書き初めて、3年くらいかかっているお話です。
何パターンも書いているのですが、上手く書けずに、出来ているのは、まだ、ここだけ。
納得出来る書き方が出来たら、アップします。
身体障害者が主人公ですが、障害に焦点を当てた、社会派な小説ではありませんので、あしからず。
逮捕
西暦2015年、10月19日、月曜日、午後8時。
東京ーーーー。
七瀬川駅。ホームは、人で混みあっていた。
ガタンガタン、ガタンガタン。
すると、そこへ特急列車がスピードを落とさず、勢い良く滑り込んで来た。
一瞬の轟音とともに、眩しい光が通り過ぎて行く。
すると、辺りで突如、異様な悲鳴が響きわたった。
「キャアアアアアアッ...!!」
「おい、男が列車に轢かれたぞ!!」
あかあかと照らされたホームには、真っ赤な血だまりと、ちぎれたばかりの人間のパーツが転がっていた...。
「誰かに突き落とされたのを見た人間がいるらしいぞ!」
「誰だ!」
「アイツだ...!!」
轢かれた男性の後ろに、並んでいた乗客が、どうやら犯人を目撃したらしかった。
その乗客の一人が、茶髪のヤンキー風の男の背中を指さす。
「ちょっと待ってくれ!!俺じゃない!!俺じゃない!!」
「下がって下さい!今、係りの者が来ます!」
あっという間に駅員と、警官がやって来た。
「ご同行お願い出来ますか...」
「違う、俺じゃ無い!" 手が勝手に"ッ ...!!」
「往生際が悪いぞ」
二人の警官に、両腕を掴まれ、犯人らしき男は、駅員といっしょに、奥に消えていった。
「本当だ!信じてくれ!俺じゃ無い!!」
いつまでも男の声が響き渡る。
「(ニヤリ...)」
そこに、右腕に左手を添えた、一人の制服の少女がいた。
まだ、中学生くらいか、黒髪を右耳の上のあたりで結った、髪の長い少女だった。
その少女がうすら笑ったのを、見逃さなかった男がいたのか。
突如、少女の横から、20代後半くらいのスーツを着た体格の良い赤い短髪の男が、少女の" 右腕" を掴んだ。
そして、少女の耳元で、低いドスのきいた声でその男が呟いた。
「" 仲間"がいないとでも思っていたのか......??」
「!!」
少女の顔色は、一瞬で青くなった。
少女の背中も、一瞬で凍った。
(こいつ、ヤバイ......!!)
少女がめいいっぱいの力で、踵(きびす)を返した瞬間、赤髪の男がもう一言つぶやいた。
「それ以上動くと、お前の心臓を止める......」
「!!」
少女の額に、冷汗が垂れた。
その声の落ち着きに、少女は、その言葉がハッタリではないと、肌で感じ取った。
少女が、身動きが取れないのを男が感じ取ると、男は、懐から警察手帳を開いてみせた。
「なんで捕まったか、わかってるな......?」
「............」
「署までついて来てもらう」
「............」
日常
西暦2015年9月14日、月曜日、朝7時30分。
東京都式重(しきえ)区黒澤町の住宅街に、一軒の和風建築の大きな屋敷があった。
その二階建の1階。
玄関を入って、家政婦の作業室の隣の落ち着いた雰囲気の洋室に、今、まさに、制服に袖を通したばかりの、中学2年生の、長い黒髪の色白の少女がいた。
白い長袖のおろしたてのシャツに、灰色の無地のスカート。そして、真っ赤な深紅色のネクタイ。靴下は、白色の学校指定のハイソックス。壁にかけられたハンガーには、上から羽織るであろう、灰色のジャケットが掛かっていた。
しかし、そのジャケットに通すであろう、少女の右腕は、まるでそこだけ死んでしまったかのように、ぶらりと、力なくうなだれていた。
