お客さんに対して、こんな説明が
メガネのレンズには、大きくわけて、
球面設計のレンズと非球面設計のレンズがあります。
後者を略して「非球面レンズ」と呼ぶことも多いのですが、
前者は「球面レンズ」とは言いません。
なぜなら前者をそう呼ぶと、
「乱視つきではないレンズ」という意味の「球面レンズ」と紛らわしくなってしまうからです。
それで、ここでは、
前者を「レンズ」をはずして「球面」と呼び、後者を「非球面」と呼ぶことにします。
眼鏡店でお客さんによくなされる説明としては、次のようなものがあります。
(これらはほとんどはレンズメーカーから聞いた説明をそのままお客さんに言っているわけです)
A「非球面の方が歪みが少なく見えて良い」
B「非球面の方が収差が少ない」
C「非球面の方がレンズの周辺でものを見た場合にぼやけない」
D「非球面の方が外見的に顔の輪郭線の入り込みが少ない」
E「非球面の方が薄くて軽いレンズになります」
もちろんこれらはすべて、
同じ度数の球面と非球面を比べた場合のことであり、
さらに、レンズが凸レンズなら直径が同じであるとして、
という前提に立った話なのですが、
実際にはどうなのかということを書きます。
まず、Aは、一概に言えません。
非球面でベースカーブが極端に浅いものよりも、
球面でカーブが深い(レンズを横から見て丸みが強い)ものの方が、
メガネ装用者が周辺視をしたときの歪み(歪曲)は少なくなります。
ただ、中心のカーブが同じものどうしでの比較であれば、
非球面の方がわずかに歪みは減るでしょう。
しかし、実際には、
レンズの厚みを減らすために非球面では、
同じ度数の球面よりも中心のカーブを浅めにしてある場合が多く、
このAについては、どちらとも言えない、というのが実際のところでしょう。
よくレンズのパンフやPOP広告にある、
球面と非球面のレンズを通してマス目などを診た場合
の歪みの違いの図示(写真)は、噴飯ものです。
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| 球面設計のレンズ |
非球面設計のレンズ |
なぜなら、
それは人間がメガネを掛けてものを見た場合の、
レンズと物と目の関係とはまったく違った状況におけるゆがみかたを示したものだからです。
すなわち、
我々が物を見る場合には眼の1cmほど前にレンズがあって
(もちろんですが、レンズの裏側が目に近くなっています)、
そこから何10cm、あるいは何m、あるいはもっと遠方に物があるわけです。
ところが、宣伝物での図示は、
ものから数cm〜10cm前後程度離れたところにレンズを置いて、
それから何10cm離れたところに目(カメラ)を置いて、
しかもレンズの裏側ではなく表側を目に向けて見た場合の歪みを示しているからです。
これは、
メガネで物を見ているときとはまったく別な光学的条件での歪みの比較であり、
ひとことで言えば茶番です。
それを茶番と知っていてあえて「イメージ映像」として
値の張る非球面レンズを売るために使っている眼鏡店もあるのでしょうけれど、
大半の眼鏡店の人は、それがおかしいとは気が付かずに、
メーカーから来たそういう宣伝物をそのままお客さんに見せているのだと思います。
(知らぬ者の強みとでも言いましょうか……。)
* このホームページは誰でも見れますから、当然ながら業界の人も見るでしょう。
もし私の言っていることが間違いであれば、私は抗議を受けるか、あるいは、専門的な場所で論難されるはずです。
しかし、ウソを書いてはいませんから、抗議も論難も起こらないわけです。
メガネ屋さんが、『ネット上の情報コーナー』を書いているサイトは
たくさんありますが、そのなかで困るのは、
勉強もせずにメーカーの言うことをそのままお客さんに言っているメガネ屋さんです。
逆にしっかりとした知識を持っていて、マジメな商売をしているメガネ屋さんは、
岡本さん、よく書いてくれた、と思うでしょう。
収差にもいろいろあって
次に、Bについては、
こういうおおざっぱなことを言うこと、それ自体が、
言う人のいい加減さを示しています。
収差と言ってもいろいろあります。
レンズにはザイデルの5収差
(歪曲収差・非点収差・球面収差・コマ収差・像面湾曲収差)
と色収差があるのですが、
メガネレンズで実際に問題になることがあるとすれば、
非点収差、歪曲収差、色収差、の3つです。
が、まず、歪曲収差については上で述べました。
まず、色収差については、
その性格から言って、球面か非球面かということにはまず無関係で、
