鳥貴族だった。テーブルの上に4つ並ぶ280円の中ジョッキ。いつの間にか、彼らはスターウォーズについて語り出していた。
「スターウォーズって見てる?」
「一応見てますよ! 内容は実はあんまり覚えてないんですけど」「すいませんそれがお恥ずかしいことに見てないんですよね……」私は後者である。
「あっうそ、見たことあります、ディズニーランドで」「スターツアーズですか!わたし乗ったことない」
「ディズニーランド!いや、でも、そうですよね……ディズニーランド」
「俺、彼女にスターウォーズ見せたときに、全然興味なさそうに見てたんだけど、発着のときに『あ、スターツアーズ』って言ってたよ……」
「スターウォーズ、EP7がもうすぐですけど、なんかいろいろな意味で話題になってますよね」
「いやもうほんとね、おれは一周まわってEP7を見たくないんですよ……」
生ビールお代わり。
「え~っと、おもしろくなさそうなんですか?」
「1回目は絶対、『いや~コレはな……いや~悪くないけどさ……でもアレがさあ……』と首を傾げながら映画館を出てくる」「わかる」
「そうか……大変だな……」
「そして2回目には『うん、まあ、これはこれであり! いいじゃん! これでさ!』となる」「わかる」
「そうか……大変だな……」
焼き鳥。
「ちなみにミーハーなのでEP7のお祭りにはついていきたいと思っているんですけど、今からスターウォーズを見るとしたらやっぱり公開順ですか?」
「本来なら456123の順だけど、正直あまりオススメできないよね」
「4は今見ると特撮も微妙に見えるかもしれないし、そもそも映画としておもしろいかと言われると……」
「えっ、おもしろくないんですか?」
「いやおもしろい、おもしろいよ? でもさ、俺たちは4をもう何百回も見てるわけ。通して見るとかじゃなくてチャプターごとに見て泣いたりしてるわけ。もう何がおもしろくて何がおもしろくないのかわかんないんだよ……」
「ウテナの決闘シーンとかプリキュアの変身シーンだけで泣けるみたいなやつか……」
「あの~わたし、レイアが正直そこまで美人に思えないんですけど……」
「レイアはね! 百回見てると『アレ? この女絶世の美女なのでは?』って思うの! 横たわって喋ってるとことか!」「わかる~!」
あったか豆腐。
「そもそもさ、456123って見ると、123が微妙なんだよ……」
「えっ」
「もう456があるわけだから、123はそれにつじつまを合わせるように作るんだよね。だからある意味『想定内』におさまっちゃう」
「3も楽しみにしてたけど、でも456がある限り、『まあそうなるよね』なんですよね」
「あ~!つまり、『天』でアカギが死ぬのがわかってるから、『アカギ』ではアカギは死なない的な?」
「それ!」「そう!」「なるほど~!!」今日一番の納得。
「だから実は、俺は怖い」「と、言うと?」「456はリアルタイムで見てなくて、123は456につながる物語……そこで今回の7。7はさ、誰も知らない物語なんだよ!!」
「誰も知らない物語……」
「7はさ、もう何をやってもいいわけ。歴戦のジェダイがいきなり死んでもいいの。予告を見ても何が起こるかわかんないし!」
「おれは思うんですけど、今回のEP7を見る人って、全員がおれたちみたいなスターウォーズおたくってわけじゃないはずなんですよ。細かいことを覚えてる人ってそこまでいない。だからたぶん7は『スターウォーズってこういう感じだよね』というお約束をおさえたあとは、全然予想もつかないことをやってくるんじゃないかなって。だっておれらおたくはちょっとマニアックなポイントさえ押さえてくれればなんだかんだで満足しちゃうじゃないですか……」
「それって『ターミネーター』だよね!『ターミネーター』の詳しいあらすじや設定を全部覚えてる人なんてほとんどいない。ただシュワちゃんが出てきて喋れば多くのファンは『は~ターミネーターを見たぞ!』って気持ちになるわけじゃん。そう、EP7は『ターミネーター新起動/ジェニシス』なんだよ!!!『スターウォーズ エピソード7』なんてタイトルじゃなくて、『スターウォーズ 新起動/ジェニシス』ってタイトルをつけてほしかった!!!」「あ~~!!!」
このころにはもう、我々の口は半開きであった。
「正直おれがいちばんオススメするのは、456123を見ないで7だけ見ることですね。おれは!そういう人が!うらやましい!」
「えっどういうことですか」
「だって絶対楽しいもん!7だけ見る人には絶対楽しい映画になってるはず!それに、今の人たちって、スターウォーズを7から見れる初めての年代なんですよ!うらやましい!!」
「予習しないで7見て怒られないですかね……」
「絶対大丈夫!むしろおれはそういう人の感想を聞きたい!もうおれはスターウォーズの何がおもしろいのかわからないから……」「何も知らないで最初からスターウォーズが見たい……」
生ビール、生ビール、生ビール……。
打ちひしがれる彼らのスターウォーズトークによって、スターウォーズのことはそこまでわからなかったが、スターウォーズを好きなひとの気持ちは伝わった。どのジャンルでも「作品を好きすぎるおたく」は厄介という、不変かつ普遍の真理がそこにあった。