少女は、それを気にする事もなく、左手だけで身支度を整えていく。
少女が見つめる白縁の縦長い鏡は、窓際に置かれていた。
朝日に照らされている鏡の中で、少女は何度も、身だしなみを確認する。
脇にある白いベットの上には、学生証と健康保険証と、掛かり付けの病院の診察券と、薄い手帳が置かれていた。
その手帳には、こう書いてあった。
『身体障害者手帳 東京都』と。
少女は、腰あたりまで伸びたツヤのある真っ直ぐな長い黒髪を、右耳の上あたりしっかり結って、部屋からサッと出掛けていった。
少女の名前は、黒畝ユラ(くろうねゆら)といった――――。
◆
朝7時30分を少し過ぎた頃、自宅の玄関先の門の前に、黒畝ユラと、白い割烹着を着た中年の家政婦の女性、鈴木さんが、迎えのバスを待って、立っていた。
そこへ、程なく、20人乗りくらいの、リフト付きの白いスクールバスがゆっくり停車した。
その車の後ろには、『一ノ宮(いちのみや)学園』と灰色の文字で、書かれていた。
車内には、数人の乗客が先に乗っていた。
中には、小学生の児童や、中学生、そして、高校生くらいの学生が、静かに座っていた。
バスから、一人、ポロシャツとジャージを着た若い介護士の女性が降りてきて、家政婦が持っていたユラの荷物を代わりに受け取り、ユラをいつもの席へと案内する。
その介護士の女の人の「おはようございます」から始まって、「よろしくお願いします」まで、まるで毎日の合言葉のように、出迎えた人間がその子を送り出すと、ベルトコンベアのように、次の生徒の自宅へと、機械のように、車が走るのだ。
鈴木さんも、すぐ、遠く見えなくなった。
◆
東京都式重区虹橋町にある、都立肢体不自由特別支援学校、一ノ宮学園は、小学部と中学部と高等部がある、小中高一貫校だった。
校舎は、三階建てで、一階が小学部、二階が中学部、三階が高等部の、全校生徒、120人の手足が不自由な生徒専門の学校だった。
その二階の1年3組の教室に、黒畝ユラは、在籍していた。
「おはよう、ミスズ」
「おはよう、ユラちゃん」
黒畝ユラが挨拶をしたのは、同じクラスメイトの女子生徒、白岩ミスズ(しろいわみすず)。
白いふわふわの髪を緩く左右で三つ編みにした、優しげな女の子だった。
白岩ミスズは、小学2年生の時に、交通事故に遭い、両足が不自由になった事で、小学3年生から、一ノ宮学園に転校して来た、元健常者の女の子である。
でも、ミスズは、転校初日から明るかった。
後から聞いたが、ミスズには、前の学校では、沢山の友達がいたらしい。
愛想の無いユラに、根気よくアプローチして、仲良くなったのは、ミスズの方だったが、ミスズは、すぐクラス中の生徒と仲良くなり、ご執心なのは、ミスズじゃなくて、いつの間にか、ユラの方になっていた。
ミスズとユラは、小学3年生で出会ってから、ずっと同じクラスだった。
「ねぇ、ミスズ。明日、空いてる?家に遊びに行きたいんだけど…」
「うん、空いてるよ。明日は、大丈夫だよ」
「やった!」
教室には、車椅子の生徒が3人。車椅子じゃない生徒が5人の計、8人がいた。
男子生徒は、4人。
女子生徒も、4人だった。
朝、8時半のチャイムが鳴ると、教室に担任の教師、吉崎という若い男性教師が入ってきた。
生徒はみんな、席に着き、吉崎は、教壇に立った。
「皆さん、おはようございます」
「おはようございます」
「今日の朝の連絡事項ですが、…」
◆
朝のホームルームは、あっという間に終わり、早速、1限目が始まった。
1限目は、体育。
2限目は、家庭科。
3限目は、数学。
4限目は、音楽。
給食と昼休みを挟んで、
