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松沢呉一のビバノン・ライフ

「おっぱい」募金中止を求める署名の愚劣-HIV対策の妨害者(松沢呉一)3,141文字-

2015年12月14日21時30分 カテゴリ:連載セックスワークを考える連載差別表現連載表現規制


HIV対策を妨害する呆れた署名

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最悪の署名です。

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この呼びかけ文の中で、「スカパーは配慮した方がいい」と思えるのは、「この募金を受けてどのような活動が実現したか、募金先の団体はその活動結果も公表するべきという点のみ。

もちろん、集めた金が正当に使われていなかったといった事実があれば問題にしていいとして、現状ではそう疑える根拠は何もない。「この企画を作っている制作会社の代表と、募金を受け取っている団体は同じ代表者名」であるのは、それ用の団体を作っておかないと、スカパーなり製作会社なりの売り上げとして計上することになって面倒とか、そういうことなのでは?

私もこういう場合の処理をどうしたらいいのか知らないですが、疑うのであれば疑う人が問い合わせればいいだけです。確認もしないで、どうしてここがさも問題であるかように吹聴するのでしょうね。

これについてはスカパーからなんらかの説明があるでしょうから、それを待つとします。

 

本人たちの意思を平気で踏みにじる無神経さ

vivanon_sentenceあとはすべてがひどすぎ。そのひとつひとつをすべて批判してもいいですが、いろんな人たちがすでに批判をしているので、私は論点を絞ります。

許しがたいのはここ。

なぜならこのイベントは「募金」とは名ばかりで、寄付する人はおっぱいを触るための対価としてのお金を払っているだけだからです。実際には、おっぱいを触らせている女性たちがその対価として受け取るはずの「報酬」を(全部か一部かはわかりませんが)放棄することで、お金が集まっているだけではないでしょうか?

 

ほう、受け取るはずの報酬をもらえなかった、つまり、報酬を踏み倒されたってわけですかい。

しかし、「全部か一部かはわかりません」「お金が集まっているだけではないでしょうか?」という書き方からして、確認もせず、根拠も何もないのでしょう。

本人たちが納得しているのであれば、ノーギャラであろうと、薄謝であろうと問題なし。実際、出ていたモデルたちは誰もそんなことは言ってません。

もし出ているモデルらが納得しているのに文句をつけるのであれば、同じくギャラとしてもらえるはずの金額の一部か全額を放棄し、客は提供されたものに金を払っているだけなのだから、チャリティコンサートも、チャリティ握手会も、チャリティ講演会も、すべて中止しなければならないはずです。漫画家やイラストレーターが原画を提供して売り上げを寄付することも、芸能人が私物を提供して売り上げを寄付することもすべて中止。

なぜそれは同じ論理で中止を求めないのか。それが理由だからではないことが透けて見えます。

 

エイズ対策とエロが無関係とする無知

vivanon_sentenceそもそも、エイズ対策と、おっぱいは関係がありません」とも書いてますが、エロと性感染症は関係があるに決まっているでしょうが。HIVの場合は輸血やドラッグの注射で感染することもありますが、今現在、9割が性的接触によるものです。

 

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エイズとエロが関係ないんだったら、たとえばAct Against AIDSに参加しているミュージシャンやタレントたちだって関係ないでしょうに。関係あるのは医療関係者と研究者と感染者くらいのもんです。

こういう腐れた連中が「GLAYのTERUがエイズ予防財団に協力しているのはHIVに感染したからだ。関係がないのに協力するはずがない」なんてデマを流すのでしょうね。こういう人たちのせいで協力する人たちがいなくなる。

こんな署名を求める人も署名した人もエイズ対策の敵です。エイズとともに撲滅したい。

 

なぜこうも腹立たしいのか

vivanon_sentenceFacebookで私がこの署名を知ったのは、HIVの啓発活動に長年関わってきた張由紀夫君が怒りとともに取り上げていたためです。

 

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エイズ対策のために真剣に戦っている世界中の人たちに対しても失礼」って書く署名に、エイズ対策のために真剣に闘ってきた張君はこうも怒っているんだが。

中にはこの署名に同意する人がいるかもしれないですが、現にここに怒っている人物がいますし、命がけでHIVと闘ってきたACT UPもポルノを含めて表現の規制に反対してきたことは「なぜACT UPは表現規制に反対するのか」に書いた通りです。

張君が「セックスフォビア、重症だな」と書いているのも、張君の今までの活動と深く関わっている感想だと思います。セックスフォビアはHIV対策の敵ですから。DSCN5009

今現在、HIVの対策に深く関わっている人たちで、「男性同性愛者は性行為を慎め」なんて言う人はまずいませんが、その外側にはそういう人たちがいっぱいいて対策を妨害しています。学校で性教育をすると、「セックスを推奨するのか」と騒ぎ、コンドームを配布することもできない。ハッテン場の話をすると、卒倒する人がいるので、正確な情報も出せない。

二丁目の看板に文句をつけたのも、ホモフォビアかセックスフォビアの仕業でしょう。両者はしばしばリンクをしています。自分の性のありよう以外を許せない人たちです。

端っこで関わり続けているだけですが、私自身の体験で言うと、2000年代初頭、ヘルス店にHIVに関する調査に協力してもらっていたのですが、そのあと、浄化作戦でネットワーク壊滅。当時はSTD検査をやっている系列店も複数ありましたが、デリになると減っているのではなかろうか。

HIV対策に腐れ道徳主義者は百害あって一利なし。

 

チンコ展の思い出

vivanon_sentenceどうやってHIVに関心を抱いてもらうか、どうやって検査する人の数を増やすか、どうやってその資金を確保するかで、張君自身、苦心してきました。そのためにさまざまな人たちに頭を下げて、ノーギャラで、あるいは安めのギャラでライブをしてもらったり、話をしてもらったり、文章を書いてもらったり、イラストを描いてもらったり、写真を撮ってもらったりしてきてきたわけです。

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