星空文庫

星空文庫

JCに生まれ変わった僕のヤモリが可愛くて強すぎる件。

  1. 小さき願い
  2. 清々しい朝

小さき願い

 アタシはご主人が大好き。

 愛おしそうに見つめる黒眼はすごく優しくて、アタシの身体を包み込む手は大きくて温かい。

 ちっぽけで冷たい身体のアタシとは大違いだよ。

 卵から生まれた瞬間からご主人はアタシを本当の妹のように可愛がり大事にしてくれていた。

 アタシは明らかにご主人とは違う種族、だけどそんなアタシをご主人は気味悪がらないで優しく微笑んでくれる。

 そんなご主人の笑顔がアタシにとって何よりの幸せ。

 だけどある時からご主人は変わってしまった。

 理由は多分アタシがあまりに小さく弱いから。

 目の前の巨大なライバルを前にアタシがどんなに頑張っても全く手も足も出なくて負け続き。

 そのせいでご主人はザコって言われているんだって。

 だけどご主人はライバルたちに嘲笑されても怒らない。

 それどころか部屋に帰ってからアタシに向かって無理に笑みを作ってこう呟くの。

『ゴメンね、僕が不甲斐ないせいで君に辛い思いさせて』

 そんな、ご主人は悪くなんかない。悪いのは他でもないアタシ、アタシが弱いからなの。

 いつしか優しいご主人は責任を全部一人で背負い込むようになった。

 他のみんなは気がついてないみたいだけど、ずっと一緒にいたアタシには分かるよ。

 神様、どうかアタシをもっと大きく、そして強くしてください。

 アタシはご主人が悲しむのをもう見たくないんだもん。

 そんなこと願ってもしょうがないと思っていた。

 そう、今年の春が来るまでは。

清々しい朝

 近未来的な街並みを今日も朝日が照らす。

 明るくなったばかりの街路をグレーのスウェットを着た少年が爽やかな汗を流しながら走っている。

 彼の名は夜森(やもり)優太(ゆうた)、この春から橘学園の二年生になる少年である。

 優太は道行く先の人や彼らに連れられた家庭生物(ファミリアニマル)たちに挨拶をしつついつものランニングコースを走り、近所の公園に辿り着くといつもの赤いベンチに座って一息着いた。

「ふーっ、やっぱり朝のランニングは気持ちいいなあ。君もそう思うよねクロエ」

 後ろに目をやった彼の呼びかけでパーカーのフードから茶色っぽい小さなヤモリが這い出てくる。

 名前はクロエ。クラウンゲッコーの彼女は優太の最愛の使(サー)(ヴァント)であり家族でもあるのだ。

 這い出て優太の手の上に乗ったクロエはパッチリまつげのようなとさかが付いたつぶらな瞳を向けて小首を傾げる。

「あはは、君はいつも可愛いなあ。まだ寒いからこれでも食べなよ」

 優太がポケットから取り出した甘いゼリーをクロエは小さな舌で夢中になって舐める。

 すると彼女の茶色っぽい身体に炎のような模様が浮かび上がってきた。

「お、美味しいかな? 良かったねクロエ」

 そう言いながら優太は炎の模様が浮き出たクロエの脇腹を指で優しく撫でる。

「クウッ」

 小さく鳴き声を上げて気持ちよさそうに身体を震わせるクロエ。

「よしよし。いつも僕の自主トレに付き合ってくれてありがとね。それじゃあ帰ろっかっ」

 思い立ったように立ち上がろうとした優太は思わずふらついてしまう。

 慌てて優太の肩に這い上がるクロエ。

「僕は平気だよクロエ。だから心配しなくても大丈夫」

 力なく微笑む優太を心配そうに見つめるクロエ。

 するとそこへピンクのジャージを着た少女がこっちに駆け寄ってきた。

「ゆーたぁー」
「あ、美佳! 君も自主トレ?」
 天津(あまつ)美佳(みか)、彼女は優太の幼なじみである。

 緩く縦に巻いたもみあげを指でいじりながら美佳は応える。

「そうよ。それよりあんた、自主トレはいいけどあんまり頑張りすぎたら体壊すわよ?」
「ご心配ありがとう、美佳。だけど僕は弱い今のままじゃ駄目なんだ」
「自分に厳しいのは結構だが、あんまり無理しない方がいいぞ」
「あ、エリシエル」

 美佳の背後から純白の翼をはためかせ舞い降りてきた天使のような女性はエンゼルコマンドのエリシエル、美佳の使(サー)(ヴァント)である。

「そう言うこと。あんまり必死すぎてもクロエは喜ばないわよきっと」
「そんなに無理してるかな僕って……」

 美佳に指摘され後頭部を撫でて困った表情になる優太、すると突然エリシエルが緩く編み込んだ銀髪を揺らしながら空を見上げてこう告げた。

「そろそろ時間だ。お前たちも支度を早く済ませて学園に来るのだぞ」
「それじゃあ学校で会いましょう、ゆーた」
「うん、そうだね」

 そう言うと二人はお互いの使(サー)(ヴァント)を連れてそれぞれの寮へと戻っていった。

 ランニングから男子寮に戻った優太はシャワーを浴びてから支度を整える。

 ふと二段ベッドの上の方で立派な体格の少年が腕を伸ばしながら大きなあくびをあげる。

「おはよう、三吾君」
「おう、優太か。お前はいっつも朝早えーよなぁ」

 石垣(いしがき)三吾(さんご)、彼は優太と一年の頃に知り合ったルームメイトだ。

「朝ご飯は作っておいたからすぐに食べて早く学園に行こうよ」
「お、サンキューな優太」

 褐色を基調としたブレザー式の制服に着替えた二人は朝ご飯を食べて部屋を出発した。