地球最大のハエに挑戦者が現れた。古い博物館の棚でほこりをかぶっていた2つの種だ。
体は指の長さくらいあり、羽を広げた幅は手首から指先まで及ぶ。世界記録を保持するムシヒキアブモドキ科のGauromydas heros(G. heros)に見劣りしないほど巨大だ。
ブラジル、フランス、コスタリカの博物館に眠っていた14の標本から G. mateus、G. papaveroiという2つの種が発見された。標本は古いもので1930年代までさかのぼる。
研究を率いたブラジル、サンパウロ大学動物学博物館のジュリア・カラウ氏によれば、知られている限り、2つの新種の手掛かりはこの標本のみだという。
いずれの標本も体長4.3センチ、翼幅9センチ以下で、G. herosの最大の個体には及ばない。
しかし、ほかの博物館や中南米の生息地でさらに個体が見つかれば、G. herosのライバルであることが証明されるかもしれないと、カラウ氏は考えている。
「G. herosの体長は32~70ミリと幅があります。新たに発見された2つの種も、大きさはばらばらかもしれません」。この研究結果は11月26日付で科学誌「Zootaxa」誌に発表された。
“まぼろしの巨バエ”
14の標本にはアルゼンチン、ブラジルまたはコスタリカで捕獲されたことを示すラベルが付いているが、子孫を突き止め、捕まえるのは難しいだろう。
G. mateusとG. papaveroiの生態は全くわかっておらず、同じGauromydas属の既知の種でさえ信じられないほどとらえどころがないと、カラウ氏は説明する。
米国ワシントンにあるスミソニアン協会国立自然史博物館の昆虫学者トーステン・ディコウ氏は、この巨大なGauromydas属を含むムシヒキアブモドキ科の専門家として世界的に知られる。
しかし、そんなディコウ氏でさえ、生きたGauromydas属のハエに遭遇したことはない。「めったに見ることができないため、その生態はほとんどわかっていません」。ディコウ氏は今回の研究に参加していない。(参考記事:「古代の昆虫、巨大化の謎に新説」)
「このハエは本当に希少」であること、成体は「1年のうち非常に短い期間しか活動しない」ことはわかっているという。
羽を手に入れた成体は世界最大のハチとして知られるオオベッコウバチとよく似ている。大きな体だけでなく、高く、素早く飛ぶところも共通点だ。
この特徴は捕食者を追い払うのに役立っているが、もしかしたら昆虫学者まで追い払っているのかもしれない。
この巨大バエは無害だが、「こんなハチに刺されるのはごめんだと思ってしまうでしょうね」とディコウ氏は話す。
手掛かりはハキリアリの巣
ムシヒキアブモドキ科のハエについて少しでも知識が得られたのは、ある研究者が1940年代、ブラジル南東部でG. herosの繁殖地を発見したおかげだ。
ハエたちはハキリアリの巣の近くで交尾し、巣の中に産卵していた。巣の中では甲虫の幼虫がアリの排泄物を食べており、その幼虫は丸々太ったハエの幼虫たちの餌食になったそうだ。(参考記事:「アリが「公衆トイレ」を持つと判明」)
成体になると、「花の蜜を吸うようになると考えています。口器が発達しており、花に止まる姿を目撃されているためです」とカラウ氏は説明する。
カラウ氏によれば、今回発見した標本も複数のラベルに、リュウゼツランの蜜でおびき寄せたと書かれているため、G. herosと同じ習性を持つ可能性があるという。
G. mateusとG. papaveroiが地球最大のハエの称号を手にするかどうかは、いずれはっきりするだろう。しかし、重量級のチャンピオンになる見込みは低そうだ。(参考記事:「キリギリス、世界最大の睾丸の持ち主」)
ティンバー・フライとも呼ばれるパントフタルムス科(Pantophthalmidae)のハエは「体こそ短いですが、ずんぐりしているため、もっと重いかもしれません」とディコウ氏は話す。
いずれにせよ、これらのハエにはめったに遭遇できない。大きなハエたたきを用意する必要はなさそうだ。