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『music.jp』をユーザー本位のサービスに生まれ変わらせた新ワークフロー「UX決裁」って何だ?

タグ : PR, UX, 人間中心設計, 社内制度 公開

 
(左から)エムティーアイ ユーザーセンタードデザイン部インフォメーションアーキテクト 椎根史浩氏、ヘルスケア事業本部 事業企画部部長 堀口麻奈さん、ユーザーセンタードデザイン部ディレクター 宮地存氏

(左から)エムティーアイ ユーザーセンタードデザイン部インフォメーションアーキテクト 椎根史浩氏、ヘルスケア事業本部 事業企画部部長 堀口麻奈さん、ユーザーセンタードデザイン部ディレクター 宮地存氏

music.jp』は、2004年3月にガラケー向けの着うた配信サイトとしてスタートした、エムティーアイが開発・運営する老舗音楽サービスである。

10年を超える歳月を経て、今では音楽はもちろん、書籍や動画の配信も行う総合コンテンツ配信サイトへと生まれ変わった。

市場に合ったサービスへと変身を遂げるためには、その裏側で、サービス設計に対する考え方や、それを実現するための手法も大きく変えることを迫られたという。

ユーザー本位のサービス設計を実現するためにエムティーアイが独自に作成し、適用した新しいワークフロー、通称「UX決裁」とは何か?

スマホ時代に適応するため老舗音楽サービスが迫られた決断

堀口さん

ユーザーを中心に据えたサービスの再設計が求められたエムティーアイ。堀口さん以下UCD部のメンバーは、HCD-Netのセミナーに通うなどしてゼロからUXに関する知識を学んでいった

改革を中心で進めたユーザーセンタードデザイン部(以下、UCD部)部長の堀口麻奈さん(当時。現在はヘルスケア事業部、事業企画部長)によれば、ガラケー向けコンテンツを制作していた当時、エムティーアイはまだ、ユーザーを中心に据えてサービスを設計する意識が希薄だった。

ガラケーというプラットフォームの性質上、各キャリアの意向に沿ってさえいれば、サービスが伸び悩むことはなかったからだ。

「しかしスマホ時代になり、一気に自由度が上がったことで、私たちはユーザー数の伸び悩みという明らかな壁にぶつかりました。社内でも3年ほど前から、ユーザーを中心に据えてサービスを再設計する必要性が議論されるようになりました」(堀口さん)

そのための手法を学び、社内で広めていく役割を任されたのが、当時はまだ制作センターという名前だった現在のUCD部。堀口さん以下のメンバーは、HCD-Netのセミナーに通うなどして、UXに関する知識をゼロから身につけていった。

だが、従業員数800人近い会社で、約30人のUCD部が草の根的に文化を広めていくのには限界がある。そこで堀口さんは事業部側のトップに掛け合い、UXを重視した新しいワークフローをトップダウンで導入することを提案した。

事業部側の危機感が募っていたタイミングだったことも手伝って提案は受け入れられ、まずは同社の代表的サービスであるmusic.jpの事業部で適用されることになった。この新しいワークフローが、「UX決裁」と呼ばれているものである。

「機能ベース」の前に「価値ベース」で議論できるフロー

新しいワークフロー「UX決裁」とそれに必要なテンプレートは、外部の人間中心設計の専門家の協力も仰ぎつつ、山崎和彦氏らが提唱する『エクスペリエンス・ビジョン』をベースに作られた。

『music.jp』事業部で導入された「UX決裁」のワークフロー(現在は使われていない)

『music.jp』事業部で導入した「UX決裁」のワークフロー(※現在は使われておらず、ブラッシュアップしたフローに変更中)

最大の特徴は、企画立案時に「ユーザーに提供する価値」を明文化し、それを評価するプロセスを採り入れたことにある。

「これにより、従来はいきなり『機能ベース』で行われていた議論の前に、本来あるべき『価値ベース』の議論ができるようになった」と堀口さんは言う。

従来のフローでは決裁は企画立案時の1度だけで済んでいたが、新しいフローではその後に続く工程でも都度、決裁が必要な形に変更された。

この変更により、機能はユーザーに対して価値を提供するものになっているか、UIはどうか……といった具合に、常にユーザーに提供する価値を軸にして進めることが可能になった。

浸透のため、時には評価者、時にはファシリテーターに

宮地氏

事業部内にUXセンターを設け、宮地氏らUCD部のメンバーが兼務することにより、現場での浸透を図った

当時の『music.jp』事業部は100人規模の大所帯。実際の運用にあたっては、事業部内にUXセンターを新設し、UCD部が兼務する形をとって、浸透を図った。

UXセンターの現場推進者を務めた宮地存氏は、「従来より工程が増える上、手戻りも多いため、最初は現場からの反発は大きかった」と振り返る。

こうした初期のハードルを超えるため、宮地氏は企画を評価する立場ではあったが、同時にファシリテーターとしての役割も果たすことになった。

指導するだけでなく、時には企画を通すための書類づくりを代行することもあった。日常的にユーザーテストや市場調査に基づいた資料を参照しながら議論してみせることで、事業部のメンバーも次第にその有用性に気づき、UXを重視する文化が醸成されていった。