5限目は、英語。
6限目は、理科。
夕方のホームルームを終えて、帰りの送迎の時間になった。
「じゃあ、また、明日ね、ミスズ」
ユラとミスズは、家の方角が違ったので、別々のスクールバスで通学していた。
「うん、また明日ね、ユラちゃん」
そして、数台のスクールバスが、学校の駐車場から、各家庭へ、方々に散っていった。
◆
夕方四時半。
一ノ宮学園のスクールバスが、黒畝家の門の前に着いた。
白い割烹着を着た鈴木さんが、門の前で立って、ユラの帰りを待っていた。
今朝と同じ女性の介護士が、バスから降りてきて、鈴木さんにお辞儀をして、挨拶をして、ユラをバスから降ろして、去っていった。
ユラの学生カバンは、鈴木さんが運んで、ユラと鈴木さんは、お屋敷の中に入って行った。
鈴木さんは、荷物を一階の一番奥にある、ユラの部屋に運んで、再びキッチンへ戻った。
夕食の下ごしらえをしていた途中だったのだ。
鈴木さんは、朝の六時から夕方の六時までが、勤務時間だった。
その間に朝昼晩の食事の支度と洗濯と掃除などの家事をこなして、鈴木さんの自家用車で、買い出しにも行き、時には、家族を送り迎えもしていた。
また、鈴木さんは、水曜日と木曜日が定休日で、鈴木さんが休みの日には、佐藤さんという、鈴木さんより10歳ほど若い女性が、家政婦として、やって来ていた。
ユラは、基本的に、一人での外出を親に許されておらず、それというのも、最近、治安が悪化してきたせいもあった。
しかし、ユラは、家政婦が帰った夜六時以降は、実質自由で、両親も共働きだったので、それが親にバレる事は、滅多に無かった。
◆
夕方六時過ぎ、鈴木さんが帰った。
ユラは、七時までに夕食と入浴を済ませた。
そして、上下、薄い灰色の部屋着から、薄い灰色のパーカーと、水色のスキニージーンズに着替え、白いナイキのターミネーターのスニーカーを履いて、携帯電話の白いスマートフォンと家の鍵と財布だけ入れたベージュ色のバックを肩に下げて、ユラは家を出た。
外は、暗くなっていた。
ユラは、地下鉄に乗って、とある立体交差の高架橋の上へやって来た。
その一般道路の橋からは、真下に、首都高速道路、式重線が見えた。
ユラは、橋の真ん中あたりに、仁王立ちで、高速道路を見下ろした。
下には、色んな種類の車が、走っていた。
ユラは、その一台一台を目で追う。
そして、一台の車に目をつけた。
8人乗りの白のワゴンタイプの車だった。
運転席は、暗くて見えないが、ユラは、目をカッと見開き、その運転手の右腕に意識を集中した。
そして、" その運転手の右腕に"、力いっぱい込めて、ハンドルを右に急に切った。
その白いワゴンのハンドルが、右回りに一回転する。
運転手は、慌てて、左手でハンドルを戻そうとするが、利き腕だから、敵(かな)わない。
ワゴンは、勢い良く、中央分離帯に派手に激突した。
すると、後ろから来た車が、次々とその車に追突した。
ボンッという音がして、巻き込まれた数台の車から火が出る。
ガソリンに引火したのだ。
あっという間に、8台が炎に包まれた。
ユラは、無邪気な笑みを浮かべると、高笑いしながら、スキップで、もと来た道を帰って行った。
ユラが歩いていた歩道の脇に、赤信号で止まっていた車から、立ち上った黒い煙が見えた。
◆
午後9時。
ユラはとっくに家に帰って来ていた。
父や母は、食事と入浴だけ済ませて、それぞれの部屋に足早に入って行った。
高校生と大学生の兄二人は、一人がリビングでテレビを見ていて、もう一人は、キッチンでコーヒーを入れていた。
今日もユラは、両親と会話が出来なかった。
