<人口激減の足音>経済維持へ支援急務
◎先行県・秋田のいま(5完)事業継承
<意欲高まらず>
事業継続の断念に傾く経営者が、秋田県内で増えつつある。経営意欲の低下はデータにも表れている。
県中小企業診断協会は昨年5〜6月、4000事業者を対象に事業承継の実態を調べた。回答した約2900事業者の約27%(約770事業者)が「自分の代でやめたい」と答えた。「子供にその意思がない」「事業に将来性がない」「地域の需要や発展が期待できない」といった理由が並んだ。
帝国データバンク秋田支店は昨秋、県内企業約1900社のうち1400を超す社が後継者不在で、約75%という割合は全国4番目に高いとする調査結果を公表。「少子高齢化が進み、人口減少率がワーストというマーケットの将来性を考えると、事業を継がせる意欲が高まらない」と分析した。
<育成塾初開催>
悲観的な見方は深く静かに広がっている。
北都銀行(秋田市)のライフプランアドバイス部は、事業承継に伴う会社資産の評価や相続準備の相談を年間数百件扱う。担当者は現場の感覚として「半数程度が人口減に伴う経営不安を抱えている」とみる。
例えば、小都市の商店街でほそぼそと営業する文具店や運動用品店。多くは学校向け用品を取り扱っており、学校との「パイプ」があるから商売を続けられる。子どもがさらに減り、学校が統廃合されれば経営は立ち行かなくなる。
この担当者は「後を継いでほしくても、こんな状況で重荷を背負わせたくないのが親心だ」と代弁する。
廃業や会社解散は地域経済の地盤沈下に直結するだけに、対策が急がれる。
県は今秋、県内3地域で5回続きの後継者育成塾を初めて開催し、後を継ぐ予定の約70人が受講した。
秋田商工会議所は国の委託で昨年4月、県事業引継ぎ支援センター(秋田市)を設立。後継ぎが親族、従業員、第三者のいずれでも支援できる態勢を整えた。
<ゼロではない>
さらに、後継者人材バンクをことし3月に始動。起業希望者や都市部から移住して事業を始めたい人と、事業譲渡を望む事業主を引き合わせる。直近の登録者は譲り受け側40人、譲渡側20人。年度内に数件は対面まで進む見通しだ。
センターの河田匡人統括責任者は「廃業になれば従業員の雇用が失われるだけでなく、地域に必要な店やサービスが消えてしまう」と意義を強調する。
「良かった時期と比べるから悪く感じるだけ」。経営者の意識が後ろ向きになっている現状に秋田市の不動産会社の女性社長(48)は違和感を覚える。約10年前に父から会社を継いだ。
再びバブルは来なくても、仕事がゼロになるわけではない。会社を大きくしたいと願い、社員だって増やしたいとも思う。
「それぞれが県人口70万人時代の一人だという意識を持てば、何とかしなければ、という気持ちになるはず。傍観者になってはいけないんです」
(秋田総局・上田敬)
2015年12月12日土曜日