それはレンズのアッベ数(色収差の大きさを表す数値)によって変わってくるものです。
普通は非球面は、
アッベ数の少ないレンズで実際のメガネによく使われ、
球面はアッベ数が高いレンズでよく使われますから、
度数が同じという前提を抜きにすれば、実態としてはむしろ球面の方が色収差が少ないとも言えます。
では非点収差
(レンズの周辺部で視線を斜めにして見ると乱視が入るような見え方になる)
はどうでしょうか。
これも、いわばカーブ次第で、一概に言えません。
ただし、これはレンズの周辺部で
視線をレンズと斜交させてものを見た場合のことですから、
この収差が像の鮮明さを落とすかどうかということを論じる場合には、
これ単独で論じるのではなく、
レンズ周辺部におけるパワーエラーと合わせて考えないといけません。
そうすると、そのパワーエラーについては、
それがかかってくるとすれば、
球面ではレンズの度数が強くなる方向に働き、
非球面ではたいていの場合、度数が弱くなる方向に働きます。
ですから、たとえば低矯正
(本当の眼の度数よりもやや弱い度数で矯正)
された近視の場合には、球面の方が非球面よりも、
周辺視では視力の低下が少ないといった現象が生じがちです。
その現象が生じた場合には、実際にはBの説明とは逆になるわけです。
ですから、このBについては、
総合的には、これも「一概に言えない」ということになります。
Cに関しては、上で述べたように、少なくとも低矯正の近視矯正眼鏡においては、むしろ逆だとも言えます。
顔の輪郭線の入り込みは
では、Dはどうでしょう。
これはある程度当たっています。
その理由は、
非球面の方がカーブが浅いので、こういうことになるのです。
ただし、球面か非球面かということよりも、
実際にはカーブが浅めなのか深めなのかということによって、
この目立ち加減が左右されるわけで、
枠の玉型が大きくてレンズの度数が近視で強いと、
やはり顔の輪郭線の入り込みは避けられませんので、
この入り込みがイヤな人は球面非球面のどちらのレンズを選ぶかということよりも、
枠を小さめにしてレンズを眼に近付けたフィッティングにすればよいのです。
これについては、http://usukal.biz/rinkakusen.html をご覧ください。
最後のEについては、確かに間違いではありません。
ただし、これも、
実は球面か非球面かということよりも、
ベースカーブがどうかということによって変わってくるわけです。
ただ、非球面にすればベースカーブが浅くても、
球面のままでそれを浅くするよりも光学的なデメリットが少ないということで、
普通は同じ程度の度数であれば、
非球面の方がカーブが浅いから、球面よりも薄く軽くなるということなのです。
では、どれくらい薄いのかと言いますと、その差は大したことはありません。
それはどのくらいかと言いますと、
レンズの屈折率や度数や大きさによっても変わりますが、
枠入れした時点では0.1〜0.2mm程度の差に過ぎません。
枠の玉型サイズが小さければ、球面と非球面との厚みの差はほとんどゼロになります。
ただ、1.67以上の屈折率になると、球面はもうほとんど商品化されていないので、
非球面を販売するしかしかたがないわけです。
どちらが得か
遠近両用の累進レンズ以外の単焦点レンズで、
昔は球面しかなかったものが、
1990年代から非球面が普及してきたのですが、
その理由は、非球面の方が見え方がよいというのではないわけです。
では、どういうことなのかと言いますと、
球面で光学性能を上げようと思えばベースカーブを深く(強く)せざるをえないが、
そうなると厚くなって商品性が落ちる。
ところが、非球面にすれば、
ベースカーブの浅い、やや薄目のレンズを、
光学性能をあまり落とさずに作れる、ということなわけです。
要するに、端的に言えば、
レンズの厚みを減らすためにカーブが浅くしても、
そこそこに使えるのが非球面なのだと理解してもらえばよいのです。
そして、非球面の問題点としては、
カーブが浅いので、
カーブの深い球面よりも、快適な視覚を得られるレンズの傾きの角度などがシビアになり、
その不適合のせいで、見え方に不満がでてくることがあるという点です。
それで、もしも、
同じ屈折率で、球面と非球面が値段が同じなのであれば、
非球面の方が薄さの点で有利な分、お得だと言えるのですが、
実際には同じ屈折率なら非球面の方が高いわけです。
ですので、
もしレンズの厚みにはさほどこだわらないかたで、