ユラは、自分の部屋にある、小さなデジタルテレビで、夜の九時から始まるニュース番組をつけていた。
ニュースには、今日、夜の7時半頃、首都高速道路、式重線で、車8台が絡む交通事故があり、11名の死者が出たと、その番組で報じていた。
ユラは、おもむろに、自分のスマートフォンを取り出して、スケジュール帳のアプリを開いた。
そして、西暦2015年の9月14日の欄に、「11」という数字だけを入力した。
そのカレンダーには、ユラがこのスマートフォンを所持するようになった、1年前の9月から、至る所に、数字が書き込まれていた。
ちなみに、一年前の、西暦2014年9月のカレンダーには、9月1日、「8」、9月4日、「4」、9月9日、「1」、9月12日、「5」と、9月17日、「2」、9月18日、「7」、9月21日、「3」、9月28日、「4」と、書いてあった。
そして、ユラは、次に、ミスズとのラインを確認して、閉じて、次に保存用フォルダから、一枚の写真を取り出して、見つめていた。
それは、高校生くらいの、白髪の少年の写真だった。
◆
次の日、ユラは、朝から、教室で、ミスズに今日の放課後の予定を提案していた。
「ミスズ、今日、遊びに行くって約束したよね?何する?こないだみたいに、料理する?」
「そうね。こないだ肉まん美味しかったよね。お兄ちゃんも食べたし」
ミスズの兄は、東京都の式重区にある、普通の高校に通う高校生2年生で、ミスズと同じ白髪の少年だった。
名前を、白岩キリト(しろいわきりと)といった。
「そう言えば、お兄ちゃん、今度はイカ飯が食べたいって言ってたよ!」
「イカ飯かぁ…。わかった。じゃあ、私、制服のまま、今日はミスズと同じバスに乗るから、帰ったらそのまま、ミスズの家の近所にあるスーパーまで、一緒に買い物に行こう!私、鈴木さんに、今日は、そのまま遊びに行くって、ラインで伝えとくから」
「帰りは、多分、6時過ぎるよ?」
「大丈夫、9時までに帰れば、親は気づかないから」
「でも、鈴木さん、多分、ユラちゃんのお母さんに連絡するよ?」
「大丈夫だよ、タクシーで帰るって言うから」
「なら、良いけど…。ユラちゃんちって、相変わらずお金持ちだね」
「何よ、親友なら、貧乏よりお金持ちの方が役に立つでしょ?」
「うち、庶民で悪かったね」
「うちは、親は仕事の事しか考えてないからね。会話なんて全然無いから、ミスズの家が羨ましいよ。家族がきちんと、お互いの事、沢山知ってるから」
「ユラちゃん…」
「私んち、おはようとおやすみだけだよ。毎日の会話。お父さんもお母さんもお兄ちゃん達も、私の生年月日と名前と通ってる学校くらいしか、知らない。他は何も知らない。他人と一緒なの。鈴木さんや佐藤さんとは、少し会話するけど、家族より仲良くなるのって、なんか違う感じがして、あんまり仲良くしてないんだよね…。家族の場所は、取られたくないから…。ミスズやキリトさんと話してると、楽しいんだ。友達っていうより、家族と一緒にいるみたいで。時間があっという間に過ぎて。私、勉強なんかより、ミスズやキリトさんとの思い出で、頭の中いっぱいにしたいんだよね!」
「ユラちゃん…」
ミスズは、その言葉を聞いて、何も返せなくなった。
「さ、今日は、ミスズのお父さんやお母さんの分まで、沢山作るぞ☆あと、モコの分までね!」
モコとは、ミスズの家で買っている、猫の事だった。
「ユラちゃん、元々作る分量多いから、お手柔らかにね。残したら勿体無いからさ」
「わかった!じゃあ、放課後、バス乗り場で待ち合わせよ!」
ユラは嬉しそうに、ミスズと約束を交わした。
◆