第1次所得収支の中には、外貨を円に換える(円転する)ことがほとんどない外貨準備の利子収入や、円転の比率が低いとされる対外直接投資による現地利益、民間対外証券投資の利子・配当収入が多く含まれており、第1次所得収支の黒字額が、そのまま円買い需要につながるとは考えにくい。
一方、実需に直結している貿易・サービス収支は、上述したように赤字のままだ。貿易活動を通じた円売り圧力は以前ほど強くはないだろうが、円売りの動きは続いたままであり、少なくとも円買い要因には働かない。経常黒字が巨額になったから円買いの動きが強まるとするロジックは表面的にはもっともらしいが、為替の実需取引の実態を示したものとは思えない。
日本の対外直接・証券投資の動きが減速するとの理由からドル円が下落に転じるとのロジックも説得力に欠ける。国内年金基金のポートフォリオ・アロケーションの変更を背景としたリバランスの動きが、すでに一巡したのは事実だが、来年以降も海外投資比率が維持される。一方で、国内生保・銀行は外債買いの動きを強化。国内投資家による海外中長期債の買い越し額は年初からの11カ月間で11.2兆円と、昨年1年間の約12倍に膨らんでいる。
円債利回りは、日銀の大規模買い入れもあって低位安定。こうした状況下、国内生保・銀行が対外証券投資の動きを後退させ、円債にシフトするとは考えにくい。国内投資家による対外証券投資の拡大ペースが鈍化する可能性は否定しないが、だからといって円買い需要が強まるわけではない。
<1ドル=120円を大きく割り込む円高は考えにくい>
12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ開始が決まる可能性が高く、来年も年前半を中心に2、3回の利上げを実施すると見込まれる一方、日銀は必要であれば追加緩和に踏み切る姿勢を示し続けたままだ。
いわゆる日米金融政策の違い(ダイバージェンス)という構図が来年も続く以上、ドル円が120円を大きく割り込む形で下落すると考えるのは無理があるように思われる。米国景気次第の面はあるものの、来年のドル円は日米金利差の拡大を背景に下値を固めながら「じり高」の動きを続けると考えた方がむしろ自然だろう。
確かに、原油をはじめとする商品市況の下落が続き、米国が7年の期間を経てゼロ金利を解除しようとしていることで米国景気の先行き不安は強まっている。11月以降、米国株は伸び悩みが続いており、米国企業の予想EPS(1株あたり利益)はドル高や世界景気の減速観測から10月に小幅ながら減少。その後も伸び悩んでおり、米国株の先行きを慎重にみる見方も広がりつつある。
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