「初めは企画が突き返されることに納得のいっていなかったメンバーも、成功事例が積み重なることで、考え方を変えていってくれた気がします」(宮地氏)

成果は他部署にも波及。ボトムアップの動きが実を結ぶ

椎根氏

『ルナルナ』を担当した椎根氏は、トップダウンとボトムアップの動きがうまくかみ合ったことを、今回の改革の一番の成功要因に挙げる

エムティーアイのもう一つの代表的サービスである女性の健康情報サイト『ルナルナ』事業部が置かれた状況は、『music.jp』の場合とは少し違った。

もともと10人ほどの小規模な事業部だったこともあり、UCD部の椎根史浩氏らが中心となって進めた草の根的な啓発活動の成果は、徐々に浸透していた。ユーザーテストの実施を提案する声が現場側から上がるほどに意識は高かった。

「定性・定量データに基づく詳細なペルソナ設計が行われておらず、機能・案件ごとの場当たり的な施策になってしまっていることへの危機感はもともと高かった。でも煩雑な手続きがネックになって、なかなかテストを実施できずにいたんです」(椎根氏)

こうした下からの突き上げに加えて、『music.jp』での一定の成功を受けて会社としての姿勢が明確になったことにより、2年前に大規模なデプスインタビューを行うことができた。

その結果、「妊娠したい」という欲求だけでも6種類に分類できることなどが新たに分かり、「どのタイプに対してどのような価値を提供していくのか、あるいは提供しないのかを徹底的に話し合い、ブレない方向性を共有できるようになった」(椎根氏)という。

下流から上流へと立場を変えた制作センター

UCD部の前身である制作センターは、事業横断的にUI制作を一手に請け負う、社内の「受託Web制作会社」のような役割だった。

その存在は、サービスを作るという制作工程全体で見れば、「下流」に甘んじていたといえるだろう。そんな制作センターがUX的な文化を会社に広めるという重要なミッションを担うことになったのには、まだUIとUXがひとくくりに考えられていた時代背景もあった。

しかし本来、UXを考えるというのは、制作工程の「最上流」に位置づけられるものである。今回の改革を進行していく中で、UCD部のメンバーの働き方にも変化が生まれた。

ガラケー時代からの社員である椎根氏は今、「自分のアイデアが企画に反映されるという未体験のやりがいを実感している」といい、「自社サービスがやりたくて受託開発会社から転職してきた」宮地氏は、ようやく自社サービス開発の喜びを謳歌するに至った。

制作センターはUXという武器を手にすることで、制作工程の「下流」から、「上流」に入り込む存在へと変貌を遂げたのだ。

過程には失敗も。改革はまだ続く

全員

サービスの現状にはまだまだ満足していない。堀口さん(右)は事業部側へと立場を移し、さらなる改革を推進していく

堀口さんは当初、座学とワークショップからなる全社研修という「正攻法」でのUX文化の浸透を試みた。

1回3時間、7日間にわたるカリキュラムで、概論から始まり、デプスインタビューやジャーニーマップの作成方法といった実践的な内容までを含むもの。ワークショップでも自社の事業を題材にするなど工夫を凝らしたが、関心は持ってもらえるものの、実際の事業にはなかなか結びつかなかった。

それ以前には、専門家を招いて講演を依頼したりもしたが、「どれも現実と理想のギャップがありすぎて、その日限りのものに終わってしまっていた」(椎根氏)。

トップダウンのワークフロー導入という強攻策を打つに至ったのは、こうした試行錯誤を経て、何より実践を積み重ねることの重要性を知ったからだ。

『music.jp』や『ルナルナ』の事例からフィードバックを得て、よりブラッシュアップしたワークフローを全社に適用する動きはすでに始まっている。

そしてこの改革を主導した堀口さん自身も、新たな挑戦に足を踏み出している。

「ここまで改革を進める中で、伝道師やファシリテーターなどさまざまな役割を果たしてきた自負はあります。それでもアウトプットとして今出しているサービスを見ると、まだまだユーザー中心のサービスになり切れていない。その理由の一つには、事業部側の立場や事情を理解し切れていなかったから、ということもあったのではないかと感じています」(堀口さん)

自ら志願してこの9月からヘルスケア事業部へ異動したのは、その表れ。今後は事業部側から、さらなる改革を進めていくつもりと話している。

取材・文・撮影/鈴木陸夫(編集部)

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