ。
なぜ、プライベートでは情報共有するのだろうか。恐らくこういうことだ。人は見たいと思う情報しか見ないし、自分が承認されたり利益になる情報しか流さない。SNSは、それを叶えるための装置として機能しているがゆえに、積極的に利用され情報共有される。
つまり、会社で情報共有を促す場合、そういった人の性質を前提として入れ物が設計されていなければならない。
あるサービス業の会社は、社内のノウハウデータベースをつくるために単純なことをした。
1.各部署のエースに、特別ボーナスを支給してノウハウを入力してもらった。それなりに多くの時間を使ってもらうため、ボーナスの額も気前の良いものにした。
2.社員全員が閲覧できるようにし、「よく見られているページ」をランキングにした。関連するノウハウを表示させるようにした。また、FAQ方式でページを表示し、自分と同じ悩みにすぐアクセスできるようにした。
3.エースたちには「質問されたら、『データベースを見ろ』と社員に伝えること」という指示を出した。これはエースたちにも「自分たちの仕事が楽になる」と好評だった。
4.頃合いをみて、「誰でもコメントを書き込める」ように改良し、良いものは記事に反映させた。また、システムを通じて質問ができるようにし、そのやり取りを公開すると、さらにアクセス数が伸びた。
その後、かなりデータベースが活用されるようになったという。
この事例において、成功のポイントをまとめると、以下のようになる。
・最初にある程度の情報量を入れる
・すぐに役立ちそうな情報をランキングなどでわかりやすく提示する
・関連する情報を表示する
・カテゴリー分けを行い、悩みに対してアクセスしやすいようにする。
・信頼できる人から利用を勧められる
・自分も発信できる
・質問できる
経営者は、情報を入力するエースたちに対し、事前に「このデータベースがいかに有用で、自分たちのメリットとなるか」を一生懸命説いて回ったという。
情報の入れ物だけつくってもダメなのである。
(文=安達裕哉/経営・人事・ITコンサルタント)