現地の日本軍部隊に「日本軍は降伏に全面的承諾を与えていない。まだ正式に捕虜として容認されていないから、投降者は一律に射殺すべし」との大本営命令が電話で伝えられた。
連隊長が愕然として「口頭命令では実行しかねるから、正規の筆記命令で伝達せられたい」と答えると、筆記命令はついに来なかった。辻が仕掛けた口頭の偽命令だったらしい。
同じ内容の命令が他の部隊にも伝えられた。指揮官が命令を拒絶し「私を軍法会議にかけてください」と言うと、1時間後に「先ほどの電話命令は取り消す」と連絡があったという。
バターン西海岸を担当した師団参謀長は、辻から、道路に列をなす米兵たちを「殺したらどうか」と勧告され、拒否した。辻は「参謀長は腰が弱い」と罵り、師団長に同じことを進言したが「バカ、そんなことができるか」と一喝されたという。
1943年秋のビルマ戦線では、辻は英人兵士の人肉試食事件を起こしたとして、後に元上官から「人間として私は許せない」という非難も浴びている。
このほか、無残な敗北に終わったノモンハン事件(1939年)での独断専行など、辻の乱行は枚挙にいとまがない。数え切れぬほどの兵士が、彼の無謀な作戦の犠牲になった。それでも陸軍上層部は辻をかばい、彼を罰しようとしなかった。
なぜだろう? その謎を追っていくと、軍を覆い尽くした狂気の正体が見えてくる。
*参考:『作戦参謀 辻政信 ある辣腕参謀の罪と罰』(生出寿著・光人社刊)、『参謀・辻政信』(杉森久英著・河出文庫)
『週刊現代』2015年12月12日号より
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