Updated: Tokyo  2015/12/16 12:57  |  New York  2015/12/15 22:57  |  London  2015/12/16 03:57
 

ブラックスワンが本物になる2016年を想像-3大スワンはこれ

Share Google チェック

    (ブルームバーグ):3月のある晴れた夜、イラクのファオ半島やシリアとトルコに近いクルド人の村で、火の手が上がる。翌日、過激派組織「イスラム国」がイラク最大の石油パイプラインを破壊したと犯行声明を出す。

日量350万バレルの石油の輸出が直ちに途絶える。イラクがパイプライン修復を図っている間にナイジェリアのニジェール川デルタの油田地帯で紛争が勃発。アルジェリアの大統領が死亡し同国が混乱に陥る。ベネズエラでクーデターが起こる。世界経済は積み上がっていた在庫でしばらくの間は回るが、原油相場はやがて1バレル=100ドルを突破。米金融当局は世界的リセッション(景気後退)を防ぐため利下げに転じる。

このような一見あり得なさそうだが起きた場合は大衝撃を引き起こす、いわゆる「ブラックスワン」シナリオを投資家は無視できない。今年は記録的な難民の波とひどいテロが世界を驚かせた。米国の超低金利時代が終わる2016年には、予想外の出来事の持つ重大性が増す。アラブ諸国の民主化運動やロシアによるクリミア併合などの地政学的ショックから市場を守ってくれたクッションがなくなるからだ。

シティグループのチーフ世界政治アナリスト、ティナ・フォーダム氏は「この種のリスクを和らげるための弾薬がもうほとんどない」とし、中央銀行は「既に非伝統的な措置を講じてルビコン川を渡ってしまった」と話した。

米大統領選で型破りの候補が当選する、英国民が欧州連合(EU)離脱を選ぶ、ハッカーがウォール街の機能をまひさせる、など影響の大きいさまざまな事態が起きる可能性について、現・元外交官やエコノミスト、投資家、地政学ストラテジスト、安全保障コンサルタントらから話を聞いた。話題に上ったシナリオを119人のエコノミストがランク付けした結果、次の3つが最大のブラックスワン的リスクとして選ばれた。

まず、4分の1余りがイスラム国による攻撃で上昇する原油相場を世界経済に対する最大のリスクに挙げた。2位は英国のEU離脱(Brexit)。3位がサイバー攻撃による金融システムまひだった。独立系の世界マクロ調査会社ナイトバーグ(ニューヨーク)はそれぞれが起きる確率を25%、20%、10%と見積もった。

誰もが考えそうなリスクもある。米利上げペースが速過ぎて新興市場から資金が逃避、ソブリンデフォルト(債務不履行)が起こる、中国経済が予想以上に悪化して暴動が起こり共産党の一党支配が揺らぐ、オリンピックを開催するブラジルが大恐慌に陥る、ベネズエラの国家が崩壊する、などなど。

ソシエテ・ジェネラルは同行が毎年まとめるブラックスワン・リストの中で、中国のハードランディングが世界をリセッションに陥れるリスクの確率を30%とした。

最も大きなサプライズの一つは米国から出てくるかもしれない。大統領選でヒラリー・クリントン氏が予想外の脱落、共和党候補のドナルド・トランプ氏当選への道が開かれるシナリオだ。軍備増強に加えイスラム教徒の入国禁止、メキシコからの移民を止めるために壁を作るなど突飛な政策を打ち出すトランプ氏が大統領に当選すれば事件だ。

中国が為替相場を操作しているとかメキシコ人が米国で雇用を奪っているなどと糾弾すれば貿易戦争になりかねず、債券など安全資産に資金が流れるだろうとナイトバーグは分析。テキサス大学エルパソ校のトム・フラトン教授(経済・金融)は「『トランプ政権』から一貫性のある政策が出てくるとは想像し難い」と述べた。

欧州では、テロや難民問題で排外主義が広がりつつある大陸でドイツのメルケル首相が門戸開放政策のために失脚する可能性が懸念される。そのような展開で選ばれる次期首相は、債務危機が再燃したらギリシャやその他の周辺国を切り捨てることをいとわない人物になる公算が大きい。

UBSグループは「今後の1年」と題するリポートで、欧州で過激な政党が台頭することとイスラム国が支配する地域を広げることを想定リスクに挙げた。フランスでは極右政党、国民戦線の支持拡大が反移民感情の高まりを示唆している。

こうした排外的傾向は英国でも高まりEU懐疑派が増えつつあることを世論調査が示した。EU残留・離脱を問う国民投票は来年中にも行われる可能性があり、UBSやモルガン・スタンレーなどの金融機関は離脱派勝利の確率を注視するよう顧客に警告している。

JPモルガン・チェースとソニーがハッカー被害にあったことはサイバー攻撃に対する企業の脆弱(ぜいじゃく)性を示した。米国と英国は先月、世界の金融センターの耐性を試す共同実験を行った。

ブラックスワンの中には世界を明るくするスワンもいるようだ。ロシアのプーチン大統領が米国と協力してシリアの内戦を収束させ平和をもたらすというシナリオはその一つだろう。

原題:Imagine a World Where Black Swans Really Do Come True in 2016(抜粋)

記事に関する記者への問い合わせ先:ニューヨーク Flavia Krause-Jackson fjackson@bloomberg.net;ロンドン Javier Blas jblas3@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先: John Fraher jfraher@bloomberg.net Taylor Hall, Michael Shepard

更新日時: 2015/12/16 07:18 JST

 
 
 
最新のマーケット情報を携帯でご覧いただけます。ぜひご利用ください。