度数がさほど強度ではない場合や、
あるいは、
度数が弱くてどちらを使ってもレンズの縁厚は3mmにもならない、
というのなら、
球面の方がお得だと言えます。
こういう勧め方には要注意
度数にして3D未満程度の弱い度数で、非球面を勧める店は、
下記のうちのどれかである可能性が高いと言えます。
(1)そんなに弱い度数でも、非球面の方が歪みが少なくてよいと誤解している。
(2)そんなに弱い度数でも、非球面の方がけっこう薄く軽くなると誤解している。
(3)上記の(1)と(2)の誤解に基づいて、
非球面の方がよいレンズだと思って、非球面を勧めることがお客さんのためになると思っている。
(4)上記の(1)や(2)の誤解に基づいて、非球面を売った方が値段が上がるので、非球面を勧める。
(5)上記の(1)や(2)の誤解がないのに、値段を上げるために非球面を勧める。
以上のうち(5)もあるかもしれませんが、(3)か(4)のケースが多いでしょう。
量販店などでは、
ときどきプラス(凸)レンズでもマイナス(凹)レンズでも、
2D以下の弱い度数で非球面でしかも1.60以上の屈折率の高いレンズで、
しかも非球面を勧めているケースが見うけられます。
それは店員さんが上からそういう指令を受けているのでしょう。
「度数の強弱にかかわらず、そういうレンズを売って客単価を上げなさい」
と。
とにかく量販店(チェーン店)では、
各支店の店長さんに対する評価の基準の重要なものとして
「平均客単価」があるのは、業界の常識だと言えるでしょう。
だから、安く買えるようなイメージがいっぱいのチラシで、
あるいはテレビの宣伝を見て店に来たお客さんに、
いかに上手に高いものを売るかというのが、
そういう眼鏡店の店員さん達の日常の狙いなわけです。
実際のところ近視のメガネの場合、
−1D〜−2Dあたりが最も多いのですが、
もしも、近視で度数が−2前後かそれ以下にすぎないのに、
屈折率の高い非球面レンズを勧められたら、
そのときには次のように質問をしてみられたらよいと思います。
「この枠にレンズを入れた場合、
あなたが勧めるその屈折率の非球面レンズの端の厚みはどのくらいで、
他に、もう少し屈折率の低めの球面レンズだと、枠に入ったレンズの端の厚みはどうなりますか」
まとめ
なお、
プラスチックレンズの場合、次のことを覚えておかれるとよいでしょう。
1)もっとも厚くなる、屈折率1.5のレンズ以外では、
どのレンズを使っても重さはほとんど変わらない。
2)度数が2D前後までなら、よほど大きな枠でなければ、
軽さの点では、屈折率1.56の球面設計のレンズで十分である。
なぜなら、屈折率が高くなると比重も増すので、薄くなって体積が減ったほどには軽くならないから。
なお、
乱視が3Dを越えるような強度になった場合には、
一部の両面非球面レンズでは、
それを視線の方向に係わらずうまく矯正できるようにしたものがありますので、
その場合には、近視の度数に係わらずメリットがあると思います。
それ以外では、
「外面非球面」と「内面あるいは両面非球面」との違いは、
前者の方が後者よりも、
周辺部でものを見た場合の鮮明さにおいてやや不利なことがある
(ぼやけを感じることがある)
ということでしょう。
以上をまとめて、概して言うと、次のようなことになります。
・プラスチックレンズでは、高いものを選ぶと薄くはなるが、その他の光学性能はあまり変わらない。
・度数が2D以内なら、よほど大きな枠でない限り、
レンズの厚さの点でも軽さの点でも、屈折率が1.5か1.56の 球面で十分である。
・プラスチックレンズで、度数が弱い場合には、非球面レンズは必要性は薄い。
特に、−1D台で非球面を勧めたとしたら、客単価アップが目的であると見なしてよさそうである。
・乱視が3D以上の強さになると、周辺視の場合のはっきりさで、両面非球面のメリットがある。
・近視を矯正するメガネを買う場合、いくつかのレンズを候補にして選んだ枠に、
その候補レンズを入れたら レンズの縁の厚みがどのくらい違ってくるのか
というのを事前に尋ねるのがよい。
それで、答えがないようなら、 その店では買わないのが賢明である。
次の質問に続きます。
Q. メガネレンズには、ガラスレンズとプラスチックレンズがあるはずなのに、
メガネ屋さんはプラスチックレンズばかりを勧めてきます。どうしてなのでしょうか?
メガネレンズの裏話
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